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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
126/240

35. 九島姉妹  1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

林間学校の正式開始まで、あと四十八時間。


今朝、生徒会が突然午後の授業全面中止を発表した。


その瞬間、一年生棟全体が一斉に沸き立った。


その場で歓声を上げる奴もいれば、「ついにどの教官が人間性を取り戻したんだ」と推理合戦を始める奴もいる。午後の補眠、洗濯、売店への密輸作戦まで組み上げた奴もいて、廊下は一瞬で爆発した缶詰みたいになった。うるさすぎて、耳が退学届を出したくなるレベルだった。


私はただ白目を剥きたかった。


この学院が本当にそんなに良心的なら、とっくに連邦軍事学院なんて看板を下ろして、慈善育児院にでも改名してるはずだ。生徒会の連中が突然授業を潰すときは、だいたい後ろに何かが控えている。手続きで人を締め上げるか、制度がもう少し体裁のいい方法で締め上げるかの二択だ。


案の定、昼近くになってようやく正式通知が下りてきた。


午後は休みじゃない。一年生懇親会だ。


……どうりで。


午前中から校門付近の様子がおかしいとは思っていた。人がどんどん集まって、私服の大人たちが外に立ち並び、袋を提げ、花を抱え、箱を持っている。事情を知らない人間が見たら、連邦の未来の柱にエールを送る愛国団体の自発的デモ行進だと勘違いするだろう。


感動的な親子の再会は、明らかに私向きじゃない。


こういう場面で、他の奴らは家族に会う。私はといえば、他人のリビングに迷い込んだ外来種に近い。関係ない以上、さっさと寮に避難して、抱き合って近況を聞き合う感情爆撃から距離を置くのが正解だ。


ところが、寮の敷地に入る前に、入り口に二人立っているのが見えた。どう見ても学生じゃない。


一人は男で、うちの部屋の歪んだベッドフレームを素手で矯正できそうな体格をしている。もう一人は女で、こっちの方が問題だった——単に見覚えがあるというより、その顔がジェスにそっくりすぎて、誰かがジェスをコピー&ペーストして年齢を十数歳上乗せし、表情だけまともな成人に修正したみたいだった。


二秒ほど眺めて、心の中で一言つぶやいた。


おっと。


ジェス、お前ご愁傷様。


他人の家族的再会に首を突っ込む趣味はないし、入り口でジェスに捕まって「こちらルームメイトの星野です」「普段からこの死んだ魚みたいな目してます」みたいな謎の紹介コーナーに巻き込まれる気もない。


だから迷わず踵を返し、階段を上がった。


行き場がないとき、屋上はだいたい悪くない選択肢だ。風が強くて静かで、人から遠い。


飛び降りに適してるかどうかについては、連邦もその辺は心得ているらしく、屋上の縁には馬鹿みたいに高い金網が張り巡らされている。プレッシャーで限界を迎えた学生が、制度の負担を自主的に軽減しようとする事態を本気で警戒してるみたいだ。


屋上のドアを押し開けた瞬間、風が顔面を張り飛ばしてきた。


ここの空気は下よりずっと清潔だった。少なくとも、洗剤と汗と食堂の油煙が混ざり合った寮特製毒ガスはない。金網の外から吹き込む風が制服の裾をめちゃくちゃに煽り、空はやけに明るくて目に刺さる。遠くの校門あたりからは人の声がかすかに届いて、沸騰寸前の鍋みたいにざわついていた。


そこで、私は彼女を見つけた。


上院の制服。


黒髪。


高いポニーテール。


最初の一瞬、九島真紀くしま・まきがなぜ私より先にここに逃げてきてるんだと思った。


次の瞬間、相手が振り返った。


――違う、クソ。


顔は似ている。特に輪郭と目のあたりは、並べて見れば無関係とは言えない。でも、纏っているものが全然違う。九島真紀は冷たくて、平らで、正確だ。よく研いだ工具ナイフみたいな感じ。目の前の人間は別物だった。風の中に立っていても地面に打ち込まれた杭みたいに揺れず、視線そのものに圧がある。風に当たりに来たんじゃなく、今日誰が最初に詰むかを見に来た、という空気だった。


視線を下に滑らせた。


ネクタイの色が違う。


上級生だ。


ほぼ反射で踵を揃え、腰を伸ばし、先に敬礼した。


「先輩、お疲れ様です。」


彼女はすぐには答えなかった。


その、ほんの半秒ほどの沈黙の方が、直接何か言われるより居心地が悪かった。表情が険しいからでも、わざと威圧してるからでもない。人を見るときの目が資料をめくるときのそれに似ていた——目の前の人間を見てるんじゃなく、記憶する価値があるかどうかを確認している、という感じだ。


それから、ふっと笑った。


最悪だ。


この種の笑いには、だいたい二つの意味しかない。


第一層:後輩、こんにちは。


第二層:後輩、お前は終わりだ。


横から風が巻いてきて、高いポニーテールを後ろに煽った。彼女は片手で毛先を押さえながら、まだ私から視線を外さない。頭の中のどこかのファイルと、ようやく照合が取れた、という顔だった。


そして、開口一番こう言った。


「あなたが星野霜?」


声は高くない。むしろ平板に近い。でもその平らさは九島真紀の、整理された後の静けさとは違う。もっと上の段にあるものだった——自分が声を張らなくても、下は勝手に姿勢を正すと知っている人間の声。


