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折に触れて廻る2  作者: 馬場 ヒロシ


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12/12

第12章  殺人

ヒロシは大学四年になり、大学生活が残り1年となった。バンドのプロデュースにバイト更に就職活動と忙しくしていた。

「笹島さんおめでとうございます。無事に4年生になれましたね。今度こそ卒業できますね。大学6年生ですけどね・・」

「ああー全く!ヒロシといると、バンド活動だけじゃなくて、勉強会までするんだから参ったよな!・・まあ、そのお陰で卒業できそうだけどね」

笹島も井上も北野もが皆、ヒロシに感謝したのだ。

「音楽も勉強も大切です。音楽で食っていかない限り、就職には有利にしておかないとね?!」

ところが佐藤はバンド練習がない日は、エミリの尻ばかりを追いかける始末で、勉強に身が入っていなかった。

「佐藤!よく飽きずにあの子にアタックするな!」

笹島は呆れ顔で佐藤に言ったが、佐藤は気にもせず

「僕が誰を追っかけようと勝手でしょ!それに・・エミリちゃんに惚れちゃったんだ。あんな可愛いのに、キーボード上手くてしかも美人だし!」

「あの手の顔はごまんといるぜ!それに佐藤・・顔じゃないだろ?・・オッパイとお尻だろ!好きなの?」

佐藤は笹島にズバリと言われて戸惑っとが、動きを交えながら説明していた。

ヒロシは「あー・・どうでもいいよ!勝手にしな!」

それしか言えなかった。

1986年4月・・

ヒロシは長らく放置していた、恵美の謎解きに掛かるのであった。エミリも最近はやって来ず、安堵した状態であった為、再度1年前近くの出来事を掘り起こした。

(あの葉書だ。あゝこれか・・何か引っ掛かるんだよな?俺がここに居るってどうやって知ったんだろ?恵美は無論のこと、恵美の両親にも牛山さんやマコト君にも言っていなかった。なのにいつの間に住所がバレて電話番号まで分かったんだ。不思議だ・・更に引っ掛かるのは事故のことだよ。あの後図書館で千葉日報を調べたけど、1982年の9月3日にそんな事故の記事は無かった・・それに亡くなったという10月初旬のお悔やみの欄にも恵美の名前は無かった。この時代なら地方版のお悔やみ欄に死亡した名前や年齢が載っていた筈なのに)

確かにそうであった。状況からみてもその患者さんは存在しない・・ではないか?そう思えたが、確固たる証拠もなかった。

1986年4月29日祭日 天皇誕生日

無論だが今はみどりの日だが。

久しぶりにヒロシは、地元の千葉に向かっていた。

目的は恵美の捜索もあったが、就職希望先の説明会も東京であった。

静岡駅から特急ふじかわに乗り東京駅に向かっていた。その車窓でふと思い出した。過去に列車の中で横に恵美が座り、安心したように2人で頭を寄せ合い眠ったこと。途中下車した恵美に気づかず、走る車窓から見えた恵美・・そっとポケットに入れられたメモ。

あの時には何だろう?と思ったメモだったが、今は少し理解できていた。

(あの茜雲の向こうに居る2人だった。情は心で、感は感ずること・・分かってるでしょ?私たちが一緒にいられない訳・・心で結ばれても、感じないあなたを。過ぎ去る時間の中で、きっと感じる時が来る。あゝ・・この瞬間だったなあって。遅くなるまでに見つけてね!この時間の途中で・・さよなら)

