第9章 美しいもの
足の回復に時間は掛かったが、徐々に回復した。
だがヒロシにも、“風はるか”にも奇妙な事件が起き始める。
1983年10月後半・・ヒロシは病院に行くのであった。
無論だが、暴行され折れた肋骨と足首の骨折の治療だった。ヒロシはまともに歩けるようになるまで、松葉杖をつき大学に通っていた。
いまだに松葉杖が必要だったが、徐々に回復はしていた。ヒロシの両親も流石に心配になり、今日は遠くにもかかわらず静岡の病院に来ていた。
「それで先生、ヒロシの状態はどうなんですか。ひと月になりますが、いつになったら松葉杖が要らなくなるんですか?」
整形外科医の先生は、ヒロシと両親を真剣な眼差しで見て言うのであった。
「・・うーん・・難しいです。谷さんの足首にあるこの小さい骨がくっ付かないんです。それが原因で踝の前側が曲がりづらく、痛みが引かないんです。」
先生はレントゲン写真をみせながら言うのであった。
「でも、治るんですよね。治療すれば・・」
「・・非常に言い難いのですが・・あのですね。」
ヒロシにはある程度の覚悟が出来ていた。
「先生!はっきりと言って下さい!」そう聞いた。
「う〜残念ながら、この部分の修復は手術でもあまり例がないんですよ。それに自然と完治する人も居ますし。ただ多くは一生治らない・・となる人も居ます。ですので、今は様子を見ていくしかないんです。誠に恐縮です。申し訳ない・・」
ヒロシの両親は愕然とした。このままヒロシが不自由な身体で生きる・・そう思い母はつい泣いた。
ヒロシは母親に心配かけぬように、2人を見て言った。
「だ・大丈夫だよ。きっと若さと気力で治すし、リハビリもするから、深刻にならないでよ」
そう言い宥たが、実は本人が一番ショックであった。
両親はヒロシに大学を辞め、実家に戻るように勧めた。不自由な足で一人暮らしは厳しいと分かっていた。しかしヒロシは頑なまでに断り、今の足のまま大学に通うと言ってきかなかった。
次元をどうしても戻したかった。
ヒロシは松葉杖でもできるバイトとして本屋を選んだ。接客や本の整理に・・足が悪く苦しかったが、元気に走り回る居酒屋のバイトは辞めるしかなかった。
正直なところ心底悔しかった。一つの事件でこんな形になり、自分の人生を恨んだが、元々は自分が“風はるか”の誘惑に負けたせい・・そう考えたのであった。
ヒロシの両親は身障者の手続きをし、来月から僅かだがお金も国から支給される。また暴行したマネージャーは会社を解雇となり、起訴処分を受け僅かだが和解金もあり、せめてもとしアパートだけは引越しをした。体に障害を持つヒロシにトイレや風呂で不自由をさせたくなかった両親だった。
「こんないい部屋・・親父もお袋もこんな綺麗なところに住んだこと無いくせに、俺に用意してくれて・・うううっ・・ごめんなさい」
ヒロシは啜り泣き故郷にいる両親に謝った。
事件後の生活がガラッと変わり、友人関係にも変化が生じた。それまでの井上達仲間とは事件後は、互いに声を掛けなくなっていた。
まさしく次元が変わってしまった。
ヒロシは11月になるのを契機に、同じ大学の先輩にまで試験のアドバイスをして生活を保った。現在のアルバイト代だけでは、生活に困窮していたのだった。
苦しさの中で生きる事の難しさをあらためて実感していたのであった。
大学2年になりある日の事だった。
1通の手紙が彼に届いた。
唯一ヒロシはこの次元で予定通りになる事・・嬉しくもあり、悲しくもあり、心境が複雑だった。
(拝啓・・ヒロシ君お元気ですか?もうすぐ21歳だね。私は元気だよ。東京の芸能事務所で働いていたけど先月末で退社しました。・・寿退社。“はるか”さんに聞いたと思うけど私、お見合いした人と結婚します。早いと思ったけど、出会いや別れや縁は一瞬に訪れて、一瞬で去っていくもの。ヒロシ君とは結果的に縁なく・・お見合いの人は縁があったんだと思う。・・きっとヒロシ君は立派になって、先々に会える事が楽しみ。その時は「おー元気だったか」そう声かけてね。さよならは言わない。元気でね。私の愛したヒロシへ)
ヒロシには次元の歪みが起こした異常を常に感じていたが、恵美は間違いなく正しい道を選び、自らの決意で彼に別れを告げた。元々はこのストーリーだった。
ヒロシはこれでいい・・そう言い涙した。
だがヒロシは心にある恵美との想いが消せずにいた。
勉強をしても、バイトしても想いが募る一方だった。
この人生で初めてだが、第一の人生の時と同じ失望感を覚えた。苦しさも同じだった。
寝る際に目を閉じると、彼女の笑みが脳に映り込み、度々起き上がり、ベランダに出てタバコを吸った。
(いいじゃん・・諦めなよヒロシ!もういいんだよ。本来の流れと選択になったのだから、彼女の幸せを祈ればいい・・それが自分にできる事だろう)
そう幾度となく心に思い、募った昔の彼女への想いに、蓋をするように自分に言い聞かせていた。
そんな心痛ある5月の半ばに、また1通の別のハガキが届いた。
それは“風はるか”からだった。
ヒロシの脚はまだ完璧でもない・・松葉杖は不要となったが、まだ不自由であった。
元を正せばあの事件で、こんな事になっていたが、あの後にマネージャーが暴力行為で起訴され、ある程度の社会的罰も受けた事で安心もしていた。ただ・・事件は闇に放り込まれ、表面化されなかった。
