33. 全員、集結 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
九島真紀がその計画表を机に広げた瞬間、部屋の空気が「女子三人の寮トーク」から「単位も出ない作戦会議をゲリラ開催します」に切り替わった。
彼女はすぐにはペンを取らず、まずは私とジェスがぐちゃぐちゃに折り曲げた補給リストを一枚ずつ伸ばし、用途ごとに並べ替えていく。
食糧、医療、浄水、遮蔽、修繕、火起こし、固定具、個人私物。
私のチェリーコーラ十二本と『このライトノベルのタイトルがなぜここまで長いのか、編集部の頭はおかしいんじゃないか件について』三冊は、一番右端に分けられた。まるで宣告待ちの戦犯だ。
一気に気分が悪くなる。
「その顔やめてくれない?」私は指で机をトントン叩いた。「戦争ゴミを見る目しないで。あれは精神補給だから。」
「機能は否定していません。」九島真紀は淡々と言う。「確認しているのは、代償です。」
「それ、実質否定でしょ。」
「否定ではなく、値付けです。」彼女はペンを取り、空白に一行書き込んだ。字が無駄にきれいで、私のノートを教科書の見本にしたくなるレベルだ。「すべての補給は『持って行きたいかどうか』ではなく、『持って行くことで何を犠牲にするか』で決めるべきです。」
ジェスはベッドの上で膝を抱え、すっかり観客モードでそれを見ている。
「星野。」楽しそうな声だ。「今のを翻訳するとね、『お前が一本コーラを飲むごとに、どこかで誰かの命が減るかもね』って意味。」
「黙ってろ。」
「私は高級言語の通訳してあげてるだけ。」
九島真紀はもう手を動かし始めていた。
それも、見せかけで丸をつけたり、それっぽい見出しを書くだけの偽装作業じゃない。まず私たちが作った四人用の基準表を引っ張り出し、隅に「現三人編成」と書き足す。そこから総重量、可分配重量、個人負荷上限を一から組み直していく。
私は横でのぞき込みながら、どんどんイラついてきた。
なぜって、これは技を見せびらかしているんじゃない。
私の元のリストの骨組みを、一本ずつ抜いているからだ。
「ちょっと待って。」さっき彼女が線を引いた欄を押さえる。「なんで予備の発火セットを二組から一・五組に減らすの。一・五って何その中途半端な数学。」
九島真紀は顔も上げない。
「ハーヴィー・ノックスの工具セットに標準のスパークモジュールと乾燥コットンが入っているなら、完全な第二セットの硬式発火器は不要です。メイン一組と交換用コア一組で十分。」
私は眉をひそめる。
「ハーヴィーの工具セット、見たことないでしょ。」
「実物は見ていません。」彼女は言う。「でも、資料どおり装備整備型で、今の班で最も信頼できる修繕係なら、持っていないほうが不自然です。」
あまりにも当然みたいに言われるので、一瞬、言い返す言葉が見つからなかった。
ジェスがゆっくり補足で刺してくる。
「このロジックひどいね、星野。つまり、『ハーヴィーが持ってなかったら、ハーヴィーが信用ならない』ってこと。」
私はジェスを見る。
「お前、どっち側の味方?」
「面白い側。」
……はい、知ってた。
九島真紀は、私が押さえていた紙をするりと抜き取り、そのまま書き進める。
「次は浄水タブレット。ここ、標準一人分プラス三日分で書いてあります。理論上はきれいですが、現場の負荷としては重すぎます。」
「重かろうが死ぬよりマシでしょ。」私は言う。
「だから削るのではなく、」彼女は別の欄をペン先でちょんと突いた。「配分を変えます。浄水タブレットの半分を個人救急パックへ、残り半分を共通補給に分散。単一喪失で班全体の浄水能力が死ぬのを防ぐ。」
その行を見つめながら、私は黙った。
だって——正しい。
腹が立つくらいに、正しい。
彼女が直すのは、「これはいらない」「それ捨てろ」と教範みたいに切り捨てるやり方じゃない。まず問うのはこうだ。何が一番先に壊れるか。何が壊れたら班全体を巻き込むか。本当に重要だけど、フル重量で存在する価値のないものはどれか。
乱暴に言えば、すべての装備を「いざという時に裏切る物」として見ている。
この思考パターンは、嫌いだ。
けれど、よく知っている。
なぜなら、この学校が最初から叩き込んでくるのは、つまりそういうことだからだ——
