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折に触れて廻る2  作者: 馬場 ヒロシ


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第13章  流れる時と共に

死んだはずのヒロシ・・しかし同じ次元に戻ったヒロシ・・

様々な行動に出るのであった。

2人が消えた現世である世界は何も無かったように平然となり、当たり前のように普通に、そして通常に時間が流れていくのであった。

ヒロシがプロデュースした佐藤バンドは、大学時代にデビューをしインディーズではあるが、自主出版したレコードが話題となっていた。そのレイベルには、作詞作曲編曲 谷ヒロシ・・そう記された。

“風はるか”はアイドルを脱却して、本格的なシンガーソングライターになっていった。

偶に・・自分に音楽の大切さを教えてくれた、優しい谷ヒロシを思い浮かべていた。

エミリは何も無かった様に過ごして、21歳で出会った同じ大学生の男性と結婚し静かに、そして幸せに生きるのであった。


1987年5月・・

ヒロシの両親はこっそり建てたヒロシの墓に来ていた。

全て焼けてしまい・・何も残らなかったが、ベンチの燃え(かす)と共にあった、鼈甲(べっこう)のギターピックと、恵美が身に付けていた”E“の頭文字が入ったハートのペンダントを墓に埋葬した。

墓石には谷ヒロシ 谷恵美 ここに眠る・・1986年5月22日 永眠

そう記されていた。両親はヒロシが最後まで愛した恵美を一緒のお墓に入れたのであった。

恵美には家族が居なくなっており、少ない親戚が何処かに墓を作った様であったが、知る由もなくヒロシと一緒がいいと思い、そっと一緒にしたのだった。

「お父さん・・これでヒロシは寂しくないわよね。大好きな彼女が一緒だからね・・」

「ああ・・そうだとも。あいつは・・」

そう言葉に詰まり涙したのだった。

2人にとってこの次元は余りにも酷いものであった。

最後くらいは、2人が寄り添いあの世で仲良くして欲しかったのだ。

やるせない怨念や心残りは時として、奇跡と呼ぶべき事に変化していくのであった。

誰もが予想されない事はこの世で度々起きる。

ヒロシと恵美はそんな予想されない事象として扱われたのであった


その3日後の雨の朝・・ヒロシの母親が皐月の花を摘みヒロシの墓にお供えしたのであった。

その時であった。周囲で大きな地震があり、母親は家が心配で近隣の自宅に急いで戻った。

地震が治ると急に墓石の下の納骨庫が開き、手のひらが2つ出てきた。そしてまるでゾンビの様に丸裸の男が墓から出てきたのだった。

「ん?どうやら年月が経過した様だ。・・そうか、父さんと母さんは俺と恵美を一緒の墓に入れてくれたんだな。ありがたい。ありがとう・・。じゃあ!恵美!ちょっと言ってくるわ!もう少し我慢な・・」

そういい親への感謝と、墓の恵美に話しかけて家までそっと歩いた。家の前で両親が地震で瓦に損傷がないかを確認しているのを横目で見ながら、男はそっと長屋の2階にあるヒロシの部屋に忍び込んだ。

ヒロシは戻ってきた・・この同じ次元に。

悔しさと憎しみと後悔を胸に刻み・・彼の魂が新たに宿りこの世に戻ったのだった。

部屋にある自分の服に着替えてヒロシは、昔よく行った喫茶ロマンに行くのであった。

来る前に事前に密かに牛山に連絡を取っていたヒロシだった。

喫茶店で暫く待っていると牛山が店に入ってきた。

「・・ヒロシ?どこに行ってたの?ご両親に聞いたら、行方不明だって言われたけど。無事だったんだ。良かったわ・・」

牛山はヒロシの両親から死んだとは聞いておらず、行方しれずと聞いてたらしく、安堵の表情を浮かべた。

「あゝ悪い・・連絡しなくて!ちょっと問題があってね!暫く隠れていたんだよ。ごめんな!」

ヒロシは怪しまれぬ様に、両親が彼女にした話を利用したのだった。

「ところで急にどうしたの?こんな場所に呼んで!」

「そうそう・・ちょっと教えてもらいたいことがあってさ・・いいかな?」

牛山はこくりと頷き「いったい何を知りたいの?」

「昔のことで悪いけど、高校の卒業式のこと・・そう、1982年の3月1日のこと」

「・・どういうこと?」

「あの日さ、俺の答辞の時に途中で恵美が出ていったよね。その後に俺が追いかけようとしたら、牛山さんが(辞めな、放っておけば・・)そう俺に言ったよね?あれってどんな意味があったの?」

