奏多の目的
奏多の目的が今回明かされる…!?
「銀河戦士団に入るってことは、つまり銀河協会にも所属するということになる。ってことで、まずあんたに覚えてもらうことがある!」
「覚えてもらうこと…?な、なんだ…!?ドントコイ!!」
「そこまで硬くならなくてもいいんだが…。」
こいこい!と腕全体を大きく使って引き寄せるポーズを取ると、奏多は苦笑する。
「覚えてもらうものは、挨拶だ!」
「……挨拶?」
てっきりルールやら、小難しいことを覚えるのかと思っていたものだから、少し拍子抜けした。
「ああ、あんたも聞いたことがあるはずだ。俺が自己紹介した時のことは覚えてるか?」
「自己紹介?」
奏多の自己紹介を思い出す。彼は確かこう名乗っていた。
『Hello,world!俺は銀河戦士団の参謀、澄風奏多だ!』
正確な文章は覚えていないが、恐らくこんなことを言っていたはずだ。そして、その挨拶は他の初対面の人には必ず話していた。後半の台詞は毎回変わっていたが、唯一変わっていない言葉があった。
「はろーわーるど……?」
「大正解、百点満点!よく覚えてたな!」
「そりゃあ、奏多って口上は毎回変わるけど、はろーわーるどっていう挨拶だけは変わらず毎回してたもん!」
「記憶に残りやすい挨拶だよな~、特徴的だし。」
「何でこの言葉を挨拶にしてるんだ?」
「……さあ?」
「んなぁ!?」
あまりにもあっけらかんと言う奏多にシルヴァはずっこけてしまう。
「知らないの!?」
「…特に何とも思ってなかったからなぁ、俺。」
「奏多なら知ってると思ってた。」
「俺だって、何でもかんでも知ってるわけがないさ。俺は神でも何でもないから。」
「そっか~。」
「協会に行ったときに職員に聞けばいいさ。」
「それもそうか!はろーわーるど!うん、覚えたぞ!」
「あとは……。」
奏多はコップに口を付け、ドリンクを口に含む。机に腕を乗せ、手のひらを頬につきながら、ニヤリと口角を上げて、笑い混じりに話す。
「ふはっ!その発音を何とかしような!『はろーわーるど』って、子供みたいな言い方で中々に愛嬌はあるが、威厳は無いよな。」
「んなぁ!?そ、そんなことは…。」
シルヴァは悶々としながら、挨拶の練習をするが、奏多のようなカッコいい言い方が出来ない。文字にしたときにカタカナにも届かず、ひらがなになってしまうほどだ。奏多の口上を思い出しながら、何度も、何度も『Hello,world』という挨拶を練習していると、オスカーと奏多が話していた内容を思い出す。
「そういえば、オスカー・ベルっていう人が奏多と似た人を見かけたって言ってたけど、あれってどういう意味なんだ?」
「…っ。」
話題を出した瞬間、奏多の顔が曇る。
「あっ、いや!無理に話さなくて大丈夫だぞ!誰にだって言えない秘密の一つや二つはあるよな!」
「……いや、話すよ。寧ろ、それも話すために店に入ったんだ。大丈夫、話させてくれ。」
奏多は崩しかけていた姿勢を正し、真っ直ぐにシルヴァを見つめる。真剣な表情とそこから感じる圧に、シルヴァも背筋をピンと伸ばし、彼の話に耳を傾ける。
「さっきまで話してたのは、あくまで仕事の内容だ。俺の仕事はこの星で遺物、名『マイノリティ』を捜索し、見つけ次第確保し、銀河協会へ持ち帰り封印すること。」
「ああ、それは聞いた。」
「それ以外に、俺にはやらなくちゃいけないことがある。」
「やらなくちゃ、いけないこと…?」
奏多は一つ息を吐き、呼吸を整えてから、重く口を開く。
「……弟を探しているんだ。」
「…『弟』?」
「ああ。俺には二人の弟がいる。一人は俺の双子の弟。もう一人は少し年の離れた弟だ。二人とも、数年前から行方不明になってから、現在まで何処にいるか分からないんだ。」
「行方不明…!」
数年前に幼馴染が行方不明になった経験があるシルヴァは、魂の共鳴のような感覚を体感する。今の奏多は……。
(俺と、同じだ…。)
「昔、俺はここからは遠い星の出身なんだが、そこにあるとある国で生まれた。そこで平和に暮らしていたんだ。……しかし、海を挟んだ先にある国、その国とどういうわけか共同した他の星々の国によって俺の故郷は襲われた。その騒動の際に、二人の弟は行方不明。俺自身も行方不明になった。」
「そんな…、って奏多も行方不明だったのか!?」
「ああ。けど他の弟を含めた攫われた人達とは違い、俺は海に落ちたから、一応故郷で生き延びてはいたんだ。けれど、助けられた段階で俺は記憶喪失になっていて、弟達の存在も忘れていた。」
「記憶喪失…!?」
「先の騒動で父は死亡。母はその前にすでに亡くなっていて、俺は天涯孤独になりかけていた。」
