56. もしも、校外で暮らせたなら 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
翌朝、私を叩き起こしたのは、目覚まし時計でもなければ、ジェスの口でもなかった。
メッセージの震動だった。
枕元で端末が震え続けている。まるで今すぐ私を叩き起こさなければ、第144班が朝食前に小さなクーデターへと発展すると分かっているみたいな震え方だった。顔の半分をまだ枕に埋めたまま、手だけを先に伸ばして手探りする。端末に触れても目はろくに開かないまま、画面を灯した。
そして目に入ったのは——
144班/臨時死にたくない同盟(グループ管理者:ジェス) 未読メッセージ:57
その数字を三秒見つめて、心の底から思った。人類文明最大の過ちのひとつは、学生にまでグループチャットを持たせたことだ、と。
「……朝っぱらから会議とか、こいつら寝ないわけ」
声がひどく掠れていた。
昨夜、夢の中で紙やすりでも一枚飲み込んだみたいだ。隣でページをめくる音がして、首を向けると、真紀はもう起きていた。机に向かって座り、膝に薄い毛布をかけ、昨夜の私が死んでも見たくないと思った艦隊勤務資料を手にしている。
彼女が目を上げて私を見た。
「七時間十二分、寝てた」
「なんで分かるの」
「一時十四分を最後に寝返りが止まった」彼女は言った。「六時二十六分、最初のメッセージの震動に眉をひそめた。六時三十一分、完全に覚醒」
私は彼女を見つめ、二秒黙った。
……この女、もう演じる気すらないな。
「それ、観察力じゃなくて、家庭内監視システムだから」
「あなたが規則正しい生活をするなら、記録の頻度は下げられる」
「誰が記録していいって言った——」
「おはよう、二人とも」
上段からジェスの声が垂れてきた。まだ寝起きの鼻声のくせに、その安定した口の悪さには一切影響がない。
「シモ、知ってる? 今の『誰が記録していいって』ってセリフ、結婚三年目にしてようやくパートナーが生理周期をこっそり記録してたことに気づいた、可哀想なくらい鈍い側の配偶者みたいだったよ」
「黙って」
「やだ」彼女は寝返りを打って、ベッドの縁から顔を半分逆さに垂らした。明け方でもまだ狩りができそうな狐みたいな笑顔だった。「先にメッセージ見なよ。ハーヴィーはもうグループで金勘定始めてるし、Dは三行で六百キロ分の現実主義を主張してるし、アカリは二文字で全部のロマンスを壊してる」
私は視線を落とし、端末を見直した。
いいね。
寮の中はまだ目覚めたばかりなのに、外の世界はもう第二ラウンドの撃ち合いに突入している。
グループを開くと、メッセージが一気に溢れ出した。
D「まず一番現実的なことから聞く。家賃はいくらかかる」
ハーヴィー「ようやくまともなことを言うやつが出たな」
ジェス「わあ、今日のDかっこいい」
D「その呼び方やめろ」
アカリ「キモ」
ジェス「ほらね、あの子は二文字で全部ぶち壊すって言ったでしょ」
ハーヴィー「本題。校外住居が学校補助+連邦青年市民住宅補助で、優勝班の資格で組めば、十一人で割ってもむしろ今より安く済む可能性がある」
蘭「待って、いつの間に十一人同居前提になってるの」
ロイ「まだ起きてない。とりあえずこれが夢かどうか教えて」
ハーヴィー「夢じゃない。起きてても同じくらい貧乏だから、さっさと現実を見ろ」
額に手を当てた。頭の半分はまだ眠気に浸かっているのに、もう半分はすでにこいつらに引きずり込まれて財務会議をやらされている。
「なんで朝っぱらから補助とか割り勘の話になるわけ」と私は聞いた。
真紀は静かに資料を一枚めくった。
「それが正しい順序だから」
「どういう意味」
「先にお金を計算してから、理想を語るの」彼女は言った。「自由な住まいを口先だけで語る人間は、結局のところ制度の中に住み戻るだけ」
……くそ。しかもまた妙に的を射ている。
私はベッドの上で体を起こし、髪をかきむしりながら端末を上にスクロールした。案の定、ハーヴィーはもう簡易な表を投げていた。それも、昨夜寝る前にすでにデータを揃えておいたのが丸わかりのやつだ。
ハーヴィー「まず既知の条件を並べる。 一、校外住居の申請は優勝班の特権であって、不正な裏口じゃない。 二、学校に外住手当がある。 三、連邦市民住宅補助は重ね掛け可能」 ジェス「『連邦市民』って四文字見るだけで笑える」
