それでも、忘れなかった
登場人物(最終章時点)
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■ 黒瀬 恒一
年齢:30歳
立場:青嶺学園教師
黒瀬 恒一
本作の主人公。
かつて
私立霧崎学園 で教師をしていた。
しかし、
* 生徒との問題
* 学園崩壊
* 教育委員会問題
* 榊原の陰謀
によって全てを失う。
その後、
地方の
青嶺学園 へ移る。
現在は静かに教師を続けている。
以前より感情を見せなくなったが、
授業だけは今でも本気。
また、
クロガミ と出会ったことで、
橘 ひより に関する記憶を失っている。
ただし、
心の奥には説明できない喪失感だけが残っている。
現在は
杉田 百子 と共に新しい人生を歩き始めている。
一言でいうと
記憶を失いながら前へ進む教師
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■ 杉田 百子
年齢:29歳
立場:青嶺学園教師
杉田 百子
黒瀬と同じ学校で働く教師。
穏やかで優しい性格。
しかし内面はかなり強い。
過去に婚約者を事故で失っている。
そのため、
“過去に壊される苦しみ”
を理解している。
黒瀬の過去を全て知ったうえで、
隣に立つことを選んだ。
現在は黒瀬と共に暮らしている。
黒瀬の心に“誰かの痕跡”が残っていることにも気づいているが、
無理に踏み込もうとはしない。
一言でいうと
傷を知っているから寄り添える女性
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■ 橘 ひより(たちばな ひより)
年齢:21歳
立場:元・霧崎学園生徒
橘 ひより
黒瀬の元妻。
秘密の結婚生活を送っていた。
しかし、
学校崩壊事件の末、
別れを選ぶ。
現在は別の男性と交際している。
穏やかな生活を送っているが、
心の奥には大きな空白が残っている。
実は、
黒瀬との記憶が消された瞬間、
ひより側にも“喪失感”だけが残った。
理由は分からない。
だが、
時々涙が止まらなくなる。
一言でいうと
忘れられた側になってしまった元妻
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■ クロガミ
クロガミ
人の、
* 後悔
* 未練
* 絶望
* 忘れたい記憶
へ現れる謎の存在。
黒いコート。
赤い瞳。
関西弁で話す不気味な男。
人間なのか、
悪魔なのか、
幻覚なのか、
正体は不明。
代償と引き換えに、
人の記憶や感情へ干渉する力を持つ。
黒瀬から、
ひよりとの記憶を消した張本人。
ただし、
“感情の残り香”までは完全に消せていない。
そのため黒瀬は、
理由もなく胸の痛みを感じることがある。
一言でいうと
記憶を喰らう謎の存在
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■ 榊原 漣司
年齢:48歳
立場:元・霧崎学園教頭
榊原 漣司
かつての事件の黒幕。
* 美月
* みく
* 校内の噂
* 証拠写真
を利用し、
黒瀬を破滅へ追い込んだ。
事件発覚後、
教育界から姿を消す。
現在は消息不明。
一言でいうと
全員の人生を壊した黒幕
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■ 七瀬 美月
年齢:21歳
立場:元・霧崎学園生徒
七瀬 美月
かつてひよりの親友だった少女。
榊原の愛人関係となり、
黒瀬破滅計画へ加担。
現在は表舞台から姿を消している。
子供を産んだという噂もあるが真相不明。
一言でいうと
依存と愛に壊された少女
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■ 水城 みく(みずき みく)
年齢:21歳
立場:元・霧崎学園生徒
水城 みく
叔父から脅迫され、
黒瀬へ接近した少女。
しかし途中から本気で恋をしてしまう。
事件後は地元を離れ、
静かに暮らしている。
現在も黒瀬への罪悪感を抱えている。
一言でいうと
恋と後悔を抱えて生きる少女
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■ 奈々星 雫
年齢:21歳
立場:元・霧崎学園生徒
奈々星 雫
ひよりへの嫉妬から、
秘密を教育委員会へ漏らした少女。
本人は正義のつもりだった。
しかし結果的に、
多くの人生を壊す引き金となった。
現在は、
自分の行動の重さを理解し始めている。
一言でいうと
嫉妬から全てを崩した少女
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■ 奈々星 雅臣
年齢:53歳
立場:教育委員会職員
奈々星 雅臣
教育委員会側の人物。
娘・雫から情報を聞き、
霧崎学園調査へ関わる。
しかし調査の中で、
学校内部の腐敗や陰謀を知る。
現在も榊原問題を追っている。
一言でいうと
真実を追い続ける男
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■ 青嶺学園
青嶺学園
黒瀬が再出発した学校。
過去ではなく、
“今の教師としての力”
を重視する学園。
黒瀬と百子にとって、
新しい人生の始まりの場所。
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■ 最終テーマ
この物語が最後に描いたのは、
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「忘れても、心だけは覚えている」
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という愛の形。
最終章:それでも、忘れなかった
三年前。
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すべてを失った。
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教師としての未来。
愛した人。
守りたかった日々。
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それでも時間だけは止まらない。
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*
春。
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青嶺学園 。
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「黒瀬先生、また徹夜ですか?」
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呆れた声。
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杉田 百子 がコーヒーを置いた。
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黒瀬 恒一 は苦笑する。
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「……少しだけ」
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「その“少し”が危ないんです」
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百子はため息をつく。
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でも。
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その目は優しかった。
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*
三年。
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黒瀬は変わった。
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笑わなくなった。
感情を隠すようになった。
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けれど授業だけは違う。
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本気で生徒と向き合う。
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その姿だけは昔のままだった。
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だが最近。
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妙な夢を見る。
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夕焼け。
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教室。
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泣きそうな声。
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「旦那様……」
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そこまでなのに。
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顔だけが思い出せない。
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「……誰なんだ」
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胸だけが痛む。
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*
一方。
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遠い街。
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橘 ひより もまた、
空を見上げていた。
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今の恋人は優しい。
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穏やかな毎日。
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幸せなはずだった。
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なのに。
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時々、
理由もなく涙が出る。
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「ひより?」
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「……ううん、大丈夫」
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そう言いながら、
胸の奥が苦しかった。
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何か大切なものを、
置いてきた気がする。
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*
その夜。
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黒瀬の前に、
“それ”は現れた。
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雨の路地裏。
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黒いコート。
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赤い瞳。
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異様な気配。
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「……誰だ」
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男は静かに笑った。
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「人はワシを、クロガミって呼ぶ」
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*
■ クロガミとは
クロガミ
人の、
* 後悔
* 未練
* 絶望
* 忘れたい記憶
に現れる謎の存在。
人間なのか、
悪魔なのか、
幻覚なのか、
誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは、
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クロガミに出会った人間は、
人生を書き換えられる
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ということ。
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*
「お前、まだ過去に縛られとるな」
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クロガミが言う。
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「……意味が分からない」
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「忘れたいんちゃうんか?」
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黒瀬の目が揺れる。
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忘れたい。
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罪も。
痛みも。
失った日々も。
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そして。
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あの人も。
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「代償は?」
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クロガミが笑った。
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「記憶や」
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「忘れてしもたら、人は前に進める」
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「せやけどな」
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赤い瞳が細くなる。
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「ほんまに大事なもんまで消えてまうかもしれへんで?」
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*
次の瞬間。
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世界が歪む。
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頭痛。
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崩れていく記憶。
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夕焼け。
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教室。
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涙。
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「旦那様……」
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その声が、
消えていく。
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「っ……!!」