ヒロシは彼女に会いたいとは思わないが、彼女の歌は偶に聞いてはいた。いつの間にかヒロシのアドバイス通りの曲調で、少しは自分のおかげか?そう思い嬉しさもあった。
(谷ヒロシ様・・ごめんなさい。私がした事は謝っても謝り切れない。どうして部屋に行き、あんな行為をしたのか分からない・・けど、責任は私にあります。ここで改めて謝罪いたします。
今の私の曲・・谷さんからのアドバイスで作れた。そう感じています。どのようなものかは分かりませんが、確実に変わりました。この点は御礼申し上げます。ただ・・私・・どうやって貴方を知ったのでしょう?・・接点?ございませんよね?谷さんがお声掛けしてくれたとお聞きしています。
足の治療にお金が掛かるのであれば、言ってください。追加で費用をお支払いいたしますので。
言い難いですが、今後はわたくしと関わりなくお願いします。
この度は多大なるご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。ここに謝罪いたします。 風はるか)
ヒロシは驚いた。「えっ!何これ?」
ただ・・ヒロシは別に彼女が憎いわけでも無かった。
だが自分を知らない?バカバカしいと思った。
自分にキスまでしておきながら、他人行儀とは些か笑えた。
「まあ、あんな事になれば、大スターだし他人行儀になるわな。誰だって。だからって、知り合った理由がわからない・・へーえ、最悪。まあいい。大学で会っても知らんぷりでいいから助かるわ!」
ヒロシはそんなふうに考え、“風はるか”の事は一つの汚点として忘れようとした。
大学入学後の2回目の10月10日が近づいた。
井上とは疎遠となり、サユリを紹介する人物も居なくなった。今は生真面目な佐藤が唯一の友人であった。
彼は何かにつけて、アイドルおたくだった。
松田聖子に中森明菜、小泉今日子に森尾由美まで、レパートリーが広かった。ヒロシも彼の話で“風はるか”の実情を確認できた。
「ふ〜ん。それで明菜とマッチは付き合ってるの?」
「付き合っていないよ!明菜ちゃんは皆んなのアイドルだから、マッチなんかに色目使わないよ!僕らのツッパリお嬢だから!」
「そうなんだ。ところで“風はるか”は最近どう?」
「はるかお姉様ですか?・・最近はアイドル感が薄れたけど、相変わらず可愛いし歌も抜群に上手い!同じ大学だけど全然会えない!ヒロシも無いだろ?」
ヒロシは困った表情で「まあ(汗)ねえ!」
何度も会ったと言ったら騒動になるとヒロシは思い、即座に嘘をついた。
佐藤はアイドルの事になると必死だった。
当時ベストテンが流行っており、佐藤は食い入るようにテレビに齧リついていた。
「おおーサノリョウコ様・・可愛い!チュチュ!」
ヒロシは佐藤を見て青ざめていたが、急に“風はるか”が出てきてヒロシは佐藤を押し退けテレビをガン見したのだった。
「あー今週も1位か・・最近は聖子ちゃんとデットヒートだね!明菜もいるけど・・今は風はるか?かな?」
司会の久米さんがインタビューをしていた。
「はるかちゃんは、どんな時に歌を考えるの?意味深な歌詞ばかりだけど・・」
徹子さんも「そうりゃ!恋をしてる時よねー!」と。
“風はるか”は「・・う〜どうですかね?今・・恋してるから・・かな!ねえ!Hiroshi!」
佐藤は汗を掻きながらヒロシを見て「ち・ち・違うよな?谷じゃ無いよな!」
ヒロシは焦って「ま・ま・まさか!俺じゃ無いよ。会った事もないし。く・く・久米さんでしょ。ジョークで。そんな流れだよ!」
テレビの中でも久米さんが照れながら「参りましたね!俺だとは気づかなかった!と言うか、全国のヒロシさん!良かったですね!」そう言い盛り上げていた。徹子さんも「少なくともあなたじゃ無いわね!」
「では!今週も1位!“風はるか”さんで(美しいもの)」
ヒロシは冷や汗をかきながらブラウン管を覗いた。
(えっ・・何でまた。関わり持ちたくないんだろ?ややこしいなぁ!・・まあ、俺の事じゃ無いし、ジョークだな。きっと・・そうに決まってるよ)
ヒロシはそう思いながら、彼女の歌を聞くのであったが・・彼女の後半の歌詞に驚いた。
佐藤は“はるか”の歌を聴きながら、ノリノリであったが、ヒロシは曲のリフや旋律がどこか自分に似ていて、嬉しくなっていたところであった。
(彼を大きく傷つけた 心にも傷あるよね? 近くに居たのに今はなんて遠いの 私・・伝えたいのに 君に
ILove you・・)
テレビ越しに見る“風はるか”の目は自分を見ているようでドキドキが止まらないヒロシだった。
(何なんだよこの歌詞・・心が揺さぶられちゃうよ)
歌が終わると和かな笑みを浮かべる彼女が眩しかった。まるであの日の彼女を思い出すようであった。
「いやーやっぱりいいな、彼女の歌は・・引き込まれる感アリアリだよな。それに相まったようなキュートな微笑みが聖子ちゃんとは違うよね!最高!」
ヒロシの胸はなぜかドキドキが止まらなかった。
ヒロシはどうしたことか?その晩から“風はるか”の言葉が気になり始め、事あるごとに彼女の唇を思い出していた。柔らかくそして温かい・・まるで恵美を思い出すほどだった。17で恵美と初キスをして・・(なんか変な味がする!)って言って照れて、もう一度キスした。忘れてない・・なぜかその感覚に似ていた。どこか不器用でだけど愛がこもっていて・・心から好きだ・・そう思えた。
そんな事を思い、頭から彼女の(美しいもの)の曲が離れず四六時中流れていた。
(俺・・どうしたんだよ。変になったんか?)
