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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:士官学校
209/338

59. 鉑橋街(はっきょうがい)22番地 5

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

戦争は三階から始まった。


理由は単純だ。


女子七人、部屋が七つ。


表面上は一番割り振りやすい階に見えるが、実態はまったく逆だ。「ちょうど一人一部屋」というのは、全員が自分には選ぶ資格があると自然に感じさせる。


選び始めた瞬間に、人間は醜い一面を見せ始める。


グループに入っていた三階の平面図を開いて、端末をテーブルの端に立てた。


「まず確認しておく。七部屋、全部違う。階段に近い部屋、浴室に近い部屋、採光のいい部屋、一番静かな部屋——完全に均等にはならない」


「うん」蘭が頷いた。「だから先に原則を決める」


ジェスがすぐに手を挙げた。


「提案。シモの部屋から決める」


やっぱりそう来た。


「なんで?」


「だって、あんたが揉め事の震源地だから」


「それ、全然褒め言葉じゃない」


「褒めてないから」


真紀がテーブルの上に手を置き、平坦な声で言った。


「シモを先に決めることに賛成」


振り返って彼女を見た。


「あなたまでなんで——」


「先に決めないと、後の動線が乱れるから」


……来た。


また動線。


最近この人は、この言葉を隠れ蓑に何回使っているのだろうか。


ジェスが声に出して笑った。


「動線ね。みなさん、ここに一人の学生がいます。彼女の人生設計は、自分の部屋のドアからシモの部屋のドアまでの最短経路を先に確保することが前提になっています」


「あなたがまた変な翻訳をするなら、あなたの部屋はドライヤーの音が一番響く場所にする」真紀が言った。


「あら? 気にしてるって認めた?」


「気にしてるのは効率」


「私が気にしてるのは、ドラマ性」


「じゃあ、階段口の部屋に住んで、毎日そこで上演してればいい」


私は額に手を当てた。


まだ第一ラウンドだ。


第一ラウンドなのに。


そのとき、エヴリンのメッセージが跳び込んできた。いつも通り、無駄のない文体だった。


エヴリン「静かな部屋。電力が安定していること。浴室からは少し離れていること。ドライヤーと電磁ノイズは両方うるさい」


「ほら」私は言った。「少なくとも一人は、ちゃんと人間の言葉で要望を出してる」


ジェスが私を見た。


「それって、真紀の発言が人間の言葉じゃないって言いたいの?」


「あなたのことを言ってる」


真紀は平面図に目を落としたまま、二つの部屋の位置に指先を止めた。


「需要で切るなら、アカリは一番奥の部屋が向いてる。静けさを必要としていて、自分から人に会いに行くタイプじゃないし、通りがかりの音に邪魔されたくない」


アカリは顔も上げなかった。


「どこでもいい。ただ、夜中に突然入ってきて話しかけてくる人間がいなければ」


「誰があなたに夜中話しかけに行くの」


「あんた」彼女が目を上げて私を見た。


「……私が、いつ?」


「覚えてないだけ」


この人は時々、怪談の予告みたいな話し方をする。


蘭が自分のノートを見ながら、真剣に割り込んだ。


「エヴリンが静かさを必要として、アカリも静かさを必要としているなら、二人を直接隣にしないほうがいい。一方が分析中で、もう一方が仮眠中だと、かえって互いに干渉し合う。それと、浴室に近すぎる部屋は、音に敏感な人には向かない」


「じゃあ、浴室に近い部屋は私でいい」ジェスが両手を広げた。「私はノイズに強いし、人生に対して包容力がある」


「あなたが持ってるのは、包容力じゃなくてノイズを生産する能力だよ」私は言った。


「ありがとう、シモ。私の存在感をそうやって認めてくれるの、嬉しい」


無視して、図に戻った。


問題はすぐに浮かんできた。


七部屋が一人一部屋というのは表向ききれいだが、きれいなのは表向きだけだ。真紀は明らかに私に近い部屋を望んでいる。ジェスは「私の邪魔ができる範囲」に住みたがっている。蘭は浴室から離れたい。アカリは静けさだけが欲しい。エヴリンは低ノイズと安定電力を要求している。そして、まだオンラインで正式な要望を出していない二人——アイダと、もう一人の先輩——は今のところ沈黙したままだ。


