57. 部屋探しは人生の一大イベント 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
アイダからの二通目が来たのは、夕食の二十七分後だった。
はっきり覚えているのは、そのとき私が寮の机の前に座って、ハーヴィーがまとめた条件表を手に持ちながら上の空になっていたからだ。「男女で階層を分ける、共有スペースが一階層、最上階に洗濯、エレベーターあり、最低二台分の駐車スペース」なんてものが一年生の住居要件の中に並んでいても別に荒唐無稽じゃない、と自分に言い聞かせながら。
そこで端末が一度震えた。
グループの、気の荒いハムスターを一巣まとめてパーティーでもさせているみたいな、あの狂った連続震動じゃない。
単独のメッセージだ。
清潔。節制。優雅。
一目で分かる。一行の中に感嘆符を三つと、半分陰湿な皮肉をねじ込んでくるジェスの手口じゃない。
顔を下げた。
アイダ・ローゼン
……よし。来た。
開いた。
長くはない。だが一行ごとの殺傷力が高かった。
アイダ・ローゼン「初期比較が終わったわ」 アイダ・ローゼン「鉑橋街で今のところ話を進められる物件は二つ。まず内部判断用に出しておく」
【A案】鉑橋街第十七区画/中級士官住宅改編型 優点:学校から近い、警備が成熟している、日常の出入りが安定している、エレベーター付き、男女の階層分けが処理しやすい 欠点:共有スペースがやや狭い、食堂とキッチンが手狭、駐車スペースは二台分でぎりぎり下限
【B案】鉑橋街第三外環/旧将官住宅改編型 優点:共有スペースが広い、キッチンと食堂が完備、浴室の数も比較的充実、駐車スペース三台分、最上階の洗濯条件もより良い 欠点:学校からやや遠い、警備規格は高いが生活の雰囲気はより本物の軍属区に近くなる、入居後は「自分たちは普通の学生じゃない」という感覚がより強くなる
アイダ・ローゼン「簡単に言うと、Aは手堅い、Bはそそられる」 アイダ・ローゼン「まずはあなたたちで揉めて結論を出して」
最後の一行まで読み終えて、三秒黙った。
それから、心から誠実に結論を出した。
「……この人、本当に人間の言葉を書くのが上手い」
「誰?」ジェスはそれまで私のベッドに腹ばいになって、タイトルが出版社と喧嘩でもしているみたいに長いライトノベルをめくっていたが、その声を聞いた瞬間に顔を上げた。ゴシップの匂いを嗅ぎつけた狐みたいな速さだった。
「アイダ」私は端末を彼女に向けた。
読み終えたジェスは、まず長い口笛を一つ吹き、それから私の枕を抱えて後ろに倒れ込み、とんでもない宝くじにでも当たったみたいに笑った。
「Aは手堅い、Bはそそられる。わあ、この人好き。これ完全に上級生バージョンの『どうせ官僚言葉なんて分からないでしょ、だから最初から揉めやすい言葉に訳しておいてあげた』ってやつじゃん」
真紀もそのとき自分の机から歩いてきて、かがんで一通り目を通した。
読み終えたときの反応は、ジェスとは比べ物にならないくらい冷静で、ただ淡く一言だけ言った。
「Bの方がいい」
私とジェスは同時に彼女を見た。
「一秒も迷わないの?」私は聞いた。
「もう考えた」真紀は平坦な声で言った。「十一人で、期末前まで編成学習と装備整理と生活リズムを維持しなきゃいけない。共有スペースが狭ければ、後で必ず死人が出る」
「その『死人』って比喩?それとも予告?」ジェスが聞いた。
「今のところは比喩」真紀は言った。
……いいね。わざわざ「今のところは」まで付け足しやがった。
もう一度メッセージを読み直した。
A案:近い、手堅い、警備成熟、男女分層しやすい、エレベーターあり。
B案:広い、使い勝手がいい、キッチンと食堂が完備、浴室多め、駐車三台分、最上階の洗濯条件もより良い。
こうして並べただけで、Bは完全に、カロリー爆発で栄養バランスが崩壊していて、食べたら魂がふやけると分かっているのに、夜食の時間帯にどうしても三度見してしまう、そういう種類の邪悪な選択肢だった。
問題は——
Bには一文だけ、特に目に刺さる言葉があった。
入居後は「自分たちは普通の学生じゃない」という感覚がより強くなる。
