アンノウンがいない街
「はぁ〜、美味かった〜!」
「この銀河の食べ物を気に入ってもらえたようで何よりだ。」
シルヴァはキョロキョロ辺りを見渡すと、看板が立てかけてあり、そこにはネオン街のマップが載っていた。中心に行けば行くほど、詳しい建物の詳細が載っており、様々なお店の情報が乗っている。そこには、もちろん食べ物についてもだ。
「なあ、奏多!次はあのお店に行ってみたいな!」
「まだ食べるのか!?」
「まだまだ食べれるぞ!」
「そんなに食べられるなら、この任務が終わっら俺の手料理を披露するよ。」
「え?奏多ってご飯作れるのか?」
「一応銀河戦士団で食堂担当もやってるぞ。たまに先輩と交代交代でするけど、基本的には俺が作ってる。」
「ええええ!!意外!」
奏多とそんな雑談をしながら、アストレアのネオン街と呼ばれる街を散策する。奏多曰く、この街がネオン街と呼ばれるのは、単純にこの街にはほとんどの光がネオンライトで照らされているかららしい。来た当初は、光がギラギラしすぎて目が痛くなったが、歩き続けていると大分慣れてきた。
「……なあ、奏多。」
「なんだ?」
「俺達って今どこに向かってるの?」
「ん?さっき食べてた時に話したよな?」
「え!?ごめん、全然聞いてなかった!」
「はい!?」
(そ…そういえば…。)
奏多は数十分前の事を思い返す。自身が割と真剣に今後の流れについて話していた時、彼はずっとバーガーやポテトを夢中で食べ続けていたことを。その際の返事も、「うん。」「そっか。」と何処か他人事のような感情の乗っていない薄い返事だったことを。そして、最後にはちゃんともう一個バーガーをおかわりしたことを…。
「そ、そっか…。それはぁ…仕方ないな!うん!じゃあ、改めて歩きながら今後の流れを話すよ。」
「よろしくお願いしまーす!!」
「元気があってよろしい!」
ゴホンと、一つ咳払いをすると、奏多は真剣な顔つきに変わる。
「ここからは仕事の時間だ。あんたも入ってもらうからには真面目に仕事に取り組んでもらうぜ。」
「ああ、仕事は真面目にするのがモットーだ!俺は木こりの時も真面目にしてたしな!」
「んじゃあ、まず俺達の任務内容の再確認。俺達の任務はこの地に眠る遺物『マイノリティ』を持ち帰ること。普通、遺物捜索には地元の人の協力を仰ぐものだが、今回の星は何だが難しそうだな。」
「そうなの?」
「お前も見ただろ?この星には二つの街がある。今いるネオン街と、この星の住人が口にしてたスラム街だ。リベルティラバーはスラム街の連中。そして、あいつらはアストレア政府を酷く憎んでいる様子だった。それこそ、戦争をおっぱじめようとするほどに。」
「そういうことか。二つの街を捜索するには、お互いの街の住人の協力が必要だが、どちらか一方と協力すれば、もう一方とは必然的に敵対する恐れがあるから……ってことで合ってる?」
「大正解!頭の回転が速くて良いね。」
「よっしゃ!」
「俺達は任務内容にもよるが、基本的にはその星の住民とは敵対しないように努めている。答えは単純。敵対したところでメリットがないからだ。」
「そうだな、俺もあんまり誰かといがみ合いとかしたくないな。」
「だから、今回は積極的に住民に協力を仰ぐのではなく、話が分かるやつのみに協力を頼もう。」
「けど、話が分かるやつって誰がいるんだ?」
「……分からない。」
「デスヨネー。」
体をガックシと項垂れると、奏多がボソリと呟く。
「ただ…。」
「……ただ?」
「オスカー・ベル……。あいつには、色々と話を聞く必要がある。」
「そういえば、奏多と顔のよく似た人を見かけたって言ってたな。もしかして、お前の双子の弟じゃ!」
「分からない…。もしも見た目と言ったら嘘だと分かったが、顔が似てたなら『流異』の可能性がある。」
「見た目だったら嘘…?お前の二人の弟ってどんな見た目なんだ?」
「言ってなかったな。まず双子の弟の流異は、髪色はホワイトラベンダーに白色のメッシュが入っている。髪型は、変わってなければ長いもみあげがあるのが特徴だ。直哉の方は、白髪がメインだがもみあげだけ黒色だ。」
弟達の髪色を聞き、シルヴァは頭の中の情報と、奏多の髪色を比べる。奏多は茶色に髪先に赤色のグラデーションが入っている。情報的に双子の髪色は異なるようだ。
「双子なのに髪色は全く違うんだな。」
「まあ、俺髪色染めてるし。」
「え…!?」
「そして、何よりも俺達兄弟に必ず入っている特徴がある。」
「待って、染めてる情報に驚いてからついていけてない。髪色って変えられるの!?」
「俺達、澄風の血を引く者は目に星型の瞳孔が入っている。」
「待ってくれ、奏多。星が…え!?」