そう思った瞬間、アイダのメッセージが跳んできた。


アイダ「どこでもいい」 アイダ「ただ、三階で一番爆発しやすいエリアからは離れていたい」


ジェスが即座に返した。


ジェス「『一番爆発しやすいエリア』の定義を教えて」


アイダ「シモの部屋の隣二つ」


テーブルが半秒、静まり返った。


それからジェスが机を叩いて爆笑した。


「ははははははははは! ほらね! 震源地だって言ったでしょ!」


私は無表情でグループを見つめた。


「私、地代でも取るべきかな」


真紀は笑わず、ただごく淡く一言だけ言った。


「それは、誰が払えるかによる」


空気が一秒、静まり返った。


ごく短い沈黙だったが、この一言の中に深追いしないほうがいい何かが含まれていると気づくには、十分な長さだった。


ジェスもその意味を聞き取ったらしく、眉を上げて真紀を見てから私を見て、その笑みをさらに一段、腹立たしい方向へ引き上げた。


「わあ」


「何が『わあ』なの」私は先手を打った。


「別に。ただ、今夜のこの部屋割り会議、元は取れたなって思っただけ」


「あんた、チケット買ってないでしょ」


「なら、丸儲けだ」


そこで、蘭が実に職業意識の高い手つきでテーブルを軽く叩いた。


「三階の話を、感情のもつれとして扱うの、いったんやめてもらえる?」


「その発言、甘すぎるわよ」アカリが言った。


「せめて、そうじゃないふりくらいはして」蘭は顔色一つ変えなかった。


最終的に、互いへの口撃と水面下の暗流が入り混じる中、女子階層はどうにか大まかな合意にたどり着いた。


一番奥の静かな部屋はアカリを優先。


エヴリンは浴室と人通りの多いエリアを避ける。


蘭は浴室のすぐ隣を避ける。


そして私は——非常に不本意ながら——「三階の中枢」という位置に置かれた。理由は、調整しやすいから、呼びに行きやすいから、何かあったとき真っ先に見つけてもらえるから、というものだった。


人間の言葉に翻訳すると、私は三階の公共施設になった。


一方、真紀とジェスは、「誰が私の隣に住むか」という一点をめぐって、極めて文明的でありながら、極めて非文明的な綱引きを始めていた。


「私のほうが適任だと思う」真紀が言った。


「理由は?」ジェスがにこにこしながら聞いた。


「生活リズムが安定してるし、勉強もするし、片づけもする。夜中に発狂したりしないし、上着を廊下に脱ぎ散らかしたりもしない」


「わあ、すごく強い求愛——」


「ジェス」


自分でも驚くほどの速さで、声が出ていた。


彼女は私を一瞥し、口の端をさらに吊り上げた。


「はいはい、言わないよ。耳まで赤くなってるけど」


「学食がちょっと暑いだけ」


「今はグループ会議中だよ。昨日の図書館じゃないんだから」


「黙って」


真紀が横でごく軽く笑った。追い打ちはかけなかった。かけなかったくせに、それが追い打ち以上に腹立たしかった。



女子階層の口論がまだ片付かないうちに、男子階層は自分たちで燃え始めた。


原因は、二階に浴室が一セットしかないことに、ハーヴィーが突然気づいたことだった。


「待て、一セット?」彼は平面図を睨みつけ、文明が三百年後退したとでも宣告されたような顔をした。「男四人で一セット?」


Dは冷静だった。


「問題があるか」


「あるに決まってるだろ」ハーヴィーがテーブルを叩いた。「シャワーが速い人間もいれば、シャワーを浴びながら人生について考え始める人間もいるって知ってるか?」


ロイが眼鏡を押し上げた。


「じゃあ、お前は中で人生について考えるのをやめろよ」


「俺じゃない! 俺が言ってるのは、そういう人間が——」


「そういう人間はお前自身でしょ」アカリが気怠そうに差し込んだ。


「違う」


「そうだよ」私は言った。


Dは表情一つ変えず、直接機能の切り分けに入った。


「俺は階段に近い部屋にする。何かあったとき、下に降りるのが一番速い」


「おい」ハーヴィーが彼を見た。「なんでもう先に選んでるんだよ」


「合理的だからだ」


「こういうときの『合理的』が一番危険な言葉なんだよ」ジェスが言った。「みんな、それで私欲を包み隠すから」


「あんたが一番それを言う資格ない」私は言った。


アッシュのメッセージが、ここでようやく届いた。


アッシュ「机が一つあればいい。図面を貼れる壁があれば、なおいい」


その一文を見て、思わず溜息が出た。


「男って、悲しくなるくらいシンプルだね」


ロイも発言した。


ロイ「少し静かな場所がいい。あと、できればハーヴィーの隣は避けたい」


ハーヴィー「なんで???」


ロイ「夜中でもまだ何か分解してそうだから」


ハーヴィー「あれは整備だ」


ロイ「深夜一時において、整備と犯罪の境界線は紙一重なんだよ」


ジェスが机を叩きそうになりながら笑った。


「見事。本当に見事。男子階層は、私たちが煽らなくても、勝手に燃えるんだ」


「だから、二階は実はシンプルなんだよ」私は平面図を見ながらまとめた。「Dが階段口、アッシュは壁のある部屋、ロイは静かな部屋、そして残ったハーヴィーは自動的に『浴室と共用電源に近づかないでください』ゾーンに分類」