「恵美は別れの言葉を俺にくれた。俺に新しい人生を見つけるように促した。でも・・どこに行ったんだ。これじゃ逆効果だよ。余計に君のことが気になる」

そんなことを呟きながら社内で過ごすのであった。

そんな折にヒロシは途中で無性にトイレに行きたくなり、車内のトイレに急いだが、使われており爆発寸前となっていた。

(トントントン)「すみません!まだですか?」

「すみません!こっちもなかなか出なくて!待ってください!」

「・・あゝ!漏れる・・!ダメだ」

とその時に途中駅につき、5分ほど停車するのだった。

ヒロシは猛ダッシュでトイレに向かい、ファスナーを開け用を足すのであった。

「はあ〜良かった。間に合った!」

そう安心して用を足し、トイレを出て列車に乗りこうもうとしたが、ある事に気付いた。

「ここは“風はるか”のコンサートに行く際に、恵美に会い恵美が俺を見送った駅だ。・・そっか。ここだったか」そう思いながら入り口に手をかけた際にある物が見えた。

「ベンチ・・」それは駅ホーム内にある古い木のベンチであった。

「確か・・俺が走り出した列車から恵美を発見した際に、彼女はあのベンチに座って見ていた。俺を。そこから立ち上がり、手を振った・・」

ヒロシは慌ててそのベンチに近づき、見いいった。

特に変わった様子もない。それにただ恵美が過去で座っていただけのベンチだった。

「俺の考えすぎか?・・」そう言いベンチに座った。

その瞬間だった。

ヒロシの脳にある光景が映り込み、脳を支配し始めた。

それはここに座り独り言を言う恵美の声だった。

(ヒロシ君・・今は我慢して。私は今から暫く隠れてしまうわ。しばらくこの恵美の姿は見れないから、遠くから確りと見てね。1986年5月に会いましょう。それまではお元気で過ごしてね。お願いね。私にきっと気付いてね・・暫くさよなら)

まるでカセットテープを聞くように、ヒロシの脳に書き込まれたのであった。

(何なんだ・・この不思議な出来事は。信じられない。何年も前にここで手を振っていた、恵美の心の声が聞こえるなんて・・いったいどう言う事だ)

ヒロシは汗を掻き、暫くベンチに座っていたが、駅員の「ふじかわ3号出発になります!乗り遅れにご注意ください!」との放送が聞こえ我に帰ると、走って列車に飛び乗ったのであった。

東京駅からJR線、私鉄に乗り換え実家の近隣の駅に着いた。

ヒロシは先ほどの妙な心の声が気になり、駅前でビールを買い一気に飲み干しバスに乗った。

アルコールが体を支配して一気に眠気が襲って、あっという間に居眠りをした。

(ヒロシ君・・ヒロシ君)

彼は心の中で叫ぶ恵美の声でハッと起き、降車ボタンを押し途中下車をしたのだった。

「俺・・どうかしちゃったのか?あんな声・・聞こえて。でも妙に近かった。横に座っているようだった」

そう言い大汗をかき公園のベンチで休むのであった。

(それにしても・・不可思議だ。誰も居ないのに。俺の頭の中に恵美の声が聞こえる。)

ヒロシは今日の出来事に相当な違和感を持ち、真っ直ぐに家に帰れなかった。

(まあ・・恵美のことを考えすぎる俺のバカな頭が、幻聴や諦めきれない想いを頭に繰り返してるかもな)

そんな事を思っていたが、座っていたベンチがあのハガキに書かれていた、公園のベンチである事に気付いた。

「ああ・・結局はここに座っちゃうな。彼女との思い出が詰まったベンチ・・仕方がないか?思い出深いからな。でも前来た時は何もなかったしな」

などと思いベンチを立とうとしたが、尻がベンチにくっ付いたように離れず。

「おいおい接着剤か?ペンキ塗りたて?ではないか?・・うーあーう〜離れない!いったい!どう言う事だよ!あゝ全く!困ったな!」

足掻(あが)くがヒロシは立ち上がれず、ベンチに引っ付いたままだった。

その時だった!!

