31. 人間関係の調停、という名の脅迫 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ハーヴィー・ノックスに対して「この男、意外と使えるかもしれない」という失礼な評価を初めて抱いたのは、林間学校の編組名簿が出た翌日の夕方だった。
場所にロマンはないし、雰囲気も綺麗じゃない。夕陽もなければ運命もない。ただ、下院の混成寮の裏手にある、いつも機械油の匂いが漂っている半屋外の整備用通路と、学生より先に卒業したように見える古い工具ロッカーの列だけ。
私は自分のバックパックを抱えてそこに立っていた。中身と同じくらい、気分もぐちゃぐちゃだった。
「お前、熱帯雨林で生存訓練を受けるんだっけ?それとも家出して安物の文具フェアにでも行く気?」
ハーヴィーはしゃがみ込んで、私のバッグをためらいもなくひっくり返した。次の瞬間、私の持ち物が公開処刑のように、彼の足元に一つずつ落ちていった。
防湿バッグ、医療用テープ、交換用フィルター、塩のタブレット、速乾インナー、ロープ二巻き、エナジーバー、簡易浄水タブレット、ジャーキー三袋、桜桃コーラ二ケース、そしてライトノベル三冊。
そのうち一冊は、表紙を上にしたまま床に落ちていた。タイトルがバカみたいに大きな文字で印刷されている——
『このライトノベルのタイトルがなぜこんなに長いのか、編集部の頭は大丈夫なのかという件について』
ハーヴィーはそこでようやく顔を上げて、私を一瞥した。 その目つきは説明しづらい。無理に言えば、戦場で補給箱を開けた整備兵が、中に生きたニワトリが入っているのを見たときの表情に近い。
「……本気か?」 「十四歳がラノベを買っちゃいけない法律でもある?」 「ない」彼は淡々と本をつまみ上げた。証拠品か何かを扱うように。「だが重量制限のある状況でこれを火嵐地帯に持っていくのは、持ち主が死ぬ前にせめて二巻までは読み切るつもりだという意思表示に等しい」
私は本を取り返して、表紙の埃を払った。 「これは精神的な補給。スパナに欲情するタイプにはわからない世界」 「まず、俺はスパナには欲情しない。次に、お前のメンタルが桜桃コーラと、こんな自暴自棄みたいなタイトルの本に寄りかかってるなら、さっさと遺書を書いたほうが効率的だ」 「お前、ほんと口悪いな」 「ありがとう。それでここまで生き延びてきた」
彼は一切恥じる様子もなく、むしろどこか職人の誇りすら滲ませていた。私は白眼を剥きかけて、途中でやめた。というのも、ハーヴィーはもう私の荷物の再分類を始めていて、その手つきがあまりにも速く正確で、頭の中に最初から「バカが自滅しないよう補正するアルゴリズム」でも標準装備されているみたいだったからだ。
左の山、右の山、そして真ん中に小さな山。真ん中だけ、何かの死刑囚みたいに別枠で積まれている。
私はしゃがみ込んで覗き込んだ。 「この分類は何のつもり」 「左がお前に本当に必要なもの。右があってもなくてもいいもの。真ん中が、お前の足を引っ張るか、お前を殺すか、あるいは隊の連中に心の中で呪われる原因になるもの」
真ん中の山を見やった。 桜桃コーラ二ケースのうち、一ケース半がそこにいた。
思わず残り半ケースの前に手を広げた。 「駄目、これ以上は減らせない」 ハーヴィーが目だけを上げた。表情は相変わらずだ。 「理由」 「糖分、カフェイン、液体、精神安定」 「それ、前にも聞いた」 「だったら、完璧なロジックだってわかってるでしょ」 「わかったのは、お前が人工香料に病的に執着していることだけだ」
私は睨んだ。彼も睨み返した。二秒ほどの睨み合いの後、彼はそっと一ケース半を押し返し、半ケースだけを真ん中に残した。六本。
「最大で十二本までだ」 「交渉成立」 「まだ話は終わってない」彼は付け足した。「条件として、これは下ろせ」
二本の指でつまみ上げたのは金属製の保温ボトルだった。けっこういいやつで、軍用品店で買ったばかりだ。丈夫で、保冷機能付きで、メモリまで刻んである。昨日は自分でかなりセンスがいい買い物だと思っていた。
