60. 部屋割り戦争 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
名簿を教務課に提出したその瞬間、私の胸に壮烈な感慨のようなものは何もなかった。
「運命の歯車が回り始めた」というような安っぽいナレーションもなければ、「今日から我々は未知の前線へ向かう」といった、軍の広報映像のラストみたいな台詞もない。
あったのは、ひどく現実的な感想がひとつだけだった。
――ああ、終わった。今度は本物だ。
教務課の窓口の光は、取調室のように白かった。私はそこに立ち、担当者が私たちの申請書を抜き取り、スキャンし、判を押し、ファイルに綴じていくのを眺めていた。その手つきは滑らかで、まるで一日に三十件は「若者が自分から地獄行きの書類にサインしに来る」ケースを処理し慣れているかのようだった。
紙面の文言はいかにも正式だった。
連邦中央星際連合軍事学院 第〇〇〇回 一・二年次合同期末試験 校外実習版(備考:本試験を選択した者は筆記試験を免除する)
「筆記試験免除」という一行を見た瞬間、私は危うくそれを制度側の善意だと錯覚しかけた。
十一人をひとまとめに校外合宿へ放り込み、その先には雪風号とオリオン座アルファ前線が待っている――その事実を思い出すまでは。
思い出した途端、現実に対する適切な敬意がすぐさま戻ってきた。
申請者欄の下には、はっきりとこう書かれていた。
上級生代表、アイダ・ローゼン。 下級生代表、星野霜。
上級生三名。 下級生八名。 計十一名。 宿舎所在地、鉑橋街二十二番地。
その紙はとても薄く見えた。
だが、刃物みたいに薄かった。
なぜなら私にはよく分かっていたからだ。これが正式に教務課のシステムに登録された瞬間、私たちの名前はもう「その場しのぎで寄せ集められ、互いを消耗させ合う仲間のリスト」ではなくなる。学院側からは、単独で機能し、校外実習と前線試験を引き受けるに足る、一個の完結した単位として扱われるようになるのだ。
もっとはっきり言えば――
今この瞬間から、第144班はただの第144班ではなくなる。
私たちは、編制を持ち始める。
担当者は書類を確認しながら、顔も上げずに尋ねてきた。
「下級生代表、星野霜さん?」
「はい」
「校外合宿の責任者の一人ですね?」
「……はい」
彼女は最後の判を押し下ろした。パン、と乾いた音がした。
「受理しました。二週間の休暇前までに備案を完了させてください。期末、頑張ってくださいね」
私は受領証を受け取り、その判決文めいた真っ赤な印影を見下ろしながら、心の中で真っ先に浮かんだのはこの一言だった。
――ありがと。でも、その激励に信憑性は欠片もない。
教務課を出ると、外の風はいつも通りで、校舎もいつも通りで、すれ違う学生たちも何事もなかったかのように普通だった。
だが私は知っていた。この瞬間から、これから始まる二週間の長期休暇は、もはや「休暇」なんかじゃない。
それは、十一人の問題児を正式に一つ屋根の下に押し込め、「文明」という名の限界がどこまで持つかを試す、前置きの作業にすぎない。
そして、そういう作業に、ろくな結末がついたためしはない。
---
知らせがグループに流れると、第144班が沈黙していたのは二十七秒だけだった。
二十七秒後、ジェスが最初のメッセージを送ってきた。
『ジェス:どうせ決まったんだし、そろそろ引っ越しちゃおうよ。』
私はちょうど教学棟の外のベンチのそばまで歩いてきたところで、その一文を見て足を止めた。
続いてDがすぐに乗ってきた。
『D:同意。早めに動線を把握しておく。』
『ロイ:賛成。最終日に一斉搬入するより、分散して運ぶほうが合理的だ。』
『蘭:それに、休暇が始まってすぐ入居すれば、その後まるまる二週間を慣らしに使える。』
『ハーヴィー:設備の先行設置もできるしな。』
私はその「設備の先行設置」という一文を、二秒ほど見つめた。
上出来だ。
こいつはもう「引っ越す」という段階を飛ばして、「あの家をいかに非合法かつ高効率な拠点に改造するか」を考え始めている。
そして最も悲しいのは、私がそれにまったく驚いていないことだった。
真紀のメッセージも届いた。
『真紀:私も先に引っ越したほうがいいと思う。』
『真紀:休暇の中盤で動くと、結局バタバタするだけだから。』
私がまだ返信できずにいるうちに、ジェスがさらに一文を継ぎ足してきた。
『ジェス:それに、シモってバイクの免許取りたいって言ってなかったっけ? 早めに外に出たほうが練習しやすいでしょ。』
私はその場で固まった。
それから、ひどくゆっくりと、その一文をもう一度読み返した。
『星野:……誰がその話をしていいって許可した。』
グループが一秒だけ静まり返った。
続いて返してきたのは、ジェスではなかった。
アイダだった。
『アイダ:私だ。』
私はその場で、端末を花壇に叩き込みそうになった。
数秒後、彼女はさらに一文を継ぎ足してきた。口調は、今夜のスープの有無でも語るように平静だった。
『アイダ:タクシーの中で、シモが自分から口にしていた。』
『アイダ:機密には当たらないと思っていた。』
――機密じゃないわけがあるか。
あれは、私の人生の中でもごく数少ない、まだ集団の娯楽ネタに加工されていない個人的な計画のひとつだったのに。
ジェスがその場で爆笑した。