ハーヴィー「笑い終わった? 終わったら続けるぞ」
ハーヴィー「十一人同居、任務編成名義で申請すれば、学校補助と政府補助を引いたあと、一人当たりの自己負担額は理論上、今のこのボロ寮の管理保証金+雑費より低くなる」
ロイ「……マジで?」
D「本当なら、住まないやつは馬鹿だ」
アカリ「人が住める前提だけど」
ハーヴィー「だから条件を詰めるんだろ」
「一人当たりの自己負担額は理論上、今のボロ寮より低くなる」という一文を見つめて、急に妙な非現実感に襲われた。
何これ。
昨日まで校外住居が特権かどうかを議論していた一年生の集まりが、今朝六時過ぎには連邦の制度からどう合法的に最大効率を搾り取るかを計算している。
これは、腐敗みたいに聞こえる。
でももっと気持ち悪いのは——それが違反ですらないことだ。
合法な腐敗だ。
書類があって、条文があって、審査フローがあって、それどころか堂々と「優秀学員戦備居住支援方案」と書ける、そういう種類の腐敗。
思わず声を殺して笑ってしまった。
「何?」ジェスが上から顔を出す。
「別に」画面を見たまま言った。「連邦が私たちに教える本当の最初の授業は、戦い方じゃなくて、規則の骨までしゃぶる方法なんだろうなって、ふと思っただけ」
真紀が本を閉じて、淡々と付け足した。
「正しい。戦える人間は多いけど、制度を利用できる人間の方が価値が高い」
「九島家って、その台詞を寝る前の話にでもしてるわけ」
「違う」彼女は私を見た。「うちの寝る前の話は、もっと怖い」
……この一言だけは、なぜか完全に信じられた。
布団をはねのけてベッドを降り、床に足をつけながらメッセージをさらに下にスクロールした。案の定、議論はもっと汚く、もっと実際的な部分に入っていた。
ジェス「で、住むならどこに? 十一人で安い学生アパートに詰め込まれたら、雪風号に乗る前に風呂の順番争いで殺し合いになる」
D「広さが要る」
蘭「安全が要る」
ロイ「独立洗濯機、頼むから」
アカリ「静かなところ」 ハーヴィー「装備整理と資料読みのスペースが要る。冷蔵と工具棚もあればなおいい」 ジェス「ほらね、私たち部屋探ししてるんじゃなくて、小型の前進基地探してるんだよ」
D「他に何がある」
ちょうど洗面台の前に着いたところで、次のメッセージが飛び込んできた。
そしてそれが、今日最初の大きな爆弾だった。
アイダ・ローゼン「ただ住むだけなら、選択肢は多いわ」 アイダ・ローゼン「期末実習の準備が目的なら、鉑橋街のほうに空いてる士官住宅がないか、父に頼んで聞いてもらえるけど」
歯を磨く手が止まった。
口には歯ブラシを咥えたまま、泡が口の端からこぼれ落ちそうになった。
ジェスはすでにベッドの上で、この上なく幸せそうな奇声をあげていた。
「うわ来た来た来たー、国防委員長——権力腐敗のいい匂い!」
歯磨き粉の泡を口いっぱいに含んだまま、なんとか首だけ端末のほうに向けた。
鉑橋街。
そこはただの住宅街じゃない。
士官住宅街だ。それも「そこそこ立派」なんてレベルじゃなく、通りかかっただけで「ここの床の埃さえ、うちの寮より階級が上だ」と本能的に感じるような場所だ。
上級士官、体制の中層、その家族、警備、付帯設備——すべてが、連邦がようやく人間はもう少しまともに生きられると思い出したかのように整っている。
それが今、誰かの「必要なら、ついでに手配できるけど」というような口調で、住居の選択肢のひとつとしてテーブルに上がっている。
これは腐敗じゃない。
腐敗のほうから立ち上がって、ドアを開けて、ついでにお茶でもどうかと聞いてくるやつだ。
急いで口をすすぎ、口元を拭って、端末を掴み直した。
グループはすでに炎上していた。
ロイ「待って、鉑橋街? あの鉑橋街?」
蘭「あそこって高級士官住宅街じゃないの」
ジェス「やば、ついに私たちも連邦特権階級の腐敗ライフを送れるの? 心の準備はできてる」
D「重要なのは立地じゃない。使えるかどうかだ」
アカリ「あと、なんで彼女が手配できるのかってこと」
ハーヴィー「ローゼンって苗字だからだろ。今さら世界が不公平だって気づいたのか? 遅すぎる」
