第21章 光と影
確信を求めてヒロシはサユリを連れて実家に帰った。
兄弟たちと久しぶりの宴に酔いしれた。
高校で同級生たちと恵美とは由美の存在を紐解くヒロシだった。
由美の話を聞いて倒れてしまったヒロシは、気がつくとマンションの自分のベッドに寝ていた。
どうやら恵美と旦那が運んで来てくれたらしく、玄関で話し声が聞こえた。
「ほんとうにありがとうございます」
2人は直ぐに帰ったようだった。
サユリが部屋に来て、ヒロシの髪を優しく撫でた。
「・・辛かったね・・真実は人を傷つけるわ。特にこの人にとっては・・悪夢だったに違いない・・」
そう言いベッドを離れようとしたサユリだったが、急に手首をギュッと握られた。
「あゝ!目が覚めた?大丈夫・・ヒロシ君?私・・凄く心配だったわ。倒れるなんて・・仕事を限界まで詰めすぎだよ」
「・・き・君は知ってたんだね?恵美と由美・・知っていて俺に近づき、大騒ぎを起こして、俺を愚弄して手に入れたのか?俺・・まったく気付かなかったんだ。アホだな?こんな長く辛い時間・・追い求めていた愛や人や苦しみの回避は、偶像だったんだ」
「どうしたのよ!卑屈にならないでよ!谷ヒロシは谷ヒロシだから・・いいじゃない!」
「・・・」
「嵐山が恵美さんじゃなくて、残念で仕方がない?でもね・・嵐山は一生懸命だったよ。君が振り向いてくれるまで、諦めず苦しみ嫉み、時には自分を捨てて・・それが偶像なの?それが嘘だと思ったら、長ーい間思っていた初恋は消える?」
「分からないんだよ・・長い時間、誰よりも愛していた人が実は違う人物だったなんて・・手を繋いだことや、祭りでお互いに笑ったり、別れた時の苦しみも、本当は恵美じゃなかった?そう考えると・・分からないんだ。俺はいったい誰と居たんだ・・って」
「引きずる?でもね引きずっても変わらないよ!現実は。恵美さんはもう居ないわ!嵐山は結婚して子供が生まれる・・嘘つきでもあなたを大好きなわたしは奥さんよ。分からなくてもいいけど・・現実逃避はしないで!私を愛して!あなたの・・作る歌のように」
ヒロシはサユリに正当な話をされ、布団を被って寝てしまった。
次の日の朝、ヒロシは過去のことが非常に気になり始めた。それは自分がどこまで嵐山恵美を覚えているかだった。サユリにも丁寧に謝った。
ヒロシは大学を卒業し、HK企画に入社していた。その日にヒロシとサユリは休暇を取り、千葉の実家に帰ったのだった。
家に戻ると両親にサユリを紹介したのだった。
「父さん、母さん・・黙っていてごめん。この人が俺の奥さんになった岡サユリさん・・テレビで観てた“風はるか”さんだよ。騒ぎを起こして申し訳ない。」
「お母さん、お父さん・・ヒロシさんと入籍させて頂きましたサユリです。勝手に結婚して、しかも挨拶が遅くなって申し訳ありません。この通りお詫びします・・」
ヒロシの父親はそっと話し始めた。
「いいだよ。20歳過ぎてるんだから、親の同意は必要ない・・まあ、こんな奴を拾ってくれてありがとう・・勉強や音楽は人一倍優れてけど、他人を思いやる気持ちに欠けてる奴だけど、兎に角よろしく頼みますよ・・」
母親も
「サユリさんは芸能人だし、不規則で家事とか大丈夫なの?それに芸能人は生活が派手だって言うから・・少し心配。・・テレビで良く・・離婚報道とかあるでしょ?ああいうのは勘弁して欲しい」母親は続け
「ヒロシには兄が何人も居て、長男が就職するまで家が貧しくてね、ろくに食事や学校の物を買ってやれず・・身体も弱くて中学でもイジメられていたわ。だから・・私たちは心配なの。過去のように守ってもらえる人がいて欲しいって・・だからね。この子を決して裏切らずずっと一緒に居てあげて・・お願いね」
サユリは涙しヒロシの母親の手を握り言った。
「はい!そうします。私はわがままですが、一途な方です。ヒロシさんが嫌だと言っても、一緒にいるつもりです!これからもよろしくお願いします・・」