ヒロシの足元に火が燃え上がり、ヒロシは火に包まれた。服やズボンに火が回ったが、体が動かずどうにもならなかった。

近隣の女性が大声で「ベンチが燃えてる!火事よ!大変よ火事よ!消防車〜!」

しかし1分ほどで火は消えて何も起きていないように、ベンチは元通りだった。

「あら?目の錯覚だった?変ね?確かに火だったわ」

女性は集まってきた住人に謝り火事でない事を説明して事は収まった。

だが・・ヒロシは火と共に消えていた。

不思議な事象が発生したが、誰も知らない事であった。それでもベンチのヒロシが座っていた部分に、薄っすらと跡が残っていたが。


それから1時間程経ち、ベンチに急にヒロシが戻ってきた。カゲロウのように薄っすらと現れ、やがてはっきりと出現したのだった。

「ハッハッハー・・何だったんだ。・・火に飲み込まれた。けど生きてる・・短いが1982年に行ったようだったな。はっきりと見えた。確かに・・」

ヒロシはそう呟き家に向かうのであった。

4月30日・・

ヒロシはスーツ姿で都内に居た。会社説明会のためであった。

過去のメーカーへの就職は選択できなかった。

大学に何故か?募集が無かったのであった。

彼はメーカーへのチャレンジを諦め、過去に生きた就職先に説明を聞きに行った。

将来、前田が独立してMAEDA企画を作り、そこにお世話になる。行った先はサウンドパラダイス社だ。

多くのアーチストをサポートする企画会社で、ヒロシがある程度羽ばたくことができた会社だった。

「そうか静岡学院大か。それで今日は説明会の後は静岡に帰るんか?」

そう対応してくれた前田課長だった。将来は独立して会社の経営者になるがまだ先だ。

「知ってるぞ・・君の顔見てぴーん時たんだ。Hiroshi Taniだろ。もう9年ほど前だけど、君がNHKで録音する時に一度だけ見たんだ。そうそうその怪訝そうな顔覚えてるよ!」

前田がそう言うとヒロシは人差し指を口の前に立て

「声が大きいですよ。他の学生も居るんです。聞こえちゃいますよ」

前田はヒロシが隠したいと思っている事に気付き平謝りをするのであった。

午前11時40分に説明会は終わり、部長と課長である前田と共に食事会に出かけた。

この頃はバブル期であり学生は引く手あまたであった。会社説明会は会社側が一生懸命が当たり前で無論であるが、終わった後の食事や飲み会まであった時代。どの企業もいい学生を獲得しようと躍起であった。

「さあ!皆さん行きましょう。大した料理では無いですが、ゲストも呼んでますからお楽しみに!」

そう案内を受けながら、会社ビルの向かいの中国料理店に入り、ヒロシはびっくりした。

(なんか・・高そう。テーブルを回す奴だな!)

そう思いながら、丸テーブル2ヶ所に7人ほどの学生が座り、ヒロシのテーブルには前田が来て、もう一方には部長が座ったのだった。

直ぐに料理が運ばれてきたが、学生達は緊張のあまり箸が進まなかった。ヒロシも高価そうな中華料理に手が出しづらい状況であった。

だが・・「あら?食べないの?私取ってあげる?」

そう言い北京ダックの皮を二枚ほど小皿に取り、ひろしの前に差し出した。

「あ・あゝどうもありがとうございます」

(って!“風はるか”じゃないか!またここに現れるとはしぶといな!)