アイダ・ローゼン「訂正するわ。私が『手配できる』んじゃなくて、空き住宅の一部はもともと実習期の軍事編成に優先的に回されることになっている。ほとんどの学生がその経路を知らないだけ」
ジェス「あーはいはい、これは裏口じゃなくて『手続きに詳しい』ってやつね。一番タチが悪いパターン」
画面を見つめながら、胃の奥に何とも言えない複雑な感情が湧いてきた。
一方で、これは確かにうまい話だ。
十一人で割って、補助を重ねて、自己負担額はこのボロ寮より低くなる可能性まであって、しかも高級士官住宅街に住めるかもしれない——一年生の集まりにとって、これは詐欺みたいに甘い話だ。
もう一方で、笑いたくもなった。
このこと全部が、あまりにも連邦らしすぎるから。
口では公平だ、制度だ、名誉だ、青年市民育成だと叫びながら、実際に使えるものは結局、どのドアが押せるか、誰に聞けばいいか、どの規則をひっくり返せるかを知っているかどうかにかかっている。
髪をまとめながら机に戻って座ると、真紀はもう自分の端末を開いていた。
「どう思う」私は彼女に聞いた。
真紀はグループの内容にざっと目を通し、いつも通り平坦な声で言った。
「鉑橋街に住めるなら、三つのことを意味する」
「その三つは」
「一つ、安全性が高い。二つ、環境の質が高くて、備戦に有効。三つ——」彼女は少し間を置いた。「あなた、すごく不機嫌になる」
「なんで三つ目だけそんなに断言できるの」
「あなたは住みながら、心の中で連邦の権力腐敗を罵るに決まってるから」彼女は私を見た。「でも最後には、ちゃんと住む」
彼女のこの、毎回私の本音を先回りしてレポートの要約みたいに書いてしまう能力が、私は本当に嫌いだ。
ジェスが上段から降りてきた。髪はぐしゃぐしゃなのに、それが軽口の効率に一切影響していない。
「私は住むのに賛成。理由は三つ」彼女は指を折った。「一つ、高級士官の家の風呂って、お湯まで階級を持ってるのか知りたい。二つ、今のこのボロ寮より安い、これだけでもう圧倒的勝利。三つ——」
私と真紀を見比べて、実にろくでもない笑みを浮かべた。
「同居環境がグレードアップすれば、感情の発展スペースも一緒にグレードアップするからね」
「その脳みそ、五分でいいから百合劇場から引っこ抜けないの」私は言った。
「無理」彼女は一切悪びれずに答えた。「それに昨日、図書館で九島さんと『目は覚めてるけど死んだふりする』みたいな高等な曖昧ムーブかましてたくせに、今さら純情ぶらないでよ」
机の上のペンを投げつけそうになった。
真紀のほうは、実に落ち着いた様子で水筒を開けて一口飲んだ。ジェスの発言がまるで天気予報の朗読だったみたいな顔で。
……この二人、今や完全に、一人が火をつける係で、もう一人がその火のそばで優雅に暖を取る係だ。
相手にするのが面倒になって、そのままグループに打ち込んだ。
星野「住む場所を急いで決めなくていい」 星野「先に条件を整理しよう」
送信したほぼ次の瞬間、グループが一瞬静かになった。
そしてハーヴィーが最初に飛び出してきた。
ハーヴィー「ようやくまともなことを言うやつが出た」 ジェス「あんた口臭いね、朝歯磨きした?」 ハーヴィー「お前よりは綺麗だ。続けろ」
打ち込みながら、自分の人生は本当に奇妙だと思った。
普通の一年生なら、今頃は昼休みにこっそり二十分寝るかどうかで悩んでいるはずだ。
なのに私たちは、もう自分たちの権益をどう最大化するか、学校と政府の補助をどう合法的に絞り切るか、住環境を期末前の備戦優位にどう変えるかを話している。
これは学生じゃない。
市民権を手にしたばかりで、もう制度から肉をどう噛みちぎるかを学び始めた、幼い捕食者の群れだ。
……正直に言うと、少し誇らしくもあった。
星野「条件を先に並べる。今日はまだ提出しない」
星野「一つ、十一人同編成。分割なし」
星野「二つ、居住スペースは共同学習、資料整理、簡単な装備整備ができること」
星野「三つ、交通が悪くないこと。学校、シミュレーション施設、港務課区へのアクセスが全部良いこと」
星野「四つ、防音と休息の質を確保。寝不足のやつが乗艦したら、ただの人殺しだ」
星野「五つ、生活機能が十分であること。冷蔵、洗濯、ネット、端末接続、全部必須」
Dの返信は早かった。
