33. 全員、集結 4
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ジェスも同じところに行き着いているようで、ゆっくり頷いた。
「うん。あれ、『ちゃんとしてるふり』じゃない。『前から考えてたことを口に出しただけ』に近い。考えてたのは『どうやったら入れるか』じゃなくて、『入ったあとどこを埋めるか』。」
「しかも、いやらしいくらい細かい。」私は眉を寄せる。「細かすぎてムカつく。」
「ムカつくのは、細かいから? それとも細かさが正論だから?」
「……両方だ。」
ジェスがふっと笑った。
「正直、一番ゾッとしたのは彼女とハーヴィーの会話のところだな。。」
「どこ。」
「全部。」彼女は即答する。「普通さ、初対面なら、もうちょっと噛み合わない時間があるじゃん。あの二人、いきなり『互いの出力確認』から始まってた。」
私は少し黙った。
それがどれだけ的確か、認めたくなかった。
ハーヴィーは、長く一緒にいる。口は悪い。最初に見るのは「どこが壊れるか」。人に対しても、物に対しても。「いい人」じゃないし、「ノリがいい」わけでもないし、白い制服に甘くなる種族でもない。誰に対しても同じだ。最初に疑い、叩いてみて、それから「まあ一応使える」に分類するか決める。
それなのに、九島真紀はさっきの第一ラウンドで、あろうことか「いい」の一言を引き出してみせた。
たったの二文字。
だが、相手はあのハーヴィーだ。
あいつが普段、私に「生きてるなら上出来だ」とでも言うときは、まるで香典でも包むような顔をしているというのに。
私は舌打ちし、椅子の背もたれに体重を預けた。
「それが一番ムカつく。」
「『ハーヴィーが彼女を認めた』のが?」ジェスの目がきらっと光る。
「違う。」反射的に否定する。
「じゃあどれ。」
「つまりだな——」言葉が喉で詰まって、どうにか見苦しくない形を探す。「あいつが相手するってことは、『中身スカスカ』ではないってことだろ。」
ジェスはじっと私を見たあと、にやっと笑った。
「つまり星野は、『彼女に中身がある』と認めたわけだ。」
「私はリスク評価してるだけ。」
「立派にハーヴィー病がうつってる。」
「うるさい。」
私は頭を仰け反らせて、天井の醜い水染みを見上げた。
正直に言うと、さっきあの短い時間でいちばん強く感じたのは、「上院の人が来た」っていうより——
部屋に突然、「ハーヴィーにすごく似てて、でも別物」の何かが増えた、という違和感だった。
ハーヴィーは何に似ているか。
工具箱の、一番嫌われてる重いレンチ。見た目がゴツくて重くて、たまに自分の頭を殴ってくる。でも、ボルトが緩んで、何かが外れそうになって、どうしようもなくなったとき、結局探す相手。
九島真紀は、どちらかといえば定規に近い。
硬くて、冷たくて、真っ直ぐで、そこに置いてあるだけで「いつもどれだけ適当にやってたか」を数字で叩きつけてくる。
けれど——実際に測ってみると、腹立たしいくらい正確だ。
そこが、いちばん厄介だ。
「それに、もう一つおかしいところがある。」私は言った。
ジェスはすぐ体勢を正す。
「どこ。」
「人に気に入られようとしてない。」
この違和感は最初からあった。
もし九島真紀が「頭の回るお嬢様」だったら、もっと柔らかい演技もできたはずだ。声をもう少し落として、「お邪魔してすみません」とか「よろしくお願いします」とか、可愛げのあるパッケージをつけて下院側の罪悪感を先に引き出すとか。
でも、彼女はやらなかった。
資料を持って来て、調べたことをそのまま言って、うちの欠点を列挙して、自分はそれを埋めに来たと言い切った。
こういう話し方は、普通嫌われる。
少なくとも、初対面では。
逆に言えば——好かれるかどうかに興味がない、ってことだ。
評価されるかどうかにしか興味がない。
ジェスは聞き終えてから、ゆっくりと「うん」と唸る。
「だね。さっきからずっとそれ思ってた。」膝を抱えたまま、珍しく真面目な顔。「あの人、最初から『友達になりたい』顔じゃなかった。」
「違う。」