そうであった。スペシャルゲストは“風はるか”であった。学生たちは一斉に持っていた<写るんです>(インスタントカメラ)でパチパチと写真を撮りまくっていた。

ある学生は「ぼ・僕・・“はるか”さんのファンなんです」と握手をしていた。それに続き他の学生も次々に握手を求めていた」

彼女は和かに笑みを浮かべ一人一人と握手をしたのだった。

最後にヒロシに手を差し出して「いいの?握手?」

ヒロシは手を出さずに小皿のチャーハンを食べながら、首を横に振っていた。

他の学生達は何と勿体無いと思いながら覗き込んでいたが、前田がフォローした。

「そっか!はるかちゃんの大学と同じだもんな!珍しくないか。ごめん〜ん。」

「まあ、それもそうね・・裸で抱き合った間柄だしね・・」

ヒロシの耳元でそのように言った言葉で思わず、チャーハンを吹き出した。

「ああ、谷君大丈夫か?」

「ハーハー・・はい。大丈夫です」

「でも・・裸で?間柄?・・なんなんだ?」

ヒロシは“風はるか”を睨み訂正するように目で指示するのであった。

「あら!あははは!前田さん!違うってば!裸で・・でなくて博多で・・沢庵だよね!ですよ」

皆は???状態で更に彼女が説明した。

「あのね・・この人が同じ大学で、ゼミで一緒だったから話したことがあったの・・博多出身で、明太子と沢庵が好きだって言っていて・・うふふ。と言うことですよ。ごめん聞こえるように言えばよかったわ」

前田は小声で「“はるか”ちゃん!谷君は千葉出身だよ。九州じゃないよ!」

そう言うのであった。

彼女も小声で「細かい事はいいでしょ!」

前田に言ったのであった。

みんなは安心したように胸を撫で下ろし笑いが戻った。

「えっと、私どこに座ろうかしら?・・あ!ここね」

と言いながらヒロシの隣に座った。

ヒロシは小声で「向こうだって空いてますよ・・わざとじゃないですよね?」

“風はるか”も小声で「そう言わないで。一緒のスプーンで食べた仲でしょ」

ヒロシは飲んだ烏龍茶を吹き出し咳き込んだ。

彼女は「慌てないでくださいね。・・谷さんでしたっけ?ゆっくり飲んでください」

周りの学生はヒロシが(わざ)としているのではないか?となにやら睨んでいたのだった。

「ち・・ちょっと辞めてくださいよ。・・結局は違ったでしょ!僕は僕のスプーンでした。もう3年以上も前のことを覚えているなんて・・」

“風はるか”はただ笑うだけで、それ以上の話は無かった。

だがヒロシは気付いた・・今日の彼女は本物ではない。もう一人の人格・・

ヒロシはコントロールがうまく行っていない(リフに旋律は)どうやら賞味期限が過ぎたと思うのであった。

食事会は和やかに終わり、最後に全員で記念撮影をしたのだった。無論、中心に“風はるか”を入れてだ。

ヒロシは帰り際に前田に呼び止められ言われた。

「谷君・・実は知ってるよ。彼女と何があったか。さっきは言わなかったけど、彼女から以前聞いたことがあるんだ。同じ大学に好きな人が居るって・・君だって聞いてたけどわかる気がする。運命ってこう言うもんだね。知らず知らずに近寄ってくる。糸に導かれるようにね。無論、誰にも言うつもりはないよ。まだまだアイドル路線で彼女は頑張るだろうし、君にも我が社でビックになって欲しいから・・じゃあ!気をつけて帰って!夏の入社試験で会おう!」

そう言い手を振って走って行った。

(困ったもんだな。彼女・・第三者にもそんなこと言って・・きっともう一人の人格が知ったら・・可哀想だ。でも、俺にはどうにもできないけど・・)

