63. バイク 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
翌朝の二十二番地は、「新同居生活二日目」というより、すでに稼働を始めた小型の災害管理センターのようだった。
Dは相変わらず一番早起きで、まだ完全に夜が明けないうちからドアの鍵、窓辺、駐車スペースを一巡りし、ついでにリビングのテーブルの上の昨日のシミュレーション資料をきれいに重ね直していた。ロイが二番目に降りてきた。手には新しい買い出しリストを持ち、その顔色は、昨晩寝る前に見た夢が羊ではなく今月の予算報告書だったことを物語っていた。蘭はキッチンに立ち、鍋をどこに置くか、包丁をどう並べるかこそが文明社会の証であると、有無を言わさぬ動作で全世界に知らしめていた。
そして私は、今やますます艦隊の会議用テーブルに見えてきたあの無垢材の長テーブルの前に座り、艦隊管理のプリントを前にして、自分の未来の死亡診断書でも見ているような顔をしていた。
私の前に広げられているのは、港湾エリアのシフト補給フロー、艦内勤務の引き継ぎ表、臨時停泊位置の変更規程、そして戦域補給艦の優先順位判定だ。簡単に言えば、こういうことだ。
――お前はただ生きていたいだけだったかもしれないが、これからはシステムがどう生きているかも理解しなければならない。
そして私の隣に座っている人間こそが、この精神的拷問の執行者だった。
九島真紀。
彼女は今日、髪をきっちりと束ね、袖口を手首の少し上まで捲り上げ、手にペンを持っていた。その姿勢は隙がなく、私の勉強に付き合っているというより、これから起こる事故を静かに解体しているかのように見えた。
「ここは暗記しろと言ってるんじゃない」彼女はペン先でプリントのある行をコツンと叩いた。「港湾のスケジュールが乱れたとき、船の上で一番最初に乱れるのは何か、それを先に知っておけと言ってるんだ」
「私の気分だ」私は無表情で言った。
真紀は顔も上げなかった。
「不正解」
「じゃあ何だ」
「人の流れだ」
彼女はプリントを私のほうへ少し押しやり、腹立たしいほど平坦な声で言った。
「補給艦が遅延すれば、艦上では単に荷物が遅れるだけでは済まない。シフト、運搬、警戒、通信確認、甲板の出入り順序、これらが全部互いに足を踏み合い始める。シモが物資しか見えていないなら、それはまだ船を平面的に捉えすぎている証拠だ」
私は彼女を二秒間、じっと見た。
「お前、今の自分の喋り方が、艦橋で人を泣かせるまで怒鳴りつけるタイプの士官にどんどん似てきてるの、自覚あるか?」
「私はシモを怒鳴ってない」彼女は言った。
「怒鳴ってはない。ただ、ひどく平静なやり方で、私に『お前の脳みそは飾りか』と思わせているだけだ」
今度は彼女も、ごく軽く笑った。
大笑いではなく、口の端がほんの少し動いただけだ。だが、こういう短い笑い方が一番むかつく。なぜなら、彼女が私を笑っていて、しかも結構楽しんでいることがはっきりと分かるからだ。
私はうつむき、もう一度そのフローチャートを見た。
三行読んだところで、自分の魂が後頭部からゆっくりと蒸発していくのを感じた。
「こんなもの、文字を見ただけで本当に覚えられる人間がいるのか?」私は聞いた。
「いる」
「誰だ」
「私だ」
「……お前のその答え、すごく嫌な感じだな」
「でも効果的だ」
私は深く息を吸い、天才と脳の構造を比べるという自傷行為を一時的に放棄し、より人間の本能に即した方法で考えることにした。
「実のところ、一番厄介なのは私が覚えられないことじゃない」私はペンを放り出し、背もたれに寄りかかった。「こういうのは、紙を見ただけじゃ実感が湧かないんだ。港湾、船の位置、出入り動線、停泊番号、紙の上じゃ全部ただの死んだ文字の塊だ」
真紀が視線を上げて私を見た。
「だから?」
私はテーブルの上の正式通知を見つめ、さらに昨日送られてきた停泊エリアの図面に視線を滑らせ、最後に、本当に心の中で引っかかっている不満を口にした。
「だから、もし本当に車が一台あればいいのにって話だ」
真紀はすぐには返さなかった。
彼女はただ静かに私を見つめた。私のその言葉が単なる愚痴なのか、それとも新たな厄介事を引き起こす前兆なのかを判断しているようだった。
私自身も少し驚いた。
その言葉があまりにも自然に出たからだ。言い終えて初めて、頭の中でふわふわ漂っていただけの考えを、うっかり口に出してしまったことに気づいた。