D「一つ追加。安全性。一階は駄目。外部の人間の出入りが多い場所も駄目」
アカリ「さらに追加。視界。少なくとも誰かが近づいてくるのが見えること」
ハーヴィー「工具収納スペース。あと鍵付きの共用ロッカーがひとつ欲しい。馬鹿が医療キットと菓子を一緒に突っ込まないように」
ジェス「風呂の数も追加して。文明のために声を上げるわ。十一人で風呂ひとつなんて死人が出る」
ロイ「風呂に賛成。これは譲れない」 蘭「二つ以上」
グループのメッセージが流れていくのを眺めながら、ふと可笑しくなった。
この光景は本当に変だ。
昨日までは、集まればまず二言三言お互いを貶し合うようなチームだったのに。
今は同じグループの中で、ほとんど正式な会議みたいなやり方で、条件を並べて、要求を出して、補助を計算して、「風呂の数」なんてことにまで戦略的価値のある真剣な意見を出している。
そしてもっと妙なのは——
この感覚が、案外悪くないってことだ。
学校のクラス分け表みたいに冷たくもないし、林間学校の最初みたいに無理やり寄せ集めただけでもない。もっと本物っぽい何かが骨組みを育て始めている感じに近い。誰かが決めているんじゃなくて、それぞれが自分の譲れないラインを中に押し込んでいる。
こういうチームのほうが、本物らしい。
ジェスも私の隣に割り込んできて画面を覗き込み、肩を私の腕に押し付けた。さっきまでの野次馬的な温度が少し引いて、もう少し真面目な声色になっていた。
「これ、悪くないね」
「何が」
「条件を交渉し始めたこと。ありがたく受け入れるだけじゃなくて」彼女は言った。「これが、生き延びる人間のやり方だから」
私は横目で彼女を見た。
彼女はまだ画面を見ていて、私のほうは見ていなかった。
なのにその一言が落ちてきたとき、なぜか妙に重かった。
そこで真紀も口を開いた。
「もう一つ足すべき」
顔を上げた。
「何を」
彼女はグループで高速に流れていく条件を眺めながら、平坦な声で言った。
「住居申請の名目は『快適だから』だけじゃ駄目」彼女は言った。「『期末編成の効率維持と自主管理の必要性』にしなきゃ。じゃないと審査する側に道徳心で押し切られる」
……そうだ。
これが一番汚くて、一番リアルな部分だ。
条件が正しいかどうかじゃなくて、どう書くか、どんな言葉を選べば、制度自身にそれを飲み込ませられるか。
私はうなずいて、それもメモに書き足した。
住居申請の主旨:期末編成の整備効率、自主的な生活管理、および戦備学習の一貫性を維持するため、優勝班の校外居住配置を申請する。
いいじゃないか。
これなら私たちが、いい場所に引っ越したいだけの一年生じゃなくて、物分かりが良くて、向上心があって、学校のためにさえ一肌脱ごうとしている未来の連邦の中核人材みたいに聞こえる。
本当に気持ち悪い。
そして、本当に効きそうだ。
端末を置いて、眉間を揉んだ。
「とりあえずここまで。条件はまとめるだけにして、今日は出さない」
「同意」ハーヴィーが即答した。 「同意」D。 「同意」アカリ。 「同意、ただし風呂は譲らない」ジェスが自分でグループに書き足した。
私は少し笑って、ようやくベッドの端から立ち上がった。
朝の光がカーテンの隙間から斜めに差し込んで、机の上の教材、端末、昨夜適当に押さえておいたメモの上に落ちている。部屋の中はまだ少し散らかっていて、ジェスの靴下は相変わらず文明に宣戦布告しているみたいで、真紀の机は相変わらず整頓の模範みたいに整っていて、その真ん中に挟まれた私は、さっき書き留めたばかりの住居条件を手に、なんだか妙な感覚を覚えていた。
私たち、本当に変わり始めているみたいだ。
急に熱くなったり、急に大人びたりする、そんな安っぽい変化じゃない。
もっと厄介で、もっと静かな種類の変化——
どこで争うべきかを知り始めて、何を黙って譲ってはいけないかを知り始めて、人間らしく生きたいなら、まず制度と値切り交渉する方法を覚えなきゃいけないと知り始めた、そういう変化。
とても連邦らしい。
そして、とても気持ち悪い。
でも少なくとも、今回は一方的に殴られる側じゃない。
ノートを閉じた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