その後に4人いる兄と姉たちが実家に集まり、庭でバーベキューをしたのだった。
実はヒロシがこっそりバーベキューセットを買込み、家まで持ってきたので、兄姉たちに食材を頼んでいたのだった。
飲みや歌えの大騒ぎの会となったが、ヒロシとサユリは常時笑い盛り上がった。
会が終わり兄たちと甥に姪たちはハイタッチしながら帰っていった。
残ったヒロシの姉は「サユリさん・・片付け手伝ってくれる?」そう声掛けた。
「はーい!お姉さん!今行きますね!」
サユリは嫌な顔ひとつせずに洗い物の手伝いをしたのだった。
「お姉さん・・聞いていいですか?兄姉ってやっぱり仲がいいものですか?私はひとりっ子だったので、そう言う感じが分からないです・・」
「う〜ん・・仲ね?・・いいと言うか、腐れ縁みたいなものね。小さい頃は兄弟喧嘩もしたし、家族が多くて貧しかったから、ひとりっ子だったらいいのに・・そう思ったわ。・・でもね、今は大家族で良かった。そう思える。私は逃げ出した・・から」
「えっ!どう言うことですか?」
「私、早く貧しい生活から逃げ出したくて、二十歳で今の主人と結婚した。で、3人の子供ができた。・・そうしたら、家族のありがたみが分かったわ・・いつだって真剣に心配してくれるのは家族だって。そう思えるような年齢になった」
「へー!すごい。深いですね。・・で私はどうですか?家族になれますか?」
「うん!十分だと思うわ!」
「良かった・・」
「でもね、サユリさん!これだけは言っておくわ!」
「はい・・何でしょうか?」
「ヒロシは・・不幸な子。子供の頃から苦労した子だから・・中学もギリギリ卒業できたし、破れたズボンに汚れた学ラン来て、中学ではクラスで無視され、多くの同級生に酷いイジメにあったわ・・それでもあいつは、勉強を頑張り主席で高校を出たわ。しかも弱い身体を陸上で鍛え、音楽ではテレビのCMソングになったり・・不幸なくせに想像できないほど、どん底から這い上がる術を知っていた。そんな子・・父さんも誇りに思ってるわ。だから・・サユリさんは絶対にあの子から逃げないで!嫌になる時もあるかもしれないけど、あの子の良い理解者になって欲しい。あの子はああ見えても根は弱いの。だから・・」
サユリはヒロシの姉の話を聞き、恵美が中学時代、高校時代のヒロシを支えていたことに気づいた。
「分かりました!私は絶対に逃げません!あの人の側に居続けます!お互いに支え合いますので!」
ヒロシはそんな話が交わされていたとは知らず、父親とゆっくりと笑いながら話をしていた。
その晩・・
「ヒロシ君・・」
「あゝ・・何?お風呂汚かった?仕方がないよ、田舎の家だからね。ごめん・・」
「そうじゃないわ。・・何で・・お布団が部屋の端と端なの?夫婦なのに?」
「あゝ・・それ?(笑)・・この部屋の下が親父とお袋の部屋なんだ・・ここでイチャイチャしたらまずいだろ?だから・・俺が離して敷いたんだよ!」
「なるほど・・さすがだねヒロシ君!」
「じゃあ!寝よ!明日行くところあるからさ!」
「そうね!じゃあ、おやすみなさい」
「おいおい!何で俺の布団に入ってくるんだよ!あっちの布団で寝ろよ!」
「しっ!・・騒がないで。下に聞こえちゃうでしょ」
「だからと言ってこれはまずいよ・・狭いし、君の体が密着して・・ああ」
「・・興奮しちゃう?いいよ・・触って」
「まったく・・何言うんだよ」
サユリはゆっくりとパジャマを脱ぎ、下着姿になってしまった。
「・・キスして」
「まずいよ・・俺の実家で」
「・・君はこの家でできたんでしょ?ご両親から」
「それはそうだけど・・」
「だから、私も君との子供が欲しい。いいでしょ?」
ヒロシはサユリの胸を自分の胸にあてられ、その乳首の先が擦れ興奮のあまり、下がビンビンとなってしまった。
「・・ほら、君のなにが正直だよ」
ヒロシはどうにでもなれと思いながら、サユリを激しく抱いた。今夜は2人共いつもになく燃え上がり、寒いはずが2人で大汗をかいていた。
「ううん!あゝ・・ヒロシ君・・もっと」