そう思いながらヒロシは静岡に戻るのであったが、その前田との会話を影から聞く人物がこっそりいた。

「うふふ・・やっとだ」


5月になり佐藤は相変わらず、エミリを追って話しかけていた。

「ねえ!エミリちゃんてば!聞いてよ!」

「私、バンドの練習が忙しいので!」

そんなやり取りはもう半年近く経っていたが、佐藤は決して諦めずにエミリにアタックするのであった。

ヒロシはそんな光景を見ていて佐藤に呆れていたが、

「佐藤・・きっと、お前がタイプじゃないんだよ!だから・・諦めも肝心だぜ」

そう諭すも聞かなかった。

最近は皆が就活に忙しく、バンド活動も休止状態だった。久しぶりにヒロシは部室に入りギターを弾き、曲を作っていた。

そこにエミリがやってきて「ヒロシ君!私のキーボードの上達ぶり聞いてよ!良くなったと思うわ」

そう言うのであったので、ヒロシは彼女の演奏をチェックしたのだった。

エミリの演奏が終わり、意見を聞かれた。

「うん!いいよ!だいぶ良くなったし、問題なくいけると思う・・」

「じゃあ・・私のバンドのプロデュースお願いね」

ヒロシは笑って

「おいおい・・プロデュースをするとは言っていないよ。君のキーボードのことを聞かれたから、感想を言ったまでだよ。それに俺以外に素晴らしい音楽を教える人たくさん居るから、探してみなよ!」

エミリは悔し涙を溜め「じゃあ!強行手段で行くわ!後悔しないでねヒロシ君!」そう言った。

そう言い彼女はキーボードを背負い、部室を走ってでて行った。

(何なんだ。俺が気付いたこと・・分かっていないのか?・・強行手段って何だよ。まったく困る)


1986年5月19日・・ヒロシの誕生日の前日

バイト先の居酒屋で仕事終わり、従業員の人たちより(ささ)やかながら、ヒロシの誕生日会を居酒屋で開いてもらった。

「えっと、皆さまありがとうございます。自分も後3分ほどの5月20日で23歳になりますが、このような会を開いていただき感謝しかありません!」

そう挨拶するヒロシにみんなは微笑み「おめでとう!」と叫び、ヒロシを祝った。

時計の針が12時を指し23歳になるのであったが、点けていたテレビで緊急ニュースが流れた。

トゥナイトの生放送中に急に報道フロアに画面が変わり、皆んなも何事かとテレビを覗き込んだ。

(先程・・港区麻布の自宅マンションで歌手でアイドルの“風はるか”さんが遺体で発見されました。死後数時間経っているようで、胸や腹部に数ヶ所の刺し傷があり、外部からの侵入者による殺人事件として、麻布警察署が犯人の行方を追っています。繰り返してお伝えします・・・・)

ヒロシはあまりの驚きで持っていたコップを床に落としてしまった。

(そんな・・どうして?・・何でこんな事が)

(にわ)かに信じられないニュースに皆が驚いたが、数日前に明るく笑い合った彼女の死は、ヒロシには多大なるショックであった。

翌々日に通夜が行われて、多くのファンが“風はるか”に泣きながら別れの言葉を伝えていた。

ヒロシは辛い気持ちを抑えながら、彼女の遺体に花をたむけ別れを言うしかなかった。

帰り際に前田さんが寄ってきてヒロシに話があると言うのだった。

2人はそっと会場を出ると近隣のバーに行きひっそりと端で話をした。

「不思議なんだ・・」「何がですか?」

「彼女のお母さんの話だと昨夜、死んだはずの彼女がそっと起き上がり、しゃべったって言うんだ」

「まさか?あり得ない。夢ですよ・・」

「それが・・彼女が・・私は“はるか”さんの別人格です。と言うより乗り移った人格です。死んだのは私です・・娘さんは生きています。だから、決してこの身体を燃やさないでくださいね。2日後に目を開けますから・・と言ったと言うんだよ。嘘みたいな話で俺もまさかと思っているんだが、さっきお棺の彼女を見たら、本当に生きてるみたいで血色が良いんだよ」

「そんな事有ります?信じがたい・・」

その時だった。

「ま!前田さん!すぐ来てください!大変です!」

前田の部下がバーにいる前田を呼びにきた。

「やっぱりだ!」

そう言い前田はバーを出て行ったので、ヒロシも後を追った。

葬儀会場は大騒ぎになっていた。

「生き返ったよ。“はるかちゃん”が!やったー」

「眠っていただけなの?泣いて損したわ!」

「ううう・・はるか。生きていてくれたんだね!」

ヒロシは自分の目を疑った。

死んで棺桶に入れられたはずの“風はるか”が起き上がって喋っていた。

(何が何だか分からんし、どうにも混乱する)