「どうして」 「重いし、うるさい。雨林で転んだら、岩に当たる音だけで半径三十メートルの人間が、お前の華々しい最期を見物しに来る」 「私が転ぶ前提で話すのやめてくれない?」 「重装課の第三班突入で、お前は左足をドア枠に引っ掛けて、右足で自分のストラップを踏んで、最後は身体ごと緩衝マットにダイブした。それは『前提』じゃない。記録に残っている事実だ」
黙るしかなかった。 この男、記憶力は人を辱めるためにしか使わないのか。
「……よく覚えてるね」 「見応えがあったからな」 「死ね」 「林間学校が終わってからにしろ。今は生きろ」
口調は相変わらず、部品番号の読み上げと大差なかった。でもなぜか、喉に引っかかっていた苛立ちが、そこで少しだけ摩耗した。
ハーヴィーは保温ボトルを私の腕に放り返し、代わりに二つのソフトタイプの折りたたみ水袋を押しつけてきた。 「こっちを使え。空なら潰してしまえるし、満タンでも光を反射しない。立派なボトルは寮に置いとけ。帰ってきたら、また文明人に戻ればいい」 「言い方ひどくない?林間学校に行ったら人間扱いされないわけ?」 「されるさ」彼はロープを標準的な収納ループにまとめながら言った。「少なくとも、荷物扱いはされないようにな」
時々、本気でこの男の頭を桜桃コーラの缶で殴りたくなる。 もっと困るのは、彼の言うことがだんだんわかり始めている自分だ。
「ねえ」私は指で彼の肩をつついた。「なんでこんなに口出すわけ?」
ハーヴィーの手が一瞬だけ止まった。
半屋外の通路に、夕飯前の、どっちつかずの熱気を含んだ風が吹き込んできた。グラウンドのほうではまだ誰かが周回していて、その足音は青春に対するある種の虐待みたいに規則正しかった。
すぐには答えず、私の医療テープを手に取って、ラベルを確認して、眉をひそめた。 「これ、防水じゃないな。替えろ」 「話そらさないで」 「そらしてない」 「十分そらしてる」 「俺の崇高な人格について議論する前に、お前の足が湿気で腐る問題を先に片付けようと言ってるだけだ」 「誰が崇高な人格の話なんかしてるか。お前がこっそり『嫌われ者だが頼らざるを得ない奴になる方法』みたいな資格を取ってないか気になっただけ」
ハーヴィーがようやく口元を緩めた。 大きな笑いでもなければ、女の子の心拍数を上げるようなタイプの笑みでもない。ただ、「目の前のこいつは面倒だが、まだ助ける価値はある」と認定したような、ごく小さな動き。
「少なくとも、お前は話を聞くからな」 「は?」 新しい防水テープを投げてよこしながら、彼はまだ同じ平坦な声で言った。 「話を聞くって言った。初回は覚えないし、二回目は口答えするし、三回目は人を罵るけど、最終的にはだいたい言ったとおりにする。そういう奴は、プライドだけ高くて突っ走る馬鹿よりよほど救いがある」
一瞬、固まった。 これは褒められているのか罵倒されているのか、本気で判別がつかない。
「……今の、褒めた?」 「リスク評価をしている」 「結果は?」 ハーヴィーはちらりと私を見て、バックパックのサイドについていたゆるんだストラップを引き締め直した。指先は、勝手にはほどけにくくて、いざというときには一気に引きちぎれる結び方を、迷いなく作っていく。
「結果は、お前が十三本目のコーラを詰め込まなければ、元より生存率はかなり上がる」 「ほんと、その場の空気を全部壊していくよね」 「ありがとう。その才能には自信がある」
言い返してやろうと立ち上がった瞬間、ストラップがさっきまでと全く違うふうに肩に馴染んだ。重さが一気に背中に密着して、何も考えずに全部を突っ込んだときの、「誰かに首根っこを後ろから引かれている」ような感覚がない。試しに二歩ほど歩いてみると、さっきよりずっと軽かった。
思わず足を止めて、もう二歩歩いてみた。 ハーヴィーは顔を上げもしなかった。こうなることは最初からわかっていた、というふうに。
「違いがわかったか」 「……少し」 「少しじゃない。かなりだ」 「うるさい」 「生きているうちに文句を言え」
別の人間が言えば、それはほとんど呪いだろう。 ハーヴィーが言うと、なぜか不器用な保証のように聞こえる。
——生き残れるまで、罵ってやる。
大体そんな意味だ。
ほんと、好意を表現するのにすらサンドペーパーを使ってくる男だ。
