銀河の終焉
「496番でお待ちのお客様。お待たせしました〜。」
「はーい、ありがとうございます。」
奏多はバーガーセットを二人分載せたトレーを運び、シルヴァが座る席へ運ぶ。
「はい、お待たせ。」
「あ、ああ。ありがとう。」
「おう。」
(ど、どうしよう。)
_数十分前。
ご飯を食べに行くと言われ、連れてこられたのは『☆SMILE HAMBURGER☆』と書かれた看板のお店。ネオン看板がやけに目立つが、外装は和装建築と、アンバランスなデザインだが、妙に親和性を感じる。通称ネオン街と呼ばれるこの街には、こういった建物が数多く存在する。店に入ると、自由な席を選んでほしいと言われたシルヴァは、真っ先に窓側の席を選んだ。窓の外から見える景色は、ギラギラとした夜景が目に焼き付いた。
「それじゃ、注文してくるけど何がいい?」
「え?なんでもいいけど……。」
「じゃあ、普通のバーガーセット注文してくるよ。ドリンクはコーラでいいよな?」
「こーら?わ、分かった。」
「サイドはポテト?ナゲット?」
「ぽ、ぽてとで。」
「じゃあ、俺はナゲットにしようっと。じゃあ、買ってくるから待ってろ!」
「おー、ってお金!俺、お金持ってない!」
「ん?いいよいいよ!俺の奢りな。」
申し訳なさを感じながらしばらく待っていると、奏多が商品を持って席に戻ってきた。渡されたものを見てシルヴァは「えっ…!?」と戦慄が走った。
小さな箱に入っている細長いスティック状の黄色い食べ物は、見たことがある見た目だったため比較的食べ物と認識しやすかった。しかし、残りの二つは別。そのトレーに乗っているコップには、シュワシュワと音を立てる謎めいた黒い液体が入っていた。何故音が鳴る?泡まで立っているのだ。これは飲み物なのか?本当に…?
特に一番困惑したのは、奏多が『ハンバーガー』と言って渡したものだ。この紙で丸まった物が食べ物?紙が食べられるわけがないだろう。
(…どうしよう。これをこの星に住む人たちは食べてるの?)
俺が食べ物?をじっと睨めっこをしていると、奏多が窓の外を見つめながらポツリと呟いた。
「……先に聞きたいよな。俺の目的。」
「……え?」
顔を上げると、いつの間にか奏多はこちらを向いていたようで、眉を下げて、困ったような笑みを浮かべる。
「そもそも話をするためにここまで移動してきたんだ。当たり前か。」
「そういえば、そうだったな。」
こほん、と一つ咳ばらいをすると、奏多は真剣な顔つきで話し始める。
「いろいろ話す前に、まずはこの銀河について話そうか。」
「ああ。頼む。」
「この銀河にはとある予言があった。」
「予言?」
「ああ、その内容はこうだ。『先の未来、この銀河は必ず終焉を迎える。』というなんとも抽象的な内容だ。具体性なんてものは一切ない。誰が言い出したかも分からない。しかし、その予言を信じさせる要因がこの銀河にはあまりにも多く存在する。」
「要因?」
「ああ、いくつか抜粋して紹介しよう。一つ目はアンノウンの存在だ。」
「アンノウン?」
「まず、この銀河には大まかに三種類の生命種が存在する。一つ目は『神』。文字通り、この銀河の創造主であり、司るものに由来した強大な力を有する者たちだ。」
神、と言われてシルヴァはフェイアスによく似た女神を思い出す。彼女も運命の女神と名乗っていたから、種族的には神に分類されるのだろうか。
「二つ目は、『生命体』だ。神々によって創造された生命体であり、人間、獣、植物。または人外とも呼ばれる竜、機械、吸血鬼など、数多くの生命種はそこに分類される。」
「その二つの分類点は神とそれ以外の種族ってこと?」
「正解!」
「よっしゃー!それで、最後は?」
すると、奏多はとても重たい空気を纏い始めた。顔から笑みは消え、瞳には氷のような冷たさを感じるほどだ。
「……最後、三つ目は『アンノウン』。この世に存在してはいけない忌み物だ。」
「存在しちゃいけない……?」
「そうだ。そしてこいつらの存在が、銀河の滅亡する理由の根拠の一つとなっている。」
「滅亡の原因!?」
「アンノウンは、人でも神でもない。見た目は驚くほどに白い。様々な異形のアンノウンが存在するが、たまに知性を持った人型のアンノウンも存在する。奴らの特徴としては必ず赤い瞳を持っている。そしてどいつもこいつも残虐性を持っている。」
「残虐性…?」
「奴らは星々を侵略し、滅ぼすという動作を繰り返している。その星に生きている者は、神であろうと関係なし。必ず敵対し、殺そうとする。奴らは一体ずつ生きていれば、家族くらいの構成数で群れている。が、国の如く群れをなし、星間移動をし、星々を滅ぼすこともある。」
「一体、何が目的なんだ…!?」