ヒロシはそう思うようになり、このままでは不味いと、突然、日帰りで北にある高原に出掛けた。
「ああー気持ちがいい!空気がピン!っとしていて、迷いが無くなるようだ。やっぱり来て良かった・・」
ヒロシの頭から彼女の顔や声が失せていた。
ヒロシの脚も完全では無いが、自由が効くまでに偶然にも回復していた。あの忌々しい事件もだんだんと薄れていった。
ヒロシは売店で高原水を購入し、ベンチに座り込み、ゆっくりと口に水を含んだ。
そこに唯ならぬ声と共に人が走り寄ってきた。
「あー!アー!見つけた!発見!発見!」
走り寄ってきたのは会う事は無いと信じていた“風はるか”本人だった。ヒロシはこれは大変だと思い、ベンチを立って走り出した。
(何でここに居るんだよ!偶然にしては馬鹿げてるよ)
そう言いながら完治していない右脚を庇いながら走り出した。しかし・・その瞬間だった。
「このー!待てえ!」
そう彼女は叫ぶと、履いていた登山靴に似た靴を脱ぎ、おもいきりヒロシめがけ投げた。
「ごつん・・」靴はヒロシの後頭部にあたり、ヒロシは痛みで座り込んでしまった。
「痛いな!何するんですか?恨みがまだあるんですか?ああ痛っ・・」
「はーはー・・って言うか・・君が逃げるからだよ!はーはー疲れた」
そう言いながら彼女も芝の上に座り込んだ。
小顔に深くキャップを被り、ショートパンツにトレーナーと薄い革ジャン姿で、ヒロシが持っていた水を奪い一気に水を飲み干した。
「ちょちょちょっと・・俺の水。口つけたんだ」
“風はるか”は気にも止めず飲み干してしまった。
「あー美味しかった。・・えっ!口つけてたの?」
「だから・・そう言ったじゃないですか!」
「・・そっか。だから変な味がしたんだ。・・でも平気だよ。君のだから気にしないわ」
そう言い笑うのであった。ヒロシはドキッとしたが、
「もう・・会わない約束では?」
「うん!手紙ではね。書くのを事務所の社長が同席してたから。他人行儀になった。」
ヒロシには一抹の不安が過ったが、ここは上手くやり過ごすべきと考えた。
「しかしコントロール良いですね?俺の後頭部に確実に当たるように投げましたね!」
ヒロシは無論の事昔の恵美との再会を思い出していた。顔は全然違うが、どこか恵美に似た行動を偶にする彼女が少々気になっていた。
「どこ?・・痛かった?ふーふー、撫で撫で・」
「平気ですよ。石が当たったわけじゃ無いし」
「良かった・・ねえ、ところで大丈夫なの足の方は?走ったりして。治るまでかなり時間掛かったでしょ?ごめんね。ほんと私のせいで・・」
ヒロシはそっと空を見上げて
「ええ・・大丈夫です。それにあなたが悪いわけじゃありません・・。キスをした僕が悪かったんです」
彼女も真似をする様に空を見上げて
「良かった・・君の足がダメになったら私・・芸能界辞めようと思ったわ。君にテレビだとしても私の顔を見せる事が辛くなる。まだ私たちに運があったのね」
ヒロシは笑いながら軽く頷き、彼女が何故にここに居る事について聞くのであった。
「プロモ撮影よ。新曲の(美しいもの)の・・さっき終わって車で帰る時に偶然に君を発見して、逃しちゃ不味いと思って走ってきたわ。・・そしたら逃げるから」
ヒロシは再び笑いシチュエーションは違うが、恵美との再会時と似ていて更に回顧していた。
「再会・・だね。僕たち」
「うん。また何処かでHiroshi Taniに会えると思ったよ。願ってた。・・こう見えても結構一途だしウブなんだからね私・・」
「そっか。でもその・・Hiroshi Taniって言う呼び方やめて欲しいです。なんか・・困ります」
「えーそんな事が気になるんだ。いいよ!何て呼べばいい?谷君とか谷とかヒロシとか?」
「うーむ、君が呼びやすかったら、どれでもいいですよ。横文字以外なら」
「うーむ、じゃあ、ヒロシでどう?親しい仲みたいでいいんじゃない?」
「まあ・・それでも良いですけど、谷君ではダメですか?その呼び方だと凄く近しい呼び方ですから」
「いいえヒロシにするわ。呼びやすいし。ねえ!ヒロシ君!・・どう?いいでしょう?・・でも近しい呼び方嫌がるのは・・元カノにそう呼ばれていたから?そうでしょう?・・あゝ、まだ未練あるんだ」
不服はあったが、彼女の可愛い目を見るとドキドキしていたヒロシだった。いつしか恵美と目の前の彼女がダブつき、つい呼び名をOKしてしまった。
「それじゃ・・こっちからも。その丁寧語は辞めましょう。なんか・・私の“上から目線”に感じるし、同じ21歳なんだからタメ口でいきましょう!」
ヒロシは友達でも恋人でも無いと思ったが。
「うん。分かった。俺もそうするよ。でも俺は君をなんと呼べばいい?“はるか”さんとか?“風”さんとか?、それともフルネームで言った方がいい?」
「まったく!分かってないな!決まってるでしょう!エ・リ・カでしょ!本名なら分からないから、二人の暗号みたいでいいかもよ」
ヒロシは確かに過去に彼女の本名を聞いていたが。
「さすがにそれは・・不味くないですか?いや、不味いよね?まるで友達や恋人みたいだし。それに・・またどこで会えるか分からないし。“風はるか”さんでいいんじゃない!」
だが彼女はヒロシを睨み言うのであった。