「サユリ・・あゝあゝ・・」
サユリの豊満な胸が揺れ、下半身がお互いにびしょ濡れになるまで愛し合うのであった。
「ふー・・良かった。ヒロシ君が今ここに居るわ・・私、感じる君を。顔も唇も舌も、xxxも全部・・今夜は絶対に忘れない。私と君の音が今・・同じ音になったわ。今日・・完成した」
そう言い2人は裸で抱き合い眠るのであった。
次に朝・・
台所にサユリが降りていくと、すでにヒロシの母親が朝ごはんの用意をしていた。
「おはようございます!お母さん!」
「あゝ、おはよう!早いのね」
「こんなに朝早くお母さんも起きてるわ」
「あゝ・・朝ひと仕事したから・・キャベツの出荷があったからね」
「そうなんですね。お疲れ様です」
そこにヒロシも降りてきて
「母さん・・出荷?父さんは長屋に居る!」
「そうだよ。顔洗って朝食を食べな」
食膳は簡易なおかずのみだったが、炊き立てのご飯は美味しいのだった。
「たくさん食べてサユリさん」
「ありがとうございます。朝はあまり食べれなくて・・でもお母さんのご飯美味しいから、食べちゃうわ。不思議だけど」
「そう・・たくさん食べて、元気な赤ちゃん産まなきゃ!ね!昨夜も頑張っていたようだからね!」
ヒロシは思わず、味噌汁を吹き出した。サユリも顔を赤くして恥ずかしく思った。
「はい!頑張りまーす!良い赤ちゃん産みます!」
ヒロシは慌ててご飯をかき込んだ。
「そうそう!その意気!・・昨夜は・・種子くらいは植えたかい?ヒロシ?」
ヒロシは思わずかき込んだご飯を吹き出した。
「朝からなに言ってるんだよ!」
「いいじゃない・・子を産むのは女の幸せだよ。だから、毎晩頑張らないとね!」
威風堂々と話をするヒロシの母親はニコリと笑い、2人を覗き込み言うのであった。
朝ごはんの後に2人は車である場所に行った。
「ああ、懐かしい・・ヒロシ君の卒業した高校だわ」
ヒロシには恵美と由美の関係を紐解きたかった。
日曜日の為、門は閉まっていたが、そこに2人の人物が待っていた。
「ヒロシ!久しぶり!・・えっ!“風はるか”さんも一緒なの?・・だったらもっとお化粧してくるんだったわ。まずいわ・・ひどい差・・」
「おおおー!“風はるか”さんじゃないですか!昔ファンでした。・・しかし美人ですね。可愛いし・・」
そこに居たのは、ヒロシの同級生である牛山さんとマコト君だった。
「本当に・・“風はるか”と結婚したんだ。不思議・・ヒロシがねー!」
「まあ・・そう言うことだから。紹介するよ、俺のワイフでサユリ・・」
「こんにちは!“はるか”もとい、谷サユリです!」
ヒロシはここに来た事情を2人に話をして、協力をしてもらうようにお願いをした。
「校舎の中と体育館には入れるわ。木村先生にお願いしておいたから、用務員のおじさんに声かけて、それから入出届け書けば中に入れるわ。」
牛山が3日前に許可を得ていた為、4人は校内を歩き始めた。
「・・ヒロシ!でも今更だけど、確認するって何を」
「うん・・俺の痼り・・全身にできて痛む・・それを取り去りたいんだ。
「おい!ヒロシ懐かしいな!視聴覚室・・俺たちの出発点だ。ここでいつも練習したり、定期公演したな」
ヒロシは視聴覚室に座ると、ゆっくりと目を閉じた。
(聞こえる・・マコト君の声だ。それにザワザワする生徒たち・・)
<ヒロシの心が過去に移っていった・・>
「ヒロシ!妙に今日は客が多いなあ?満員だな」
「おお、そうだね。いつになく多いなあ」
(恵美は来てくれてるかな?・・あゝ、居た!遂に来てくれたんだ。今年3月に公園で振られてから、今回で6回目・・何度もフラれたけど、やっと来てくれた・・)
「えー、今日は大勢の方にお越しいただきありがとうございます。今日の1曲目はバンド演奏でなく、僕の弾き語りからはじめたいと思いますので、よろしくお願いします」拍手があった・・
「この曲は僕が初めて作った曲ですが、今日はその作った頃を思い出して歌いたいと思います。聞いてください・・茜雲」
