68. ベイサイド・エリア 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ドアを開けると、外に三人が立っていた。
制服は整い、端末は手の中にあり、背後には九島技研工業のロゴが入った輸送車が停まっている。軍の編成みたいな大げさな陣容ではないが、普通の宅配便でもない。タイヤまでワックスをかけたんじゃないかと疑うくらいエッジの立ったボディだけで、もう十分に語っていた――この車は出荷から私の目の前に届くまで、ずっと私よりもグレードの高いシステムの中で生きてきた。
先頭の人間は真紀を見た瞬間、表情がわずかに引き締まった。
「九島さん」
またか。
私は隣に立ちながら、この口調を聞くたびに、九島家の過剰なほど完全な勢力網を一層ずつ理解していく。それは大げさでも演技でもなく、他人の反射神経の中にすでに組み込まれた秩序だった。
真紀が頷いた。
「今日は星野の車です。通常の点交で、余分なものは何も追加しないでください」
相手はすぐ、きっぱりと答えた。
「承知しました」
その一言で、私は少し楽になった。
理由は単純だ。真紀がここにいる限り、「余分なもの」は私の手に届かない。人情も、便宜も、吐き気がするほど綺麗な優待も、彼女が先に一回全部止めてくれる。
だから私はただ、普通の車のオーナーとして立っていればいい。
……言葉にすると情けないが、本当にそれが一番助かる。
輸送車の後部ハッチが開いた瞬間、私は思わず半歩前に出た。
その車は静かに固定されていた。深いグレーに近い黒の車体が、日光の下で冷たい金属色の光沢を帯びている。ラインは切り詰められていて、重心が低く、ホイールが太く、前傾姿勢が強い。文明社会に無理やり合法の外皮を着せられた獣、という感じだ。オリジナルの鳴神みたいな「今すぐ城壁を解体しに行けます」という圧迫感はないが、やはり九島技研らしい味が残っている――安定していて、冷たくて、壊れ方が抑制されている。
一目見て、終わったと思った。
昨日データで見たときよりずっと好きだ。
ハーヴィーは正しかった。こういう車は確かに、自分が上手いという錯覚を起こしやすい。ただ前に立つだけで、本能的に思ってしまう――これに乗れば、世界がもう少し理屈に合ってくるかもしれない、と。
それはたいてい錯覚だけど。
点交が正式に始まってから、私は初めて「九島技研式の普通」というものを理解した。
車体コード。
バッテリーモジュールの校正データ。
出荷と整備の記録。
展示期間の走行距離。
メンテナンスサイクル。
スペアキーと電子認証。
パーツボックスの内容。
保証の発効時間。
一項目ずつが明確で、まるで私が次の瞬間に自分を売り飛ばしても契約書の内容を把握していないことを心配しているかのようだった。
真紀は終始私の隣に立ち、代わりに答えることも、話を奪うこともなかった。ただ私が眉をひそめた箇所で先に一言確認し、相手が何かハイグレードの付帯パッケージを追加しようとした瞬間に、さらりと「結構です」の一言で全部封じた。
ジェスは最初「全然興味ない」と言っていたが、点交が始まって五分後には、マグカップを持って玄関の脇に立っていた。位置は「ただ通りかかっただけ」と「実は最初から全部見ていた」のちょうど境界線上で、非常に彼女らしかった。
「このホイール、悪くないじゃん」と彼女はカップを抱えながら評した。
私がちらりと見ると。
「興味ないんじゃなかった?」
「誰が興味あるって言ったの。宿舎の平均的な美的水準を下げるものを買ってきたら困るから、見てるだけ」
「そう」
点交担当者たちはひどく専門的で、私たちのこのやり取りについて一切コメントしなかった。まるで普段から、精神状態がだいたい似たような場所に住む人たちを相手にしているかのように。
最後の確認が終わり、電子サインが私の端末に飛んできた瞬間、胸の中に妙な感覚が来た。
叫びたいほど興奮するわけじゃない。
どちらかというと、ある種のものが「欲しい」から「ある」に変わった、という感覚だ。
静かだけど、確かだった。
私は名前を入力した。
その瞬間、深いグレーの車体が日光の中で微かに光ったように見えた。ただの反射なのに、私は情けないことに思ってしまった――ああ、これが本当に私のものになったんだ、と。
Dがいつの間にか玄関の脇に来ていて、車を二秒ほど眺め、最もD式の評価を下した。
「乗れる」
ハーヴィーが地下室から上がってきた。手にはまだ半分分解されたままの工具を持ち、まず鼻で笑った。
「当たり前だろ、ここに置いて花瓶にするのか?」
それから車の周りを一周して、眉が少し動いた。
「この整備、思ってたよりずっと綺麗だな。かなりいい思いしたな、妳」
「分かってる」