「『この班に入りたい』顔だった。」
「そう。」
「しかも、『星野に友情で説得してもムダ』『ハーヴィーに身分で押してもムダ』って、ちゃんと理解してて、その上で『じゃあ一番効くのを出す』ってやってた。」
私は横目でジェスを見る。
「今日、頭の回転いいな。」
「さっき二人に挟まれて、眠気全部吹っ飛んだからね。」ジェスは大げさに目を回す。「考えてもみてよ。白い制服の女が下院の寮部屋に立って、あんたの補給表を前にハーヴィーと替えバックル数を議論してるんだよ。あの絵面、人生で二回目がある気がしない。」
思わず笑いが漏れた。
「それはたしかに。」
笑い終わると、また少しの沈黙が戻った。
ここから先は、あまり触りたくない領域だと自覚していた。
ジェスもそれがわかっているのか、急かさずに待っている。
私は舌打ちして、結局口を開いた。
「ハーヴィーも、今日ちょっと違った。」
「へえ?」彼女の目がまた光る。「詳しく。」
「変な方向に期待すんな。ロマンは一ミリもない。」先に釘を刺してから続ける。「あいつ、いつも新しいものにはまず『クソ』って言ってから入るだろ。今日はそうじゃなかった。」
ジェスは頷く。
「うん。今日は『まず分解、次に確認、最後にどう罵るか決める』だった。」
「……余計タチ悪く聞こえるの、なんでだろうな。」
「でも意味はそう。」
私もわかっている。
わかっているからこそ、余計に不愉快だ。
ハーヴィーは部屋に入って九島を見たとき、最初の反応はもちろん警戒だった。そこまでは普通。だけど、その後がいつもの「上院? 帰れ」で終わらなかった。
「お前なんかに何がわかる」とも言わなかった。
代わりに、仕事モードに入った。
表を見る。ミスを指摘する。相手を測る。基準を突きつける。
それが意味するのは、ひとつしかない。
彼の頭の中では、九島真紀はすでに「本当に班に入る可能性のある対象」として処理されている。
友達でも、クラスメイトでも、「面倒そうなきれいなやつ」でもない。
「第144班に組み込むかもしれない部品」だ。
そのほうが、よほど厄介だ。
「だって、それはつまり——」私は天井から視線を外し、椅子の背もたれに額を乗せる。「この女は、本当に遊びに来たわけじゃないってことだからな。」
私は髪をがしがしと掻いて、機嫌の悪い声で言った。
「とにかく、この感覚が気に食わない。」
「どの感覚?」
「だから——」眉をひそめながら言葉を探す。「最初から空から降ってきたゴミ扱いする準備万端だったのに、いざ座ったら先にコーラ三本削って、次にハーヴィーに大きな文句をつけさせなかった。これじゃ、最初の堂々とした排斥感を維持できない。」
ジェスは聞き終わるなり、完全に笑い崩れた。
「あははは、それ正直すぎる。」
「正直じゃない、戦況報告だ。」
「翻訳すると:あんた、彼女を追い出したくなくなってきてる。」
「そんなこと言ってない。」
「でも心の中では思ってる。」
「思ってない。」
「思ってる。」
「ジェス。」
「はいはい。」彼女は両手を上げて降参したが、口元の笑いは消えない。「じゃあ言い換える。今のあんたは彼女を認めたわけじゃない。ただ……一時的に、嫌う正当な理由が十分見つからないだけ。」
私は二秒黙った。
それから、ひどく不本意な声で言った。
「……その言い方なら許可する。」
ジェスが「パン」と太ももを叩いた。
「ほら見て!」
「調子に乗るな。」私は彼女をにらむ。「それに、これは一時的なことだ。今日うまくやったからって、三日後に雨林に入っても同じようにシャキシャキできるとは限らない。紙の上で強くても、現場で足を引っ張る奴はいくらでもいる。」
「はいはい。」ジェスはわざとらしく頷く。「強がり式留保条項ね、わかってる。」
私は無視して、机の上の修正済み計画表に目を落とした。
チェリーコーラ九本。『このライトノベルのタイトルがなぜここまで長いのか、編集部の頭はおかしいんじゃないか件について』一冊。医療パック二段構成。交換用バックル六セットに増量。見張り順序の明文化。決定権は声量に依存しない。