牛山は記憶を遡って考えていたが、ヒロシは待ちきれずに言うのであった。

「牛山さん!・・知っていたんでしょ?恵美が東京に行くことを。それにご両親が誰かに脅されていたことを。俺に黙っていたでしょう?それに結婚式のことも・・彼女のお父さんから頼まれたんじゃなくて、恵美、本人から頼まれたんだろう?俺が恵美のことで電話した時に・・何も知らないふりしてたけど、本当は知っていたよね?」

牛山はヒロシにズバリと言い当てられ困ってしまい、

「ごめんね・・ヒロシ。恵美がどうしてもそう言って聞かなかったわ。それにご両親が次々に亡くなって・・次は私だよって恵美が馬鹿なこと言うから・・つい協力したわ。ごめん・・」

「そうか。いいんだ。正直に認めてくれてありがとう。だけど・・あの葉書はやり過ぎだ。君が書いたよね?俺あてに・・その事で困惑して君にも電話したけど、恵美の作戦だったんだね」

「そう・・良くわからないけど、突然電話があってその手紙を託されたわ。死んだことにして欲しいって!でもね・・あれから2年も恵美とは音信不通だよ。どうしちゃったのかしら?」

ヒロシはどうやら牛山は恵美が死んだことを気づいていないと察知し、そのことを頑なに伏せた。

「それで・・恵美はどこに住んでたんだ。東京の?」

「湯島よ・・住所はこれ」

牛山はそう言うとヒロシに、昔届いた葉書に住所が書かれていたのを見た。

「でも・・ヒロシ!危険な事は辞めてよ!・・せっかく会えたのに、また危ない事に首を突っ込まないでね!約束して・・また戻るって!ねえ!」

ヒロシは笑いながら「そんな感動的な事は旦那に言いなよ!独身の俺には無用だよ!恵美を絶対に助けるんだから・・うまく行ったら・・うん!またここで会おう!今度は3人で!」

牛山にはヒロシが心配であった。ヒロシは恵美のためならなんでもするからだった。

ヒロシはの帰る後ろ姿に牛山はなぜか?恐怖心があったのであり、必ず何か起こると・・不安を感じた。


1987年6月ヒロシは恵美が住んでいたアパートに来ていた。今は誰も住んでおらず綺麗だが、なぜか霊気のような冷たさを感じていた。

「ここか・・じゃあ」

そう言いヒロシは部屋の真ん中に胡座(あぐら)をかき、目を瞑り呼び出す様に過去の、この部屋に書き込まれた恵美の言葉を聞くのであった。

(ヒロシ君・・ごめんね。私、こうするしか道が無かった。本当はヒロシ君と最後の卒業写真を撮りたかった・・でもあの子がそうさせなかったわ)

(ヒロシ君・・“風はるか”ってアイドル知ってる?私ね、彼女のマネージャーになったわ。目立たない場所を選んだの。いつか・・会おうね)

(ダメだわ・・私の居場所が分かったみたい・・どうしよう?お母さん大丈夫かな?)

(・・お母さん・・私のお母さん・・なんで!そこまでするの!私が何をしたの?朱音ちゃん!人を好きになるのは、歪んだあなたには無理よ!)