「私ね。あなたとのキスが初めてだったよ。16で芸能事務所に入って、お付き合いもした事ないし、男の人と仕事以外で話すのも久しぶりだった。家に帰ると安心してたわ。だけど・・あの日のヒロシのキスは衝撃だった。えーこの人に吸い込まれる・・そんな感覚だった。私から先にキスしたら、なんか変な味がして・・でもヒロシからされたら、吸い込まれるように安心して身を任せてしまった。だから・・責任とってよね!私のファーストキスの。まあ・・何したわけじゃないけど。キスだって女性には大事なの!分かった。だからいつ会えるかじゃなくて、会いたくなったら会えばいいの!エリカに会いたい・・そう願って。そうしたら通じるから。私も願うわ。そしたらヒロシが会いにきて!ね!」
“風はるか”の言葉は又しても、過去の恵美の言葉とダブっていた。ヒロシはデジャブ?そう思いながら焦っていたが、車のクラクションが鳴り彼女に早く車に乗るように催促があった。
彼女は「じゃあ行くねヒロシ!またね!連絡手段は・・」彼女はそう言い当時は珍しかった、携帯電話番号をヒロシに渡した。
渡し終えるとヒロシの手を握り、手を振り走っていった。その姿が又しても、恵美との別れた時とダブったのであった。遠ざかる彼女は急に立ち止まり振り向いた。
「ねえー!知ってる!先週だけど!恵美が結婚式したわ!すご〜く幸せそうだったわよ!・・じゃあ!」
車に戻り“風はるか”は「しつこいファンで・・握手だけしました。えへ!」そう誤魔化した。
重なる二つの影は美しいものだった。
恵美と“風はるか”・・違う人間なのに、まるで磁石のように寄ってくる・・
ヒロシにとって、”風はるか“がサユリなのか?とも思えていたが、庶民と大スター・・余りにも格差があり、絶対に上手くいかない道だと感じるのであった。
ただ・・あの恵美が結婚・・ヒロシは一気に気持ちがどん底になっていた。
帰り道で今までの短い人生を回顧したヒロシだったが、どうも・・最初のエミリとの絡みが・・この次元を歪ませた・・忘れてはいないが、何か怪しく思えた。この次元に来たのがあのタイミングで、好かれるはずがない彼女が豹変していた。
最初から誘っていたし、寮母さんがあまりにも激変してた。あり得なかった。母親が娘のSEXに一生懸命なんて・・しかも将来が約束もされない自分にだ。
彼女の温かみや恋する姿勢にも嘘が感じられなかったけど・・何かおかしい。そう思うヒロシだった。
だが・・どうしても恵美の結婚の話が頭から離れなかった。
部屋に戻るといつもの様に佐藤が平凡と明星<当時のアイドル雑誌>を交互に見ていた。
ヒロシは意気消沈した気持ちで帰り道で、大量のビールを買い込み座ると同時に「プシュ!」
ビール開け一気に飲むのであった。
「珍しいな?ヒロシがビールなんて・・何かあったのか?元気も無いし?」
「まあっ!お前も飲めよ!1人で飲むより、気が紛れそうだし・・」
そう言いながヒロシは佐藤に缶ビールを渡した。
「そっか?じゃあいただくよ!」
2人は取り止めのない話を2時間以上もしながら飲んでいたが、ビールがなくなりヒロシは流しの下にストックしていた梅酒を出した。
「おいおい!まだ飲むのか?いい加減にしろよ!具合が悪くなるぞ!」
佐藤は缶ビールをテーブルに置くとヒロシを止めようとした。が、ヒロシはコップに梅酒を注ぎ、飲み始めたのだった。
佐藤は呆れ返り「じゃあ、俺は部屋に戻るよ」
そう言い隣の自分の部屋に行ってしまった。
ヒロシの心は複雑に壊れていた。
(あの第一の人生と同じだ・・恵美が結婚式をした日に、牛山さんから電話があったな。結婚式に行ったって・・凄く綺麗で幸せそうに笑みを浮かべてた・・と。今日同じように他人から恵美の結婚を教えられ・・どの次元に飛んでも、僅かなチャンスがあったけど・・俺が無理して彼女の人生を変えてしまった。だから・・この事は本来なら喜ぶべきだ。彼女は自分の人生を無事に選択したんだ。俺みたいなグータラな人間じゃなく、元の優しい人の元に・・嫁いだ。それだけ・・でも、なぜ?どうして?・・悲しくて苦しくて、涙が止まらない!うううう・・)
いくら飲んでも酔いが回らず、恵美の笑い顔が見え、見た事がなはずの彼女のウエディングドレス姿が頭の中を席捲するにであった。
結局ヒロシは梅酒の一升瓶を抱えたまま、台所で酔い潰れていた。
次の日、なぜか温かく感じて起きるヒロシだった。
「あれ・・俺はいつ布団を敷いて寝たんだろう?台所で酔い潰れたんじゃ?・・えっ!?」
昨夜あれほど飲んだビールの缶も、乾き物のゴミなど部屋中が汚かった筈が綺麗に整頓されていた。
「俺・・夢遊病者?なのか?・・でも・・」
ヒロシが昨日着ていた服が綺麗に畳まれており、自分はパジャマで寝ていた。しかも・・枕元にコップに水や二日酔いの緩和剤が飲んだ形で置かれていた。
「またか・・3度目だ。俺が暴行を受けた早朝に、病院に連れて行った。期末試験初日で吐血して倒れたあの晩・・そして今日。いったい・・どう言うことか?」
ヒロシは更に驚愕した。誰かがヒロシに歯磨きをさせていた。
「歯に粘つきもない・・母親でもしないけど。それにパンツまで履き替えてる・・謎過ぎる」
ヒロシは佐藤に聞いたが、誰もヒロシの部屋に来た様子はないし、佐藤はあの後に直ぐに寝ていたと言って二日酔いで頭を抱えていた。
気掛かりであったが、合鍵は佐藤しか持っていないし、朝起きた時にはドアの鍵は掛かっていた。
ヒロシは少し恐ろしくなっていた。
(もしかして・・異次元から?誰かが来て俺の面倒を・・あゝ、あり得ない!俺自体が異次元の人間だよ!・・じゃあ・・誰が?)