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黒瀬が膝をつく。
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苦しい。
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なのに。
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何を失ったのか分からない。
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*
翌朝。
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「黒瀬先生?」
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杉田 百子 が首を傾げる。
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「なんか今日、少し顔が穏やかですね」
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「……そうか?」
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黒瀬は窓を見る。
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不思議だった。
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ずっと胸にあった痛みが、
少しだけ消えている。
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何かを忘れた気がする。
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でも。
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思い出せない。
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*
帰り道。
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「先生、今日ご飯作ります」
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「また焦がすだろ」
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「今日は大丈夫です!」
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百子が笑う。
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黒瀬も少し笑った。
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自然に。
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本当に久しぶりに。
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百子はその顔を見て、
静かに目を細める。
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*
百子にも過去があった。
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昔、
婚約者を事故で失っている。
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だから分かる。
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人が、
過去に縛られて壊れていく苦しさを。
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だからこそ。
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黒瀬を救いたかった。
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*
一方。
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橘 ひより 。
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夜。
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突然、
涙が止まらなくなる。
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「……なんで」
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理由は分からない。
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でも。
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何かが。
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永遠に遠くへ行ってしまった。
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*
路地裏。
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クロガミが笑う。
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「これでええ」
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黒い影が揺れる。
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「人間いうんはな」
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「忘れへんと前に進まれへん生き物なんや」
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そして。
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クロガミは闇へ消えた。
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*
春。
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新しい日々。
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黒瀬 恒一 は歩く。
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隣には、
杉田 百子 。
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穏やかな空気。
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笑い声。
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普通の日々。
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それは、
昔ずっと欲しかったものかもしれない。
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そして。
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百子との世界が、
ここから始まる。
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けれど。
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夕暮れ。
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ふと。
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黒瀬の胸が少し痛む。
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「……?」
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理由は分からない。
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でも。
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春風の中で。
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遠くから。
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「旦那様」
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そんな声が聞こえた気がした。
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完
クロガミの演説
暗い路地。
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誰もおらへん世界。
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黒い影だけが立っとる。
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赤い瞳。
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そして、
クロガミ は静かに笑った。
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「人間いう生き物は、ほんま難儀やなぁ」
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「忘れたい言うくせに、忘れられへん」
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「捨てたい言うくせに、手放した瞬間に泣きよる」
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クロガミは夜空を見上げる。
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「愛?」
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「絆?」
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「運命?」
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「そんな綺麗な言葉並べてもな」
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「結局、人間を壊すんは“感情”や」
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笑う。
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せやけど。
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その顔はどこか寂しい。
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「せやからワシは救ったるんや」
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「忘れたい奴から、記憶を奪う」
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「前に進めへん奴を、歩かせる」
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「過去に殺されるくらいやったら、消した方が楽やろ?」
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風が吹く。
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黒いコートが揺れる。
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「けどな」
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クロガミの赤い瞳が細くなる。
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「人間いうんは、ほんまおもろい」
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「記憶を消しても」
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「感情だけ残りよる」
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「名前を忘れても」
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「心だけは覚えとる」
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小さく笑う。
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「せやから厄介なんや」
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遠く。
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春の風。
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誰かの笑い声。
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誰かの涙。
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「黒瀬」
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「お前は忘れた」
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「せやけど、お前の心はまだ泣いとる」
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「ひより」
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「お前は失った」
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「せやけど、お前の愛はまだ残っとる」
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クロガミは静かに振り返る。
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「ほんま、人間は愚かや」
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「せやけど――」
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一瞬だけ。
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優しい目になる。
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「せやから、美しいんかもしれんなぁ」
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闇が揺れる。
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赤い瞳が消えていく。
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「ほな、また会おうや」
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「次に“忘れたい”と願った人間の前でな」
⸻
完