「なんで俺だけ分類される側なんだよ」ハーヴィーが抗議した。


「工具箱を部屋に持ち込む人間だから」私は言った。


「それは基本的な素養だろう!」


「それは生活上の脅威」ロイが即座に被せた。


「お前ら、エンジニアに偏見持ちすぎだろ」


「偏見じゃない」Dがようやく彼を一瞥した。「経験だ」


男子階層で揉めている方向は、女子階層とはまったく違っていた。


女子階層は縄張りを奪い合っている。


男子階層は、互いが互いの災害にならないよう距離を取っている。


一方は高度な宮廷闘争。


一方は防爆演習。


そして一番厄介なのは、両方が揉めている途中で、互いのチャンネルに乱入してくることだった。


「ちょっと待って」ジェスが突然テーブルを叩いた。「男子階層の浴室が一セットしかないなら、共有階層の洗面所を、朝の緊急支援に組み込むのはあり?」


「駄目」真紀が即座に否決した。


「なんで」


「そうしたら、男子が一階を予備基地扱いし始めて、歯ブラシ、タオル、洗顔料が少しずつ共有エリアを侵食していくから」


Dが一瞬、黙り込んだ。本気でその可能性を評価しているようだった。


その場で頭が痛くなった。


「評価しないで! こういうことは、評価の段階に入った時点でもう十分まずいんだから!」


アカリが頬杖をつき、淡々と最後の一刀を入れた。


「だから言ってるでしょ。一階は共有エリアであって、難民キャンプじゃない」


ハーヴィーが傷ついた顔をした。


「お前ら、男に対する信頼度、低すぎないか」


私は彼を見た。


それからDを見た。


そして、この四人を自由に生きさせたら、二階が将来どうなるかを想像してみた。


最後に、極めて誠実に結論を下した。


「低くない。精確なだけ」


テーブルが一秒、静まり返った。


それから、全員が爆笑した。


真紀まで首を傾けて笑い、肩をごく軽く揺らした。彼女は普段、あまり目立って笑わない。でも、本当にツボに入ったときの、あの短くて、抑制が効いていて、それでも隠しきれない反応は、大笑いよりずっと心臓に悪い。


一瞥して、すぐに視線を戻した。


……いいね。


もう部屋割り会議まで、心臓に優しくないコーナーになった。


最終的に、この夜の混乱したグループ会議は、どうにか暫定的な結論にたどり着いた。


三階・女子階層: まず需要でゾーンを分け、隣接の問題はそのあとで話し合う。


二階・男子階層: まず機能で部屋を割り振り、誰が誰の災いにならないかはそのあとで話し合う。


一階・共有エリア: 「便利だから」という理由で、誰であっても私物の生活用品を長期的に拡張・占領することを禁止する。


地下室: 今は議論しないが、いずれ何かが起きる場所だと、全員が暗黙のうちに了解している。


私はその食堂の長テーブルの端に座って、ようやく少し流れが緩やかになったグループのメッセージを眺めながら、ただ頭がじんわりと重くなるのを感じていた。


家はまだ正式には手に入っていない。


なのに、公約はもう一冊分書けそうだった。


端末の上で飛び交う七嘴八舌のメッセージを見下ろしながら、ふと妙な感覚に襲われた。


面倒だ。


本当に面倒くさい。


でも、こいつらのために「誰がどこに住めば殴り合いにならずに済むか」を本気で考え始めた時点で、私はもうとっくに「この人たちが本当に一緒に住む」ということを、前提として受け入れてしまっていた。


その気づきに、少しの間、黙り込んだ。


真紀が何かを察したように、首を傾けて私を見た。


「どうしたの、シモ」


「別に」端末を伏せてテーブルに置き、椅子の背もたれに寄りかかった。「ただ、本当の問題はもう、家が十分広いかどうかじゃないんだって気づいただけ」


ジェスがすぐに食いついた。


「へえ? じゃあ何?」


私は彼女たちを見た。


誰がどの部屋に住むかをめぐって、すでに感情のもつれ、機能のもつれ、浴室のもつれ、尊厳のもつれを抱え始めているこのテーブルの面々を。


そして、ごく落ち着いた声で言った。


「引っ越して最初の一週間のうちに、まず互いを殺さずに済むには、どう住めばいいかって問題」


ジェスがテーブルに突っ伏して笑った。


Dが頷いた。


ロイが額を押さえた。


ハーヴィーは反論したそうな顔をしたが、どこに反論の余地があるのか見つけられずにいた。


アカリが、淡々と一言だけ言った。


「つまり、ようやく一番核心的な問題を考え始めたってことね」


真紀は笑わず、ただ私を見ていた。静かすぎるくらい、静かな目だった。


「で、答えは出たの?」


私はその視線を受け止めて、一秒だけ止まった。


それから、ゆっくりと息を吐いた。


「まだ」


「なら、ちょうどいい」彼女は言った。


「何が、ちょうどいいの」


真紀の口の端が、ごくわずかに弧を描いた。


「だって、これから話し合う番だから——」


彼女はそこで言葉を切り、視線をグループの画面へすっと走らせた。


「誰が、あなたの隣に住むべきか、を」

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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