ヒロシは悶々としながら着替えをして、大学に向かうのだった。
「おお!おはよう!もう大丈夫か?足は?」
声を掛けてきたのは、あの井上だった。
「ああ・・なんとかね。すっかりじゃないけど、それなりには良くなったよ」
「まあよかったな。お前のことマコが心配してたからな。でも元気になって安心したよ」
「そう言えばお前との約束守れなくて悪かったな。もう一年も前だけど。迷惑かけた」
井上はヒロシの顔を見て「いいよ。いいよ。あの時のことは。代わりに飯島を誘って行ったからさ。それに飯島のやつ来ていた、サユリと付き合うようになってな、今じゃラブラブだよ。俺のおかげだ・・」
そう言い井上は笑った。
「おお来た来た・・お二人が」
ヒロシは井上が見ている方に振り向くと驚愕した。
まさしくそこに居たのは、サユリであり第一の人生で結婚した彼女だった。
(こ・・こんな事になってるのか。俺がサユリに出会わなくてはならなかったのに・・)
ヒロシはそう心に思いながら講義に向かおうとした。
そこに井上が「折角だから挨拶でもしなよ!」
そう言いヒロシを引っ張り2人の方に行くのであった。
「よう!飯島ちゃん!今日も彼女とラブだね。手なんか繋いで。・・あ?!こいつ?、本当は1年前にお前が行くきっかけを作った本人!そう行く筈だったヒロシだよ。いい男だろ?頭良いし、バンド組んで歌も上手い。それになんと言っても2枚目だろ・・良かったな。あの日に一緒じゃなくて!」
「ええ!あのヒロシなの?ビックリだ。こんな男前だなんて・・信じられないな!・・なあ!サユリ!」
サユリは飯島の背に隠れながらヒロシを見て赤くなっていた。その目がヒロシには懐かしかった。
(あの目・・そうだったな。あの澄んだ瞳に惚れたな。でも結果は君を不幸にした。・・そのヒロシだよ!)
ヒロシはそう心で思いながら2人の姿を見ていた。
「ええっ!なにお前赤くなってんだよ!まさか・・こいつに一目惚れ!マジか!・・まったく行くぞ!」
飯島は赤くなり恥ずかしがるサユリの手を引き校舎に入っていくのだった。
「あゝ残念だったなヒロシ!彼女!可愛いけど!もう飯島の“もの”だから諦めなよ」
「・・辞めろよ。井上。彼女を“もの”扱いするの!それに俺は見ていただけで、下心もないさ。バカが!」
「バカとは何だよ!」
井上はヒロシの態度に頭にき、ヒロシの胸ぐらを掴んだ。「偉そーに!お前が行きたいって言うから誘ってやったのに、怪我して来れなかったんだろ。・・羨ましいなら、羨ましいーって言いなよ。このガリ勉が」
そう言いヒロシを殴った。
ヒロシは倒れたが起き上がり「良かったよ・・お前と縁を切って。こんな友達ならこちらから願い下げだよ。俺を試験のための道具みたいに考えていたんだろう。俺に僅かな飯を奢って、裏では俺を彼女みたいに“もの”扱いしてたんだろ!」
井上は更に怒り再度胸ぐらを掴み殴りかかろうとした。ヒロシは抵抗せず殴られた。井上が馬乗りになり再度殴ろうとしたが・・
「いてて・・痛っ!なんだよ!」
その時に井上の手首を押さえつけ、合気道の要領で捻じ上げた人物がいた。
「ちょっと!私のヒロシに何すんのよ!この汚い手を折ろうか!そっちの手をヒロシから外しな!」
「あゝ・・ダメだ」
ヒロシは小声で合図するのだった。
「いいのいいの・・私に任せて!」そう目で合図をする“風はるか”だった。
井上はヒロシから手を外すとエリカは「エイヤー」と雄叫びをあげ、井上を投げ飛ばした。
エリカはヒロシの手を引き急いでその場を離れたのだった。
「あははっ!・・助かったわね!ヒロシ」
「ちょっと!バレる所だったぞ。“風はるか”だって」
エリカはキャップを取るとヒロシの顔を見て
「どこ?・・どこ」
「何が?」
「殴られたところ・・跡が無いわね?大丈夫か?」
「ちょっと!どうして黙って殴られるの?あの女子に色目使ったわけじゃ無いでしょう?」
ヒロシは少し下を向き「ああ・・色目を使った訳じゃないけど・・ちょっと複雑でね。説明できない」
「そう?でもね・・殴られっぱなしじゃ・・悔しく無いの、抵抗しないの?どうして黙っているのよ!」
ヒロシはまたしてもドキッとした。
(あの中学時代に俺がイジメを受けていた時に、恵美が俺に言った言葉と同じだ。どうしてもこうも重なるんだ。恵美から詰問されてるようだ)
「元は友達だった。あいつとは大学入学から暫く、仲良くやっていたからな。俺が突っかかったのが、我慢できなかっただけだよ。・・でも助けてくれてありがとう。エミリ・・」
エミリは薄っすらと笑みを浮かべた。
「バカ・・エミリって言われたら嬉しくてたまらん。ヒロシが私をそう呼ぶと、怒りも治っちゃうわよ。」
講義の時間でヒロシはトイレに寄り、講義室に向かった。
(あれ?彼女はどこに行ったんだ?)