「……いや、そういう意味じゃない」私は取り繕おうとした。「今すぐどうこうって話じゃないんだ。ただ、後で港湾エリアに実際の位置を確認しに行くとして、二十二番地での買い出しとか、往復とか、ちょっとした雑用も兼ねるなら、ずっと徒歩とタクシー頼みじゃあまりにも馬鹿げてるだろって」
真紀はごく軽く「うん」と言った。
その「うん」は危険だった。
適当に聞き流すときの「うん」ではない。彼女がその事案を正式に脳内の処理タスクに組み込んだときの「うん」だ。
「シモは車を買いたいの?」彼女は聞いた。
私は頭を掻いた。
「絶対に買わなきゃいけないってわけでもないけど……」
彼女は私を見つめている。
私は半秒黙り、結局正直に言った。
「分かった、ちょっと考えてた」
「バイク?」
「それ以外にあるか? 戦車か?」
「もしシモが本当に戦車に乗ってきたら、駐車問題で蘭が真っ先に発狂する」
「なら、今は絶対に戦車には乗れないな」
真紀はペンを置き、姿勢はほとんど変えないまま、口調を少し変えた。
「純粋な移動手段が欲しいのか、それとも荷物を積めるものがいいのか?」
私は呆気にとられた。
「……お前、もう始めたのか?」
「何を?」
「私のために調達の仕様書を作り始めたのかって聞いてるんだ」
「状況を整理してるだけだよ」彼女は淡々と言った。「シモが適当に言ったわけじゃないなら、それはニーズがあるってことだ。ニーズを先に分解しておかないと、後で買い間違えるだけだ」
彼女を見ながら、私はふと、とても見覚えのある無力感に襲われた。
これが九島真紀の最も厄介なところだ。
彼女は決して「いいよ、手伝ってあげる」というような、押し付けがましいやり方はしない。彼女はただひどく平静に、物事を細かく分解し、分類し、整理し、推進していく。こちらが我に返ったときには、事態は「ちょっと考えただけ」から「よし、じゃあ処理しよう」へと移行し終わっている。
「……たぶん、両方だ」私は最後に言った。「普段は校区と二十二番地の間を走る。買い出し。必要なら港湾に行く。少し荷物が積めると一番いい。人を乗せるのは……」
私は言葉を切った。
真紀は私を見つめた。表情に変化はない。
「人を乗せるのは?」
「……場合による」
彼女はゆっくりと瞬きをした。
それからうつむき、私のプリントの余白に二文字を書き込んだ。
乗せる。
私はその場で噛みついた。
「おい!」
「シモが自分で言葉に詰まった」
「言葉に詰まったからって、認めたことにはならないだろ」
「言葉に詰まったということは、心の中に答えがあるということだ」
「お前、最近そういうやり方で人をいじめるの好きになってないか?」
「私は事実を記録しただけ」
彼女はペンを引っ込め、何事もなかったかのように質問を続けた。
「予算は?」
「……急に現実的だな」
「当然でしょ」彼女は私をちらりと見た。「今から理想のボディカラーの話をしたいわけじゃないでしょ」
私は言葉に詰まった。
くそ、正論すぎる。
少し考えてから、私は控えめな範囲の予算を正直に伝えた。真紀はそれを聞いても、ジェスのように私の貧乏を笑うこともなく、ハーヴィーのように即座に型番を暗唱し始めることもなかった。彼女はただ静かにペンを取り、横にいくつかの単語を書き出した。
校外居住差額 生活補助金残額 林間学校評価報奨金 個人預金
その数行を見つめながら、私の眉間にはゆっくりと皺が寄っていった。
「……まさかとは思うが、お前、どうやって金を集めるかもう計算してるのか?」
「工面してあげようとしてるんじゃない」真紀の口調は平坦だった。「シモが本当に買うとして、自分の金で、無理なく買えるかどうかを確認してるんだ」
その言葉に、私は少し黙り込んだ。
なぜなら、彼女が言ったのは「手伝う」ではなく「自分の金で」だったからだ。
この違いは大きい。
非常に大きい。
彼女も明らかに、それが私にとって大きな違いであることを分かっていた。
「寮を出た後、もともと学校が負担していた生活コストの一部は、校外自活手当に振り替わる」彼女はペン先でその数行を指しながら、一つずつ説明していった。「それに、シモは普段あまりお金を使わないし、林間学校の評価報奨金もまだ手をつけてない。民生用のラインで、ハイエンドモデルでなければ、予算は足りる」
「なんで私が普段あまりお金を使わないって知ってるんだ?」
私は顔を上げ、彼女を見た。
真紀の目は、ひどく平然としていた。
「シモのクローゼットの中の服の数が、かわいそうなことになってるから」
「……他人のクローゼットを勝手に観察するな」
「ドアがちゃんと閉まってなかった」
「だからって、それを財務分析に使う権利はないだろ」
