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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
12/63

04. なんでコイツらが私のルームメイトなの!? 1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

本当に残念だ。


今日これだけクソみたいな出来事を立て続けに処理したんだから、連邦も少しは気を利かせて、自然に目が覚めるまでベッドに寝かせてくれるんじゃないかと思っていた。でも結局、体制に期待する人間ほど早く胃潰瘍になるという話が、やっぱり本当だと証明されただけだった。


修復パッチを貼り終えたばかりで、九島重工くしまじゅうこうが冷却液で淹れたとしか思えないクソまずい熱飲料もまだ飲み切っていないのに、医療艙いりょうそうの入り口に、棺桶より折り目がきれいな勤務兵きんむへいが現れた。


「一等兵、星野霜ほしの・しも


私は顔を上げた。


「何」


そいつの表情は一ミリも動かなかった。前線の傷病兵が血を流しながら悪態をつくのには、とっくに慣れているらしい。


「上官より召集。至急」


私は肩のパッチと、まだ終わっていない検傷票を見比べた。


「連邦の偉い人たち、最近そんなに話し相手に飢えてるの?傷病兵を医療ベッドから引き剥がして面談って、新型のケアシステム?」


勤務兵は淡々と答えた。


「私は伝令を担当しているだけです」


「そう。じゃあ連邦制度の中でいちばん無実な人だね」


私は悪態をつきながら、のろのろと検傷ベッドから降りた。


肩はまだ痛い。肋骨はまだ文句を言っている。耳の後ろの修復膜は痒くて、爪で引っ掻きたくてたまらない。要するに、全身どこを取ってもベストコンディションじゃない。


ただ——生きている。


生きているということは、会議に出て、書類にサインして、大人たちのクソみたいな話を聞かされるということだ。


人生って、本当に代わり映えしない。


出口に向かって二歩ほど歩いたところで、デイヴィッドもついてきているのに気づいた。


横目で見る。


「あなたも呼ばれた?」


「そうらしいです」仮の視力補正具を指で押し上げながら、彼は先生の出欠確認に答える優等生みたいな声で言う。「さっきの勤務兵が入ってきたとき、私の方も一度見ていましたから」


「稀少な文系資源がまだ呼吸しているか、確認しに来たんでしょ」


「連邦の人材保護が『呼吸確認』のレベルで止まっていないことを祈ります」


「期待しすぎ」私は鼻を鳴らした。「連邦の『人材』の定義は大抵、死ぬ前にもう少し絞れるかどうか、だから」


彼はそれを聞いて、真面目に一度頷いた。


「その点は今日、十分に理解しました」


……チッ。


頭の回るやつと毒を吐いても、手応えが半分ぐらいになる。


私たちは勤務兵の後について、医療区の廊下を歩いた。


廊下のあちこちに、前線から引き上げられたばかりの人間が転がっていた。装甲の半分が吹き飛んだまま座っているやつ、片腕ごと再生支架さいせいしじゃに固定されているやつ、体はまだ生きているのに目だけが先に退院してしまったみたいなやつ。自動担架が行き交い、医療アームが空中で交差し、警告灯が安物のナイトクラブみたいに点滅している。空気の全体に「今日もたくさんの人が死にかけた」という正直な感じが漂っていた。


そうそう。


これが連邦らしい。


さっきの医療艙みたいに静かだと、世界は案外優しいのかもしれないという誤解を生みかねない。


私たちは最終的に、臨時指揮室りんじしきしつに連れて行かれた。


ドアが開いた瞬間、私の第一印象は:


わ、ここ、冷房効きすぎ。


第二印象は:


わ、この人たち、全員報告書を書くのが上手そう。


部屋には三人の軍官と、一人の情報担当らしい女、それに人生全部を「眉間にしわを寄せる」ことに使ったんじゃないかと思うような白髪の老人がいた。


彼は机の奥に座り、肩章の重さが、私の人生よりずっと重そうだった。


私とデイヴィッドは机の前に立たされた。


本来なら気をつけをするべきだろう。


実際には、肋骨を動かすと痛いので、「場を最低限は尊重しているふりをしつつ、身体は限界までサボっている負傷兵」の姿勢で立つことにした。


白髪の軍官が私を一瞥した。


次に、デイヴィッドを一瞥。


最後に、視線を手元の戦闘記録に戻した。


「お前が星野霜か」


私は頷いた。


「今のところは」


横の情報官の目尻がぴくっと動いた。


軍官は怒るでもなく、ただ一つ戦術投影を呼び出した。半透明の映像が机の上に広がる。さっきの接舷戦と、その後の衝突までの記録だ。


なるほど。


照合作業ってわけだ。


一気に眠気が消えた。


「敵艦艦橋の制圧、火器管制の乗っ取り、複列位相エネルギーふくれついそうエネルギーほうの反転射撃、擬装制御不能、帝国巡洋艦への自爆的体当たり……」


一項目読み上げるたびに、部屋の視線が少しずつ私の方に集まってくるのが分かる。


正直、あまり居心地は良くない。


普段はただの「問題児」として群衆に紛れているのに、ある日突然呼び出されて、理由が「テストで満点取ったから」じゃなく「校長室を爆破した結果、なぜか学校にとってプラスになったから」だったとしたら——だいたい、こんな感じだろう。


