38. 結束 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
腹立たしいくらい綺麗な字で。
星野さんへ:
ひとつ秘密を教えてあげます。
公式休憩所は、使用のたびに十二時間以内に校側が補給を行います。
これは小さな秘密なので、他の人には内緒ですよ。
愛を込めて 亜紀 ♡
その数行を読み、まず首筋がぞわりとした。
暑いんじゃない。寒気だ。
クソ。
この人、いったい何者だ。
前半の公式資料は、いくら人間味ゼロでも、まだ「生きている対象」に向けて書かれていた。高温、フェーン現象、巨大蚊、食人植物、全組失格。いい、文句も言えるし、使いようもある。でも亜紀先輩のメモが一枚貼りついただけで、全体の質が変質する。
公式休憩所は、使用のたびに十二時間以内に校側が補給を行います。
この一文が本当なら、シェルターは単なる補給地点じゃなく、一定間隔で更新されるリソースポイントでもある、ということだ。
もしこれが嘘なら、もっと気味が悪い——真偽のわからない情報爆弾をわざわざ私のポケットに突っ込んで、「いつ自分で自分をビビらせるか」を観察しようとしていることになる。
そして最悪なのは、この情報が本当でも嘘でも、私には「見なかったこと」にする権利がない、という事実だ。
最後の「愛を込めて 亜紀」と、育ちの良さそうなハートマークを睨みながら、指先から背骨までぞわぞわした。これは普通の不快感じゃない。冷やした細い鉄線を背骨に沿ってゆっくり滑らされ、撫でながら笑われているような感触だ。
クソ。
九島家、全員どこかおかしいだろ。
私は素早くメモを小さく折り畳み、元の場所には戻さず、隊長マニュアルのいちばん奥のクリアポケットにねじ込んだ。そのマニュアルを閉じて、胸の内ポケットに押し込む。ただでかい秘密を抱えて悦に浸りたいわけじゃない。今この場でジェスに見られれば、まず笑われる。ハーヴィーに見られれば、まず眉をひそめられる。九島に見られれば——
……今の時点で、その顔は見たくない。
だから隠す。
隠してから、私はとても普通で、全然ロマンチックじゃなく、隊長としてはごく当たり前のことをした。
顔を上げて、残りの三人を見た。
「フロスト、集合。第1回インフォメーション・ブリーフィング、今から。」
ジェスはセーフティーベルトを指遊びに使っていたが、この一言で首をかしげた。
「うわ、正式。あのデスツアーガイド冊子を読み終わって、ついに悟りを開いた?」
「黙って、こっち来い。」
「了解、フロスト-02、従います。」
ハーヴィーは元々隣で装備をいじっていたので、即座に近づく。九島も確認票をしまい、真正面に座った。輸送艦の中ではどの組も小さく輪になって話しているが、私たちの区画は側壁に近く、声を落とせば隣の列まで響かずに済む。
私は隊長マニュアルを開き、まず公式ページをめくった。
「先に結論から言う。」声を落として言う。「これは三週間、野外で生き延びる訓練なんかじゃない。野外で生き延びながら、互いに採点され、期末までに誰が残される価値があるかを見られる試験だ。」
ジェスが頷く。
「翻訳に魂がこもってる。」
「それから、もう一条。」私はページを指で叩いた。「ドロップポッド着地からカウント開始で、きっかり三週間。救難信号を上げたら、その時点で全組失格。即補習行き。個人脱落はない。あるのは組単位の全滅だけ。」
その一言で、隣の壁板の低い振動音まで、少しだけ温度を失ったように感じた。
ハーヴィーは驚いた様子も見せず、ただ頷いた。
「理にかなってる。」
「今の『理にかなってる』、ほとんど罵倒だぞ。」私は言う。
「元から罵倒として言ってる。」ハーヴィーは返す。
九島は手を伸ばし、マニュアルを自分の側に少し引き寄せた。読み飛ばすようでいて、要点だけをすばやく抜き取っていく。初耳の情報ではないが、隊長版は特にシェルターとフェーン現象についてが整理されている。
私はページをめくりながら続けた。
「重要なのは『どれだけ恐ろしい怪物が出るか』じゃない。」と言う。「恐ろしいものが、ちょうど資源が一番豊富な熱帯雨林ゾーンに集中していることだ。シェルター密度最大、利用可能な水量最多、それに肉食植物と巨大昆虫も最大。砂漠と峡谷の方が安全だが、シェルターと資源は比例して減る。つまり校側は『ルート選択は自由』と言いつつ、実際には全員をわざとジャングルに追い込もうとしてる。」
ジェスが舌を鳴らした。
「実に連邦らしい。」
「もっと連邦らしいのはシェルターの仕様だ。」私はそのページを指でコンと叩く。「公式シェルターには防爆扉があって、一度閉めたら七十二時間は再開扉不可。つまり入る前に腹をくくれってことだ。あれは『ちょっと避難』じゃない。次のフェーン周期を丸ごと賭けるということ。」
今度ばかりはジェスも即座に茶々を入れなかった。
この条件は、さすがに汚い。
七十二時間。
ドアを閉める。
二度と開かない。
外からは入れず、中からも出られない。
これは安全圏じゃない。制度があらかじめ設計した道徳的な罠だ。
ハーヴィーが、一番ストレートな質問を投げた。
「座標は隊長のHUDだけか。」
「そう。」私は頷く。「だから実際にどこにシェルターがあるか、いつ行くか、奪うかどうか、扉を閉めるかどうか、最終的には全部私に降ってくる。」
ジェスがこちらを見て、珍しく声に刺が少なかった。
「今さらだけど、フロスト-01引き受けたの、後悔してる?」
私は鼻で笑う。
「とっくに後悔してる。ただ、今になってみると、後悔のタイミングだけは先見の明があった。」
彼女の口元がぴくっと引きつった。笑いたくて、でも今笑うとさすがに気が引けて、結果として変な短い息だけが漏れた。
そこで九島が口を開いた。いつもの、やたらと事務的だが、物事を確定させる声で。
「なら、先に使用ポリシーを決めよう。」
私は彼女を見る。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