「でも効果的だ」
私は彼女の手にあるペンを奪い取ってへし折りたくなった。
残念ながら、私がそういう反応をすればするほど、彼女は自分の判断が正しかったと確信するだけだということも分かっていた。
私は彼女が文字を書き込んだその余白を見下ろし、心の中にゆっくりと浮かび上がってきた別の疑問を口にした。
「でも、もし本当に買うとして、目立ちすぎるのも駄目だろ」
今度は、真紀はすぐには答えなかった。
彼女はごく軽くペンを回した。頭の中で、すでに大枠が固まりつつあるある種のプランを確認しているかのようだった。そして言った。
「うん」
「『うん』って何だ」
「私もそう思う」
彼女はプリントを少し横にずらし、テーブルに肘をついて、少し声を落とした。
「シモが今車を買うなら、もともと派手なやり方は向いていない」
「たとえば?」
「たとえば、学校の名義を使わない。生徒会側に事前申請の記録を残さない。車を直接校内に乗り入れない。目立つカラーリングを選ばない。そして、一目で『うちは金持ちで、それをひけらかしたい』と書いてあるような型番は買わない」
私は彼女をじっと見た。
「お前の今の発言で一番突っ込みたいのは、お前自身が生徒会側の人間だってことだ」
真紀は顔色一つ変えず、息一つ乱さなかった。
「だから、どうやって避ければいいか分かる」
……よし、この一言には反論できない。
むしろ少し拍手したいくらいだ。
彼女はさっきのページをめくり、裏面にさらに具体的なプランのキーワードをいくつか書き出した。
休日に校外で購入 民生規格の中古/展示整備車 第三者の修理工場で納車 車両登録は個人名義 22番地に駐輪、校内乗り入れ不可
「ちょっと待て」私はその数行を見つめた。「お前、いつから本当に私のために方法を考え始めてたんだ?」
「たぶん、シモが『もし本当に車が一台あればいいのに』って言った二秒後くらい」
「お前って人間は本当に怖いな」
「ありがとう」
「褒めてない」
「知ってる」
そう言い終えた後、彼女はふと動きを止めた。何かを思い出したように、視線がテーブルの上の雪風号停泊位置図に淡く戻った。
そしてその瞬間、彼女の目の中に、単なる車の購入計画とは少し違う何かが、ごく短く閃くのを見た。
私は胸の奥が少し動いた。
「……何を考えてる?」
「購入理由を考えてる」と彼女は言った。
「そんなの考える必要があるのか?」
「ある」彼女はペンを置き、口調は再びあの九島らしい安定感を取り戻した。「ただ車が欲しいと言うだけでは、理由として緩すぎる。突っ込まれやすいし、からかわれやすくもなる」
「じゃあどう言うんだ?」
「とても合理的で、かつとてもつまらない理由にする」彼女は言った。「つまらなければつまらないほどいい」
「どうぞ、お前の生徒会式邪悪発言を始めてくれ」
彼女は私の皮肉を無視して、そのまま説明を続けた。
「理由その一。校外に住むようになってから、日用品の買い出しや、キャンパスと港区を臨時で往復する交通の需要が増える。
理由その二。実習編成はすでに発足していて、担当者の一人である下級生代表には、もっと安定した自前の機動力が必要になる。
理由その三。あなた、免許を取ったばかりでしょ。長期休暇の今のうちに車両に慣れておいたほうがいい。雪風号の前置期に本格的に入ってから車の扱いでバタバタするより、よっぽど合理的だから。」
半分ほど聞いたところで、私はたまらず額を押さえた。
「……気持ち悪い。」
「極めて合理的でしょ。」
「だから余計に気持ち悪いんだって。」
「なら結構。」
私は二秒ほど黙り込んだ。それでも、ずっと喉につっかえていた本題を口にした。
「じゃあ、生徒会のほうは?」
真紀が顔を上げて、こちらを見た。
朝の光の中のその瞳は、ひどく静かで、ひどく澄んでいた。
「生徒会には、先には知られない。」
「本気で言ってる?」
「生徒会の決裁ルートは通さない。」彼女は言った。「あなたが個人名義で買う。車は二十二番に停める。校内の駐輪場には入れない。購入自体は校外の私的な行為だから、学院の車両枠と交通手当の申請に触れさえしなければ、生徒会の机に先に上がることはない。」
私は彼女を見つめながら、その言葉をゆっくり頭の中で分解していく。
「つまり、あんたの言いたいことは……」
「目立たず買う。」彼女は言った。「合法で、合理的で、吹聴しない。生活をちょっと便利にするだけの、ごく普通で退屈な話に見せる。」
少し考えて、私はふっと笑ってしまった。
「でもさ、本当に買えたら、その『退屈』を保つのはけっこう難しいと思うけど。」