安定して見えるものほど、最悪のタイミングで壊れる前提で動け。
「医療テープ二巻きは少ないですね。」九島真紀が言った。
私はすかさず顔を上げる。
「ほら、言った。あたしの実戦仕様、間違ってなかったじゃん。」
「量じゃなくて、種類の問題です。」彼女は私を見やる。「防水型が一本で、通気固定型が二本。高湿度環境では先に壊れるのは包帯ではなく皮膚です。比率を逆にしたほうがいい。」
ジェスはベッドから落ちそうな勢いで笑った。
「星野、よかったじゃん。やっと『バカ』って罵るだけじゃなく、どこをどう買い間違えたかまで指摘してくれる女の人と出会えたよ。」
「これ以上騒ぐと、お前を『使い捨て資産』の欄に入れるからな。」
「いいね、そのカテゴリー。戦術的価値を感じる。」
九島真紀は私たちの無駄話などなかったかのように、さらさらとペンを走らせていく。
余計なハードシェル水筒を削り、折りたたみ式のウォーターバッグは残す。私がこっそり紛れ込ませた三冊目のライトノベルは容赦なく「非推奨」に追放されたが、その一方で一冊を「ストレス安定物資」に移し、横に小さくこう書き添えた。
一冊に限定。理由:情緒維持コストが重量コストを下回るため。
私はその一行を二秒ほど見つめる。
「……今の、私のラノベに滞在許可出したってこと?」
「はい。」彼女は淡々と答えた。「低コストの安定要素を完全に削るのは、必ずしも高効率ではありません。」
思わず彼女を見た。
この人、どこか壊れている。
けれど、壊れ方が上等だ。
ジェスもすっかりツボに入ったようで、腹を抱えて笑っている。
「おめでとう、星野。あんたの『このライトノベルのタイトルがなぜここまで長いのか、編集部の頭はおかしいんじゃないか件について』、晴れて正式な戦略資産に格上げ。」
「そんな誇らしげにフルタイトル読むな。」
「読むよ。」
九島真紀がコーラの欄にたどり着いたところで、ペン先が初めて止まった。
私は即座に警戒態勢に入る。
「先に言っとくけど、ここは譲らないから。」
「譲らないポイントではありません。」彼女は言う。「交渉領域です。」
「何が違うの。」
「譲らないなら動かせません。」彼女は顔を上げて私を見る。「でも、さっきライトノベル一本は残すことに合意した。つまり交換には応じる。」
言葉が出なかった。
ジェスが嬉しそうに息を吸い込む。
「バレたね星野。あんた『口では文句言いながら結局折れるタイプ』って、完全に解析された。」
「お前、今日一日張り倒されたいのか。」
九島真紀は視線を落とし、コーラの欄に数字を書き込む。
12 → 8
私は即座に手を伸ばした。
「却下。」
彼女はペンを取り上げるでもなく、用紙をこちらに向けて、隣の欄を指さした。
「四本分、高塩分の圧縮ビスケットと電解質パウダーに振り替え。コーラが悪いからではなく、火炎嵐前後の高熱消耗期に、糖分と香料だけでは身体がもたないからです。」
「私の身体は私が感謝する。」
「あなたの腎臓は感謝しません。」
ジェスは咳き込むほど笑った。
私はその数字をにらみつけ、三秒ほど葛藤してから、歯ぎしり混じりに口を開く。
「十。」
「八。」
「九。」
「八に、ライトノベル一冊を既に上乗せしています。」
「……本当に面倒くさいな。」
「ありがとうございます。」彼女は言った。「今のは『まだ正しい方向で面倒くさい』という意味だと解釈します。」
椅子をひっくり返したくなる衝動に駆られる。
もっと腹が立つのは、その言い分がいちいち正論なことだ。
結局、チェリーコーラ十二本は九本に減らされた。彼女は八本を主張し、私は十本を要求し、ジェスが間に入って「じゃあ九で。全員が少しずつ不満なところに落とすのが一番公平」と、ろくでもない第三案を出してきて——
なぜか採用されてしまった。
しかも、私はそれを受け入れた。
この事実だけで、かなり屈辱だ。
「じゃあ、最後。」九島真紀はペンを置き、修正済みの表をこちらに押し出す。「ルート責任と夜間見張り。」
私は覗き込んで、目を細めた。
元の「順番で回す」というザル欄が、きっぱり役割ごとに割られている。
第一次観測:九島
第二次観測:ジェス
装備点検・締め:ハーヴィー
突発接触および近距離対応:星野
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