(ヒロシ君・・私は魂になるわ仮死状態に。そして・・“風はるか”の体に入るわね。・・でも気づいてね。私のこと。ヒロシ君なら分かるから・・うっ!ハーハッハーううう・・ でも長くは無理。きっと彼女が気づくから・・うううー・・愛してる・・ヒロシ)

ヒロシは目を瞑りながら涙が溢れていた。

「恵美・・苦しかったね。ごめん、気づくの遅くて。でもね、あの大学の入試の時に薄らと気づいていた。でも確信が持てなくて・・」

「・・これから俺は旅に出る!この場所からね!君が待つ時代に戻るから・・そこで会おう!きっと君には斬新な出来事になるけど、よろしくね!」

ヒロシはそう呟くと、真っ暗な部屋に用意していた石油を撒き、自分の体にも石油をかけ・・マッチを擦ったのだった。

「・・俺は、恵美を救えるし、助けられる・・俺の全てを賭けこの次元を完結させる!それでTheEndだ。さあ!炎よ俺を燃やし尽くせ!そしてあの時期に戻してくれ!・・」

炎は部屋全体に燃え広がり、ヒロシの体は燃え尽きるのであった。無論だが・・部屋は燃えたが、鎮火後に元に戻っていた。


1982年3月1日・・卒業式

彼はそこに存在していた。この次元が別次元ではなく、同じ次元であるためヒロシは既にそこに存在しているのであった。

(懐かしい・・18歳の俺が居るし、牛山にマコト君に、綾瀬も奥田も皆んな居る。式の答辞の際に恵美は体育館を出て行くはず・・それを追えばいい。だが・・もう1人の自分に気づかれぬ様にしなければならない)

ヒロシはそう思いながら、校門の向い側の木陰に隠れていた。

そこに恵美が走ってきた。

制服のままで新しい運動靴に、髪をお下げにし昔の美人の彼女だった。

恵美はバスに乗らずに、ヒロシの居る林に来て、隠しておいた自転車に乗り走り出した。

ヒロシは慌てて、駐輪場の自分の自転車に跨り、後を追うのであった。

(ごめん・・ヒロシ!借りるよ!・・あそっか?この日はバスで帰ったな?翌日に車に乗せて自宅まで持って行った・・だから不審には思わない筈!)

ヒロシは深々とキャップを被り、自分であることを恵美に気づかれぬ様に後を追った。

(おや?駅だ・・家には寄らないのか?)

ヒロシがそう思った瞬間に、彼女はロッカーを開け大きな鞄を取り出してトイレに飛び込んだ。

待つこと5分で細身のジーンズでワンピと厚いセーターを着て、帽子を被った恵美が出てきた。

ヒロシは更に深くキャップを被り直し後を追うのであった。

電車は東京の上野に着いた。恵美は歩き御徒町を抜けて、湯島方面に歩いていた。

(そうか・・住んでいたアパートに・・)

彼女は途中で細々とした物を買い込み、アパートの自分の部屋に入って行った。

その夜、恵美には動きがなかった。ヒロシはアパートの近くの公園であかりが灯る恵美の部屋を見張っていた。ヒロシは朝の寒さに目が覚め、持ってきたカイロを振って手を温めた。

ヒロシは昨日から何も食べていな事に気づき、近所のコンビニでパンと温めた缶コーヒーを買い食した。

急に食べた為、ヒロシは腹痛を起こして、公園のトイレに駆け込んだ。5分程で戻ったヒロシだったが、ちょうど恵美が出かけるところだった。

ヒロシは恵美を追い湯島駅にきていた。恵美はそのまま地下鉄に乗り、御茶ノ水まで乗車し下車した。

地上に出ると朝の日差しが眩しく、少し暖かく感じられたのであった。

恵美は駅から10分ほどのビルに入って行き、30分ほどでまた外に出てきたが、一緒に誰かがついてきていた。

(うん?誰だ・・)

「それじゃ!嵐山さん!明日からよろしくお願いします!朝が早いですけど、お願いしますね」

そう言うと握手をしていた。

(そっか。あれは“風はるか”だ。まだブレーク前だな。ちょっと太めだし・・)

卒業式から24時間未満で、恵美は仕事場に挨拶に行き、明日からマネージャー仕事をするのであった。

(なぜ?ここまでする?分からない・・)

