第14章 誤算
最後のチャンスを活かすため2人は焼け魂を飛ばした。
ヒロシは自分の過去の体に、恵美は風はるかの体にだった。
恵美は気づき驚いた。
ヒロシが言うように“風はるか”の体に魂が乗り移っていた・・
「本当だ。小ぶりだけどおっぱいもあるし、顔がなんか小さい・・可愛い」
(これなら私だと分からないわ。でも本当の“はるか”さんの心はどこに?)
そう思うのであった。その時・・ハッと気付いた。
(居るわ・・ここに)と言い局部を触った。
ヒロシは誕生日を過ぎた自分の20歳の体にタイムリープしていた。
「よし・・うまくいった。これで後は“風はるか”が現れ、俺に関わり、いづれ朱音が気がつく時・・それが最後のチャンスだ」
ヒロシはいつものように井上ほか、多くの学生に試験対策を伝授し、昼飯にお風呂をゲットしていた。
ある午後の図書館・・
夏の暑さはボロアパートで過ごすには厳しかった。
夏休み期間で大学の図書館が空いている時間は、ここで勉強するヒロシであった。
その時周りがざわつき出した。
「おいおい、あれって“風はるか?絶対そうだよ」
「この大学に通ってるって幻じゃないんだ・・初めて見た」「おい!行ってみよう!」
男子学生も女子学生も”風はるか“が座る席に群がりだした。
「ハイハイ!」そう言い学生たちに手を振って応え
「あの〜本当にここの学生なんですね!感動です。でも今まで見たこと無いような・・」
「君・・わかってないな!私は変身変幻自在だよ。ある時はジャージ姿で、ある時はブカブカのジーンズとトレーナーにボサボサの髪・・でもね全部私です。まあ・・気付かないのは私の努力が実ったって事ね。1年以上で、週一はこの大学に来てたから、君たちに気づかれずで最高に楽しかったです」
そう言い笑って話すのであった。
男子学生達は”風はるか“と写真撮影していた。スマホもデジカメもない時代・・フィルムカメラが売れていた。多くは当時流行った(写るんです)を持っており、風はるかと写真を撮っていた。
ヒロシには違和感があった。確かにだ。彼女とは今年の2月に入試時で会うが、その場面がカットされ今日が初お見えだった。歪まぬといいが・・
(恵美は無事に移れたかな?そうだ・・成功したら決めのポーズを決めていた)
ヒロシは”風はるか“と目を合わさず、図書館を出る際に彼女に指でVサインを出した。
”風はるか“もヒロシを見ずに、写真撮影の女子学生と顔を合わせ写真を撮っていたが、Vサインをヒロシに送った。
(良かった・・うまくいった。後は9月になってからだ。試験範囲を俺に聞きに来るはず・・)
ヒロシはそう思いながら自宅に戻り、居酒屋のバイトに行くのであった。
誤算も生じた。エミリが1年も早くヒロシの基に現れたのであった。しかもヒロシに付き纏い始めた。
「ねえ!ヒロシ君・・私も来年はこの大学に通うわ。内申書と面接だけで合格できるから、待っていてね」
「うん。分かった。でもね俺、本当に忙しいから・・大学3年までは時間がなさすぎだ。君と付き合ってる時間も無いから、入学しても暫く待っててね!」
そう言いエミリを宥めた。しかも怪しまれる事なくだ。
「うん・・分かった。とりあえず明日帰るからお部屋に行っていい?今晩だけ泊めて!」
「ああいいけど、俺バイトあるから遅くなるよ。まあ寝てればいいけどね・・」
「うん、分かった。寝て待ってる」
ヒロシには分かっていた。エミリがヒロシの体を求めているのが・・その作戦に前までは引っかかっていた。好意さえ持っていたのだ。
ヒロシは夜11時にバイトが終わると、酒屋の前の自販機でワンカップを買い込み、2、3本を一気に飲んだ。
部屋に戻るとやはりエミリは居た。ヒロシはエミリの誘いに乗るふりをしたが、急に腹を押さえ痛がった。
「どうしたの!ヒロシ君痛いの?大丈夫!」
「うん・・大丈夫だけど・・うう痛い。隣の渡辺を読んでくれないか?・・うう」
エミリは驚きヒロシが言う渡辺を呼んできた。
渡辺はヒロシの状態を見ながらお腹を触って言った。
「あ〜あ・・急性胃炎だな」
「えっ!もう分かったの?早い!」
「・・渡辺の両親は町医者の内科医なんだ。彼も病気には詳しいから・・」
「そうなの・・でも大丈夫なの?ヒロシ君は?」
「うん・・俺の車で病院に行ってくるよ。おそらく胃の洗浄をすれば良くなるけど・・今夜は病院だな」
そう言いヒロシを抱きかかえ車に向かった。
エミリも付いてきたが、渡辺は言うのであった。
「ああ・・君は来なくていいよ。どうせ完全看護だから人は必要ないから。待っているか帰ってもいいと思うけど・・」そうエミリを制して言うのであった。
仕方がなくエミリは電車に乗り帰るのであった。
(仕方がないわ・・ヒロシ君、具合が悪いんだから。でもお酒の臭いしたわ。誰かに無理やり飲まされたのね!今度見つけて懲らしめてやるわ!)