背筋が、理由もなくもう一段伸びた。


「はい。」


二秒ほど見られた。口元の笑みはまだ残っているが、どう見ても吉報じゃない。


「なるほど。」彼女は言った。


……なるほどの後を言え。


私は前半だけ投げてくる人間が一番嫌いだ。もったいぶりか、面倒を仕掛ける準備か、どちらかだ。あの顔を見てると、両方兼ね備えてる気がしてならない。


私が口を開く前に、彼女が一歩踏み込んできた。相手のリズムを丸ごと奪う方法を、最初からわかってるような動きだった。


「三年の九島です。」声は変わらず平らで、少し間を置いた。自分でその名字と頭の中の人物を照合させる時間をくれた、という間だ。「九島亜紀くしま・あき。生徒会会長です。」


……そうか。


どうりであの笑いが、公文書と死刑執行通知が一緒に家に届いたみたいに見えたわけだ。


表情を整える間もなく、彼女はもう手を差し出していた。


一拍遅れて、私も手を出した。


握手は安定していた。力は強くない。むしろちょうどいい、と言っていいくらいだ。問題はそこだった。本当に厄介な人間は力なんか使わない。少し触れるだけで、こちらが勝手に姿勢を疑い始める。呼吸を疑い始める。さっき先に口を開くべきだったかまで反省し始める。


「真紀がお世話になっています。」彼女は私を見たまま、礼儀とも罠ともつかない笑みを保って言った。「星野さん。」


ほぼ反射で返していた。


「いえ、こちらこそ……むしろ私の方が助けられてますので。」


お世辞じゃない。


九島真紀はうるさいし、話してると何か投げつけたくなることも多いが、組に入ってから彼女が塞いだ穴は、確かに最初の予想よりずっと多かった。ただ、そんな台詞が私の口から出ること自体が不自然で、言い終わってから居心地が悪くなった。


亜紀先輩は面白そうに私の顔を二秒ほど見てから、ゆっくりと話題を変えた。


「星野さん、今日は懇親会に出ないんですか?」


私は彼女を見た。


「……先輩、それは分かってて聞いてますよね。」


「ええ、ええ、失礼しました。」少し笑う。さっきより丁寧な笑いだったが、それだけ余計に気味が悪かった。「では、お詫びに一つ秘密を教えてあげましょう。」


頭の中で警報が一斉に鳴った。


この手の人間が「秘密を教える」と言うとき、親しみを示してるわけじゃない。秘密を餌にして、自分から食いつくかどうかを見てる。


亜紀先輩は私の頭の中が警戒線だらけになってることを気にする様子もなく、振り返って屋上の縁の金網に沿って二、三歩歩いた。風が強く、高く束ねた髪が後ろに引っ張られる。片手で軽く押さえる。その動作が自然すぎて、ここが下院寮の屋上じゃなく自分の家の庭みたいに見えた。


「うちの九島家には、上に行く資格があると認めた者に対して、あまり受けのよくない決まりがあります。」声は静かだった。「林間学校のようなものは、必ず下院生と一緒に参加すること。」


眉をひそめた。


表向きは鍛錬とか教育とか聞こえるが、分解すれば単純な話だ。


交流でも基層理解でも上院の良心でもない。


育てた人間を、もっと汚くて、もっと乱れていて、もっと現場に近い場所に叩き込んで、頭だけ使える人間なのか、本当に生き残れる人間なのかを確かめる、ということだ。


九島真紀を育てた家が、これか。


亜紀先輩が振り返った。私の一瞬の表情を、楽しんでるような顔だった。


「だから今年の予定は、真紀に適当な班を選ばせて入れるだけでした。」彼女は言った。「最初、真紀もそう言っていました。どこかに配属して、乗り越えられたらそれでよし、駄目なら別の方法を考える、と。」


そこで足が止まった。


振り返って、まっすぐ私を見た。


風はまだ強かった。なのに背中が、理由もなく少し冷えた。


「昨日まで、そうでした。」彼女は言った。「昨日、真紀が初めて私に頼んできたんです。自分をあなたたちの班に入れてほしい、と。」


固まった。


演技じゃない。本当に一拍止まった。


亜紀先輩は間を与えるつもりがないようで、静かに、ほとんど残酷なくらい静かに後半を続けた。


「真紀はプライドがとても高い子です。」彼女は言った。「銃口を頭に当てても、まず持ち方が悪いと指摘してから、死ぬかどうか考えるくらいには。」


……クソ。


この形容、恐ろしいほど正確だ。


「九島真紀が自分から頭を下げた」という事実を頭が処理しきれてないうちに、亜紀先輩が一歩踏み込んできた。


警戒はしていた。


本当にしていた。


でも半拍遅かった。


一瞬で距離を詰められ、両手で私の上腕をしっかりとホールドされた。乱暴に掴むでもなく、感情が崩れて飛びかかってきたでもない。ただ、背筋が凍るほど正確な固定方法だった。他人の動きと距離をこうしてコントロールするのは初めてじゃないとわかる手つき。力は強くないのに、後退しようとする直前のポイントを完璧に押さえていて、体全体が瞬間的に硬直した。


肩に力が入る。


「先輩——」


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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