ヒロシは不思議な彼女の行動にびっくりしていたが、少なくともここから何かが起こる筈と慎重になるのであった。

ヒロシは気づかれぬ様に向かいのアパートの1部屋を借りて、ひっそりと恵美を見張るしかなかった。

だがいつまで経っても変化はなく、4月を迎えてしまった。

もう1人の自分が既に都内のアパートって・・ここからさほど遠くない場所に上京してくる。

こんな近い場所にいても、恵美に気づかずにいた。それはまるで迷路の様であり、近くを通っているのに、すれ違っていたんだ・・そう感じていた。

そんなある日の夜であった。

恵美の部屋で人の声がするのに気づいた。

よく聞こえてはこなかったが、身内のように感じられたヒロシであった。

「誰だろ・・初めて恵美の部屋に来訪者か?」

ヒロシはカーテンを少しだけずらし、木枠の窓を少しだけ開けた。聞こえてきたのは・・恵美の母親だった。小声でだったが、向かいの窓は僅か1mもなかったのだ。

「恵美・・もう逃げるのが疲れたわ。家に戻ろうと思うの?そこで危険があっても仕方がない・・最後はお父さんと過ごした家に居たいの・・」

話の中身はある程度理解していたが、この時期に恵美に会いに来ていたとは・・そう思うのであった。

「お母さん・・ダメよ。あの人達が来るから。もう少し辛抱しよう?ね!絶対に助けてくれる人が現れるから・・私はそう思ってるわ」

母親は納得して次の朝に部屋を後にした。

ヒロシは恵美には分からぬように、近隣の土木現場でアルバイトをしていた。日雇いのため補償は無いが、日給月給で暮らすには不自由はなく、緊急時には休める利点もあり、時間も9時17時ときっかりしていた。

4月のある日・・

ヒロシは実家の近くにいた。もう1人の自分が家に戻り大学を諦め、両親に話をする日であった。

遠目でもう1人の自分を見て(わがままな奴・・)

そう当時の自分に揶揄した。

ヒロシが戻った理由はもう1人の自分を見る為ではなかった。

ヒロシはこっそり恵美の家に忍び込み、誰かを待っていたのだった。

そこに来たのは・・朱音の母親だった。

「まったく!朱音は!私にこんなことさせて!犯罪だよ!仕方ないわね・・」

そう呟く顔は既にエミリの母親の顔になっていた。

(恵美のお母さんが来るのは、後1時間後だ。そうすると揉み合い突き飛ばされて命を落とす・・だがそれを俺が止めると・・作戦がバレてしまう。どうしたらいいか・・)

ヒロシは取り敢えずは様子を見ようとじっとしていた。そこに予定通りに恵美の母親が来たのだった。

「・・お父さん!戻ったわよ。あなたと一緒に過ごした場所に・・少しだけいさせて」

そう言い店の椅子に座っていると、陰から朱音の母親が現れた。

「ちちょっと・・どうやって入ってきたの!あなた誰よ!」

「私に・・恨みはないけど、娘に恨みがある・・そんなところよ。で!あなた達親子が存在すると、うまくいかないんです。だから監禁するわ。揺すりたいから・・私について来ればいいの。それだけ・・」

「何を言っているんですか!人を呼びますよ!」

「ああ!どうぞ!この畑の中の店・・閑散期の農家の人もおらず、お隣にも遠いけど・・どうでしょうか?それに電話線は・・ハイ!この通り切っておきました。だから来ませんよ誰も」

「わ・私はあなたの言う通りにはしません。帰ってください!お願いします。店の妨害に嫌がらせに、近所への悪い噂を吹聴して!もういいでしょ!家族も離散したわ」

「ああ・・そうだったわね。でもね、あなたの娘のおかげで、うちの娘は可哀想にボロボロ・・親心は同じでしょ!だから必ず殺すわ!あんたの娘を!・・嫌だったらついてきて・・」

ヒロシは階段の踊り場でじっとしていた。

(なんて身勝手な親子だ。自分たちが悪いくせに、よりによって恵美の家族に危害を・・)