真紀が私を見た。
「なんで。」
私は手を伸ばして、机の上の停泊区マップを指先でとんとんと叩いた。
「だってそのときは、堂々とこう言えるじゃん。——『せっかく買ったんだし、ついでに港区まで走って雪風号の停泊位置を見てこよう。実地で覚えたほうが早いし』って。」
彼女の視線が、私の指先が示す場所に落ちた。すぐには何も言わない。
私はそのまま続けた。できるだけ何でもないふうを装って。
「船を見たあとは、外周道路もついでに一回りする。港区と航路を一緒に見渡せる制高点でもあれば、そこまで足を延ばすのも、別に不自然じゃないだろ。」
真紀はまだ何も言わなかった。
でも、彼女の沈黙は他の人間のそれとは違う。反応がないんじゃない。ひとつの事柄を静かに、丸ごと呑み込んで、それから心の中で確かめているような沈黙だ。
――ああ、あなたはもう、そこまで考えていたのね。
そう言われている気がして、少し落ち着かなくなった私は、先に目を逸らした。
「……なに。」
「別に。」彼女は淡く言った。
「じゃあ、なんでそんな目で見るんだよ。」
「ただ、あなたも時々はちゃんと計画を立てられるんだなって思っただけ。」
「それ、地味に傷つくんだけど。」
「でも、褒めてるつもりではある。」
「……渋々受け取っとく。」
彼女はしばらく私を見つめてから、静かにペンを取り直し、その案のページの下に最後の一行を書き足した。
港区実地記憶 → 外周高点からの視野確認
私はその一行を見つめて、思わず口の端が引きつった。
「あんた、本当に山まで書き込んだわけ?」
「そのほうが完全でしょ。」
「その『完全』、どこかおかしいだろ。」
「おかしくない。」彼女の声は、理屈が通りすぎてほとんど開き直りに近いくらい落ち着いていた。「制高点から港区と航路を見るのは、平面で覚えるより本質的に有効だから。」
「つまり、ついでに走り屋の真似をしたいわけじゃなくて?」
「違う。」彼女は一拍置いて、ひどく軽い調子で付け足した。「少なくとも、書類の上ではね。」
その場で、私は吹き出した。
大笑いしたわけじゃない。ただ、堪えきれずに喉の奥からこぼれ落ちた、短い息の音。
でも、それを吐き出したあと、なぜか胸の重さが少しだけ軽くなった気がした。
きっと、昨日届いたあの正式通知が重すぎたせいだ。
あるいは、雪風号という存在が、急に物語じゃなくて、日付と座標に変わってしまったせいかもしれない。
だからこそ、こんな馬鹿げてて、地味で、なのに本当に実現できそうな計画が、あの張り詰めた線に、もうひとつ別の息の仕方を与えてくれた。
逃げているわけじゃない。
ただ、この先のために、自分の手で握れる道を一本、あらかじめ残しておくだけだ。
講義資料と予算と購入理由と港区の動線でびっしり埋まった紙を見下ろして、私はふと、自分がおかしくなった。
もとはただ、勉強で頭が痛くなって、「車でもあればな」と何気なく愚痴をこぼしただけだった。
それが今、隣に座っている九島真紀は――「どうやって買うか」「その金をどこから出すか」「どうやって生徒会の目を外すか」「どうやってこの話を徹底的に退屈に見せるか」、そして「買ったあと、どうやって名目を立てて雪風号を見に行き、ついでに山まで走るか」まで、ほとんど全部計算し終えていた。
この女、本当にろくでもない。
そしてもっとろくでもないのは――気づけば私自身が、こう思い始めていることだ。
本当に、いけそうな気がする、と。
真紀がペンのキャップを閉めた。この話はひとまず片付いた、というふうに、口調がすっと授業モードに戻る。
「よし。車の話は一旦ここまで。」
「もう終わり?」
「うん。」彼女は、脇に避けてあった艦隊管理の講義資料を、また私の前に押し戻した。「このページに戻るよ。港区の補給フロー。」
さっきまで死亡診断書にしか見えなかったその資料と、もはや作戦計画書と化しつつある購入草案を見比べて、私はついに、心の底から正直なため息をついた。
「……九島。」
「なに。」
「あんた、自分でわかってる? これじゃ、私の勉強を手伝ってるのか、私の人生を乗っ取ろうとしてるのか、だんだん区別がつかなくなるんだけど。」
彼女がこちらを向いた。
陽光が横顔に落ちても、その表情はやっぱり静かで、この問いが少しも危険じゃないみたいだった。
「その二つ、別に矛盾しないでしょ。」
私は三秒ほど、彼女を見つめた。
それから、諦めて講義資料をめくり直した。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




