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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:士官学校
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42. 負傷 3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

頭を高速で回すが、どれだけ回しても射程差は埋まらない。強行突破も無理、持久戦も無理。このまま引き延ばせば、焚風を待つまでもなく、他人の教育方針に押し潰される。


そのとき——


左の高所にいたリーダー格が、後ろから蹴り飛ばされたみたいに、何の前触れもなく前に倒れた。


悲鳴はない。鈍い衝突音が一つしただけだ。


一瞬、思考が止まる。


二人目が続いて倒れた。


今度ははっきり聞こえた。


通常の銃声じゃない。


短く、冷たい音——遠くで誰かが鉄の定規でガラスを軽く割ったような音だ。


「パン」


三発目はさらに速く、中央の岩稜で制圧していた奴の肩口に入った。そいつは手を緩めて訓練用マグネットピン銃を取り落とし、力なく横に崩れ落ちた。


麻酔弾。


しかも、貫通力が腹立たしいほど高く、精度が罵倒したくなるほど正確な種類だ。


「……へえ」ジェスが通信の中で小さく声を漏らした。自分より性格の悪いものを見つけたときの、少し感心して、少し悔しい声だ。


右後方で重いものが木にぶつかる音がして、続いて聞き覚えのある声が響いた。黒岩全体が道を空けなきゃならないような、デカい声だ。


「星野!頭を下げろ!」


反射で従った。


次の瞬間、補強済みのシールドプレートが右側の根の塊の陰から勢いよく飛び出してきた。それを担いでいる人間は、理不尽なほど大きかった。黒い肌、連邦と喧嘩するために設計されたような肩幅。全身が壁を無理やり制服と装備に詰め込んだような体格だ。


ドワイト・"D"・バークリー。


授業のグループワークで一度組んだことがある。そのとき、こいつが普通じゃないと分かった。普通の人間は、シールドプレートの運搬を散歩代わりにしないし、模擬市街戦で自分から教育用火力を正面から受けて、「精度が低い」と文句を言ったりしない。


「なんでお前らは毎回こんなクソみたいな角度に自分を置くんだ!」Dは怒鳴りながら、シールドを前に叩きつけて、碉堡前の死角に強引に遮蔽を作り出した。


「連邦の均衡教育の賜物だ」と返そうとしたが、その前に右後方の狙撃位置からまた「パン」と一発。


最後の制圧手も倒れた。


それから、彼女が姿を現した。


小柄だ。私とほぼ同じサイズ。灰白色の防熱マントをアーマーの上に羽織り、顔に表情がない。目は睡眠不足の死んだ魚を二匹並べたみたいだ。焼けた根の陰から半身を沈めたまま歩き出してきた。肩に担いでいる九十九式磁力高貫通狙撃銃は見た目からして友好的じゃなく、銃身の側面には九島重工のロゴ——見るたびに真紀のことを思い出すマークが印刷されていた。


アカリ・フラック。


見た目は世界に睡眠を借りパクされているみたいだが、銃だけは完全に目覚めている。


彼女は私たちをちらりと一瞥して、天気予報を読むみたいな口調で言った。


「麻酔弾頭。二十分以内は起きない。朝食に抗薬を混ぜてなければ」


ジェスが穴の陰から頭を半分出して、新種の毒キノコでも見るような目で彼女を見た。


「……怖っ」


アカリは眉毛一本動かさない。「どうも」


Dの後ろには、さらに二人ついてきていた。


男子一人。中肉中背で、短距離投射器と補給箱を持っている。明らかに運搬兼補給担当だ。


女子一人。側面警戒を担当していて、低殺傷連射訓練銃を手にしている。装備より本人の目つきのほうが緊張している。


いい。二人とも工具要員で、今日は自分たちが目立つべき日じゃないと分かっている。


Dに挨拶している暇はない。


「門が生きてる!フロスト04、接続ライン確認!フロスト03・02、左右の近角を制圧!」


「了解!」第144班の返答がほぼ同時に重なった。


遠距離制圧で息継ぎができた瞬間、局面が一気に動き出した。


ジェスは首輪を外された野犬みたいに、低い姿勢で左の近角に切り込む。さっきまで一番嫌な角度で押さえつけられていた場所を、わざわざ選んで。ハーヴィーは右から抜け出し、まだ半分意識のある奴の訓練磁釘銃を一蹴りで弾き飛ばし、工具の柄で追い打ちをかけて完全に眠らせた。


