06. 転属命令 4
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
私は軍功表を見に行かなかった。
理由は単純だ。
どうせ今日手柄を立てたからって、明日その場で少尉に昇天できるわけじゃない。連邦のこの軍階累進制度は、安物のインスタントスープみたいに腐ってる——見た目は栄養ありそうで、飲み終わったらむしろ空虚感が増す。
今の私は一等兵五段。
仮に上が突然良心に目覚めて何段か余分に積んでくれたとしても、上等兵まで昇格するには規定通り十条を揃えないといけない。
つまり、軍功なんてものは結局、命で磨くしかない。
だったら当然、もっと現実的なものを先にもらっておく。
例えば——文書区のコーヒーパック。
いや。訂正。
あの引き出し一段分まるごと。
最後の二袋をポケットに押し込んだとき、私は心の底から感慨した。
さすがは私だ。
かつて「神の手」と呼ばれたあの技術、まだちゃんと健在じゃないか。
軍功は制度に飲み込まれるかもしれない。栄誉は報告書のフォーマットに食われるかもしれない。
でも、ポケットに入ったコーヒーパックは、間違いなくポケットの中にある。
これが現実だ。
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翌日になってようやく、私は遅ればせながら気づいた。
本当に面倒なのは軍功じゃない。人間だ。
もっと正確に言えば、いつも間の悪いタイミングで、なぜかちょうどいい場所に現れるあの上等兵だ。
六A倉の扉を開けて外に出た瞬間、彼が立っていた。
清潔な文書制服。きちんと直した眼鏡。手には端末。背筋は真っ直ぐ。どこからどう見ても公文書を届けに来た人間の姿だ。
だが、六A倉の連中がその絵をそんな純粋な解釈でとらえるはずがない。
私の足がぴたりと止まった。
背後から即座に、アルヴィンのあの「いいもの見た」という声が飛んでくる。
「おおっ——」
ちくしょう。やっぱりな。
奥からレイスがのんびりと続ける。
「新入り、お前の文書官が来たぞ。」
林薇の笑い方が一番腹立たしい。
「しかもわざわざ部屋の前まで来てくれてるじゃん?」
私は深く息を吸った。
よし。今日が始まったばかりなのに、もう火がついた。
私は無表情で外に出て、背後でドアを勢いよく閉めた。六A倉の野次馬連中の視線を、できる限りそこに封じ込めながら。
それから顔を上げて、彼を見た。
「なんでまたあんたなの。」
語気はあまりよくない。これは彼に向けているわけじゃない。主に、艦砲より口が煩い六A倉のあいつらに向けている。
「あんたのせいで、今じゃ部屋を出るたびに室内娯楽の素材にされるんだけど。」
大衛は一瞬、固まった。
ぽかんとした固まり方じゃない。どちらかというと、私の言葉の構造を本気で解析しようとしているような固まり方だ。
それから、彼は低い声で聞いた。
「俺は……迷惑だったか?」
もう少し強く言い続けるつもりだったのに。
あの声の出し方で、私はうまく続けられなくなった。
ちくしょう。なんだよ。
「迷惑かけてないか」を、どうしたらそんなに空気の抜けたボールみたいな言い方ができるんだ。
これじゃ、こっちが攻撃を続けにくいじゃないか。
男ってやつは、たまに本当にずる賢い。何もしていないくせに、ちょっと元気のなさそうな顔一つで、こっちに「私が言いすぎたか」と反省させる空気を作る。
まったく。タイミングを見計らって情けない顔をする才能、なんとかしてくれ。
私は舌打ちして、両手を腰に当て、顔を上げて彼を見た。
「そういう意味じゃない。」
少し間を置いて、語気が「ただ面倒くさい」にしか聞こえないよう努める。それ以外の何かには聞こえないように。
「うちの部屋の前でぼーっと立ってるのやめてくれる? 六A倉の連中は口が悪いから、あんたがそこに立ってる時間が長ければ長いほど、私の孫の名前まで勝手に考え始めるんだよ。」
デイヴィッドは二秒、黙った。
それから、静かに一言だけ返す。
「わかった。」
それだけ。余計な拗ねた顔もなし。追い打ちもなし。「嫌われてると思ってた」みたいな一言もなし。
よし。これでいい。
これ以外の反応だったら、私はどう収めればいいか分からなかった。
私は軽く顎を上げた。
「それで?」
彼は手の端末を差し出した。
「昨日、君が見なかった軍功表だ。」
私は受け取り、画面を見下ろした。
次の瞬間、頭が止まった。
「……は?」
画面のデータを見つめながら、昨夜六A倉で混合悪臭を吸いすぎた結果、朝から幻覚が出ているのではないかと本気で疑う。
「上等兵五段?」
私は勢いよく顔を上げた。
「私、一等兵五段だったんですけど。一気に十段?」
デイヴィッドは眼鏡を押し上げた。
「昨日のあれだけの戦功で、二段ずつ積み上げさせてたら、前線の誰かが本当に軍部を解体しに行くと思う。」
……なるほど。それは一理ある。
私はもう一度、画面を見直した。
上等兵五段。一等兵六段でも七段でもない。一段まるごと飛び越えて、十段分一気に積み上がっている。
よし。
これはつまり「制度がようやくこの便利な駒の使い勝手に気づき、少し多めに餌を与えることにした」という意味だ。
気分は微妙だ。
純粋に嬉しいわけじゃない。どちらかというと、長年こき使われた末に上司が突然「よくやってる、今月は昇給だ」と言ってきたとき、感動より先に「ようやく今まで搾り取られてた分を自覚したわけ」という気持ちが来る、あの感じに近い。
私は端末を返した。
「あんたは? デイヴィッド。」
「俺は今、一等兵七段だ。」
私は彼を見た。
うん。妥当だ。
功績は記録された。でも記録の仕方が違う。
私のは「前線に突っ込む狂犬」加点方式。彼のは「この人間の頭は使える、死なせるな」という制度的な修正。
「悪くないじゃん。」私は言った。「少なくとも連邦がようやく、外国語専攻を艦内白兵戦に使うのは多少もったいないと気づいたってことだから。」
デイヴィッドの口角がわずかに動いた。
「俺もそれを早く気づいてほしかった。」
「手遅れだよ、昨日もう私と一緒に船ぶつけたんだから。」私は腕を組んで、静かな声で言う。「経歴、汚れたね。」
彼は私を見て、低く笑った。
短い笑い。でも、いい声だった。
……ちくしょう。こんな場面で笑うな。
「この後、艦橋に来い。」彼は端末をしまった。「艦長が会いたいそうだ。」
私は聞いた瞬間、頭が重くなった。
「また上官に会うの?」
「ああ。」
「最近、肩章が多い人間を見るとアレルギーが出るんだけど。」
「早く慣れたほうがいい。」
私は彼を見た。
「その言い方、悪い知らせの前置きにしか聞こえないんだけど。」
「大抵そうだ。」
「そう。」私はため息をつく。「連邦が何の見返りもなく私を昇格させるわけないとは思ってた。」
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