「さあ!きな!」

そう朱音の母親は恵美の母親の腕を引っ張ったが、抵抗して手を離そうとした。そこで犯人は母親に木の棒で殴りかかり気絶をさせたが・・

「おや?死んじゃった?・・あっけないわね?仕方がない、指でも落としてあの子に持っていくか?」

そう言うと店の奥から包丁を取り出した。

「どの指が良いかしら?人差し指?それとも親指?」

とその時であった。

(ドンドンドン!)「警察です!中にどなたか居ますか?警察署のものです!」

「おや?まずい・・これでは私が捕まっちゃう」

「警察だ。中に入ります!」

そう言うと2人の警官が中に突入してきて、倒れている恵美の母親に駆け寄った。

「大丈夫ですか?しっかり!」

「おい待て!」

朱音の母親は裏口から逃走した。

警官は素早く無線で連絡をした。そこに2階から飛び降り、表の入り口に来たヒロシであった。

「奥さん少し待って下さい。救急車を呼びますので」

そう言い警官はパトカーに走って行き救急車の要請をするのであった。

警官が店に戻ったが、恵美の母親は消えていた。まるで煙に巻かれた気分の警官だったが、無論だがヒロシがこっそりと用意していたレンタカーに母親を乗せ、誰も知らぬ様な病院に連れて行っていた。

死んでしまったと思われた母親は、息を吹き返し病室で寝ていた。付き添いはヒロシがしていたが、母親が目を覚めると消える様に去っていた。

その後はある人物に恵美の母親の面倒を見てもらっていた。

そんな事は知らずに恵美は“風はるか”のマネージャー業を懸命にこなしていた。

「ねえ!恵美さん!」

「何ですか?お茶ですか?それとも・・」

「ううん。そうじゃなくて。大変でしょ?私のマネージャーは?休みないし、時間は不規則だし・・恋愛もできないわね。大丈夫ですか?私と同い年で、美人でスレンダーで、しかも胸まで大きい・・彼氏とかいないんですか?」

「いいえ大丈夫です。・・彼氏はいました。でも別れちゃって。その後は誰ともお付き合いはしてません。・・それに」

「それに?何ですか?」

「ううん。何でもありません。あゝ早く着替えして下さいね。ステージまで時間ありませんよ!」

そう言い恵美は話を誤魔化した。

(ヒロシ君・・会いたい。本当は凄く会いたい)

恵美の休日は“風はるか”が大学に行く日であった。その時は別のスタッフが付き添うため、恵美には束の間の休日であった。

恵美は休日に洗濯や掃除をするが、外出する事は無かった。

そんな恵美が無性に心配なヒロシは、こっそり郵便受けに映画のチケットを入れた。当時に人気のあったBack to the Futureの映画チケットであった。

ヒロシも好きな映画であったが、まさか自分がマーティーになるとは・・そうも思っていた。

掃除を終えた恵美は郵便受けから新聞を取り出した。その瞬間に落ちた封筒に気付いた。

「えっ?何これ?」

封書の中にはチケットが入っており、小さなメモ書きがあった。

(映画でも見て気分転換!あなたのファンより)

恵美は絶対に怪しいと思い捨てようとしたが、手書きの文字に妙な親しみを感じた。折角の休みでもあり、気が滅入っていたのも確かだと着替えて、映画館に出掛けたのだった。

映画館では大勢のお客が訪れており、恵美は帽子を深く被り席に座ったのであった。

映画が始まり恵美も食いつく様に画面にみいいった。

(いいな・・この主人公。私もできたらいいな。タイムスリップって・・)

そんな事を映画を見ながら思う恵美だった。そこに隣の席に誰かが座った。

恵美は満席なのに隣の席が空席であることに違和感があった。

暗闇で映画を見つめる恵美の膝の上に、ある物が置かれた。

(えっえっ?何この人?私の膝に何置くのよ!失礼な人ね。まったく東京の人は変わってると言うけど)

そう思っている恵美の横で、ビニールの袋を破りムシャムシャと何かを食べ始める男?であった。

(まったく!いちばんいいシーンなのにうるさいわね!・・・・この匂い・・えっ!この感覚・・うそ)

「あの〜それって、ジャムパンですか?」

恵美はそう小声で聞くのであった。

隣の男は黙って何も言わずに、恵美の膝に置いた袋を開けて手渡した。

(うわー、あのジャムパンだ。何か分からないけど、食べちゃお。お腹すいてたし)

