37. 出発 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
机の天板を見つめた。怒りはまだある。ただ、さっきみたいに手当たり次第に噛みつきたい燃え方じゃなくなっていた。一箇所に圧縮されて、どこに向ければいいかが見え始めている。
「わかった。」顔を上げる。「今日中に決着させる。」
指を一本立てた。
「第一条、断りなく他人の装備を触ることは禁止。」
九島がすぐに頷いた。
「問題ない。」
二本目。
「第二条、共用物資の再配分は全員の前で口に出す。誰が何を持つか、なぜか、問題が起きたとき誰が最初に取り出すか、全部その場で言う。」
「問題ない。」九島は言った。
「第三条、現場で意見が割れたら、その場の担当者の判断に従う。その場で議論して一緒に死ぬのは禁止。」
この一言が出ると、ジェスが少し笑った。
「これ好き。組全体の墓碑銘防止条例みたいで。」
ハーヴィーが私を見た。
「担当の分け方は?」
「人の配置を決めてから話す。」私は言った。
九島の手からペンを取り、立ち上がってホワイトボードの前に出た。ペンのキャップを歯で外して、四つの名前を書く。
星野 / ジェス / ハーヴィー / 九島
書き終わって眺めると、自分とあと三種類の面倒を同じ棺桶に縛り込む感覚がした。
「まず私から。」ペン先を自分の名前に当てた。「私は先頭、方向転換、現場判断を担当する。進む、止まる、コースを変える、全部私が先に言う。」
ジェスが机から飛び降りて、横に寄ってきた。
「自薦?それとも自分に利権を集めてる?」
「お前たち三人が現場でそれぞれ別の指示を出す事態を防ぐためだ。」
「筋は通ってる。」ジェスは頷く。「それに、お前が一番気が短いから、最初の一波を受け止めるのに向いてる。」
「その侮辱、ありがとう。」
「どういたしまして、私はいつも誠実よ。」
ハーヴィーが後ろから引き取った。
「私は装備、負重、引き回し、臨時整備を担当する。」器材の貸出リストを読み上げるみたいな口調だ。「パックが傷んだ奴、ベルトが緩んだ奴、荷重の分布がずれた奴、私が処理する。ただし、怠惰は面倒見ない。」
「翻訳すると。」ジェスが手を挙げて身振りで示す。「もし私のベルトが切れたら、先に三回罵倒してから助けてくれるってこと。」
「救う価値があればな。」ハーヴィーは言った。
「この組の愛の言語、すごく健全ね。」
私はペンを九島に向けた。
「お前。」
九島はホワイトボードを見たまま、落ち着いた声で言った。
「補給統括、水、医療モジュール、ルートと時間管理を担当する。共用品の消耗、夜間の当直ローテーション、気候予測、残存資源の判断を含む。」
私は片眉を上げた。
「一口でずいぶん多く抱えたな。」
「これらは元から連動しているからだ。」一拍置いて付け加える。「それに、お前たちの中で誰も表の管理をしたがらない。」
これは正確すぎて、教室の中で誰も反論しなかった。
ジェスがすかさず自分から続けた。
「じゃあ私は?まさか本当に余計な一言で士気を保つだけが役割じゃないよね?」
私は彼女を一瞥した。
「お前は側面観察、記録、第二通信、交渉担当。それと、私の頭が焼き切れたとき、バカなことをしようとしていたら先に止める役。」
ジェスがぱちぱちと瞬きした。
「これ好き。特に『交渉』。なんか合法的に包んでもらえた感じがする。」
「もう一つある。」ハーヴィーが冷たく付け加えた。「星野が本当に焼き切れたら、お前が先に怒鳴って正気に戻す。」
「それは得意。」ジェスは自信満々に笑った。
深く息を吸って、彼女の首を絞めたい衝動を抑えた。
九島は今しがた決まったことをホワイトボードの横に書き写し、さらに別の区画を区切った。
「底線は?」
私は白板にもたれて彼女を見た。
「お前から言え。」
彼女は遠慮なく、最初の一条を直接書いた。
単独行動禁止。
「視線の届かない場所、キャンプ地、既定ルートから離れる場合は必ず報告する。」彼女は言った。「夜間のトイレも含む。誰でも同じだ。」
ジェスがすかさず手を挙げた。