九島はドア脇の識別柱に直行して、指を接続パネルの上で飛ぶように動かした。


私も前に走る。


碉堡のドアまでの暴露区間は短いが、十分に命取りだ。もっと遠い外周から誰かが見ていれば、この数歩は命で払うことになる。


「星野、後ろに下がれ!」Dが怒鳴る。


「うるさい、ドアは私を認識する!」怒鳴り返す。


彼が何か罵った。褒め言葉じゃないのは確かだが、すぐにシールドを左に傾けて、一番バカな射角を塞いでくれた。


九島は接続パネルを開いて、顔色が少し険しくなった。


「二次確認ロックがあります。隊長のHUD同期が必要です」


「やる」


左手首を接続区画に叩きつける。HUDが、殴りたくなるほど冷たい認証文字を弾き出した。


【第144班/フロスト01】

【避難碉堡 B-7:本ラウンド開放中】

【外扉、使用可能】


次の瞬間、識別灯が暗い黄から緑に跳んだ。


息をつく間もなく、右後方から鋭い風切り音が飛んできた。


私たちの弾じゃない。


まだ漏れがいる。


「フロスト01!」九島が勢いよく振り返る。


遅かった。


それは門を狙ったんじゃない。私だ。さっき倒れた連中のうち、麻酔が完全に効く前に最後の一発を絞り出した奴がいたのか。あるいは、本当に外周に六人目がいたのか。いずれにしても、そいつは右斜め後方から、悪意そのものみたいな角度で突き刺さってきた。


私は体を横に捻るだけで精一杯だった。


そして、左の下腹部に、焼けた鉄の棒を思いきり叩き込まれた感覚が来た。


「痛い」という単純なものじゃない。


まず衝撃。それから、腹の側面全体が呼吸ごと抜き取られた感覚。膝から力が抜けて、視界の端が黒くなった。


「クソ——」


膝が折れて、倒れ込みそうになる。


九島が最初に飛んできて私を支えた。手が私の腹の側面に触れた瞬間、彼女の顔色が落ちた。


「貫入傷」声が、いつもより半拍速い。


いい。九島が加速するということは、状況が本当に洒落にならないということだ。


Dは振り返りざまにシールドを右後方に叩きつけ、工具要員の女子も低殺傷連射を二発続けて、その方向を完全に封じる。アカリは大して顔も上げず、ただ銃を構え直して、息を吸って、引き金を引いた。


「パン」


今度は、補射してきた影が声も出さずに岩の裂け目に落ちた。


「これで二人目はいない」アカリが平らに言う。


「ありがとう、安心した」と返したかったが、口を開いた瞬間、腹の側面が引き裂かれるように痛んで、その台詞を噛み砕いて飲み込むしかなかった。


そのとき、風が変わった。


普通の熱風じゃない。空気全体が一方向に吸い込まれて、遠くで巨大な何かが深く息を吸ったような感覚だ。残っていた絞焚藤が岩壁に張りつき始め、岩の裂け目に隠れていた食口羊歯も、ゆっくり口を閉じていく。


九島と私が同時に顔を上げた。


「……前兆」彼女が言う。


まるで私たちがまだ暇そうに見えたのか、HUDが次の瞬間に全面赤に変わった。


【警告:高熱対流異常】

【超大型焚風前鋒、形成を確認】

【主熱波到達予測:00:18:52】


教務処の広報も、実に几帳面なタイミングで嫌がらせに来た。


『全一年生に通達。火風暴前鋒の形成を検知。主熱波は十九分以内に到達予測。直ちに使用可能な避難施設に入るか、自力で掩蔽を構築せよ。繰り返す——』


「繰り返すな、クソが」ジェスが低く罵りながら、もう人を引きずり始めていた。


現場が、別の種類の地獄に切り替わった。


さっきまで互いに奪い合っていた連中が、今は意識があるなしにかかわらず、全員が判断を迫られている。このまま敵対し続けるか。それとも、まず一緒に焼けるのを先に止めるか。外周で麻酔で倒れた連中に構う余裕はない。生きている奴は自分でなんとかするし、できなければ連邦がきっちり冷たい教育記録をつけてくれる。