そう言うと恵美はあっという間にジャムパン1つを平らげ、もっと食べたい素振りで映画を見ていたが、隣の男が食べかけのジャムパンを恵美の口に入れた。

「いいよ。俺の分もあげるよ」

そう言い恵美の口に入れた。

「えっ!う・う・うそ!ヒロシ君!?どうしてここに!」恵美は隣に座ったのがヒロシと気づいた。

「シー・・声大きい。静かに食べな・・そう言うと口についたジャムを自分の唇で拭いた。

恵美は泣き出しそうであったが、ヒロシは恵美の手をしっかりと握り離さなかった。

(ヒロシ君・・ヒロシ君・・夢?なの?ここで会えるなんて私・・思いもよらなかったわ。あなたの手・・感じる。うん?・・荒れてるね。洗い物のバイトかな?・・でも凄く嬉しい。夢を見てるみたい)

恵美はヒロシの手を握りながら、安心した様に眠ってしまった。

「あのー!すみません!終わりましたよ!次もあるので席を空けてもらえますか?掃除しないと」

恵美は従業員に声をかけられ起きたのであった。周りの観客はまばらで同じように眠ってしまった人が数人いるだけであった。

恵美はハッとし「ヒロシ君!ヒロシ君!」

ヒロシを探していた。

ヒロシは恵美に気づかれぬ様に、そっと映画館を出て建物の陰から彼女を見ていた。

(恵美・・恵美・・ごめんね。今はまだ会えないんだ。もう少しだけ待っていて。必ず幸せにするから)

そう心で思い恵美を後ろからつけ、アパートまで付き添ったのであった。

恵美は風呂に入りながら、今日の出来事を振り返っていたが少し困惑していた)

「いる筈ないわ。昨日、電話で牛山からヒロシ君が大学辞めて千葉に居るって言ってたし。夢だったんだわ。きっと会いたいと思うから・・」

風呂から出た恵美はふと考えた。

「でもあの唇の感触は・・夢ではなかったわ・・現実のようだった」

そう思うのであったが、恵美のジーンズのポケットに密かにジャムパンの包装袋が入っていたのを気づかなかった・・。


それから暑い夏になり、恵美への危険が迫っていた。

朱音はある事から恵美の居場所を嗅ぎつけた。

恵美が仕事に出掛けている最中に朱音は現れた。

ヒロシは「来たか・・朱音ちゃん」

どう見ても風貌はエミリであった。

この頃、エミリはヒロシを(たぶら)かし、まんまと心を掴んだと錯覚しており、早急に恵美を抹殺しようと焦っていた。

(なるほど・・こんな事に時間を費やしていれば、学校なんて行くはずもないな。不登校の意味がわかったし、たまの外出の意味がわかった。だが・・)

ヒロシはよくよく考えた。朱音が恵美を殺害するのを阻止した場合だ。もしも阻止できたとしても、今度はもう1人の自分が危なくなる。どんな危険行動を取るか?もし流れが変われば、俺はここから消える・・そうしたら、この蘇った理由がなくなるし、結果が同じになってしまう。

(朱音にも気づかれずに救う方法・・)

ヒロシはある結論を出した。無謀だが最後の策であった。

朱音が帰りヒロシは彼女の後をつけ新聞店に来た。

2日ほど経過を見守っていたヒロシだった。

その3日目にあることに気付いた。

(そうだった・・今日は夏祭りだ。よしこれだ)

エミリはヒロシの部屋にいき

「ヒロシ君!今日は夏祭りだよ!来るよね?」

「いや!おれ勉強あるから・・行けたら行くよ」

そう、もう1人のヒロシが答えるのであった。

ヒロシはもう1人のヒロシが勉強に明け暮れ、夜9時過ぎにスーパーで買物をする事を覚えていた。

(この好機だ。これしかない)

エミリは浴衣に着替え出かけるのであった。

ヒロシは当時の服に似た服に着替え祭り会場に来た。

公園の太い木の根元で座り待った。そこにエミリが来た。

「えっ!ヒロシ君!どうしたの!びっくり」

「あゝ・・なんか疲れちゃって。少し気晴らしだよ」

「何だ・・だったら言ってよ!最初から私とお祭りに行きたいって」

「うん。ごめん!」

ヒロシは当時のようにエミリに対した。暫く歩いたがヒロシは急に足を止めて、木陰に入った。

「うー少し休もうか?歩き疲れた。ね!」

「そうね?私もここに座ろうっと」

「ねえ!エミリ!聞いていい?」

「うん?何を?」

「ううん。大した事じゃないんだ。昨夜さ高校時代の友達から電話あって」

「そう言えば・・その後、ヒロシ君落ち込んでたよね。何かあったの?」

ヒロシは薄っすらと涙を溜めエミリに言うのであった。

「・・いや!やっぱり何でもない!ごめん!」

「えー気になる・・それになんか?泣いてる?何でも私に言ってよ。ヒロシ君慰めてあげるわ」

ヒロシはそうエミリに言われ、強くエミリを抱きしめ、躊躇(ためら)いながら言おうとした。

(あゝヒロシ君、感じちゃうわ。私のおっぱい触っていいのよ。ね!)