“風はるか”はヒロシがトイレに行っている間に居なくなっていた。
(あ!いたいた・・)
ヒロシは彼女を講義室の1番後ろの窓際席に発見し、そっと近づき小声で言った。
「ねえ!もっとキャップを深く被りな。バレるよ」
“風はるか”は「・・・?誰ですか?」
きょとんとする彼女に「ヒロシ・・えっ?」
ヒロシは開いた口が塞がらなかった。
さっきまでの“風はるか”とは別人のような目で日を見て、迷惑そうに見ている。
「あの・・もしかして・・谷ヒロシさんですか?」
ヒロシは戸惑いながらも「ええ、そうです・・」
そう答えるしかなかった。
「えっ!その節は・・申し上げますございません。私のせいで大怪我をされ、大変ご迷惑をお掛けしました。・・でも、お声掛けは今日でお終いにして下さい。貴方との事が週刊誌に掲載されそうだったので・・でも大丈夫です。事務所の社長が揉み消しましたから。・・心に傷はあるかも知れませんが、私も同じなので理解をお願いします・・」
そんな2人を見た他の学生が「あれ・・“風はるか”じゃん?変装してる?って!隣の男は誰?」
少し賑やかになりそうになり、“風はるか”は一目散で講義室を出て行った。
そこに佐藤が来て「ああ!ヒロシ!“風はるか”と話をしたのか?」
呆気に取られていたヒロシだったが、佐藤の声で我に帰り「・・いや!隣に席いいですか?って尋ねただけだよ。そしたら逃げちゃった」
佐藤は「何だよ。・・ヒロシがなんか話でもしたのか?と思ったよ。残念〜」
だがそこに井上の彼女であるマコが寄ってきた。
「ねえ?ヒロシ君。私さっき見てたよ。あなたの足のこと話してたよね。なんか・・親しいのかと思ったけど、あの子に絶交されてたよね。なんかした訳?」
ヒロシはしまった!と思った。聞こえぬように小声だったが、エリカがマコと仲がいいと聞いていたから、近くに座っていたと思った。
「あのアイドルと仲がいいんだ。マコ?」
佐藤は目を丸くし驚いた。
「ええ!マコさん、“風はるか”さんと友達なんですか?」
マコは笑い「そんな訳ないでしょ!何で私がスターと仲がいいの?こっちが聞きたいわ!」
ヒロシは驚きはしないがなぜ、そんな嘘を付いたのか?それが不可思議だった。
「とにかく!何でも無いよ!凡人と大スターに共通点は無いよ。それにマコの空耳だよ。・・おっと教授がきた」そう言い席に座るのであった。
ヒロシはいつものようにノートに講義の要点をまとめ、講義内容を完璧に頭に仕舞い込んだ。
“風はるか”はヒロシと真逆の席に座り講義をひっそりと受けていた。
講義が終わると学生たちは“風はるか”に群がり、声を掛けられていた。
(どうなってるんだ?急に・・他人行儀になったり。理解に苦しむな!もしかして二重人格?・・うん!そうだ。きっとそうなんだ。でも・・あの表情は朝のエリカと別人だった。目が違っていた。・・ん〜ん!やっぱり二重人格だなあれは!)
ヒロシは関わらぬように、その人混みを避け4号棟を出て帰るのであった。
遠くで嫌な騒ぎ声が聞こえた。
「おまえだな、俺を投げ飛ばしたの!」
そう言い井上が“風はるか”の腕を掴み睨んでいた。
「何のことですか?私には何が何だか分かりません!手を離してください!」
周囲の学生は驚き「離せよ!井上!はるかちゃんに何するんだ!」
学生たちは井上を押さえようとしたが、
「あのね!こいつが俺の手を捻って、投げ飛ばしたんだ。証人だっているぞ!なあ!ヒロシ!」
ヒロシは頭を抱え「知らん!俺には関係ない!」
「そっかだったら、こうするよ!」
そう言い井上が右手を挙げ彼女を叩こうとした。
「いかん!」ヒロシは咄嗟に走り“風はるか”の前に立ち、井上のビンタを喰らった。
「おおーお前!」
井上は驚き彼女の手を離した。
その隙にヒロシは“風はるか”の手を引き、迎えにきてた車に乗せ「早く!早く出してください!」
そう言い運転手を急かせた。
彼女は泣きそうな顔でヒロシを見た。
車が出るとヒロシは井上達に殴られていた。他の学生は“風はるか”の乗ったワゴン車を追っていた。
遠くで殴られるヒロシを車内で見ていた彼女は「止めてください。車を止めて!」
「ダメです!今止めたら、ファンにもみくしゃににされますよ!ダメです!」
運転手は車を止めずに急いで大学を出て行った。
ヒロシは殴られたが、大したことはなく、家に帰り居酒屋のバイトに行くのであった。
ヒロシはその晩にアパート近くにある公衆電話ボックスに来ていた。100円玉を20枚ほど準備していた。
「ああ〜これで何分話せるのかな?まあ、今日のお詫びだけだから大丈夫だよな・・」
ヒロシはエリカから貰った彼女の連絡先で携帯電話に電話をするのだった。
「あゝ、俺、ヒロシ。今日は申し訳ない。じゃあ」
ヒロシはそう言い電話を切ろうとした。それもそのはずで30秒程度で100円玉が飲み込まれるのであった。
「き・・切らないで。私にも話させて下さい。・・大丈夫なんですか?私を庇って殴られたみたい・・」
「ええ、大丈夫ですよ。殴られるの慣れているから。心配無用です。それよりビックリしたよね。井上達に囲まれて。俺のせいで本当にごめん」
ヒロシはとにかく謝るのであった。
「・・あのですね。どうして私の電話番号知ってるんですか?お教えした記憶がないんです」
「あゝそう!偶然だよ!ある人に教えてもらった」
「えっ?誰ですか?」
「う・・難しいなぁ。まあ、いいじゃないですか。もう電話はしませんので、大丈夫ですよ。番号も忘れますから」
「・・分かりました。・・怖かった。でも勇気ある行動に助けられました。ありがとうございます」
「いいんんです。僕が悪かったんです。ごめんなさい。じゃあ、歌を頑張って下さい」
そう言い電話を切った。
ヒロシは彼女がまったく理解できなくなっていた。
(まったくの別人だった。おかしすぎるだろ?トイレに行ってる間に人が入れ替わったのか?・・んなバカな。でも・・あの2、3分で入れ替わるのは無理だろ。じゃ?・・)
一方で“風はるか”は
「何なのあの方・・まるで私を知り合いみたいに寄ってきて。過去に私がキスしたとマネージャーが言っていたけど・・んん・・いい男だわ。でも忘れなきゃ」
そう言いヒロシを気になっていたが、あっさりと気持ちを切ってしまった。
ヒロシが部屋に戻るといつもの通り佐藤がアイドル雑誌を涎が垂れそうな状態で見ていた。
「佐藤!よくも飽きずに見られるな!同じ雑誌を何回も・・まったく」
ヒロシは佐藤の同じ行動が不思議でならなかった。
「見ろよ!見ろよ!ちょっとヒロシ!」
「な・何だよ!」
「これ・・“風はるか”お嬢様の水着姿と言うよりビキニ姿・・チョーいい!」
ヒロシは佐藤の言う雑誌のカラー写真をマジマジと見てしまったのであった。
「なあ!・・この子結構ボインだよね。それにチョー細いウエストに大きいお尻・・たまんないよ」
確かにそうであった。昔の雑誌である為、しっかりとスリーサイズが書かれていた。
(えー、バスト88、ウエスト58、ヒップ90・・ええ)
「なあ、驚きだろ?こんな胸に顔を埋めたいよな。河合奈保子ちゃんもボインだけど、“風はるか”の方がキュートな体型だよな!」
「さ・佐藤。帰ってくれ!勉強するから・・」
「おおー興奮したな!これ置いていこうか?」
「いい!いいから持って帰ってくれ!」
「自分でこくなよ!」そう言い佐藤は帰って行った。
(どう言うことだ・・いったいどうなってるんだ)
ヒロシが驚いた。無論エリカのスリーサイズではあるが、(まったく・・全て同じだ。身長も体重もスリーサイズも・・恵美とまったく同じだ。しかもB型の魚座であり、太腿に子供の時に負ったと恵美が言っていた痣まで一緒だ。顔と性格は違うが、手に触れた感覚や唇の感触まで恵美に似ている)
ヒロシは暫くじっと自分の手のひらを見つめていた。
「自分に似た人間がこの世には3人いると言う都市伝説があるけど・・エリカが恵美とダブって見えたのは、その体系のせいもあるのか?」と気付いた。
ヒロシは頭を抱えて考えた。
(きっと俺は恵美の結婚がショックでエリカが恵美に見えていたのかもしれない。でも・・おかしな点がいくつもある。いや!俺が幻を追ってるんだ!)