「何が目的かなんて分からない。言えることがあるとすれば、奴らの行動が大きな被害を生み、終焉へと一歩ずつ着実に向かっていることだ。世の中には、アンノウンに体を侵食される者も多数存在する。」
「侵食された人どうなるの?」
「最初は何事もなかったかのように振舞えるが、だんだんと正気を失くしていき、やがてその人自身がアンノウンへと変貌する。」
「そんな……。」
「まだ完治する方法は見つかってない。…だけど、数千年経ってもアンノウンの侵食に耐えながら生きている人もいるんだ!彼らの存在が、新たな抗体を作り出し、進行を食い止める薬を作ることも出来た。」
「すごっ!」
「全部が全部、絶望ってわけじゃない。……いつか必ずアンノウンは滅ぼす。アンノウンは、この世に存在しちゃいけないんだ…!」
「…奏多…?」
ずっと明るく気さくだった青年から、聞いたことがないほど酷く冷たく、ドスの効いた低音が聞こえる。不安げに名前を呼ぶと、彼の表情はすぐに元に戻る。
「長々と話したけど、これが恐らく銀河を滅ぼす要因の一つだ。」
「一つってことは、他にもあるのか?」
「残念ながら…な。」
「その他は?」
「そうだな、一番有名なのは最後にして、他に話に挙げられているものを話そう。2つほどある。一つは割と最近言われるようになったことだ。それはとある組織の名前だ。」
「組織の名前?」
「その名も『聖禍の集』。やつらは、アンノウンとも違う派閥であり、構成員は神と生命体。奴らの目的は、この銀河を滅ぼし、自分達の理想郷へと変えること。」
「滅ぼして、変える…!?」
「理想郷と言えば、良いようには聞こえるが。やってることはアンノウンと変わらない。奴らは他の神々から力を奪い取り、壮大な力を持って滅ぼそうと目論んでる…と言われている。が、実際の方法なんて知らない。けど、分かってることは奴らも銀河に仇なす者ということだ。」
人同士でも争っている。シルヴァのいた村にも、人同士の争いはあったが、奏多達の生きる銀河では、終焉をかけるほどの争いであるというスケールの違いに、戸惑うことしかできなかった。
「それで、もう一つは?」
「それが、俺がここ任務で来た理由さ。銀河には数々の神々が創り出したとされる『遺物』が存在する。」
「さっきもその名前が出てたな。」
「遺物は、願いを叶えるために創られたとされていて、かつて始まりの時代。創造神を含めた神々が生きていた頃。彼らは己、それから生命体の願いを叶えるための道具を創り出した。それが現在で言う遺物だ。」
「願いを叶える道具?」
「そうだ、それもとんでもない威力を兼ね備えたものだ。」
「とんでもないって…どのくらいヤバいの…?」
「それはだな……、使いようによってはこの銀河をぶっ飛ばせるぞ☆やったね!」
「やったね☆じゃねぇ!!」
「と、言ったようにこれは中々ヤバい代物でな。これがなんと各星に散らばってるんだ。封印されているものもあれば、国によっては国宝とされているものもある。」
「ええ!?それってヤバいんじゃないのか!?」
「もちろん。遺物を巡って星間戦争だって起きる。」
「せ…戦争…。」
先ほどからあまりにも壮大な話を聞きすぎて目眩を感じてくるが、奏多はそんな俺の様子には気付かない。
「星同士の均衡を保たなければ、銀河が滅ぼされる前に、自分達の手で滅んでしまう。それを避けるために、近年に設立された組織。それが『銀河協会』だ!」
「銀河の平和を守るために…ってことか?」
「その通り!しかし、協会だけじゃ、この銀河に数多に存在する星々を巡るなんて不可能だ。まず人手不足だな。」
「確かに、この星だけでもすっごく広いのに、他の星も巡るなんて大変すぎる。」
「それを解消するために、彼らは、数々の組織や傭兵団を雇った。そのうちの一つにして、銀河協会から特別な扱いをされている実力派の傭兵団。それが俺達、『銀河戦士団』だ。」
「やっと、名前が出てきた!銀河戦士団!」
「俺達の任務は、命に関わるなど、難易度が高いものが多い。その分、銀河戦士団は、他の協会に所属している団体よりは自由だ。やりたくないものがあれば断れるし、その分待遇も優れてる。」
「命に関わるって、すごくヤバいんじゃないのか?」
「その分強い人が多いぞ。先輩たちは皆強いし、特にリーダー!先生が一番強くてカッコイイんだ!」
やや興奮気味に話す奏多に、今度は熱量で圧倒される。明らかにテンションが上がっているのが目に見えて分かる。
「先生っていうのは、俺の師匠で〜!イケメンで〜!強くて〜!カッコよくて〜!マジで俺にとっての神様!特に特に、先生ったらあの時も〜」
「そ、奏多!話が脱線してる!」
