66. お手上げ状態 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ハーヴィーは最後に「とにかく、大破した車を俺に修理させるんじゃないぞ」と言い残し、「俺はもう十分やることをやった、あとはお前らがどう死に急ごうと知ったことじゃない」という顔で、地下室へ潜っていった。
私はダイニングテーブルの前に座ったまま、候補車種のリストを手の中で握りしめていた。頭の半分では、合法化された野獣みたいな民間仕様車、KGI-MC 417Bのことを考え、もう半分では、さっき真紀が口にした「高台視野の補完確認ライン」のことを考えていた。
人間の言葉に翻訳すれば、こうなる。
――車を見て、港区を見て、そのまま山に登る。
結構だ。
非常に合理的だ。
合理的すぎて、拍手でもしてやりたくなる。
そこでふと、時間を確認した。
もう夕方だった。
今日、港区へ行っていた連中も、そろそろ戻ってくる頃だ。
その「港区」と「夕食」という言葉がまだ頭の中で繋がらないうちに、地下室に戻りかけていたハーヴィーが、ふと足を止め、半分だけ顔を覗かせた。良心がようやく地下室の天井の隙間から落ちてきたみたいに、私にこう言い放った。
「そうだ、星野。今日の夕飯、お前の当番だぞ。そんなにのんびりしてて大丈夫か。」
私はその場で固まった。
普通の固まり方じゃない。
魂が先に三秒ほど肉体を離れ、それからゆっくりと「ああ、今日死ぬのは私か」と理解する、そういう固まり方だった。
「……は?」
ハーヴィーは平然としていた。
「当番表。昨日決めたやつ。」
「誰も教えてくれなかった。」
「今、教えたじゃないか。」
「それを死刑直前通知って言うんだよ。」
ハーヴィーは肩をすくめた。その表情は、「全部知ってたけど黙ってた。お前が慌てるのを見るのは教育的に有意義だからな」というコンセプトを完璧に体現していた。そして本当にそのまま地下室へ消えた。
私は真紀のほうを見た。
真紀も私を見ていた。
彼女はまず、ごく軽く目を閉じ、それからため息をついた。
失望のため息じゃない。
「やっぱり最後は私がこの人を事故現場から引きずり出す羽目になるのね」という種類のため息だ。
次の瞬間、彼女はすっと立ち上がり、私の手首を掴んだ。
「立って。」
「どこ行くの。」
「キッチン。」
「待って、まだ心の準備が――」
「今すぐ来ないと、今夜みんなが食べるのはあなたの後悔になるよ。」
彼女は私をキッチンまで引きずっていった。
引きずられながら振り返ると、階段の踊り場でハーヴィーが、ひどく殴りたくなるくらい欠陥のある「頑張れ」のジェスチャーをこちらに向けていた。
誓ってもいい。この男はいつか、自分で育てた生存本能の欠如のせいで、絶対にどこかで痛い目を見る。
* * *
結果的に言えば、真紀が私をキッチンに連れ込んだのは正解だった。
もし私一人に任せていたら、たぶん三分目で玉ねぎを宣戦布告みたいな形に切り刻み、五分目でフライパンを校外居住安全教育の実例に変え、十分目には全員に「飢えと集団的絶望とは何か」を実地で体験させていたはずだ。
真紀は、代わりに作りに来たわけじゃない。
そこが一番怖いところだ。
彼女は、監督官として来たのだ。
「麺は先に茹でて。茹ですぎないで。」
「わかってる。」
「油を一度にたくさん入れすぎない。」
「わかってる。」
「それ、塩じゃない。砂糖。」
「……今、ちょうど塩に似てるか確認してただけだし。」
「星野。」
「はいはい、私が悪かったです。」
その間中、彼女は私から半歩ほどの距離に立っていた。袖を肘まで捲り、時々火を弱めてくれたり、私が刑事事件現場みたいに切り散らかしたキャベツを整え直してくれたり、落としかけた皿を横からさっと支えてくれたりした。
その距離感が、うるさかった。
少し顔を傾けるだけで彼女の横顔と、高く結んだ黒髪が見える。洗剤のかすかな香りがして、指先がふと手の甲をかすめるたびに伝わってくる温度のせいで、鍋に悪態をつくことすら集中できなくなる。
厨房作戦にはひどく不利な環境だ。
でも、結果は案外悪くなかった。
少なくとも最終的にテーブルに上がったのは、見た目こそ完璧とは言えないが、ちゃんと「焼きそば」と認識できる一皿だった。あとで消防署に謝罪文を出す必要があるような実験の残骸ではない。