『ジェス:あはははははは、シモ、本当に取る気だったんだ!』
『ハーヴィー:取れよ。取ったらパーツの買い出しが楽になる。』
『ロイ:いや、私が気になるのはむしろ保険のほうだ。』
『アカリ:私が気になるのは、あいつが側溝に突っ込まないかどうかだ。』
『D:バイクの免許なんて簡単だ。先延ばしにするな。』
私はその「先延ばしにするな」の文字列を見つめ、組織というものの冷酷さをひしひしと感じた。
真紀は最後に動いた。そして、その一撃が一番致命的だった。
『真紀:じゃあ、まとめて片付けよう。』
『真紀:艦隊管理、その他の補修科目、それからバイクの免許も。』
その文字列を見た瞬間、私の第一反応は抗議ではなかった。
頭痛だった。
なぜなら、その口調があまりにも自然だったからだ。まるで私の生活への管理権を広げているわけではなく、ただ自分のToDoリストに「星野」という項目をひとつ追加しただけ、という顔をして。
そしてさらに最悪なのは、第144班の全員が、それをごく当然のことだと受け止めていたことだった。
『ジェス:賛成、九島先生。』
『ハーヴィー:賛成。』
『D:効率的だ。』
『蘭:時間割は私が組める。』
『ロイ:先に黙祷しておく。』
私はゆっくりとベンチに腰を下ろし、灰白色の空を仰いだ。ふと、連邦法にこう問いただしたくなった。
――一人の人間が、ただの雑談のノリで「バイクの免許を取りたい」と漏らしただけなのに、部隊全体から集団矯正プロジェクトとして推進されることになった場合、それは校内いじめに該当するのだろうか。
答えはおそらく、該当する。
だが第144班はきっと、それを「ケア」と呼ぶのだろう。
反吐が出る。
そして、非常に便利でもある。
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連邦政府が定めるバイクの免許試験は、確かに理不尽なほど簡単だった。
簡単すぎて、私は一時期、連邦は「十四歳以上で、四肢が正常に機能し、赤信号と『目の前の大型軍用トラックに突っ込まない』という二つの常識を区別できる人間」であれば誰でも公道に出てよい、と最初から決めているのではないかと疑いたくなった。
筆記試験は、ほとんど常識クイズに近かった。
シミュレーターでの実技試験も、技術を測るというより「反社会性パーソナリティ障害の有無」を確認しているようなものだった。わざと歩道に乗り上げでもしない限り、システムはだいたい合格をくれる。
試験を終えて外に出たとき、手には出来立てほやほやの電子免許認証があった。
だが、心の中に喜びはなかった。
あったのは、ひどく空虚な感覚だけだ。
自分の成長を証明する過程になるはずだと、少しは思っていたのに。連邦はちらりと私を見て、「ああ、スロットルを回せるのね。はい、次」と言っただけだった。
外で待っていたジェスは、私を見るなり笑った。
「おめでとう、シモ。これで晴れて合法的な危険運転予備軍だね」
「お前の信頼、感動するくらい厚いな」
「信頼してないわけじゃないよ」彼女は私の肩を叩いた。「信頼してないのは、あんたの運のほうだから」
隣にいた真紀が、私の電子認証を自分の端末に読み込みながら、平坦な声で言った。
「これで22番地への行き来が楽になる」
「最初の一言が『おめでとう』じゃないのか」
「おめでとう」彼女はごく自然にそう付け足した。「それから、今夜は艦隊勤務の章があと二節残ってる。記憶喪失のふりはするなよ」
……そう。
これが本題だ。
バイクの免許の件が、彼女たちの集団的な後押しで片付いたあと、真紀はごく自然な顔で、私への「指導範囲」を艦隊管理から他の科目へと広げていった。
通信識読、連合編成基礎、後方支援の流れ、報告書のフォーマット、さらには私が現場対応でごまかすつもりでいたいくつかの理論科目まで、彼女は一言もなく引っ張り出してきて、補習の机に並べ直した。
彼女の教え方は、本当に厄介だ。
赤ペンで頭を小突くタイプでもなければ、「こんなことも分からないの」と見下すタイプでもない。
もっと始末に負えない種類だ。
彼女は物事を極限まで細かく分解する。人を殴り殺せそうなほど分厚い教科書を、ちょうど私の頭に収まるサイズにまで切り分けてから、感情の起伏がほとんど感じられないほど静かな声で、一つずつ目の前に並べていく。
「ここは先に覚えて」
「ここは丸暗記しなくていい。まず理解して」
「本番で忘れたら、核になる概念だけ拾えばいい」
「ここは意地を張らないで、そのままフォーマットを使って」
最悪なのは、彼女が本当に分かっているということだ。私がどこで強がるか、どこで手を抜きたくなるか、どこでうんざりしてくるか、そして――本当は理解しているくせに、意地で認めたくないのはどこか。それを、まるで実地調査でもしたかのように把握している。
たまに顔を上げて彼女を見ると、妙な感覚に襲われることがある。
彼女は、私に勉強を教えているのではない。
もっと、「星野霜という人間」を少しずつ解析しながら、その手で私をより長く生き延びられる方向へ、そっと押し出しているような感覚だ。
それだけでも、本来なら十分に危険なことのはずだ。
さらに危険なのは――私がそれに、どんどん慣れてしまっているという事実だった。
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