「・・昨日の朝だけど、元カノが車の事故で川に落ちて行方が分からないんだよ」

「えっ?どう言う事」

「なんか東京で仕事してる最中だったらしい。でも1人で帰る途中で、車ごと橋桁から落ちたらしいんだ。見つからなくて・・海も近いしダメかもって・・うううう・・恵美・・」

(何なのあの女・・手間が省けた。これでヒロシ君は私のもの。後は元の体を見つけて戻ればいいわ)

「そっか・・悲しいね。それで一度は帰るの?」

「ううん・・元カノだけど他人だし。向こうの友人の話を待つよ」

ヒロシは作り話を作り恵美が行方不明になってしまった事にしたのだった。

朱音がバカではない事を十二分知り尽くしたヒロシは、もう1人のヒロシに訳を話し、話を合わせるように仕向けた。また恵美には自分の部屋を空けて、向かいのヒロシの部屋に移るように仕向けた。

案の定、朱音は次の日にアパートに現れ、部屋を物色して帰っていった。

またもう1人のヒロシにも確認をして、嘘でない事実と判断するのであった。

朱音というかエミリはますます大胆になり、毎晩ヒロシの部屋にいき性交を重ねた。

(いいわ・・ヒロシ君もっとして・・あゝ気持ちいい)

やがてヒロシは埼玉学院大に合格をし、迷っていった。だが時間は流れていき、元の次元に戻すべく、予定通りに静岡学院大に入るのであった。

エミリも計画通りにバンドを結成し、ヒロシを招き入れヒロシと音楽界を席巻する夢を進めた。

問題は、当時のヒロシが、以前よりもエミリに夢中になっていた事であった。

しかもエミリの正体が分かっておらず、このままでは恵美を救ったが、自分自身がエミリというか朱音の思うままになり、次元が更に歪んでしまうと感じた。

仕方がなくヒロシは恵美のアパートに行くのだった。

(コンコン・・)

「あの・・どちら様ですか?」

「俺です。ヒロシです!」

(ガチャ・・)「ひ・ヒロシ君!ヒロシ君!」

そう言い恵美はヒロシに抱きついた。

ヒロシは恵美を制し部屋に入った。

「ごめん・・いろいろ。こんな苦しいことに巻き込んでしまって。でも・・最後のお願いに来たんだ」

ヒロシはそう薄っすらと笑い恵美に告げた。

「俺はどこまでもバカだ。君を忘れられずにずっと後悔してたんだ。次元を曲げたり、人生を変えたり・・馬鹿げてたよ。でもね。それでも最後の2年間は幸せだったよ。君と子供達と過ごせて俺は本当に幸福ものだった。」

恵美は少し涙を流し「ううん。あの60過ぎのある日に私があなたを置いて、勝手にタイムリープしたんだから・・というより気付いたら高校3年だったけど。執拗に朱音ちゃんが私たち親子を狙う次元・・お父さんもお母さんも・・死んじゃった」

ヒロシはしっかりとした口調で

「君に黙っていた。お父さんもお母さんも生きてるから大丈夫だよ」

「えっ!どうして。そんなはずないわ。確かに・・」

「俺が助けた。お父さんは車事故に見せかけ殺されるのを発見した。ただ事故は起こさないと怪しまれるから、事故となったけどそっと現場から引き摺り出して助けた。車はその後にガソリンが引火して爆発したから・・誰も助かったとは思わなかったよ。お母さんは朱音の母親と口論の末に突き飛ばされて、意識不明となって他界する予定だったけど、事前に警察に連絡を入れて、警官が犯人を追いかけ、救急車を呼んでいる最中に俺が助けて病院に連れていった。警察では死体が消えた事件で迷宮入り・・だから大丈夫。この先で会えるから心配要らないよ」