そう言いエミリは埼玉に帰って行った。
病院では「おい!ヒロシ・・あれで良かったのかよ?彼女だろ?」
「まあ・・ちょっと距離を置きたくてね・・でも彼女には内緒にして欲しい。気付かれぬようにしたいんだよ。協力してくれよ。・・明日、引越しなのに無理言って悪かったな。」
「まあ・・親父が倒れたんじゃ仕方ないよ。医大に編入できたし、また別の人生を行くさ!」
渡辺は3ケ月前に父親が倒れて、一時的には元気になってるが、母親の説得で都内の医大に編入するのだった。その引越しの前日を利用した。
(ごめんな・・渡辺。悪気はないけど少し手伝ってもらった。感謝する・・)
「ヒロシ!・・勉強教えてくれて助かったよ。また・・どこかで会おうな!」
「うん!元気で!俺も頑張るよ!」
夏休みも終わり、大学の前期試験が迫っていた。ヒロシもバイトを休み、昼はテスト範囲の手解きを多くの学生に指南し、夜は自分の勉強に勤しんでいた。
夕方の6時で指南役は終わり、ヒロシは近くの銭湯に行き、夕食を済ませテスト勉強を始めたのだった。
ここで今年の9月では起きるはずない事象が起きる。ただヒロシには無論想定済みだった。
(トントン・・)「はい!・・どうぞ!」
ヒロシのボロアパートに突如現れた女神のことだ。
「ねえ!あなたが谷ヒロシさん・・ですか?」
そこに現れたのは“風はるか”であった。
ヒロシはまじまじと彼女を見て(可愛い・・)思わず三度見してしまった。
(恵美のやつ・・よそよそしく現れたと言うことは、表にマネージャーが隠れているな?)
そうヒロシは直感で思い「・・あの?何のご用ですか?こんな夜遅くに・・」「あの・・あなたが・・大学の前期試験をみんなに指南してるって噂で聞いて、私も教えてもらおうと思いました・・ダメですか?」
「あゝ困ったな!もう受付はとっくに終わってるし、明日の経済学の試験勉強中ですから、勘弁してもらえますか?<・・ちょっと恵美・・うまくた立ち回ってくれよ(小声)>今日は閉店です!」
「えっ?もうですか?まだ9時です。私は7時過ぎまで仕事で・・ここにくるのが遅くなっちゃって・・」
「私も・・明日の経済学落とす訳にいかなくて・・2年連続は流石に芸能人の私としても・・マスコミが騒ぐだろうし・・それに・・30分で良いんです!お願いします!この通りサインもあげますので・・」
そう言い彼女は手で持っていた、自分のサイン色紙を五枚ほど渡した。
(うん?おかしいぞ・・恵美がこんな手の込んだ事をするはずがない・・えっ?もしかして・・ホンモノ?)
