70. 君たちは軍人だ 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
玄関のドアが背後で「カチャ」と閉まった瞬間、リビングのほうからすでに、災害警報システムに登録してもいいくらいの沈黙が漂ってきた。
その沈黙には、識別しやすい質感があった。
普通の静けさは、みんながそれぞれ何かをしていて、冷蔵庫の稼働音まで聞こえてくるような静けさだ。今のこれは、誰かが爆薬を埋め終えて、火花が自分で落ちてくるのを待っているような静けさだった。
二十二番地の中が、静かすぎた。
不自然なくらいに。
私と真紀が一歩ずつ玄関に入ると、靴底が床を踏む音が、少し大げさなくらいに響いた。手からヘルメットを外したとき、ハンドルを握り続けていた掌にはまだ微かな痺れが残っていた。でも、それより唇のほうが痺れていた。山頂のあのキスはとっくに終わったはずなのに、身体はいつまでも「もう過ぎたことだ」という常識に従ってくれない。
むしろ悪化していた。
二度目は、私のほうから仕掛けたのだから。
その事実は今、高熱の焼夷弾みたいに頭の真ん中に刺さったまま、どれだけ平静を装っても数秒おきに勝手に光って、こう告げてくる――あなたも、さっきとんでもないことをしたよね、と。
くそ。
私はヘルメットを胸に抱えて、この動作で「普通に出かけて普通に帰ってきた人間」に見えるよう努めた。残念ながら、普通に帰ってきた人間は、玄関に入った瞬間から呼吸のリズムがおかしくならない。
真紀は私よりずっとましだった。
上着を脱いで玄関脇のハンガーにかける動作は、いつも通り無駄がなく、表情も何も起きていなかったかのように平静だった。問題は、何も起きていなかった人間の耳の先が、まだ薄く赤みを帯びたままになっていないことだ。
見えた。
そして私はすぐに視線を逸らした。
だめだ、今は彼女を見ていられない。
もう十分頑張っている。あと一秒でも見続けたら、私が彼女の肩を押さえたとき、彼女の目がわずかに見開かれたことと、その後、彼女が私を押し返さなかった数秒間のことを、また思い出してしまう。
……いい加減にしろ、星野霜。頭を閉じろ。
「おかえり」
声がリビングのほうから流れてきた。
顔を上げた。
アカリがソファの端に座っていた。姿勢は、退屈だが厳粛な公聴会に出席しているみたいに正しかった。表情はほとんどなく、視線だけが恐ろしいほど正確で、破綻だけを専門にスキャンし、人権はスキャンしない高性能な機器みたいだった。
アイダがその隣で椅子の背もたれに寄りかかり、口元に浮かべた笑みは、どう見ても歓迎の笑いじゃなかった。「やっと現場版の続きが来た」という笑いだった。
つまり――この二人は、もう先に道を作っていた。
背筋が冷えた。
終わった。
ただ鉢合わせしただけじゃない。誰かが先に舞台を組み上げて、照明も席も観客の気分も全部整えて、主役が入ってきて自爆するのを待っていたのだ。
「うん」私はできる限り声を平らに保った。「ただいま」
「遅かったわね」アイダが目を瞬かせた。声は飴衣みたいに甘く、中身は標準的な一撃必殺だった。「高台視界の補足確認ルート……ずいぶん丁寧に補足できたみたいね」
私は危うくその場で魂を吐き出しそうになった。
「ルートの確認をしただけ」と私は言った。
「そう」アイダの笑みがさらに悪くなった。「気持ちの確認かと思ったけど」
今すぐヘルメットを被り直したかった。社会的に死ぬとしても、せめて顔の半分くらいは残しておきたかった。
真紀は荷物を脇に置いて、平らな声で口を開いた。
「その想像力を締め切り前に使えば、毎回ギリギリで踊らなくて済むんじゃない」
アイダは笑い声を上げた。刺さるどころか、むしろ痒いところを搔かれたみたいに嬉しそうだった。
「あら、庇うの早い」
「庇ってない」真紀は彼女を一瞥もしなかった。「訂正してる」
――そう言うほうが、余計に庇ってるように聞こえる。
しかも最悪なことに、私はその一言のせいで心臓が余計に強く打った。
もう手遅れかもしれない。
自分の表情を「平静」の範囲内に押し込もうと必死になっていたそのとき、リビングの奥からついに本当に危険な声が聞こえた。
「ふーん」
一言だけだった。
でもその一言には、人間関係の被害報告書を三ページ書けるくらいの内容が詰まっていた。
私は首を硬直させたまま、そちらを見た。