茜雲
憂いの雲の流れに似た 時の流れに重ねる
ゆっくりと 慌てず 色付く想い
今の想いが 決して過去にならぬよう
愛することで 表現事できるなら
茜雲 天高く 茜雲 頬を色するに似る
ただ・・現在は側に居たい
ただ・・時を歩こう 二人で
「確かに涙していた・・」
「恵美はこの曲を聴き・・俺を見ていた。そっと立ち上がり、涙を拭うとさっと・・視聴覚室を出て行った・・それがはっきり見えた」
<ヒロシは目を開け、心を現在に戻した。>
「何を妄想してたの?ヒロシ君?」
サユリは暫く黙っていたヒロシに話しかけた。
「なあ!マコト君、あの時の恵美は恵美だったか?」
「・・まあ、そうだね!確かに嵐山だったよ!紛れもなくね」
「牛山さん!・・一緒に来てたよね?あの後、恵美に何かあったか?覚えてる?」
「・・泣いてたわ。ただただ黙って・・」
ヒロシは自分の記憶が正しいと分かり、僅かに安心をした。だが・・過去の自我記憶との微妙なギャップを考察した。
「俺は・・恵美だと思ってあの日歌っていた・・だけど、ほんの少し、本当にほんの少しだけ違和感があった思いがあった」
「何がだよ!あんなに喜んでいただろう!その後のステージも最高だったよ!」
「そうよ。それに・・違和感って何よ?」
「ヒロシ君・・大丈夫?ゆっくりでいいからね。急がないで。ねえ!」
ヒロシはみんなの心配を他所に、恵美が座っていただろう場所によって立ち、記憶を集中させた。
「・・居た。確かに居た」
「えっ誰が?」
「・・もう1人の恵美が・・」
「何言ってるのよ!分身の術?あり得ないわ!」
「いや!確かに居た。彼女の後ろに座っていた。下を向いていたから気づかなかったけど・・」
「だけど・・だとして今更、何が気になるの?」
「由美は・・泣いていなかった。下を向き何かを呟いているようだった」
「確か・・私も恵美が2人いるの?って思うことがあったわ。中学の頃だけど。クラスが全く違っていたし、聞いた話だと、恵美とは顔も性格も全く違う子・・そう聞いていたし、不良仲間と付き合いがあって学校にも余り通ってなかったと聞いたわ」
牛山がそう言うと、立て続けにマコトが
「由美って、双子とは聞いていたけど、俺も中学時代は恵美に全く似ていない・・そんなことを思ってはいたけど・・」
それを聞いたサユリが
「えー!それはおかしいわ?私が2人に会った時には、一卵性双生児だと聞いたし、全くそっくりだったわ。背丈も顔もそれに声まで・・」
ヒロシは気付いた。過去の隠された謎に・・
「マコト君、例の物は持ってきてくれた?」
「おお、持ってきたよ」
マコトが持ってきたのは卒業アルバムであった。
「3年A組・・あった」
そこには確かにヒロシや牛山にマコトも写っていた。
「・・ヒロシ!ちゃんと恵美の写真もあるじゃない。どこを確認したいの?」
「確かに恵美は写っているし、名前も入っている・・でもねこの写真・・少しおかしくないか?」
「何が?この頃から嵐山は美人でいい女じゃん?」
写真を覗き見したサユリも言ったのであった。
「・・恵美には唇の右側に小さなホクロがあった。でもこの写真には無いように見える。それに他の写真に写る恵美にも無いように見えるけど・・ただこの1枚だけ、俺とマコト君の3人で写った恵美には、ホクロがあるように見える・・目の錯覚かな?」
「こんな小さい写真じゃ判別無理よ!もっと大きくしないと。それにこのアルバムの写真を拡大してもボケちゃうし・・」
ヒロシはそっとポケットから一枚の写真を出した。
「これは俺と恵美が付き合い出した時に、公園で撮った写真だ。彼女は当時からジャムパンが好きで、放課後に良く買って食べたよ。・・このアルバムの写真の恵美も手にジャムパンを持って笑ってる」
「ジャムパンが好き?おかしいわね?」
思わず牛山が言い出した。
「私、恵美がジャムパン食べてるの見たことないわよ。それに好きだって聞いたことないわ」
ヒロシはじっと写真を見て、卒業時の寄せ書きを探しはじめた。