前田は笑いながらヒロシを引っ張っていき、はるかに合わせた。彼女は赤くなり

「あれ・・もしかして谷さん?・・どうしたんですか?・・なんか・・恥ずかしい。想像すると・・」

(こんな時に何を思い出してんだよ。・・しかし・・彼女はこの前の“風はるか”ではないな。本来の風はるか)

彼女はスタッフに抱えられながら、車に乗り込み式場を後にした。多くのフラッシュが()かれ、騒然な中を車が去って行った。

その時にヒロシの側に警官が寄ってきて声を掛けられた。「あの!谷ヒロシさんですか!」

「あゝ・・はい、そうですけど。何か?」

「署までご同行願いますか?」

「えっと・・何の件ですか?」

「この騒ぎのことです。署で面会を願う者がおりますのでよろしくお願いします。」

そう言うのであった。

ヒロシは覆面パトカーに乗せられ、麻布警察署に着くのだった。

署の中で事件担当の刑事から、驚きの話しを聞くのであった。まさに恐ろしい話しだった。

「谷さん・・佐々木エミリっていう人物を知っていますよね。あなたが埼玉で仕事をしていた時に接点がありましたよね」

「ええ良く知っています。彼女が何か?」

「彼女を先程逮捕しました。住居侵入と殺人容疑です」

「・・まさか、“風はるか”さんの容疑ですか?でも・・彼女はさっき見たように生きてますから、殺人は無いのでは?」

「いいえ!彼女は殺人と死体遺棄をしています」

ヒロシは不審と思い「だって生きてるでしょ?」

そういうのだが、刑事は話しをつづけた。

「容疑者ですが、殺意や関係性について、あなたに話したいと言ってるんです!だからお呼びしました」

混乱していたヒロシはことのなりが理解できずに更に困惑したのだった。

刑事の誘導で取り別室前に来たヒロシだった。

「我々は隣の部屋から見聞きしてますので安心ください。容疑者が2人じゃ無いと話さないと言うもんで」

仕方がなくヒロシはドアのノブを捻り中に入って行った。

「ああ・・ヒロシ君」

エミリの両腕には手錠がされ、痛々しく思えた。

「どうしたんだ。何をしたんだ。さっき君のお母さんに会ったけど、顔色ひとつ変えていなかった」

「だから・・言ったじゃない!強行手段で行くって。だから殺したわ!ああ!すっきりした!」

「何を言ってるんだ。“風はるか”は息を吹き返して生きてるよ。それに殺人容疑って殺してもいないのに?」

「あゝ・・そう?早かったわね?・・私はね!うふふ。・・今から言うことを良く聞いてね、ヒロシ君」

「あゝ分かった。・・朱音ちゃん・・」

「何だ。やっぱり分かっていたのね!」

「君のキーボードは俺が忘れるはずはないよ」

「そっか。・・でも何度私を捨てるの?今回はあなたの昔の知り合いだけど、私の魂はあなたを追い続けるわ。たとえ灰になっても」

「君は何度俺を苦しめるんだ。もういい加減いいだろう。もう恵美もいないし・・」

「あー!嘘言っちゃって!知ってるわよ。あなたが“風はるか”と関係持ったこと。知っていたんでしょう?彼女の体に恵美さんがいる事を?だから彼女を離さなかった。でしょ?・・だからね、マンションに侵入して彼女をめった刺しにしてやったわ。・・そうしたら恵美さんが出てきて、体ごと現れたわ。そしたらこんなことを言ったわ」

(お願い・・この子は関係ないでしょ!朱音ちゃん!狙いは私でしょ!だから彼女の痛みも私が貰って出てきたわ。・・そんなに悔しいの?そんなにヒロシ君に振り向いて欲しかったの?・・縁だわ。縁が無かったの!あなたとヒロシ君・・いい加減にして!)