恵美はヒロシの話を聞きぐったりと力が抜け、横になってしまった。

「恵美!大丈夫か?」

「大丈夫よ。・・ありがとうヒロシ君。全て・・」

「大事なのはこの後だ。よく俺の話を聞いて欲しい。既に俺の過去の記憶が変わっている。君は今は19歳の未成年だけど、今の俺は25歳だ。この後起こる事件で君も俺もこの次元を去ることになる。だが怨念と君への思いが俺をもう一度ここに来させた。元の平然な時間の流れを取り戻せるようにね。だが、19歳の俺はエミリ・・というか朱音に心を許すようになっている。君も知っているように、彼女と母親は俺の過去の付き合いのあった親子に乗り移り、自分たちの思うままにこの時間を歪めている。これを訂正して朱音にも元に戻ってもらわないと」

「ヒロシ君・・それでどうしようって事?私が登場したらマズイわよね?だからと言って・・この次元にはヒロシ君が2人いるし・・」

「言い難いけど・・俺とここで燃えてくれ!」

「いや!嫌らしい・・燃えるなんて、何考えてんの」

「いやいやそう言う意味じゃない!火だるまになって、魂を飛ばすんだ。そうすればこの次元の体に移れる。そうするしか方法がないんだ」

「でも・・ヒロシ君は自分の体がこの次元にあるからいいけど、私はどこに飛ぶの!?それにそうしたら私は存在しなくなっちゃうわ。そんなの嫌!」

「大丈夫だよ。ショッキングな話だけど。君の体は俺の墓にある・・普段は見えないが、俺が近づけば現れる。この時間軸に戻る際に君をそこにしまってきたから。心配要らないよ。俺が戻してあげるから・・」

「ヒロシ君って、本当に頭いいわ。感心するわ・・でも熱いよね!きっと!・・怖いな」

「一瞬だ。俺がこの次元にタイムリープした際も、この1982年にきた際も経験済みだから・・俺を信じて」

恵美はそっと頷き服を脱ぎ始めた。

「おいおい・・服は着たままでいいよ。どうせ燃えるんだからね・・」

ヒロシがそう言うと恵美は下着姿で言った。

「燃える前に2人で燃えたい熱く・・抱いて!欲しいの。ヒロシ君をたくさん感じたい。・・どうせ・・エミリとか言う女としたでしょ?気持ち良かった?私を忘れるくらいに・・」

「ああっ!そんなはずないだろう?君を忘れたことなんて無いよ。いつだって恵美が好きだよ」

ヒロシはそう言い恵美をベッドに運び、Tシャツを脱ぎ捨て、ジーンズを脱いだ。

「君のこの肌が懐かしくて恋しかった・・」そう言いブラをそっと外し胸を優しく愛撫した。2人は裸で愛し合い昔のように燃え上がった。

「大好き・・あゝあゝ!ヒロシ君!」

互いの局部を舐め合い感じた2人は上下入れ替わり立ち替わりで続けた。

ヒロシは我慢できずに中に出した・・

「あゝハーハー・・ありがとうヒロシ君・・あゝ」

2人は明け方に起き上がり、準備をし始めた。

部屋に石油を撒き、各々の体にかけ準備万端。

「ねえ・・ヒロシ君。こんな石油臭いところなんだけど。・・すごーく気持ち良かったわ。本当にうまくわ。また帰ったら抱いてね」

ヒロシは本当にこんなところで言うセリフでは無いと思ったが「うん。俺も最高に良かった。次は一晩中しようね」と答えた。

ヒロシはマッチに火をつけ「じゃあ!行くよ。俺の手を握って、“風はるか”をかんがえて念じるんだ」

「うん。分かった。じゃあ・・またね!」

火は2人を包みあっという間に火だるまになった。やがて2人は燃えきり部屋から消えたのだった。



続く




ついに恵美を救い出し、朱音を騙したが、自分の身と今後の展開を組み立て直し、最終的に恵美を現世の体に戻すことを考える。

2人は本当に乗り移り、朱音の計画を阻止できるのか?

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