私は『このライトノベルのタイトルがなぜこんなに長いのか、編集部の頭は大丈夫なのかという件について』をバックパックのインナーポケットに押し込み、ついでに記録カードをページの間に挟んだ。ハーヴィーはそれを見逃さなかった。何も言わず、視線をそこで一秒だけ止めて、そのまま何事もなかったように逸らした。
ほんの短い一秒。 錯覚かと思うくらい。
それでも、彼が見たことも、私が説明したくないことも、彼が理解して、あえて聞かなかったことも、私はわかっていた。
それは、どんなきれいな言葉より、ずっと信頼に近い。
私はしゃがみ込んで、残りを手早く詰め直した。外の空はじわじわと暗くなり、下院の混成寮に灯りがつき始める。ボロボロで、なんとか浮いているだけの船みたいに。
「ハーヴィー」 「ん」 「もし、林間学校で私が本当に何かバカなことをやらかしたら——」 「『もし』はいらない」 「黙れ」私はにらみつけてから、声を落として続けた。「お前、手を貸してくれる?」
こんどは、彼もすぐには答えなかった。 ただ、工具箱の蓋を閉めた。カチリという音と一緒に、何か別のものも箱の中にしまい込んだみたいに。それから立ち上がって、私より半頭分高い位置から見下ろした。グレーの目には、廊下の灯りが映っても、ぬくもりもごまかしもなかった。
「場合による」 「おい」 「自分で死にに行くなら、まず罵る」彼は言った。「誰かに突き落とされたなら、引き上げてから、誰が押したかを覚えておく」
瞬きを一度した。
相変わらず言い方はどうしようもなく悪い。 けれど——
「大丈夫、守るから」とかいう台詞より、なぜかずっと安心した。
ハーヴィーは軽々しく何かを誓うタイプじゃない。「場合による」と言うときは、本当に状況を見て決める。「罵る」と言うときは、きっと容赦なく罵る。でも「引き上げる」と言った以上は、多分本当に引き上げる。
バックパックを背負い直した。今度は素直に背中に沿って、昨日みたいに「一緒に道連れになろう」と首を絞めてくる感じはなかった。
「お前も同じだからな」私は言った。 ハーヴィーが眉を上げた。 「何が」 「壊れた部品か、腐った制度か、そのうえ自分の性格の悪さで死にかけたら、ちゃんと一報入れろ」腕を組んで、できるだけ威勢よく聞こえるように言った。「助けてやるかどうか考えてやる。そのついでに笑ってやる」
ハーヴィーは二秒ほど私を見て、それからまた口元をわずかに動かした。 「まずは医療テープを正しいやつに買い替えてから、人助けの話をしろ」 「ほんと、お前って奴は——」 「行くぞ」彼は工具箱を持ち上げて、寮の入口のほうへ向きを変えた。「明日の朝六時、お前の荷物を確認する。必要なものが一つでも欠けていたら罵るし、要らないものが一つでも増えてても罵る」 「ちょっと待て、それどこにも公平性ないじゃん!」 「軍校に公平なんて贅沢品はない」
振り向きもせず、そう言い捨てた。
私はその場に立って、ほとんど別物みたいに再構成されたバックパックを抱えながら、あの男の背中を見て、ふと笑いたくなった。
この世界は、本当におかしい。 私はずっと「相性がいい」というのは、言葉を交わさなくても通じ合う、そういう高級な何かだと思っていた。実際は、「口を開いた瞬間に『あ、今日も怒られる番が来た』とわかりつつ、言われたとおりにする」のも、ある種の相性なのかもしれない。
……まあいい。
この学校で、口は悪いくせにバックパックのストラップをちゃんと締めてくれる人間に会えたなら、それはもう運がいいほうだろう。
ポケットに手を入れると、こっそり死守した桜桃コーラの缶が一本、指先に当たった。冷えたアルミが掌に触れて、安っぽいのに妙に確かな幸福感をくれる。
私はそのまま、ハーヴィーの背中を追いかけて走り出した。
「おい、工具バカ」 「何だ」 「明日、もしバッグの中が十一本しかなかったら、罵るの一回減らしてくれない?」 「減らさない」
「じゃあ、十二缶なら?」
「十二回、説教してやる」
「あんた、鬼かよ!」
「ああ」彼はようやく顔をこちらに向け、淡々とした口調で言った。「バカの余計な荷物を没収する専門の、な」
私は思わず吹き出してしまった。しかも今回は、本当に。
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