「はっ…!わ、悪い変革者。止めてくれてサンキュー。」
奏多はゴホンと大きく咳払いをする。あ〜、と声の調子を整えながら、先ほどの話を続ける。
「えーと、何を話してたんだっけ?…そうそう、俺達、銀河戦士団は銀河を滅ぼしかねない遺物の回収などを任務に、日夜働いているってわけ!」
「は、はぁ…。」
「銀河戦士団の設立された理由を前に先生に聞いてみたんだ。その時、先生はこう言った。『銀河協会に所属しているのは建前だ。僕の目的はただ一つ。この銀河を救うこと。そのためにこの組織を作った。』って。カッコイイよなぁ。…そんなリーダーがいる組織に、あんたを勧誘したいのさ!」
「…大分危険じゃないか?」
「危険ではあるが、悪くはないと思うぞ?」
「本当にぃ?」
「本当に!」
奏多は、手のひらを見せる。すると、指を折りながら説明をし始める。
「まず、衣食住の保障。これは一番大事だな。それから、お小遣い制度。好きなものを買えるぞ。さらに俺達は任務のために銀河を巡る。任務が無かったら、観光目的で行きたい星にも行けるぞ!……何より、銀河の運命を変えたいお前と、銀河を救いたい俺達。どうだ?目的は噛み合ってないか?」
「た…確かに…!!」
「それに、この勧誘は先生も許可済みだ。というか、先生があんたみたいな人に出会ったらぜひ勧誘してくれと皆に指示を出してたんだ。」
「…俺みたいな人?」
「そう。……変革者を名乗るあんたみたいな人のこと。」
「……どういうことだ?」
「さぁ?あの人の目的は俺にも分からない。けど、先生は色々知ってることが多い。話を聞くだけでも、価値はあるんじゃないか?」
「うーん。…どうしようかな。」
奏多の言う『先生』について、謎が深まるばかり。何故、変革者という存在を知っていたのだろうか?自分自身が知ったのは今日が初めてだというのに。悩ませる頭に一つ、まだ聞いていない話が脳裏に浮かんだ。
「そういえば、銀河を滅ぼす要因。最後に一つ有名なのがあるって言ってなかった?」
「あ〜、そういえば言ってなかったか。」
「教えてくれないか?」
「もちろん。一番有名な説だ。そして、一番多くの生命体と神に信じられている内容だ。」
「その…内容は?」
「『終焉の神がこの銀河に終焉をもたらす』。」
「終焉の…神…?」
「内容はあやふやだが、存在していることは確かな神だ。そいつがこの銀河を滅ぼす。これが多くの人に信じられている。」
「その終焉の神は、この銀河に何かをしたのか?」
「それは、分からない。だが、一説では、アンノウンを創り出したのは終焉の神とされている。実際のところは分からないがな。」
「分からないのに、それが一番信じられているのか?」
「人の信じる力は、一つでは、小さなものでも。数が増えれば増えるほど、強大なものになる。まるで、言霊のように。それが真と言われるほどになるのさ。」
「……。」
(なんだか…よくわからない。わからないけど…!)
「俺は…。俺は、終焉の神と話がしてみたい。本当にその神が銀河を滅ぼすのか。」
「……!」
「だって、百聞は一見にしかずっていうことわざがあるだろ?実際に会ってみないと分からないじゃないか。俺は、全部この目で見たい。全部知りたい。アンノウンも、聖禍の集も、遺物も……終焉の神も!全部を知った上で、俺はこの銀河を変革してみせる。それが、俺がここにいる理由だ。」
シルヴァの迷い無き発言に、奏多は目を細める。あまりにも眩しすぎて、目が上手く開けられない。…まるで、太陽のようだ。
「……凄いなぁ、シルヴァ。……俺には…、出来ないことだ。」
「奏多…。」
「だからこそ、俺はあんたが気に入った!俺も付き合うよ、シルヴァ。あんたの変革の旅に、俺も巻き込んでくれ!」
「……えぇえええ!?」
「何だ?駄目か?」
「いやいやいや、むしろこっちがいいの!?」
「もちろん、俺はあんたの旅の果てが見てみたいって、純粋にそう思ったんだ。…これは、嘘じゃない。」
自分についていこうとしてくれる一人目の仲間を手に入れた!そして、シルヴァは決意した。
「……よし!決めた!」
「…何がだ?」
「俺も銀河戦士団に入る!」
「え!?い、良いのか?」
「そもそも俺、金も仕事も何もかもを元の世界に置いてきたし、移動手段もないから何かをしようにも何もできないや!」
「それもそうだな!今のあんたはニートだ!」
「ってことで仕事をしながら、この銀河を知っていこうと思います!ってことで、これからよろしく!奏多!」
「…ああ!よろしく頼むよ、変革者!」
2人の青年は、お互いに握手を交わし、信頼と友情を得たのだった。
ご読了ありがとうございました。
シルヴァは就職先を手に入れた。
次回は奏多自身の目的へ…。