「……。」
「幸い、俺を救ってくれた人が俺の祖父だったから、孤独は回避できた。それからは記憶を取り戻すまで、銀河戦士団に仮入団し、故郷で修行をしながら鍛え続けた。そして、記憶を取り戻した俺は、銀河戦士団に正式に入団。仕事をしつつ、弟を探す旅を始めたんだ。」
「そうだったのか…。」
「故郷を襲撃した国の共犯国、関係性が強い星から順に俺は探し始めた。任務という建前を使って。けれど、あらゆる星々を巡ったが、弟達は何処にもいない。他の攫われた人たちには見つけたが、ほとんどが手酷い扱いを受けて、命を落としていた。」
「そんな!じゃあ、もしかしたら、お前の弟達も…。」
「二人は生きている!!」
机を両手でドンと叩きつけ、大きな音を鳴らす。あまりの大きさに周囲の人もざわつき始める。
「あの…お客様…。大きな物音は他のお客様のご迷惑になりますので……。」
「……すみません。ご迷惑をおかけしました。」
彼の顔には先程までの深刻で苦虫を噛み潰すような表情はなく、ニコッと爽やかな笑みを浮かべているまさに好青年のようだった。
店員が去ると、再び正面に向き合う。
「悪かった、変革者。お前に当たるつもりは…なかったんだ。」
頭を下げる奏多に、シルヴァも勢いのまま頭を下げる。
「こっちこそごめん!縁起でもないことを言ってしまって…。」
「いや、お前は正しいよ。普通は誰だってそう思う。」
「奏多……。」
「ただ、信じていたいんだ。生きてるって。年の離れた弟は、…直哉は、きっと無事だって。」
「『直哉』…それが弟の名前か。……ん?年の離れた…?双子の弟は?」
「あいつは絶対に生きてる!」
「なんで分かるんだ?」
「双子の感!」
「感!?」
「この感は当たるもんだぞ~?」
「本当かな~?」
「マジだってば!」
「ははっ!そっか!…奏多。」
「ん?どうした?」
「俺も、手伝うよ。弟探し。…大切な人と離れ離れっていうのは、苦しいもんな。」
「シルヴァ……。~っ!ありがとうっ!!」
「お……おう!」
奏多はシルヴァの両手をギュッと掴み、バーガー等に当たらないようにブンブンと腕を振る。彼なりにとても感謝していることが伝わるから、少し腕が痛いと言い出せなかったシルヴァだった。
◇◇◇◇
奏多と話を終えた後も、シルヴァは食事に手を付けることはなく、じーっと見つめる時間が戻った。
「なぁ、変革者。何で食わないんだ?…っは!もしかして、バーガー系は食べない主義だったか!?」
「え!?ち、違う違う!…そのぉ……。」
「ん?」
シルヴァは人差し指をツンツンと、明後日の方向を見つめながら申し訳なさそうにする。
「その、この紙に包まれている物って、どうやって食べるんだ…?そのシュワシュワと音を立てる飲み物も、熱々の黄色い野菜スティックも!生まれて初めて見るものだから、食べ方が分からなくて……。じーっと見つめることしか出来なかったんだ…!」
「じーっと見つめる…って!まさか…!」
奏多は思い出す。自身がトレーを持ってきてから、変革者はずっと顔を下に向けて俯いていたこと。あれはてっきり、奏多の話を聞き出そうとしていたと奏多自身は思っていたが、実際は違っていて…。
「ふはっ!!あんた…!食べ方が分からなくて俯いていたのか!!これは傑作だ!!」
「んなぁ!?そ、そんなに可笑しかったか!?仕方ないだろ!こちとら異世界初心者なんだから~!」
「ごめんごめん!…っく!はははっ!」
「奏多~!!」
この後、無事に食べ方を教えてもらうことに成功した。
生まれて初めて食べるハンバーガー。紙は包み紙と呼ばれる物で、ハンバーガーではなく、それを包んでいたものということを学んだ。バンズというパンらしき物に、肉・トマト・レタス・玉ねぎ、それからチーズなるものを挟み込んだ食べ物のことをハンバーガーと言うようだが、シルヴァの脳裏にあるのは、美味いかどうかだけだった。
「い…いただきます!」
口を大きく開けて、一口食ってみると、口の中で肉汁と濃厚ソースが絡み合う。食感を味わうと、しっかりとした肉の厚み、新鮮野菜のシャキシャキ感、とろ~りチーズが舌に絡み、味わったことのない経験がシルヴァに襲いかかる。
「う…、うぅ…!」
「…ど、どうだ?」
「うぅ…!っ!美味い!!!」
「…ふはっ!ベタな反応だな!」
「こんなに美味しい食べ物初めて食べた!!」
「この銀河にはまだまだ、美味しい食べ物がある。銀河を巡りながら、道中に美味しいものがあったら、一緒に食べようぜ!」
「うん!!」
シルヴァは、ハンバーガーという好物が爆誕した!
ご読了ありがとうございました。