「そんな生気なこと言うから、もっとめった刺しにしてやって、遺体を持ち去って目黒川に捨ててやったわよ!どう?悲しい?悲しいでしょ?あははは!」

ヒロシは泣き叫びエミリのワンピースの襟を掴み殴ろうとしたが、警官が飛び込んできて止められた。

エミリは警官に引きずられ取調室を出て行くが、捨て台詞のように「私は不死身だから・・」

それから・・ヒロシは遺体安置所に行き恵美の顔を確認した。

「間違いなく・・嵐山恵美さんですか?」

ヒロシは泣きながら「はい・・間違いありません」

その言葉でいっぱいであった。

佐々木エミリはその後に牢獄で、母親は山手線内で自殺を図り自らの命を絶ったが・・その後に瓜二つの大学生とその母親が埼玉のあの土地で暮らしていた。昔のように新聞店の親子として・・

そうして2人には何も知らない過去になった。


ヒロシは故郷に恵美を連れていき昔、恵美が住んでいた家に連れてきていた。それも誰にも知らさず・・

「恵美・・懐かしいだろう。君の家だよ」

ヒロシは恵美の白衣をそっと脱がせた。

体中の傷を触り「痛かっただろう・・辛かっただろう。もう苦しまないで」

そう言い服を着せ、化粧を顔に施し、彼女が好きだった赤いヒールを履かせ、強く抱きしめたのだった。

調べた結果だが、恵美の両親はあの親子に悩まされていた。その結果、高校の卒業式と同時に恵美を東京の事務所に託し、自分たちは店を閉め、東北に逃れた。だが苦労が祟り、父親が他界しその後に母は地元に戻ったが、偶然にエミリの母親に見つかり殺された。

ヒロシが知ったのは、あの公園のベンチで火だるまになり過去に戻り見てきたのだった。

あの駅のベンチで聞いた恵美の声は近くにいるよ・・そんなサインだったと気づいた

あの日・・エミリの言葉を聞いて止めていたら・・そう悔やんで仕方がなかった。

しかし遅かった。

ヒロシは恵美を抱きかかえ、夜中の家を出た。

「なあ・・恵美行こうか」

そう言うと夜中に恵美を抱きかかえ、あの公園のベンチに彼女の亡骸を横たえ、その横に座りヒロシは泣きながらある紙袋を開けた。

「やっぱり・・公園・・て言えばううう・・ジャムパンだよな・・うウェーん・・ううっ」

ヒロシはそう泣きながらビニール袋を開けてジャムパンを出して千切(ちぎ)って恵美の口にそっとあてた・・

「うまいな・・あゝ!うまい!・・うううー」

そう食べながら恵美を見つめるのだった。

「じゃあ・・行くよ。これで終焉だ。君と一緒だから俺は嬉しいよ。君に会えたら言うつもりだったんだ。

あの卒業の日に言うつもりだったんだ。・・やっぱり、君が居ないとダメだよ。一緒にいてくれよ・・って!・・やっと言えたよ。ごめんね。でもね、これからは2人一緒だから・・」

そう言うとヒロシは恵美にガソリンをかけて、自分も頭から被り、ライターに火をつけ足元に落とした。ガソリンに着火した火はみるみる間に2人の体に飛び火し、火だるまになった。

2人は燃え尽き灰もない程だった。


このようにしてヒロシは恵美と共にこの世から消えて行ったのだった。

どこまで行っても追い続けた朱音に嫌気がさしていた。これ以上は繰り返したくなかったのだ。



恵美の家には2通の手紙が残されていた。一つは両親や地元の友人関係に、もう1通は大学の仲間や就職するはずだった会社関係の人や前田にだった。

その文章の中に・・

「僕は・・茜雲という曲を作らなければ良かったと思っています。この曲に翻弄されたり、この曲で踊ろされた自分と恵美がいます。もう葬って欲しいです。もう終わりたいんです。今までありがとうございました。   谷 ヒロシ  嵐山恵美



続く


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