ヒロシはじっくりと彼女の表情を見たが、どう見ても他の学生と同じ目で(範囲!教えてね!)であった。
(そうか・・今は“風はるか”の魂が宿っていて、恵美の魂は眠っている最中だ。下手に動くと騒ぎになる)
ヒロシはそう思い、とにかくここは彼女に早く帰ってもらおうと、自分の机に座らせテストの要点を教えるのだった。
「良いですか!この部分とこのマーカーのところを暗記してください。少なくとも判定C以上は貰えるはずです。他は覚える必要はありません」
「凄いですね!谷さんって。どこで・・こんな技を身につけたんですか?」
「ああ・・技じゃないですよ。講義を効率よく聞いてるだけですから。欠席や居眠りはNGですよ。毎回、教授や助教授、講師がポイントを言いますからね。・・テストはそのポイントから出題されますので」
「ますます凄いです。まるで音楽の音符みたいですね?要点や強弱を駆使して覚えるのって!ありがとうございます。・・なんかうまく行くような気がします」
ヒロシは“風はるか“に気を遣い言うのであった。
「ううん・・外でマネージャー待ってるんでしょ?早くいかないと・・乗り込んできますよ!」
「うん。ありがとうございます。いつか御礼しますね。別の試験もまた聞くかもだけど(笑)・・じゃあ」
そう言うと”風はるか“は帰って行くのであった。
(ふー・・危うい。勘違いして手でも触れたら・・また病院行きだった。気づいて良かった・・)
彼女は帰りの車で運転手に聞こえぬよう1人呟いた。
「ねえ・・恵美さん。ヒロシさんって格好いいですね?なんか一般人に感じられなくて・・驚きとそれに・・なんか目が優しくて・・見惚れちゃった」
(ちょっと・・”はるか“さん!困るわ。私のヒロシ君に色目使わないでね・・それじゃなくても女性に優しくて放っておけない人だから・・好きにならないでよね!お願いだから・・)
「分かってますよ・・私の音楽があの人の力で良くなるなら・・恵美さんの力になりますよ!」
そう言い彼女は自分の胸と局部に手を当て独り言を呟いたのだった。
今回の誤差として、ヒロシがうまく自分の体に入れたが、恵美は完全に”風はるか“の体に入りきれずにいたのだ。
あの晩に1人で悶えて感じ・・一旦は魂が入っていったが、朝起きると”風はるか“が表に出て、恵美は局部に鎮座していた。
何度か自分でして感じ悶え、試みたが表に出れずにいる。しかも”風はるか“自身に自分の存在がバレて、(自分が恵美の代役もこなす)と言って、入れ替わることを拒否したのだった。
このことは後で、最悪でもありラッキーでもあることに繋がっていくのであった。
前期試験が終わり10月10日が近づき、いよいよサユリとの再会が近づいた。
ただここでも誤算が生じて、暴行を受け大怪我を負い、前回は10月10日はおじゃんであったが、今回は行くことになったのだ。
ヒロシの心は確かに揺れていた。
ここでサユリと上手くいけば、最初の人生通りとなり求めていた終着駅に着く。
だが・・恵美は・・どうなる?俺の為にここまで人生が狂ってしまい、只々俺が救い出すのを待っていた。
ヒロシは何日も考え抜いた。だが答えは出なかった。
その日が来てヒロシは中途半端な気持ちで、井上の車で観光地に向かった。
「初めまして、谷ヒロシと言います。よろしくお願いします」
「初めまして、モモカです。初めまして、サユリです。よろしくお願いします」
お互い挨拶をして、車に乗り込んだ。
車内ではつまらぬ話をしていた。大学の教授への文句や、バイト先の先輩の笑い話に、趣味の話などさまざまだった。
ヒロシはあまり前に出ず、通り一辺倒の話をした。
「谷って凄いんだぜ。頭良いし、スポーツも万能で、高校時代はロックバンドまでやっていたんだ。で!このビジュアルだろ・・でもモテない?」
「えっ?何で?」徐にモモカが聞いてきた。
「あのね・・こいつまだ元カノの事忘れられずにいるんだよ。だから俺が今日引っ張ってきたわけ・・」
ヒロシは特に否定もせずに少しだけ笑った。
観光地を周り昼も近づき高原のレストランに来た。
「谷さんは何を食べますか?」
ヒロシはお金をあまり持っておらず、ここでの高価な食事をする事を躊躇った。
「良かったら、私が持ってきたオニギリ食べますか?多く作りすぎちゃって、良かったら!」
そうサユリが話しかけてきた。
そうであった。この好意によって始まった。
ヒロシはなぜか?流れが戻ってきたと思い
「うん、ありがとう!いただくよ!」
大きめの海苔の巻かれたオニギリを取ろうと、手を伸ばした瞬間だった。
急に記憶がフィードバックされてきた。
(何かを思い出す・・過去の最初の人生だ。確かにこの場面であった。貧乏な俺を見られなくて、レストランの外でずっと歩いていた。でもボランティア気分で寄ってきたサユリにオニギリを食べさせて貰って、その後でどうでもいいや!と思い、告白して付き合うようになった。だけど・・今日の彼女は積極的にオニギリを差し出して、笑顔で一緒に食べた・・なぜだ?おかしい・・思い出した記憶と今日の出来事が似てるようで、まったく違う印象だ。
「あの〜君・・オニギリを1人で5個も自分で食べようとしたの?」
ヒロシは過去の記憶で、弁当箱のタッパーには3個しかオニギリはなく、しかも小さかった。
なのに今日は大きいオニギリが5つも詰められており、最初からこのシュチュエーションを分かっているようで確認した。
「いいえ。皆んなで食べようと思って作ったんですけど、結局皆んなは料理頼んじゃって、必要無かったかも知れませんね?」
そう言い笑うのであった。
ヒロシには妙に懐かしい出来事であったが、懐かしく思うより、新しい出来事のようにも思えて不思議であった。
そこに皆んなが食事を済ませてやって来た。
「おーいいね!2人で手作り弁当のランチですか?」
井上が茶化して来た。
「いいえ、お弁当が余りそうで困ったから、谷さんにお願いして食べて貰ったんです」
皆んなは感心したようにヒロシを見たのだった。
帰りの車の中・・
くだらない話題で井上とマコは爆笑していたが、後ろの3人は話す話題も途切れ、眠っていた。
アパート近くの駐車場で解散となったが、ヒロシには多々違和感が残った。
それは今日の昼のレストランでの出来事だった。
ヒロシが食べるのを我慢して外に出る際に見えた光景
だった。2階席に”風はるか“が見えたのだった。
後で知った事だが・・レコードのジャケット撮影であった。
前回は高原の真ん中で靴を投げられ、互いが仲良くなった記憶だった。
「絶対に・・目が合った。でも彼女は知らんぷりだった。・・恵美のキャラでは無かったんだな?・・でも”風はるか“本人の人格でも、俺を知っていて俺を見たら・・絶対にちょっかい出したはず・・その事件が無いと、俺と彼女が近づき朱音が気付くストーリーが狂うはず!