この一文は、浴室の数よりも、駐車スペースよりも、大きなキッチンよりも、よほど殺傷力がある。
なぜなら、それが本当のことだからだ。
あの場所に住むというのは、生活の質が上がるというだけの話じゃない。
自分たちという編成ごと、「学校の寮にいるただの学生の群れ」から、「士官と体制のリソースが本気で視野に入れてくる範囲」へと、直接運び込まれるということだ。
簡単に言えば——
腐敗は使い勝手がいいだけじゃなく、ついでに背景まで書き換えてくる。
「グループに流して」ジェスはもう起き上がっていた。目が危険なくらい輝いている。「ハーヴィーの魂がAとBの間を往復した挙句、最後には不動産コンサルタントに変貌する瞬間が見たい」
突っ込む気力も惜しんで、アイダのメッセージの要点をそのままグループに貼り付けた。
送信した瞬間、グループは熱した油を鍋ごとぶちまけたみたいに炸裂した。
星野「アイダから返信」 星野「鉑橋街、二案」 星野「Aは近くて手堅くて警備も成熟してるけど、共有スペースが小さい」 星野「Bは少し遠いけど、共有スペース・キッチン・食堂・浴室・駐車スペースが全部より充実してる」 星野「彼女のまとめ:Aは手堅い、Bはそそられる」
最初に返してきたのはジェスで、まったく意外じゃなかった。
ジェス「Bに一票。理由は単純。十一人が喧嘩するのにも順番待ちが要る共有スペースに詰め込まれるのはお断り」
Dが二番目だった。
D「まず距離の差を聞く」
実にDらしい。
いつだって、あらゆるロマンを真っ先に現実に叩き落とす。
ハーヴィーがすぐに続けた。
ハーヴィー「『少し遠い』程度なら、B優先。共有スペースとキッチン食堂はオマケじゃない。十一人が互いを憎まずに済むための基礎インフラだ」
ロイはいつも通り、まず自分の庶民の魂のために声を上げた。
ロイ「待って、今これ聞くの空気読めないの分かってるけど、Bのほうが高くない?」
ジェスが秒で返した。
ジェス「その発言、うちで唯一お金が有限リソースだって覚えてる人みたいで、泣けてくる」
蘭がすぐに話を本筋に戻した。
蘭「『そそられる』だけで見ないで。動線を見よう」 蘭「Aで共有スペースが小さければ、十一人が同時に帰ってきた瞬間、生活・議論・勉強・装備整理が全部ぶつかり合う」 蘭「Bのほうが、ちゃんとゾーンを分けて動ける」
アカリは数秒置いて、ぽつりと一言だけ投げた。
アカリ「Aは生き延びられる。Bは人間らしく生きられる」
その一文を、二秒見つめた。
……くそ。
死んだ魚みたいな目をした人間の言葉というのはこういうものだ。普段は文字数を節約しているくせに、急所を突くときだけ特別に腹立たしい。
真紀はいつの間にか私のベッドの端に腰を下ろし、ごく自然に端末を少し引き寄せて、一緒に画面を覗き込んでいた。
彼女の手の甲が、ふいに私の膝に触れた。
ごく軽く。
以前の私なら、たぶん即座に半センチほど横へ避けて、「暑い」とか「狭い」とか「字が見えない」とか、適当な理由をつけて誤魔化していただろう。でも今は、半秒だけ固まって、それから何でもないふりをした。
この習慣は、本当に危険だ。
グループの議論はまだ下へ流れ続けていた。
D「聞いてるのは距離だ」 D「どのくらい遠いかで、平日の往復の負担が決まる」
ハーヴィー「鉑橋街第三外環なら、通常の通学でAより十二から十五分多くかかる」 ハーヴィー「交通が順調な場合の話だけど」
ロイ「十五分ならまだいけそうだけど」
ジェス「本気で言ってる?軍校で睡眠が十五分増えるだけでクーデターが起きるよ」
蘭「でも共有階層が丸ごと増えて食堂も大きくなるなら、取り返せるのは十五分じゃなくて、生活全体の安定度だと思う」
アカリ「それに浴室も」
ジェス「そう。私は今日も文明のために声を上げる」
そこまで読んで、思わず笑ってしまった。
「何」ジェスが聞いた。
「別に」端末を下にスクロールした。「ただ、私たちって本当に普通の学生っぽくないなって」
「普通の学生は夜九時半に十一人分の士官住宅性能比較会議なんて開かないから」ジェスは堂々と言った。「普通の学生は今頃、夜食を唐揚げにするか焼きそばにするかで揉めてる。私たちはもう、共有スペースが資料を広げて備戦会議をするのに十分かどうかを議論してる」