ヒロシは急に頭が痛くなった為、身支度を済ませて布団を敷いて寝ることにした。
「ああ・・俺の考えすぎだろう。恵美は嫁いだんだ。もう彼女でもなく、俺の記憶の中に住んでるだけだ」
そう思いながら疲れて眠ってしまった。
朝方・・
11月だがかなり冷え込んだ朝になりそうだった。
ヒロシは寒さで布団を被り足を縮め、寒さを凌いだ。
その時だった。
「ねえ・・寒い?寒いの?」
ヒロシは夢にまで恵美が現れ、心配をしてくれる彼女を思うのだったが、急に背中に人の温かみを感じるのであった。
(これは・・夢ではない・・)
ヒロシは怖かったが、温かみは確かに恵美から感じるものと似ていたし、ヒロシの背後から抱きつき、柔らかい胸の膨らみを感じた。
(・・恵美だ。あり得ないけど。この感覚は忘れない・・彼女以外のものではない)
そう感じて「・・恵美?なぜ君はここに?」
彼女は暫く黙っていたが・・
「私の大好きなヒロシ君・・ちょっとだけこのままにして。あなたを感じていたいの。だから・・」
ヒロシは訳ありそうな恵美に言葉をかけずに、真っ暗ななか振り返り彼女を抱きしめた。
「うん。そうするよ・・」
2人は抱き合いながら、冷たくなった足を触れ合っていた。昔のように。
それから2時間くらい経ったであろうか。ヒロシは目が覚めた。ヒロシはハッと思い自分の懐を確認するのだった。
そこには確かに彼女がすやすや眠るのであった。
(良かった・・夢じゃなかった。でも・・どうして恵美がここに居るんだ?結婚して、千葉に居るのでは?)
ヒロシは彼女を起こして確認しようとした。
「・・恵美。恵美・・・ん?・・アー!!」
ヒロシは思わず声を出してしまった。
眠っていたのは恵美ではなく、“風はるか”だった。
「ち・ち・ちょっと・・“風はるか”さん。何でここに居るの?俺の布団にまた!」
「えっ?ん?・・って?ここどこ?この部屋私のお部屋じゃないわ!。で、なぜ、あなたがいるんです!」
そう言い顔を上げると「きゃー!きゃー!嫌!」
叫ぼうとする“風はるか”の口をヒロシは塞ぎ、慌てていた。
「お・お・俺が叫びたいよ!まったく!どうやって部屋に入ったんですか。どうなってるんですか?」
ヒロシはゆっくりと“風はるか”の口を塞いだ手を離し言うのであった。
「わからないわ?私には覚えがないわ。谷さんが私を拉致したんじゃ?」
「そんな訳ないでしょう!だろ?君の家の住所すら知らないのにどうやって拉致できるんだよ!」
“風はるか”は少し冷静になり、Tシャツにショーツ一枚の姿であることに気づき、
「きゃーイヤ!私のジーンズどこですか!」
ヒロシはテーブルの椅子に掛けてあるジーンズを指差した。
彼女は慌てて起き上がり、ジーンズを素早く手にした。
その時だった・・「内股の痣がない・・昨夜見た雑誌の写真にはあったのになぜ?」
そう思い昨日の雑誌を覗き込んんだ。
「な・何ですか!こっちを見ないでください!エッチ!嫌らしい!」
彼女の太ももを見たヒロシは少し赤くなり、
「見てませんよ!は・は・早く履いて下さい。
「兎に角、私急がないと・・今日は紅白歌のベスト10だから、堺正章さんに挨拶しないといけないの!」
そう言うとあっという間にヒロシの部屋を出て、駅から電車に乗り、迎えの車がいる近隣の駅に急いだ。
“風はるか”は急いでいた為、カバンの中の雑誌を間違え、ヒロシの部屋にあった物を持ってきてしまった。
「ん?・・これって私の水着姿。ハハーン・・谷さん私の水着姿見て興奮したんだわ。ほんとエッチ!