11月になり寒さが少々堪える時期に迫っていた。
たびたび大学でサユリに会うと、彼女が声を掛けてきて、学食で昼飯を一緒に食べたり、駅前で会って喫茶店でお茶をする事が数度あった。
ヒロシには特に何も気にする雰囲気もなかったが、”風はるか“が現れなくて困惑状態だった為、サユリとの出会いは特に気に留める事がなかった筈だった。
だが・・時として歪みは変な方向に向かうのであった。
バイトを終えたヒロシは近くの酒屋でビールを買い歩きながら飲むのであった。
「はー・・いったい恵美はどうしたんだ。ここに戻り暫く経つけど、全然会いにこない。・・もしかして別の歪みが生じたのか?無理に戻したこの次元に無理があったのか?」
そんな事を呟きながらアパートに戻った。
ヒロシは珍しくテレビをつけ11時のニュースを見るのであった。
馬鹿馬鹿しいがヒロシはテレビを見る事でこの時代の事件や政治経済に芸能ニュースを把握していた為、見る事で過去の時勢を思い出すのが嫌であった。あの時の自分の考えや、馬鹿な行動を思い出し馬鹿げた自分を思い出したくなかった。
だが今日はなぜか?テレビをつけた・・。
ニュースで天気予報があり俄雨に注意とアナウンサーが言っていた。ヒロシは買ってきた弁当を食べながら、適当にテレビを観ていた。
しかし・・次の臨時ニュースに目が釘付けとなった。
テレビのアナウンサーが。
「緊急なニュースが飛び込んできました。歌手でシンガーソングライターの”風はるか“さんが、先ほど自宅マンションで死亡しているところを、尋ねてきたマネージャーが発見し警察に届け出ました。死因は頸部圧迫による窒息死の様です。”風はるか“さんは2日ほどの休暇をとっており、今夜の歌謡祭の打ち合わせに来ていないことでマネージャーが自宅マンションを訪ねたところ死亡している”風はるか“を発見したと言う事です。繰り返しお伝えします・・・」
(そんな・・馬鹿な・・)
ヒロシは目を疑った。”風はるか“が死んだということ・・まだ恵美との接近もなかったのに何故?ヒロシは頭を抱えて困惑した。
(俺の作戦が・・恵美を救う作戦が・・どうして!何故!朱音に分かったんだよ!2人の接点はまだなかった筈で、彼女に恵美がいることはわからない筈なのに・・どうして?)
どうやらヒロシの計画に誤算が生じたようであった。
彼女の魂を”風はるか“の体に住まわせたことで、安心していたが、あっさりと息絶えてしまった。
「何故?どうして?なんでなんだー!・・分からない!恵美!恵美ー!どうなってるんだよ!」
翌々日に”風はるか“の葬儀が営まれ、多くのファンが彼女に惜別していた。
ヒロシも都内の葬儀場でひとり佇んでいた。
(彼女が死んだことによって、恵美の魂は行き場所を失い消滅した・・もう、恵美を救えない・・終わってしまった・・)
ヒロシは恵美を失い、後を追うつもりであったが、元々はこの次元の体と心だ。未来からタイムリープしてきたヒロシの心は打ち消されていった。
だから・・いつしか彼女は別の人と結婚して幸せになった・・そう心に刷り込まれた。
真の自分と歴史を知った自分がいつも葛藤していたが、真の自分が前に出て第一の人生が正当化されたのであった。
半年・・一年と時が経過していくのであった。
続く
最後のチャンスで恵美が乗り移った”風はるか“が死亡して、恵美は永遠になった。
孤独になるヒロシはどうするのか?