「その言い方、なぜか妙に誇らしげなんだけど」
「そりゃ誇らしいでしょ」彼女は意地悪く笑った。「これが進歩ってやつ。下院の山賊から、要件表が作れる下院の山賊への進化」
真紀が隣で静かに一言添えた。
「厳密に言えば、補助と権力リソースを使って、自分たちにより良い戦術的位置を確保できる準軍事編成」
私は首を傾けて彼女を見た。
「その言い方だと、これ全部が国家レベルの腐敗を正当化するテンプレみたいに聞こえるんだけど」
「違う?」彼女が聞き返した。
……くそ。
また反論できない。
端末がもう一度震えた。
今度はアイダからの個別メッセージで、二行だけ補足が来ていた。
アイダ・ローゼン「補足。A案は『合格ラインの学生の校外居住』に近い」 アイダ・ローゼン「B案は『すでに誰かがあなたたちを未来の艦上編成として見始めている』ほうに近い」
読み終えて、指が画面の上で止まった。しばらく動かなかった。
この一言は、あまりにも容赦がなかった。
容赦がないほど、AとBの本質的な違いを正確に射抜いていた。
Aは福利厚生だ。
Bは位置づけだ。
Aは「良い学生は、もう少し良い場所に住んでいい」。
Bは「この集団は、もっと前線に投入されるものとして、早めにそう扱われることを許されている」。
この一言もグループに貼り付けた。
今度ばかりは、いつも真っ先に口を挟むジェスでさえ、数秒黙り込んだ。
最後に口を開いたのは、やはりハーヴィーだった。
ハーヴィー「……それなら、なおさらBだな」
ロイ「今の三点リーダー、かなり珍しいぞ」
ハーヴィー「黙れ。要するに、どうせその方向に押されるなら、住んでからその空間を使い慣れておいたほうがいい」 ハーヴィー「キッチン、食堂、共有階層、駐車スペース——これは後で全部、本物のリソースになる可能性がある」
D「同意」
蘭「同意。どうせ早めに編成化されるなら、機能不足の器を選ぶ理由はない」
アカリ「Aは保守。Bは現実を認めること」
「Bは現実を認めること」という一文を黙って読んで、少し胸の奥がざわついた。
反対しているわけじゃない。
むしろ逆で、あまりにも正確だから、不快だった。
私たちはもう、「前に押されるかどうか」を選べる段階にはいないと、実はみんな分かっているからだ。
問題はただ、「どうせ押されるなら、押される前に、少しでも落ちたときに死なない場所を自分で選んでおくかどうか」だけだ。
それは理想なんかじゃない。
生存だ。
そして生存に関して、私たちはいつだって真剣だ。
そのとき、ジェスが突然グループに一文を投げ込んだ。
ジェス「ものすごく真面目な質問があるんだけど」 ジェス「Bを選んだ場合、女子階層の部屋割りって、特定の二人がついでに効率のいい同室実験を展開できる余地はある?」
目の端がぴくりと跳ねた。
「あいつ、命が惜しくないわけ?」私は言った。
真紀は私の隣に座ったまま、設備の故障率でも評価するみたいな平坦な声で言った。
「彼女はただ、遅かれ早かれ誰かが出す話を、いつもの腹立たしいやり方で先に口にしただけ」
「それを合理的みたいに言わないで」
「もともと合理的だから」彼女は私を見て、静かな目で続けた。「部屋の配置は、もともと重要事項だし」
……その一文だけ聞けば、完全に普通だ。
でも、今のこの距離感と、言い終えたあとすぐには視線を外さないその間の取り方が合わさると、まったく普通じゃなくなる。
喉が少し渇いて、うつむいてグループに視線を戻すしかなかった。
案の定、中はすでに収拾がつかなくなっていた。
ロイ「先に言っておく。俺は機能的な部屋分けは支持するけど、恐怖の実験は支持しない」
ジェス「安心して。本物の恐怖の実験は、あんたの階層では優先的に起きないから」
D「脱線するな」
ハーヴィー「Dに同意。まず部屋形式の優先順位を決めよう」 ハーヴィー「最優先:分室」 ハーヴィー「次点:二人部屋を主体に、少数の個室を混合」 ハーヴィー「除外:大部屋の雑魚寝」
蘭「この順序に賛成」
アカリ「同意」 アカリ「それと、もし女子階層で最終的に二人部屋の組み合わせが必要になったら、うるさい人間と静けさが必要な人間をぶつけないで」