……最後のやつは、やっぱりムカつく。
でも、ムカつくからこそ、記憶に刻まれる。
ふと思い出して、顔を上げてジェスに聞く。
「さっき気づいた? 彼女とハーヴィー、意外と似てるって。」
「気づいた。」ジェスの答えは速かった。「でも似てる部分が最悪。」
「具体的に。」
「ハーヴィーは、あんたをバカだと思いながらも、ちゃんとザックを整理し直してくれる人。九島真紀は、バカだと思うことすら省略して、バカな部分を直接表にまとめる人。」彼女は少し間を置いて、最後の一撃を入れた。「一人は口が紙やすりで、一人は脳みそが刃物付きの定規。あんたがその真ん中に挟まれてたから、さっき昇天しそうな顔してたんだよ。」
私は少し考えた。
……くそ。
ほぼ正確だ。
しかも一番厄介なのは、この二人の共通点が単純に頭がいいとか、単純に嫌なやつとかじゃないことだ。
「まあこれでいいか」を答えにしない種類の人間だ。
この学校では、そういう人間は面倒くさい。
でも、あの火炎嵐が吹き荒れる星では、そういう人間が本当に命を救うかもしれない。
私は机の上の、半分命を削られたチェリーコーラに手を伸ばし、仰いで一口飲んだ。甘すぎて、人工的すぎて、なのになぜか、このタイミングで飲むと少し頭がすっきりした気がした。
「とにかく。」私はアルミ缶を机に戻した。軽い音が鳴る。「まずは様子見。」
ジェスが眉を上げる。
「ずいぶん慎重?」
「じゃあ何?」私は腕を組んで、ドアをにらむ。「今すぐ申請書でも書くの? 『上院精算型お嬢様と工具クソ野郎が同じ班にいると生存価値が著しく高まることを正式に認定する』って? まだそこまでイカれてない。」
「つまり、認めないんじゃなくて、公文書にする気がないだけなんだ。」
「今日は本当に口が多いな。」
「だって面白いんだもん。」
彼女は笑いながらベッドから飛び降り、机の端に歩み寄って、計画表をつんとつついた。
「でもさ、正直に言うと。」声が珍しく少し柔らかくなる。「さっき一瞬でも、『思ったよりひどくないかも』って思わなかった?」
私はその表を見つめて、すぐには答えなかった。
窓の外の光がもう明るくなっていて、この古い宿舎に差し込んで、机の上の紙、テープ、インナー、コーラ缶、それから散々いじり回された補給リストを、ぐちゃぐちゃに照らしていた。
理論上、私は頭が痛くなるほど面倒くさい状況にいる。
実際、面倒くさいのは本当だ。
でも——
「……ちょっとだけ。」
声が小さくなった。後ろ暗い自白みたいな声で。
ジェスはちゃんと聞き取って、すかさず現行犯逮捕の顔をした。
「あらあら。」
「もう一回言ったら、九島真紀と二段ベッドで寝かせるから。」
「それはそれでいいかも。高級患者の生態を近距離で観察できるし。」
「じゃあ勝手に行け。」
私は立ち上がり、その表を手に取ってもう一度眺めてから、最終的にかなり不本意な動作で折りたたんで、自分のノートバインダーに挟み込んだ。
この動作自体が、すでにいろいろなことを語っている。
本当にゴミだと思ったなら、しまわない。
ジェスは私を見て、全部わかってる混蛋みたいな顔で笑っていた。
「で、結論は?」
私はバインダーを机に叩き置き、顎を上げて、いつもどおり機嫌の悪い口調で言った。
「結論は——」少し間を置く。「九島真紀は今のところ役立たずじゃない。ハーヴィーも今日は目が曇ってなかった。二人ともかなり面倒くさいが、うざさ込みで役に立つ。」
ジェスが即座に拍手した。
「第144班の最高位認定、おめでとう。」
「認定じゃない。」
「じゃあ何?」
私は少し考えてから、かなり渋々と、絞り出すように言った。
「今のところ、班から追い出したくない。それだけだ。」
ジェスはそのまま机に手をついて笑い転げた。
私は残りのコーラを一気に飲み干しながら、心の中で、かなり不本意に認めた。
三日後の林間学校、もしかしたら最初に思ってたより、ほんの少しだけ——
集団自殺っぽくなくなるかもしれない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