「確か・・俺が貰った寄せ書きは、この視聴覚室の音響設備室の机の中入れた・・はず」
「えっ!なんでそんな所に隠したの?持ち帰りもせずに・・」サユリが思わず聞いた。
「この視聴覚室の歌で2人が始まった・・」
ヒロシはそっと机の引出しの裏側に貼り付けた寄せ書きを出した。
「まあ!上手く隠したわね。これじゃ誰も気づかないわよ。それにその寄せ書きに何かあるの?」
ヒロシは寄せ書きを確認すると、牛山たちに見せた。
そこにはたくさんのクラスメイトの言葉がビッシリ書かれていた。当時は皆寄せ書きを書いた。ヒロシもクラスメイト30人分を書いていた。だからこの寄せ書きはヒロシ宛の言葉だ。
「えー私こんなこと書いたっけ?(ヒロシ!羽ばたけ!我が校のエースよ!)」
「おお!俺だってこんな文面書いたかな?(ヒロシバンド・・5年後に復活させようぜ!大好き!ヒロシ!)」
だが3人は気付いた。(嵐山の言葉が書かれていない)
「そうだよ!恵美は俺の寄せ書きに何も書かなかった。だから・・ここに閉まったんだ」
「どういうこと?益々分からない?」
「・・俺、恵美の寄せ書に(忘れなければ)とだけ書いたんだ。意味不明だろう!」
「まったく理解不能だわ・・」
みんなが首を傾げ、ヒロシの話の展開が読めずにいた。
「17の秋祭りで・・ある約束をしたんだ。無論、結果がこんな形で示されるとは思わなかった」
<17歳の秋祭り会場>
「ねえ、ヒロシ君。一つお願いがあるんだけど。聞いてもらえる?」
「ああ、いいけど。あらたまって何のお願いなんだ」
「あそこに柴田楽器店が見えるよね。あそこで演奏をお願いしていい?」
「うん、いいけど。何かリクエストある?」
僕たちは歩きながら、そんな話をしていた。
「すみません。・・このギター試し弾きしていいですか?・・ヤマハのアコギです!」
店主は昔から僕を知っていたので「ああ、いいよ。ついでに歌も歌ってくれな!人寄せパンダで・・」そう言いギターを差し出してくれた。
恵美のリクエストは僕の作った茜雲であった。
「中学の時・・この曲をテレビで初めて聞いた時・・もしかしてヒロシ君が作った曲?だと直感したわ。だって・・私に向ける歌詞のようで・・テレビの前で自然に顔が熱くなったの。そうしたら急にヒロシ君が大きく見えて、気付いたら凄く気になる人になったの」
僕は歌い終わると、人寄せの為に長渕剛の曲を2曲ほど弾いた。
「わざわざ楽器店で歌わなくても、学校でいつでも歌ってあげたのに。変わってるね」
「そう・・私変わった。人を好きになることがこんなに美しいなんて、まったく思わなかったわ。だから・・聞ける時に歌って欲しかった。私に向けて・・ヒロシ君の生演奏でね。でも・・聞けて良かった。ありがとう!私の宝にするね」
「うーん。随分と意味深だね。・・よし分かった。歌詞にあるように今の想いが過去にならないように、何かに記そう!2人だけの秘密でね・・」
<再び心が現在に戻るヒロシだった>
「俺はこの卒業記念の寄せ書きに、恵美を思ってある言葉を書いたんだ」
サユリは不思議そうに寄せ書きを再度覗くのであったが、やはりヒロシの文字はどこにも無かった。
「・・ヒロシ君、書いてないじゃん!」
「俺はこの裏に書いた。恵美が覚えてる事を信じて」
ヒロシは寄せ書きの裏に自分の想いを記した。
「へ〜キザじゃん。ヒロシは本当に昔からキザなんだよね!
牛山は両掌を上にあげ、変な顔でヒロシに言うのであった。
「ヒロシ君、それでなんて書いたの?」
サユリが聞いてきた。
ヒロシはそっと色紙を裏返し、真ん中に書いた文字を確認した。
だが・・4人ともあまりの衝撃で目が見開いたままになった。
そこには、ヒロシの書いた。2行の文章の周りにぎっしりと沢山の文字が書かれていた。
「これは・・どう言う事だ?」
続く
2人の恵美・・
だがある約束を交わしていた事き気づくヒロシだった。
そこには根底を覆す深い答えがあった・・