ジェス「それ、私を名指ししてるみたいなんだけど」
アカリ「そう」
思わず声に出して笑ってしまった。
真紀が横目で私を見て、唇の端がわずかに動いた。
その弧度はとても淡かった。
こんなに近くに座っていなければ、見間違えたと思っていただろう。
……本当に腹立たしい。
こういうとき、彼女がほんの少しでも人間らしい表情を見せると、頭の中に余計な反応が湧きやすくなる。
慌てて視線を端末に戻した。
「つまり、今のところはB寄りでまとまりつつあるってこと?」私は聞いた。
「今の流れではそう」真紀は言った。「Bの共有機能の優位性を覆せるだけの理由を、誰かが持ってこない限りは」
頷いて、グループに小さくまとめを打ち込もうとしたところで、Dが先に動いた。
D「今夜、学食」 D「全員集合」 D「AとBの話を終わらせる。ついでに条件表も収束させる」
暇があるかどうかなんて聞かない。
来たいかどうかも聞かない。
会議をオンラインからオフラインへとそのまま引きずり出す。「どうせ最後は全員で現実と向き合うんだから、今来い」とでも言うように。
ジェスがすぐに返した。
ジェス「了解。口を持っていく」
ハーヴィー「俺は資料を持っていく」
ロイ「俺は高級住宅への畏敬の念を持っていく」
アカリ「あんたは脳みそだけ持ってくればいい」
蘭「私はペンを持っていく」
この一連の返信を見ていて、笑いたいような、溜息をつきたいような気分になった。
この光景があまりにも完璧に荒唐無稽だったからだ。
一年生の群れに、ちょうど成人になったばかりの準大人が数人混ざって、学校の寮のグループチャットで高級士官住宅二案の比較を議論し、しかもいっぱしに役割分担までしている。資料を持つ係、口を持つ係、ペンを持つ係、そして全員を最後に本題へ引き戻す係。
連邦は本当にたいしたものだ。
学生を、制度の隙間に上手くキャンプを張れる小さな怪物の群れに育て上げた。
端末を置いて、壁にもたれかかった。
ジェスが寄ってきて、肩で私を小突いた。
「どう、シモ?」彼女は意地悪く笑った。「権力の腐敗に優しく包まれてるっていう、この感動」
「ある」
「お?」
「吐き気がするほど感動してる」私は極めて誠実に答えた。
ジェスはその場で私のベッドに倒れ込んで笑い転げた。
真紀は隣に座ったまま、さっき床に落ちかけていた端末を静かに拾い上げ、私の手元に戻した。
「でも、あなたは行く」彼女は言った。
私はその端末を見下ろし、アイダの最後の一文を思い出した。
B案は「すでに誰かがあなたたちを未来の艦上編成として見始めている」ほうに近い。
私は、二秒黙った。
そして、ゆっくりと息を吐いた。
「……そう」私は言った。
行く。
争う。
条件も、骨の髄まで詰め切る。
事ここに至って、今さら自分たちをただの普通の学生であるかのように装うほうが、よほど笑い話だ。
制度が気持ち悪いと突っ立ったまま罵っているくらいなら、先に踏み込んで、そいつが吐き出せるものを全部かき集めたほうがいい。少なくともそうすれば、後で本当に雪風号に放り込まれたとき、手持ちのカードが一枚でも多くなる。生きて帰れる確率も、多少は上がるかもしれない。
つまるところ、これは堕落じゃない。
ただ、ひどく現実的なだけだ。
そして現実というものを、私たちはあの千九百度の焚風が吹き荒れるクソみたいな星で、とっくに学んでいる。
夜、会議は案の定、逃げられなかった。
そして私にはよく分かっていた。今夜本当に厄介なのは、たぶんAとBのどちらがいいかという話じゃない。
みんなが本気で、Bを「自分たちが本当に住むかもしれない場所」として扱い始めたとき——
これまで冗談で誤魔化せていたいくつかのことが、はっきり言葉にされることを強いられる。
例えば、誰と誰が同室になるか。
例えば、誰が誰に耐えられないか。
例えば——同じ建物に引っ越してしまえば、もう「なんとなく近い気がする」では済まされなくなる、そういう距離のこと。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