ジェスがダイニングテーブルの脇に立っていた。さっきまで何かを整理していたらしいが、今は完全に止まっていた。彼女の視線が私の顔から真紀へ、真紀から私へと往復した。目つきは、目の前で最も嫌いな科目が必修に追加されて、しかも小テストまで付いてきたときのそれだった。
彼女は二秒、黙った。
私も二秒、黙った。
その二秒のあいだに、空気は崖の縁まで直行した。
「まだ帰ってくる気があったんだ」ジェスが言った。
来た。
私は心の中で静かに自分のために蝋燭を灯した。
「ちょっと出かけてただけ」私は慎重に答えた。
「ちょっと?」声が微妙に上がった。その危険な弧度は見慣れていた。「今は『ちょっと出かける』と顔が赤くなって、髪が乱れて、喋るのが半テンポ遅くなるの?勉強になった」
「髪はヘルメットで潰れただけ」私はすぐに言い返した。
「じゃあ顔は?」
「……風で」
「夜の山で?」
「……」
自分でも、この言い訳はひどいと思った。
アカリが隣で静かに頷いた。法廷で証言を補足するみたいに。
「さっき玄関の外で、右の頬を拭いてた」
「アカリ!」私は裏返りそうになった。
「観察結果を述べただけ」と彼女は言った。
「しかも、かなり急いで拭いてた」アイダが微笑みながら続けた。「あの反応は普通、埃のせいじゃなくて――」
「もういい!推理しなくていい!本当にしなくていい!」私はほとんど懇願するような声で遮った。
ジェスは私たち三人を見て、表情がどんどん「この光景を見れば見るほど腹が立つ」方向に全面的に悪化していった。
問題は、私には今、冷静に対応できる余裕がないことだ。
彼女が一言問い詰めるたびに、さっき山頂で真紀との距離がどれほど近かったか、風に揺れた彼女の髪、私がキスをした瞬間に彼女の呼吸が止まったあの一瞬が、制御不能で蘇ってくる。
こんな状態でリビングの集団戦に参加させるのは、さすがに不公平だろう。
「二人ともどこ行ってたの」ジェスが眉を寄せて聞いた。
「バイクの確認、納車、ルートの確認」真紀がきっぱり答えた。「それだけ」
「それだけ?」ジェスが冷笑した。「私のことどれだけ騙しやすいと思ってるの」
「その言葉は自分に向けて使ったほうがいい」真紀が目を上げて彼女を見た。声は平静で、ほとんど残酷なくらいだった。「今あなたもは行程を知りたいの、それとも単純に絡みたいの。前者なら、もう答えた。後者なら、今日はあなたもの番じゃないかもしれない」
アイダがすぐに声を上げて笑い、机を一度叩いた。
「今日は辛口ね」
アカリも合わせて一言添えた。
「現場の順番待ちは確かに多い」
「二人ともどっちの味方なの!」ジェスがついに爆発した。
その爆発は見事だった。
荒々しく乱れ打つ感じじゃない。圧力をためすぎた感情と自尊心がちょうど爆発点に重なった、典型的なガラス砲の炸裂だった。攻撃力は高く、防御力はほぼゼロ、でも炸裂したときの場面の大きさだけは保証付きだ。
「絶対おかしいと思ってた!」ジェスが私を指差し、語速が一気に倍になった。「バイク見に行くだけで、帰ってきたら後ろめたそうな顔して!さっき玄関で靴を危うく逆に履きかけてたのに、何でもないって言える?!」
私は下を向いた。
……本当に危うく逆に履きかけていた。
急いで足を引っ込め、沈黙で尊厳を取り戻そうとした。残念ながら、今夜の尊厳は私に協力する気がないらしかった。
アイダが珍しい生き物を観察するような目で私を見た。
「これは後ろめたさが、具象化してる」
「してない!」私は反射的に言い返した。
「してる」アカリが言った。
「黙ってて!」
「星野、先に靴を履いて」真紀が低い声で言った。
落ち着いているのに、私のことを一時的に預かる問題物件として扱っているみたいなその声は、さっきのキスよりも致命的だった。私が屈んで靴を履くとき、自分の人生の威厳が靴紐と一緒に床に散らばっているのを感じた。
ジェスはその様子を見てさらに火が付いた。
「あんたも!」矛先が真紀に向いた。「いつも効率最優先じゃないの?今日は一晩出かけて、帰ってきたら彼女の言い訳まで引き受けて。バイク選びの全行程付き添い兼、護送サービスまでついてくるわけ?」
私は胸の中で何かが締まるのを感じ、思わず真紀を見た。
彼女の表情はほとんど変わらなかったが、目の端がごく淡く、少し下がった。
あ。
分かった。
これは「本来は力を使いたくないけど、あんたもが本当にうるさい」モードに入る前の顔だ。
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