誇っていいのかどうか、判断に困る。


「これらは、すべてお前の発案か?」


軍官が顔を上げた。


少し考えてから答える。


「大体は」


「大体?」


私は顎で隣のデイヴィッドを示した。


「射線軸、兵装パラメータ、火器管制の乗っ取り、帝国語UIは、主に彼。私だけだったら、たぶん戦術コンソールを戦斧で叩き壊して、『分かってくれ』って祈るぐらいしかできなかった」


デイヴィッドは、自分が巻き込まれるとは思っていなかったらしく、わずかに視線をこちらに向けた。


情報官も彼の方を見て、端末に基本情報を呼び出す。


「応用外語学部卒……」


彼女はそう読み上げて、微妙な口調になった。


横から私は追い打ちをかける。


「そうです。連邦は応外系を、接舷戦要員に使ってます。なかなかクリエイティブでしょ」


部屋の空気が一瞬、止まった。


その次の瞬間、白髪の軍官が小さく鼻で笑った。


短く。


でも確かに聞こえた。


……おや?


この人、完全に石頭ってわけでもないらしい。


彼は指先で机に軽くリズムを打った。


「創意工夫は、連邦の人事配置にあるんじゃない。お前たちが、本当にあの巡洋艦を潰して帰ってきたところにある」


それから、私を見る。


「一等兵。お前、自分が前線主力艦隊にどれだけの時間を稼いだか、分かっているか」


私は正直に答えた。


「知りません」


「少なくとも八分」


横の情報官が口を挟む。


「今の交戦密度だと、その八分で逆包囲されるはずだった陣形が、再整列を完了できる。お前たちは単に穴を開けただけじゃない。帝国艦隊に一回、火力軸の再調整を強要した」


私は二秒ほど黙った。


それから、一番大事な結論を口にした。


「へえ」


全員が私を見た。


私は一言、付け足す。


「じゃあ、軍功にはなりますよね?」


部屋が一瞬、静まった。


それから、軍官は今度こそはっきりと笑った。


大きな声ではないが、さっきよりずっとはっきりした笑い方だ。


「なる」


彼は言った。


「なるどころか。帰港後、お前の戦功は、私が直々に申請する」


直々。


このランクの人間の口から出ると、その二文字の価値は「今学期から成績オール優扱い」くらいの重さがある。


本来なら、嬉しがるべきなのだろう。


理屈の上では。


だが、頭の中で最初に浮かんだのは、これだ。


——それに、ボーナスはつくのか?


仕方がない。


長く貧乏をやっていると、「栄誉」と聞いたときにまずやる計算は、「これ、借金の足しになる?」だ。


私は咳払いした。


「えっと、閣下」


「なんだ」


「軍功申請には、通常、実質的な……その……補助は、付きますか」


情報官が、自分の唾でむせかけた。


デイヴィッドは顔をわずかにそらした。


絶対、笑いを堪えている。


軍官はじっと私を見た。目つきは複雑で、私が肝の据わった馬鹿なのか、ただの正直者なのか、判別しようとしている。


最後に彼はこう言った。


「生きて帰港して、受け取りに来られれば、の話だ」


……うん。


実に連邦らしい回答だ。


要するに、「金は出す。死ななければな」。


私は頷いた。


「じゃあ、頑張ってみます」


「是非そうしてくれ」


彼は今度はデイヴィッドに視線を向けた。


「それから、お前だ」


デイヴィッドは少し姿勢を伸ばした。


不思議なことに、さっきまで艦橋で地獄見学ツアーに放り込まれた文系学生みたいだった男が、この種の「机・投影・上官」の揃った部屋に入った途端、自動的に制度向きの顔に切り替わっていた。


人には向き不向きがある。


私はたぶん、生まれつき「制度をひっくり返す側」のほうだ。


軍官は書類を一枚めくった。


「お前は、上陸突入シーケンスの現場には向いていない」


デイヴィッドは何も言わず、静かに聞いている。


「語学能力、情報処理、火器管制補助。そのあたりの適性は、銃を持って突っ込ませるよりずっと高い。帰港後、前線戦術文書室せんじゅつぶんしょしつへの転属を命ずる。帝国語の訳読、および接舷戦データの解析を兼務」


……いいじゃない。


少なくとも、応外の頭脳を「戦死者リスト埋め」に使わずに済む。


デイヴィッドは半秒ほど置いてから、低く答えた。


「了解しました」


気のせいかもしれないが、その「了解」には、ほんのわずかに安堵が混じっていた。だが、それだけでもなかった。


「ようやく自分に合った場所に置かれたが、前線とは完全には切り離されない」と、ちゃんと理解している人間の声だった。


分かる。


連邦ってのは、文書室と第一線の距離が「一枚の命令書」しか違わない世界だから。


最後に、軍官は私たち二人を見回した。


「今回、お前たちはよくやった」


一拍置いて、言葉を足す。


「誰一人として、お前たちに期待していなかった状況の中で、だ」


その言い方は、軽かった。


でも、意味は分かる。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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