他の連中が次々と帰ってきて、テーブルの上の焼きそばを見て、それから私の「食べたきゃ食え、嫌ならどっか行け」という顔を見たときの反応は、驚くほど一致していた。
全員がまず二秒止まる。
それから首を振り、ため息をつく。
その光景が、ひどく気に入らなかった。
「なに、その反応。」
ジェスは上着を椅子の背に投げ、鍋の中の残量をちらりと見て、珍しく最初から毒を吐かず、なんとも言えない顔で言った。「へえ、食べられる系なんだ。」
「その一言、言わなくてよかったのに。」
アッシュはテーブルを見て、それから私の隣でまだ片付けを終えていない真紀を見て、「なるほど、事情は分かった。でも言わない」という、非常に腹の立つ目をした。
ロイは控えめに、小さな声で言った。「少なくとも、温かそうだし。」
ランは私を一瞥して、なんとうなずいた。「量は足りてる。」
一番気にしていないのは、やはりDだった。
Dという人間は、実に純粋に生きている。
食べ物があればいい。食べられればもっといい。温かければ、それはもう神の恩寵だ。
彼は何も言わず、椅子を引いてどかっと座り、箸を取ってすぐに食べ始めた。二口ほど噛んでから、非常に誠実な判定を下した。
「うん。いける。」
この「いける」がDの口から出てくるのは、大半の人間の五つ星評価よりよほど実質的だ。
私の機嫌は、その場で半分回復した。
「ほら、食べられるって言ったじゃん。」
ジェスも座り、今夜は本当に追い打ちをかけず、黙って麺をほぐし始めた。今夜だけその毒舌を良心のところに預けてくれたおかげで、夕食は正常な時間内に終わり、《星野調理事故検討会》に発展せずに済んだ。
私自身、これは一種の奇跡だと思っている。
* * *
片付けが大体終わり、他の連中が風呂に行くか部屋に戻るか地下室へ流れていったあと、一階はようやく静かになった。
私は椅子の背にもたれてぼんやりしていた。今日は精神的にも技術的にも焼きそば的にも消耗しすぎたと思っていると、隣の椅子がごく静かに引かれた。
真紀が座った。
いつもより、ほんの少し近い座り方だった。
私は顔を向けた。
「何。」
彼女はまず手にしていた水のグラスを置き、それから低い声で訊いた。
「明日、時間ある?」
「ん?」
「車、見に行かない?」
私は瞬きをした。
その言葉自体には何もない。
問題は、彼女が選んだタイミングと、座った位置と、無表情のくせに声だけをいつもより少し落とすその話し方が、この一言全体を「正用を装った何か」に聞こえさせていることだった。
だから私は、正直に口を開いた。
「いいよ。てか真紀……これって私を――」
「うるさい。」彼女はほとんど即座に遮った。耳の先が、目に見えて赤くなっている。「行きたくないなら、来なくていい。」
そう言ってから、彼女は本当に、わずかに唇を尖らせた。
一瞬だけ。
錯覚かと思うくらい短く。
でも、私には見えた。
危うくその場で吹き出しそうになった。
九島真紀という人間は、普段は人事管理規程を人格化したみたいに冷静なのに、自分でも「微妙だ」とわかっているところを突かれると、こんな子供っぽい拗ね方をするのか。
可愛い。危険なくらいに。
私は即座に降参した。
「行く行く。」笑いをどうにか抑えて、「何時。」
彼女は時間を告げ、さらに付け足した。
「〇〇駅。別々に出て。」
私は彼女を見た。
「真紀、あんたスパイか情報員にでもなるつもり?」
「念のため。」
「何の念。」
「ジェス対策。」
「……それは、確かに説得力がある。」
真紀は平然と水を一口飲んだ。それだけで説明は十分だと言わんばかりに。
私は椅子の背にもたれ、彼女の横顔を眺めながら、つい一刺し入れた。
「で、私たちは今、何をやろうとしてるわけ?機密車両調査?港区動線確認?それとも高台視野補完の事前作業?」
彼女は横目で私を見た。
「明日もその調子で言うなら、私一人で行くから。」
「はいはい、黙って歩きます。」
彼女は短く鼻を鳴らして立ち上がった。
二歩ほど歩いてから止まり、背を向けたまま付け足した。
「それと。」
「うん。」
「遅刻しないで。」
それだけ言うと、彼女は二階へ上がっていった。
私は一人、テーブルの上の空になったグラスを見つめながら、遅ればせながらこう思った。
……まずい。
これ、普通にデートみたいじゃないか。
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