54. 馴染みゆく日常 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ちょうど口を開こうとした瞬間、次の一秒で、頬に氷のように冷たいものが貼りついた。
椅子から飛び上がりそうになった。
「っ——何すんの!」
聞き慣れた、そして安定的に殴りたくなる声が、真上から降ってきた。
「あら、生きてたんだ。『艦隊管理基礎』に殺されてると思って、遺体収容の準備してたのに」
ジェスは私の顔から冷たい缶を引き離し、まるで密かに巣を作っていた小動物を二匹捕まえたみたいな笑みを浮かべた。もう片方の手にはコンビニ袋を提げていて、中で缶がいくつかぶつかり合ってカランカランと音を立てている。図書館への密輸を企てているとしか思えない風体だった。
私は魂まで冷えかけた頬を押さえ、思い切り彼女を睨んだ。
「頭おかしいんじゃないの」
「おかしいよ、長期慢性。学校じゃ治せないやつ」ジェスは飲み物を机に置き、隣の椅子を引いて座った。もともとそこに居るのが当然だったみたいに、ごく自然な動作で。「昼休みになってもふたりが戻ってこないから、教材に八つ裂きにされてるんじゃないかと思って、差し入れを持ってきてあげたの」
そう言いながら、彼女の視線が私と真紀の間をぐるりと往復した。
それは心配というより、非常に不健全な現場サンプリングのための目だった。
「へえー」彼女はわざとらしく声を伸ばした。「なるほどね。さっき遠くから見たら、こっちの空気が煮詰まった鍋みたいに濃かったから、何事かと思ったよ」
「黙って」私は言った。
「嫌」彼女はあっさり断り、真紀の方へ向き直った。にやにやしながら。「九島さん、すごいじゃん。お昼買ってきて、本の順番並べて、一緒に教材ほぐして、あの人を発狂させずに艦隊管理を生き延びさせるなんて。これって陪読じゃなくて、調教師じゃないの?」
真紀は顔色ひとつ変えず、ノートを少し横へずらし、ジェスが座っても私たちの資料を潰さない程度のスペースを作った。
「死ぬ前に助けてるだけ」
「わあ」ジェスはひどく白々しい感嘆をした。「それ、めちゃくちゃ軍規仕様の情話に聞こえるんだけど」
「違う」私と真紀は同時に言った。
ジェスはさらに楽しそうになった。
彼女はコンビニ袋を開け、チェリーコーラを一本取り出して私の手元に置き、自分用の炭酸飲料を開けた。プルタブを引く音が、静かな図書館の隅でかちりと鳴った。
「はい、回復薬」彼女は頬杖をついて私を見た。「ついでに、九島家の補習地獄の進捗も教えて。星野、今どこまで来た? 『補給が足りない時、誰を先に死なせるか』?」
私はコーラを手に取り、横目で彼女を見た。
「なんで分かるの」
「軍学校の応用科目は、どれも最終的にそのテーマに行き着くから。包装が違うだけで」ジェスは肩をすくめた。「資源の優先順位とか、戦力維持とか、組織効率とか。結局は全部、みんな大切だけど誰かが先に割を食うってことでしょ」
軽い口ぶりだった。天気の話でもするように。
でも、彼女は分かっている。
生き残ることと公平であることの間で、たいていどちらかしか選べないという、あの吐き気のする感覚を。
真紀も反論しなかった。ただ私が詰まっていたページをめくり直し、その横に小さな注記を書き足した。
まず論理を理解する。受け入れるのは後でいい。
その一行を見て、胸の奥が少し熱くなった。
……恋愛脳の熱じゃない。
もっと小さくて、もっと安定した何かが、ゆっくりと胸の中に根を張ったような感覚だった。
ジェスはこの空気を見逃すつもりが明らかになく、一口飲んでからわざと声を潜めて身を乗り出してきた。
「で、今日の陪読フルコースはどこまで進んだの? 『シモ、眉間に皺が寄ってる』の段階? それとも『シモ、先にご飯食べて』? もしかして、もう『シモ、いっそ私の膝の上で読んだ方が早くない?』まで行ってたりする?」
「最後のは、あんたが見たいだけでしょ」私は無表情で言った。
「そうだよ」ジェスはまったく悪びれなかった。「でも節度はある。私は観客に徹する。主役の成長を邪魔するつもりはないから」
真紀がようやく顔を上げ、冷たく一瞥した。
「今、邪魔してる」
「違う、これは雰囲気調整」ジェスはにこにこしたまま言った。「じゃないと、片方は戦地ブリーフィングみたいに講義して、もう片方は教材と格闘してる。このままだと図書館の空気が軍用建材に凝固するよ」
ジェスが座ってから、この角落はむしろ少し緩んだ。
真紀は相変わらず教材を解体してくれるし、私は相変わらず強がりながら助けられ続けていたが、その間に「臨終の遺言みたいな空気にならないよう攪拌する専任」が一人加わったことで、午後全体の流れが急にほぐれた。