重要なことはひとつ——このドアに、焚風の前に入る人間を、今すぐ決めなければならない。


腹の側面が断続的に冷えていくのを感じながら、それでも口を開いた。


「八人、全員入る」


Dが私を見下ろした。「確かか?」


「お前を立ったまま押し出せるかは分からない」歯を噛みながら言う。「でも今このドアを閉めなければ、八人まとめて均等に焼ける。それは確かだ」


アカリは銃を肩に担ぎ直して、相変わらず寝起きみたいな口調で言った。


「異議なし。外が暑すぎる」


なんとも建設的な発言をありがとう。


ハーヴィーは碉堡の内側に飛び込んで一瞥し、すぐに戻ってきた。「内部、使用可能。主室に全員収容できる。内扉も二枚とも無事」


九島は私を支えながら、語速が上がっても一語一語は机をひっくり返したくなるほど明確だった。


「まず入ってから止血。ジェス、左側で人を集めろ。ハーヴィー、内部の確認。D、彼女を担げ」


「自分で——」


逞しさを見せようとした一言は半分も言い終わらなかった。Dはもう私を、あまり協力的でない補給箱でも運ぶみたいに、まるごと持ち上げていた。


「黙ってくれれば十分だ」彼が言う。


「クソ、お前の喋り方が九島に似てきてる」


「それはお前の今日の運が悪いだけだ」


工具要員の男女が、自分たちの荷物と動ける仲間二人を先に押し込む。ジェスはドア際でよろめきかけた一人を、雑だが有効な一蹴りで中に送り込んだ。


「入れ、このバカ野郎」彼女が罵る。「今は骨を見せる場面じゃない」


外の風はどんどん乾いて、どんどん熱くなる。遠くで樹冠が折れ始める低い響きが聞こえてきた。雨林全体の骨が、焼け砕かれる前に予告編を流しているような音だ。


Dに半分担がれながら碉堡の主室に引き込まれる直前、最後に一度振り返った。


さっきまで人を撃ち、人を避け、人を計算していた峡谷口の黒岩地が、今は全部小さく、薄く、次の焚風にさらっと刮ぎ取られそうに見えた。制度も、火力も、打算も、最後は全部、火の前に頭を下げる。


アカリが最後に入ってきた。


彼女はドアの前で半秒止まり、外に向かってもう一発撃ってから、後ろに退いた。


「乗り込もうとしてた奴がいた」彼女が言う。


「今は?」ジェスが訊く。


「寝てる」


いい。彼女の世界観は本当に簡潔だ。


ハーヴィーと工具要員の男子が一緒に外扉を引き下ろした。分厚い防爆ドアが、歯の浮くような液圧音を立てる。九島は片手で私の腹の側面を押さえながら、もう片方の手で内側のロックボタンを叩いた。彼女の手は揺れない。揺れなさすぎて、さっき私が見た「半拍の加速」は、失血で頭がおかしくなりかけた私の錯覚だったんじゃないかと疑い始めた。


防爆ドアが閉まる最後の瞬間、外の風の声が一段跳ね上がった。


次の瞬間。


「轟——!」


爆発じゃない。火風暴の前鋒が碉堡の外層に叩きつけられたとき、世界全体が見えない巨獣に一発で叩き潰されたような音がした。ドアが激しく震え、壁が低く唸り、隙間から灰がさらさらと落ちてきた。


八人、全員入った。


私は碉堡の内壁に背をもたせかけて、腹の側面に刺さったままのそれが、アーマーの縁を伝って血を滲ませているのを感じた。冷たくて、理不尽だ。


九島が傷口を見下ろして、今夜一番速い口調で、私があまり聞きたくない一言を言った。


「ハーヴィー、灯りをつけて。ジェス、彼女を押さえろ。今から、誰も邪魔するな」


顔を上げて、彼女を見る。口の端を、かろうじて引いた。


「へえ、真紀。その喋り方……やっと人間みたいになったじゃないか」


九島は私を見た。目はいつも通り冷たい。でも、その奥に、今は深く考えたくない何かが混じっていた。


「星野、黙れ」

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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