「これが今のところ言える弟達の特徴だな。」
「ちょっと待って奏多!顔見せて!!」
「何だ?って、うおっ!?」
シルヴァが奏多の頭を掴み、一気に自身の目元へと近づける。所謂ガチ恋距離というやつだが、出会って初日の二人には、そんなドキドキなんてものはない。強いて言うなら、突然頭を掴まれた奏多は、不意打ちをあまり受けたことがないので、これとは別の意味で心臓がドキドキしているだろう。
「本当だ…、目に黒い星型の瞳孔がある!」
「お…俺達澄風家は何故かその時に抱いている精神状態によって瞳の色が変色するんだ。デフォルトから変色した場合、その状態が長い間続くと、その瞳の色がその色で固定され、よっぽどのことがない限りずっとその瞳の色なんだ。」
「精神状態?」
「そ、そうなんだよ。……あと近いから、そろそろ離れてくれ。」
「え?あ、ごめん。」
シルヴァはガシッと掴んでいた奏多の頭を離すと、悪びれもなく謝る。奏多が「はぁ…痛かった。」と呟いた声は残念ながらシルヴァに聞こえることはなかった。
「その精神状態で色が変わるって何色あるんだ?」
「前に先生から聞いたんだが、ざっくり説明するも、普段の状態が『青』。怒ると『赤』、自暴自棄になると『紫』、全てを憎むと『金』、の4種類らしいぞ。」
「へぇ〜、結構変わるんだな。……あれ?奏多の瞳の色って紫だよな?それってもう…。」
「ああ、そうだ。」
奏多は自身の目を指差しながら、目を細め、哀しげに笑った。
「俺は…自暴自棄になったあの日からずっと紫。ここ1、2年で元の目の色に戻ったことはないよ。」
「そ……っか…。ごめんな、なんか。」
「ふはっ!気にすんな。俺が勝手に話したんだ、今は俺よりも任務だ。」
「そういえば、遺物を探すにしても、どこから探すんだ?」
「……どうしようか。」
「え!?」
「いやぁ〜、だってこんな真面目に遺物を探したことなくてさ。普段は、遺物探索してると、遺物の神の力に反応して、アンノウンがそこら中に群がってるからさ。こんなにもアンノウンがいない星は珍しくて、探すの難しいってなってた!」
「じゃあ、今の俺達生き当たりばったりじゃないか!」
シルヴァの戸惑いと驚きに、「ごめん、ごめん」と奏多は反省という概念は無く、ヘラヘラとした様子で答えた。
「いつも俺達が探す遺物って大体危険物が多いんだよ。星を余裕で破壊する規模のものかがよくある。すでに効果を発動しているものもある。」
「あれ?マイノリティって危険度は高いんじゃないの?」
「基本的に遺物はそんじゃそこらの道具より危険度は高いぞ。マイノリティも場合によっては星を滅ぼせる。けど、それは使い方次第。よっぽどの事態が起きない限りは、危険ではないんだ。いつもよりは難易度は低いんだ。それこそ、普通の傭兵団程度でもやれるくらい。」
「そうだったのか…。ん?なら、なんで奏多がこの任務をするんだ?」
「そりゃあ、銀河協会から依頼されたからだ。なんか、何人か送っても任務を達成できないから、俺達に回ってきたんだ。」
「なるほど…。じゃあ、奏多が来た理由は?」
「非番が俺だけだったから!…それに、一応このアストレアも、故郷の事件に関わった星の一つではある。一応な。」
「そうなのか!?ああ、でも関係性は薄そうだから期待はしてなかった。むしろ、他の先輩が行っている星の方が関係性が強い。つまり、そっちの方にいる可能性が高い。…そう思っていたのに。」
「オスカー・ベルが言ってた、奏多そっくりのやつを見かけた…か。」
「……ああ。」
「まあ、遺物探しは始まったばかりだろ?今回は地道にコツコツと頑張って探そうぜ!」
「それもそうだな。今回はアンノウンがいないし、忙しくないからラッキーだ。……ん?」
奏多は突如足を止めた。目を閉じ、手に顎を添え、何かを考え始めるポーズを取る。
「……奏多?」
足を止めた奏多に気が付き、シルヴァも足を止める。
「…何でアンノウンがいないんだ?どれほど警備態勢が優れていてもアンノウンが必ずどこかに存在した。奴らは生命体と神に反応する。ここには生命体が山ほどいるのにアンノウンがいない。そして、この星は2つの街が存在する。」
シルヴァにとって奏多の思考と口に出す言葉は早口すぎて、全てを理解するのは難しいものではあるが、何となく意味は分かった。
「そういえばさ、この街の全体図ってどんな感じなんだ?ここって至るところに看板のマップはあるけど、端に行くと、どんどんあやふやな地図になる。」
中心に興味を引き寄せて、街の外に対する興味を無くさせる、そんな考えがあるように感じる。その旨を伝えると、奏多はニヤリとシルヴァに微笑む。