でもどうしたのかしら私・・うーむ?ハー・・・
今日のことは全て無かったことに・・えっ?何この鍵?私のはこっちだから。ええっ!これって谷さんの部屋の鍵!なの?・・どうして私が持ってるのかしら。・・返そうかしら?それとも捨てる?・・そんなのだめ。誰かが拾うかも?まあ後でマネージャーに捨ててもらおう!それに深く詮索するのはやめよう。疲れちゃうわ。」
そう独り言をブツブツと言いながら、駅につき迎えの車に乗り込み東京のスタジオに向かった。
日テレの紅白歌のベスト10は珍しくスタジオでの生放送だった。
「あゝ!堺さん!おはようございます!」
「おおー”風はるかちゃん!いつも可愛いね!」
「今日はよろしくお願いします。この番組初めてだから、ちょっと緊張してます」
「いやーはるかちゃんがやっとオファー受けてくれて良かったよ。いつも順位の発表だけだから。今日は初めて生で聴けるね!よろしく!」
(おかしいわ。別にこの番組出るのは・・いいのに)
番組は終わり、“風はるか”は皆に挨拶をして、車に乗り込むのであった。
「マネージャーさん?何で私がこの番組を敬遠していたんでしたっけ?別にそんなことないのに?」
「えっ?“はるか”さんがご自分で断って!って言ってましたけど。乗り気じゃないと・・」
「私!そんなこと言ってません。次から出ますから」
“はるか”がそう言うと、マネージャーは少し首を傾げ「は・・はいー」と返事をした。
「あの・・ごめんなさい。私すごく疲れちゃって。悪いですけど、次の雑誌のインタビューをずらしてもらっていいですか?家で休みたいの・・」
マネージャーは“はるか”が疲れていることを察し、
「いいですけど、マンションでいいですか?」
「ごめんなさい・・実家にお願いしてもいいですか?ゆっくり眠りたいの」
マネージャーは仕方がなく、エリカを千葉の実家の側まで送り届け帰って行った。
「ただいま!お母さん・・」
「あら!エリカ帰ってきたの?帰るなら電話してよ。何もないわよ。」
「いいの。お風呂に入って、ゆっくり眠りたいわ」
「あら・・そう?だったらパジャマ用意しとくわね」
「ありがとう・・お母さん」そう言うとエリカは、お風呂に浸かるのであった。
(しかし・・何で私は番組を拒否したの?それになぜ?今朝は谷さんの部屋に行ったんだろう?無意識?まさか・・でも谷さんの部屋の鍵?どうやって入手して私が自分で持ってるのかしら・・ん?しまったわ!鍵を持って帰ってきちゃった・・マネージャーに渡すの忘れたわ・・仕方がない。実家の引き出しにでも入れておこう。それなら大丈夫よね)
エリカは静まり返った家で1人カップ麺を食べていた。
とすると・・
(・・ん?何?・・聞こえる。頭の中で・・えっ?)
エリカは違和感を覚え、寝不足が原因かと思い、部屋で休むことにした。
夜中・・
(ヒロシ君・・ヒロシ君・・熱い・・燃えるように熱いわ。感じる・・)
彼女は夜中に違和感を感じたが、眠気で起き上がれなかった。しかしなぜかあちこちに熱さを感じていた。
(えっ!なに?・・あゝ・・私の手が勝手に・・)
エリカの手は自分の胸を揉み、熱さが増し、いつの間にかブラを取って自分で大胆に揉んでいた。
(ど・ど・どうしたの私?勝手に動かないで。あゝ・・あっ!あ〜ん!か・感じちゃう・・)
エリカの指は乳首を廻し、自分で弄り始めた。
(や・や・辞めて!感じちゃうわよ!)
自分の右手で豊満な胸を荒く揉み、左手はショーツの中に・・xxxを触りクcccbを弄り始めた。
(も・も・や・やめて。はあーんうーダメ!いっちゃうよ!あゝあゝっ・・ハアハアあ〜ん!いく!)
彼女の両手は彼女の上下を激しく攻め、彼女は海老反りになり耐えていた。
指が中に入り、回し始めると
(い・い〜いく!あゝあゝ!はああー!)
その時に綺麗なものがxxxから湧き出て気を失った。
暫くすると・・「戻ってきたわ。ヒロシ君。・・ん?あのね少し黙っていてエリカさん!今はあなたの身体は私が使ってるの。でも悲しい・・四六時中この身体を自由にできないなんて。今は昨夜のあなたの背中を思い出して、自分で・・エッチなことしちゃった。・・恥ずかしいけど。でもこうすると私、ここに戻れるの・・安定してないから、突然に“風はるか”に戻ってしまうし。何とかしてこの身体を自分のものにしたい。それしかない。そうすれば、ヒロシ君とずっと居られる。たとえ顔も体もエリカ・・いいえ“風はるか”だとしてもね」
いったいエリカに何が起きたのであろうか?
次の朝、マネージャーがエリカを迎えに来た。
「ん!どうしたんですか?目のしたに隈が出てますよ。眠れなかったんですか?」
マネージャーはエリカを心配して言うのであった。
「あゝ・・大丈夫よ。・・行きましょう。」
エリカは車に揺られ眠気が襲ってきたが、眠ることができなかった。
「・・あの人が来ちゃうわ。私を退けて体を乗っ取る気だわ・・」
だが・・エリカはあまりの疲れで眠ってしまった。
車内の毛布の中・・再び自分の手でxxxを弄りながら、興奮して、イキ果て気を失った。
車がスタジオに着き、エリカは起こされるのであった。
「起きて下さい。“はるか”さん!着きましたよ!」
マネージャーは彼女を起こして車から降ろした。
「ねえ!今日は何の仕事?先に着替えさせて」
「昨日の帰り際に言ったじゃないですか。今日は雑誌の写真撮影だって・・」
「あら!そうだったわ。だったら着替えるわね。申し訳ないけど、ショーツもお願いね。付け替えるから」
zzzを吹いてしまい、びしょ濡れであった。
ショーツを履き替え、トイレのゴミ箱に捨て化粧をし着替えをした。
「ん・・私の体そっくりね。うーん可愛い」
続く
エリカは・・二重人格なのか?それとも本当に自分がしたことが思い出せないのか?奇妙な事件は続いていく。