その後の数時間は、思ったより速く過ぎた。
真紀は『艦隊管理基礎』を私が消化できるサイズの塊に切り分け、少しずつ進めてくれた。艦隊編成、次に当直体制、それから艦橋とCICの役割分担の違い。一度に詰め込みすぎず、私が限界に近づくたびに必要な文脈だけを補い、残りは自分で掴ませた。
ジェスは時々口を挟んだ。
教材の著者が行政フォーマットに育てられた怪物みたいだと毒を吐いたり、林間学校の例を引っ張り出して概念を現実に繋ぎ直してくれたり。差し入れを届けるだけのつもりが、最後は自分の課題を広げて、そのまま午後いっぱい居座っていた。
三周目に差し掛かる頃には、艦上の輪番と命令の中継ノードについての段落を、自力でひとつ通して読めるようになっていた。まだ遅かったし、途中で連邦教材編纂委員会に対する悪態は止まらなかったが、少なくとも溺れながらその場で立ち往生するような状態ではなくなっていた。
真紀は私の復唱を聞き終えて、一度頷いた。
「今回は、だいたい合ってる」
私は椅子の背に寄りかかり、長く息を吐いた。
「二年生を修了した人が早期退職した公務員みたいな顔になる理由が、ようやく分かった気がする」
ジェスがすかさず続けた。「魂を艦隊管理に表として提出させられるからでしょ」
「最悪な言い方だけど、正しい」
真紀は黙って私の下書き用紙を揃え、順番に重ねて本に挟み直した。動作はいつも通り手際よく、いつも通り自然で、まるで私の書き物を整理することが特別なことでも何でもないかのようだった。
でも、そこが問題なのだ。
午後三時には、彼女が昼ごはんを買ってきてくれた事実を「危険だ」と思っていた。
午後五時には、彼女が私のページ違いの教材に手を伸ばしてくる前に、自分から本をその方向へ差し出していた。
自分でも気づいていなかった。最初に気づいたのはジェスだった。
彼女はペンを指で回しながら、頬杖をついて、ふとだるそうに笑った。
「ねえ、ふたりって今、何に見えるか分かる?」
私は警戒して顔を上げた。「分からないし、知りたくもない」
「十年同じ席に座り続けて、もう言葉がなくても相手の次の動きが読める、熟年夫婦みたいだよ」
「ぶっ——」
今度は私が吹き出しそうになった。
真紀の手が素早く動いて、ティッシュを私の口元に押しつけた。私は咳き込みながらそれを受け取り、なぜか耳の付け根がじわりと熱くなった。今すぐジェスを書架の下に埋めて人肉の本立てにしてやりたかった。
「差し入れを持ってきたの、それとも弔問に来たの」
「どっちでもいいよ、必要な方を選んで」ジェスは無邪気に目を瞬かせた。「でも正直に言うと、シモって前はこんなに誰かに食事の管理とか、本の順番とか、どれから読むかとか、させてたっけ? 今はノートまで直接写してるじゃん。シモ、終わったね」
「終わってない」
「終わってる」
「自分で整理するのが面倒なだけ」
「翻訳すると、整理が完璧すぎて文句のつけようがない、ね」
私はコーラの缶を握りしめ、暴力が時として文明社会に過小評価されているコミュニケーション手段だと、心から思った。
追い打ちをかけるように、真紀がこのタイミングで一刺し加えた。
「今日の進捗は悪くなかった」彼女は自分のノートを見ながら、普通の学習報告でもするみたいに言った。「少なくとも夜に戻って、最初のページからやり直す必要はない」
……よし。「夜に戻って」が、もうすでに共同計画の中に自然に組み込まれている。
窓の外の光がゆっくり傾き始めると、図書館の人の層も入れ替わり始めた。午後の急いで資料を漁っていた人たちが減り、代わりに閉館まで居座るつもりの種族が増えた。中庭の光は純白からほんの少し柔らかくなり、机の上、本の背表紙、ガラスの手すりに落ちて、空間全体を静かな水面に停泊した巨大な船室みたいに染めた。
最後の注記を書き終えた頃には、肩が少し固まっていた。
真紀はごく自然に、私の前の読み終えた教材を引き取り、代わりに薄い導読資料を置いた。
「今日はここまで」彼女は言った。「この先は、自分でまだ持つと思い込み始めるから」
「まだ持つよ」
「そう」彼女は私を一瞥した。「さっき右肩を三回揉んでたのは、体操?」
「……」
ジェスが隣で笑い転げた。
「助けて、これもう陪読じゃなくて、全時間帯の行動監視だよ」
言い返したかった。
でもその気力の半分は、真紀の「今日はここまで」という一言にすでに抜かれていた。
不思議なことに、腹は立たなかった。