「賛成。夜中に星野を藪の中まで拾いに行きたくないから。」
「なぜ私が前提になってる。」
「一番面倒くさがって、黙って一人で行きそうな顔してるから。」
……この条項に完全に反論できない自分が腹立たしい。
ペンを取り返して、二条目を書いた。
異常は必ず報告する。
「熱中症、靴擦れ、頭痛、装備の浸水、睡眠不足、感情が臨界点に近い、全部含む。」書き終わって振り返る。「黙って耐えて組全体に影響を出した奴は、私が先に始末する。」
ハーヴィーが珍しく頷いた。
「この条項は正しい。」
彼は歩いてきて、その下に直接三条目を書いた。
敵遭遇時/追跡時/火風暴前兆時、まず全員の安全を確保、目標は後回し。
「任務は英雄劇じゃない。」彼は言った。「単独で動こうとした奴は、私が先に足を折る。」
ジェスが小声で言った。
「これ比喩なのか約束なのか、今ひとつわからない。」
「どちらでもいい。」ハーヴィーは言った。
教室がまた一秒静かになった。
最後の一条は、九島が書かなかった。代わりに私を見た。
「あと一条足りない。」
「何だ。」
「意見が割れたとき、誰が最終決定を下すか。」
私はホワイトボードを二秒ほど睨んだ。こめかみがまた脈打ち始めた。
答えがわからないからじゃない。
答えが明白すぎて、見て見ぬふりをしたかったからだ。
ジェスが横でくすっと笑った。誰よりも早くこの瞬間を待っていた顔だ。
「来た。一番不人気で一番実用的な条項。」
ハーヴィーが私を見た。その直接さが殴りたくなる。
「お前だ。」
私は向き直った。
「なぜ私なんだ。」
「最短時間で決断を出せるからだ。」ハーヴィーは言った。「毎回きれいな判断とは限らない。でも詰まらない。」
九島も私を見て、いつも通りの声で言った。
「それと、さっき広場で期中と期末の連動が発表されたとき、最初に組全体がどう評価されるかを頭の中で計算し始めたのも、お前だ。」
私は眉をひそめた。
「なんでわかった。」
彼女は半拍置いた。
「見ればわかる。」
クソ。
こういう答えが一番腹立たしい。
観察されていることを反論できないから。
ジェスが近づいてきて、肘で私の肩を小突いた。
「認めなよ、星野。」彼女はにやりと笑った。「みんな何かあったとき、最後に見るのはお前だ。それはお前が一番好かれてるってことじゃないかもしれないけど、お前が一番先に口を開きそうな人間だってことは明らかだ。」
「それ、褒め言葉じゃない。」
「ここでは褒め言葉よ。」
私はホワイトボードの四つの名前を見下ろした。ペンを折りたくなった。
背負いたくないわけじゃない。
こういうものは一度書いてしまうと、口先で文句を言っても降りられなくなる。特に今回は林間学校が期中成績に直結して、その先には期末、上院の連中が今回の成績を見て加わるか残るか退くかを決める、という話まで繋がっている。
この状況で組長を引き受けるのは、肩書きをもらうんじゃなく、先に鍋を背負うことだ。
そして私が一番嫌いなのは、他人に鍋を用意されることだ。
……ただ今回は、自分でもどう選ぶべきかがわかっていた気がする。
最後の一条を書いた。
現場最終決定:星野
ペン先がホワイトボードを引っ掻く音が少し耳障りだった。
ジェスがすかさず拍手した。まったく誠意のない拍手だ。
「おめでとう、貧乏くじ人生、また一歩前進。」
「寒霜って言いたかったのか?」
「最初は寒酸って言おうとして、どっちもしっくりきた。」
私は振り返ってペンで彼女を指した。
「今日これ以上一言でも余計なことを言ったら、通信担当を囮に変更する。」
「この組、こんな柔軟な職種変更制度があったの?」
ハーヴィーは私たちを無視して、最も実務的な問いを投げた。
「規則は決まった。違反したらどうする。」
私は彼を見た。
「何の話だ。」
「誰かが線を踏んだとき、どう対処するか。」
ああ、そうか。
規則を書くだけなのは行政の夢想だ。生きた人間が違反したときの処理も要る。
ペンを手のひらに二回叩きつけた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