「分かってるなら、後でむやみに転かすな」
「みんな私のことを脆すぎると思ってない?」
「脆いとは言ってない」ハーヴィーが私を見る。「テンションが上がると自信過剰になるって言ってる」
くそ。
反論が難しい。
◇
理論上、車が手に入ったらまず冷静になって、まず慣れて、まず感情が高ぶっている状態で変な判断をしていないか確認すべきだ。
実際には、もちろん最初に乗りたかった。
これは人間の性質の問題で、私のせいじゃない。
真紀もたぶん分かっていたから、止めなかった。ただ私がヘルメットを被る前に、淡々と一言言った。
「生活圏を回るだけ。遠くに行かないで」
「私が新車でいきなり街の外まで飛び出すタイプに見える?」
彼女は私を見た。
何も言わずに、ただ見た。
いい。
その沈黙は、どんな台詞よりも効いた。
私は諦めてあご紐を締めた。
「……分かった、生活圏だけ」
真紀がようやく小さく頷いた。
「スマホ、位置情報オンにして」
「お母さんなの?」
「違う」彼女は静かだ。「でも、妳が一周して人も車も行方不明になったら、全員に探しに行かされるのはたぶん私だから」
……この一言で、吐き出しかけた言い返しが一瞬で半分消えた。
私はただ頭を下げてグローブをはめ、車にまたがった。
エンジンをかけた瞬間、笑い出しそうになるのをかろうじてこらえた。
大笑いじゃない。胸の奥から上に向かって浮き上がってくる、抑えきれない種類の嬉しさだ。車体は思ったより安定していて、重心の低さが気持ちいいくらい綺麗で、発進がとても滑らかで、訓練や免許取得のときに使った公用車とは比べものにならないくらい手に馴染む。凶暴すぎて怖いという性能じゃなく、危険な種類の素直さ――素直すぎて、自分とこの車が最初から相性がいいと錯覚させてくる。
ハーヴィーの警告が脳内で一度響いた。
自分が上手いと思うだろうが、実際は車に救われてるだけだ。
分かった、分かった。
謙虚にする。
でも、少しくらい喜んでいいだろう。
真紀に言われた通り、生活圏だけを回った。
プラチナブリッジ通りの外周、近くの幹線道路を何本か、商業街を抜けて、住宅区をゆっくり回って戻る。ヘルメットの縁から風が掠めていくとき、世界全体が少し違って見えた。速度の問題じゃなく、「どこへ行くか、自分で決められる」という感覚が、本当に人を狂わせる。
三つ目の交差点を曲がるとき、私は情けなくも考え始めた。
次に後ろに真紀が乗ったら、どんな感じだろう。
……止まれ。
早すぎる。
まず落ち着け、星野霜。
車が来たばかりなのに、もう後部座席の人選を始めているのか。この展開の速度、少しどうかしてないか。
でも考えた。
考えれば考えるほど、考えずにいられなくなった。
一周してプラチナブリッジ通り二十二番地の前に戻ってきたとき、気分は隠しようもないくらいよかった。自分でも分かっていた。今の私の顔は、昨日ジェスに皮肉られた「気持ち悪いくらい機嫌がいい」という感じと、たぶんほぼ同じだ。
これは危険だ。
嬉しすぎると、ぼろが出る。
車を停めてヘルメットを外すと、最初に目に入ったのは、ドアの前に立っている真紀だった。
どのくらいそこにいたのかは分からない。手に私の端末を持ち、もう片方の手をポケットに入れて、表情はいつも通り平らだったが、視線が私から車へ、また私へと戻ってくる。明らかに「人も無事、車も無事」という安全確認をしていた。
私が近づくと、彼女のほうが先に聞いた。
「どうだった?」
「よかった」
「よかっただけ?」
「すごくよかった」私はヘルメットを抱えて、笑い出しそうになるのを必死に抑えた。「よかったから、昨日のあの九島企業の人たちが並んで出てくる光景を、かろうじて許せる気がしてきた」
真紀の口の端が、ごくわずかに動いた。
はっきり笑ったわけじゃない。ただ、少しだけ緩んだ。
「それなら、車は正解だったね」
「うん」
私は素直に頷いた。
そして次の瞬間、彼女はごく自然に話を続けた。
「車も来たことだし、時間があるときに――」
胸の中で、理由のない一拍が来た。
「うん?」
彼女は私を見た。生活用品の買い出しの話でもするような、静かな声で。
「雪風号を見に行ける」
私はその場に立ったまま、ヘルメットを抱えて、頭の中を誰かに軽く叩かれたような感覚があった。
「じゃあ、」私はヘルメットを抱えながら、自分の声がすでに少し浮き足立っているように聞こえないよう努めた。「今回も別々に出て、駅で合流する感じ?」
真紀が私を見た。
今度は、本当に笑った。
薄いけど、はっきりした笑いだった。
「いらない」と彼女は言った。「今回は、直接迎えに来ていい」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