以前なら、まだ頑張れる時に誰かに先に止められたら、うるさい、余計なお世話、他人の骨の髄まで管理したいのかと思っていた。でも今は、林間学校があれだけ余分な自尊心を一層焼き落としてくれたせいかもしれないし、あるいは彼女が今日一日ずっと「うるさい」と「本当に役に立つ」の境界線ぎりぎりを踏み続けていたせいかもしれない。
結局、私はただ小さく舌打ちをして、ペンのキャップを閉めた。
「行こう」私は言った。
真紀が頷いて、本を片付け始めた。
私も続けた。
途中まで動いてから、ふと気づいた——私たちが荷物をまとめるリズムが、ほとんど同じだということに。どの下書き用紙をどの本に挟むかという順番まで、まるで示し合わせたみたいに自然だった。
……これが一番怖い。
ジェスはコンビニ袋を持って立ち上がり、最後の総評を発表するのを忘れなかった。
「本日の成果まとめ: 星野生存、教材も生存、九島さんの調教進捗は安定上昇中、観客の私は大変満足しています」
「もう一言でも言ったら、その袋の中身全部没収する」私は言った。
「え、まだ一本あなたの分があるんだけど」
「今はない」
「ひどい、シモ」
「お互い様」
私たち三人は一緒に外へ向かった。
夕方の図書館は影を長く引いて、床に落ちた時にはもう一つの静かな水流みたいに見えた。人はまだ多く、足音、話し声、椅子を引く摩擦音が混ざり合っていたが、不思議とうるさくなかった。真紀は私の左側を歩いていて、手には本来私のものだった教材の半分を抱えている。ジェスは右側で飲み物を飲みながら、今日の「陪読観察報告」の延長評論を容赦なく続けていた。
うるさいと思うはずだった。
でも、図書館のガラスドアを出た瞬間、最初に感じたのは疲れでも、三か月後に雪風に乗って前線へ行くかもしれないという胃の痛みでもなかった。
もっと厄介な、もっとまずい事実だった。
誰かが本の半分を持ってくれていて、誰かが横で騒いでいて、私がその真ん中に挟まれながら寮へ向かって歩いていく。
その光景が、もう普通に見えている。
普通すぎて、もし一人欠けたら、たぶんそっちの方が先に変に感じる。
……くそ。
こういうものこそ、一番慣れてはいけないやつなのに。
翌朝、私はひどく不健全な既視感の中で目を覚ました。
理由は単純だ。
目を開けた最初の一秒、向かいの下段ベッドから、ジェスが歯ブラシを噛み砕きそうな勢いで今朝の朝食のスクランブルエッグが失敗した建材実験の産物みたいだと文句を言う声が聞こえた。二秒目には、真紀がもうベッドの脇に立っていて、昨夜私が途中まで読んで胸の上で寝落ちした『艦隊管理基礎』を手に持ち、戦域の気象情報でも読み上げるみたいな平坦な声で言った。
「シモ、起きて。昨夜寝る前に挟んでた三十七ページの付箋が落ちてたから、戻しておいたよ」
顔の半分がまだ枕に埋まったまま、頭が二秒停止した。
……待って。
シモ?
「シモ、早く」ジェスが歯ブラシを咥えたまま浴室のドアから顔を出し、もごもごと追い打ちをかけた。「今日一限、艦隊管理概論じゃないの? このまま起きなかったら、補講を補講で寝坊した史上初の人間になるよ。喜劇的すぎる。私は個人的に支持するけど」
私は起き上がって、髪は野獣と格闘した後みたいに乱れたまま、最初に浮かんだ反応は悪態じゃなかった。ただこの二人の女をじっと見つめた。
真紀は本を抱えて立っていた。「まだ完全に起動してないのは分かるけど、時間は無駄にしないで」という顔で。ジェスは浴室のドアのところに立って、口いっぱいに泡を溜めながら、私が目の前でショートするのを待ち構えているみたいに笑っていた。
その時、ふと恐ろしいことに気づいた。
——この二人、いつから「シモ」って呼ぶのが当たり前になったんだろう。
星野じゃない。
ちょっとそこ、でもない。
隊長でも、あなたでもない。
シモだ。
しかもその呼び方は、わざとらしく馴れ馴れしいものじゃなく、もうあなたはそういう名前なんでしょという顔をした、自然で、流暢で、間のない呼び方だ。「ただのルームメイト」「ただのチームメンバー」と「こういう風にあなたを呼ぶ人間」の間にあった境界線が、私が気づかないうちに誰かに踏み潰されていた。
林間学校の時だろうか。
それとも焼肉の後?
あるいはもっと前、みんなが生き延びることで手一杯で、強がることで手一杯で、「ねえ、いつからそう呼ぶようになったの」なんて、青春恋愛コメディにしか出てこないような細かいことを気にする余裕なんてなかったあの頃に、すでに始まっていたのかもしれない。
……まあ、いいか。
過ぎたことは過ぎたことだ。
生きているだけでも十分しんどいのに、呼び名の変遷史まで書面にまとめて生徒会に提出する必要はない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