「ああ、変革者。良い観点だ。俺がこの星に来たとき、いつもは戦艦で行くんだが、今回はそれが先方から却下され、銀河鉄道のVIP券を貰った。そして、駅はこの街の中心部にあった。まるで、街の外には行ってほしくなさそうな感じじゃないか?」
「それから、この星にあるもう一つの街。何処にあるのかは分からないけど、その街はネオン街ほど良い環境じゃなさそうだよね。そうでなきゃ、リベルティラバーは、狼煙を上げるなんてことはしない。」
「取り敢えず、俺達は三つの場所を調べる必要がありそうだ。一つ目はアストレアのもう一つの街、スラム街。」
「二つ目は、この街の外!」
「そして、三つ目は……。」
「___そこまでです。」
「っ!?」
「誰だ!」
人々の喧騒が、先ほどの倍以上騒がしくなる。その叫び声の中にはこんな言葉が聞こえた。『執行官』……と。
シルヴァ達の正面から、数十人の警官が現れると、二人の周りを一気に囲い込まれる。
「な、何だ!?」
「変革者、俺から離れるな。」
警戒している二人に向かってくるヒールの音が聞こえる。そちらへ視線を向けると、警官の後ろから二人の女性が姿を現した。一人は頭と背中から天使のような羽を生やし、銀色の髪を持つ、一見大人しそうに見え、淑女らしい雰囲気を持った女性。そして、もう一人。ヒールの音を鳴らしながら、歩くその姿はまさに王者の貫禄。艶やかで真っ直ぐな黒髪に威圧的な空気を纏う凛とした女性。普通の一般人とは確実に違う何かを感じる。
「奏多、これどうするの…?」
隣にいる奏多を見ると、彼は眉間にしわを寄せ、小さく舌打ちを鳴らす。
「協力どころ話じゃなさそうだな…。」
シルヴァ達が身動きを取れないでいると、羽の生えた女性が一歩前へ出てくる。その視線はじっと自分達を見つめていた。
「私はアストレア政府特務課の一人。執行官、涼西澪羽と申します。そして、こちらが…。」
澪羽が視線を隣に促すと、黒髪の女性も前へと踏み出す。
「私も彼女同様、アストレア政府特務課の一人。執行官、春夏冬刹那。…貴殿らの名も一応聞いておこうか。」
名前を問われても、話すべきか悩む奏多に対し、シルヴァは奏多の前へと躍り出て、力強く声を出す。
「ハロー、ワールド!銀河戦士団の期待の新人。変革者のシルヴァ。それがこの俺だ!」
「……シルヴァ…。そう、貴殿がか…。」
刹那の小さな呟きを奏多は聴き逃さなかった。そして、同時に嫌な予感が頭を巡る。
(何故シルヴァの名前に引っ掛かる?……最初にあった男の執行官が、他の仲間に俺達のことを伝えてない訳がない。が、それでもだ。……嫌な予感しかしない。)
「そちらの貴方は?」
澪羽に促された、奏多は大きく息を吐くと、観念したかのように自身の名前を口にした。
「……Hello,world。銀河戦士団がここに一人。参謀、澄風奏多。」
「ふむ、貴方が奏多さんですね。ということは、やはり。」
「やはり?何のことだ?」
シルヴァの頭に疑問符が浮かび上がり、質問をすると、執行官は淡々と言葉を返す。
「シルヴァ、といったか。やはり、とは。お前がこの街に不法入国しているということだ。」
「はあ!?」
(な、なんでバレたんだ!?っていうかしたくてしたわけじゃねぇし!)
「証拠はここにありますよ。」
証拠として見せられたのは、奏多がオスカーに渡していた入国証明書の紙だ。
「ここに載っているのは、奏多さんのお名前だけです。シルヴァさんのお名前は載っておりません。」
「うげっ…。」
「はぁ…そういうことか……。」
奏多は溜息を付きながら、口角を下げ、執行官や周りの警官を睨みつける。
「俺も連帯責任で逮捕ってやつか。」
「お話が早くて助かります。」
「……この遺物の回収にわざわざ銀河戦士団が割り当てられた理由が本当の意味でようやく理解した。」
「奏多…?」
「マイノリティは、基本的には害を出さない。だというのに今回は何故か俺達に仕事が回ってきた…。なぜなら危険度の低い遺物の回収任務のはすが中々上手く行かなかったから。ある程度人数を送っているのに。…では、それは何故?」
歯軋りをし、相手を軽蔑するような表情をしながら、奏多は声を荒げる。
「こうやって消してきたんだな。今までこの星に来たやつらを…!何かしらの手段を用いて、任務を妨害するために!」
「…っ!?まさか!!」
「……私達がするのは街の治安維持のための逮捕のみ。それ以降は他の方にお任せします。」
「さて、これ以上は言わなくても分かるだろう。貴殿らの道はただ一つ。大人しく牢に入ることだ!」
そういうと刹那は、足を踏み込んだのも束の間、すぐに手元に出現させた大剣を用いり、シルヴァへ斬りかかったのだった。
ご読了ありがとうございました。
シルヴァと奏多は無事なのでしょうか?




