包囲網③
二人は走る。風を切りながら、走り続ける。この街を訪れてから、かなり長い時間が経っても、夜は永く、ネオンライトが街を照らし続け、視界の明るさに困ることはない。
「なぁ、変革者。」
「ん?」
「何で、さっきのやつの言葉を信じたんだ?嘘を言ってるかもしれないのに。」
「え、あいつ嘘をついてたのか!?」
「は!?え、ただ馬鹿正直に信じたってのか!?」
「えー、だって嘘をついてるように見えなかったんだ。それに、俺達だって元々そこへ行こうとしてたんだから、助けてくれる人がいるのはラッキーじゃない?」
「ラッキーって……。」
「この星に来てから、色々なことで助けてもらえたんだから。行く当てのない俺を奏多が助けてくれた、美味しいご飯も教えてくれた、こうして、誰かも分からない人だって助けようとしてくれる!ラッキーに決まってる!」
「……信じられるの答えになってないっての。」
「ん?奏多だって、初めて会ったばかりの俺のことを信じてくれただろ?それと一緒さ。」
「え?」
「さっきだって、俺の未来が見えた!っていうあやふやな事を信じてくれただろう?」
「ああ、まあ。あんたの言うことなら、嘘じゃないって思えたんだよ。」
「へへっ!」
真っ直ぐに笑うシルヴァに、奏多は再び眩しさを覚える。そして、すぐに目を逸らす。
「……変な感じだな。俺が初対面で誰かを信じるなんて…。」
「ん?何か言った?」
「いーや、何でもないよ〜。ほら、早く行くぞ。傷が痛むようなら、また抱えてやるよ。」
「えっ!?流石にそれは勘弁して!」
走り続けて、それほどの時間が経っただろうか?数分?数十分?たったの数十秒かもしれない。それでも今残っている体力から、かなりの距離を走った感覚だ。呼吸が乱れてきたシルヴァの前を走る奏多が、突然足を止める。その理由は言われずともシルヴァも理解した。
「着いた……。」
「はぁ…、はぁ…。へへっ…やったな…!」
奏多の隣に移動し、建物の屋上から景色を眺める。視界に映るのは、大きな円状に広がる広場のような空間を取り囲むように、数々のビルが立ち並び、一番奥に恐らく謎の少女が話していたであろう『トップ・アストレイア』らしきタワーが聳え立っていた。そしてその中央に目的の場所、『赤い鳥居』がそこに立つ。
しかし、その景色にシルヴァは「あれ?」と疑問符を浮かべる。
「俺が見た景色と微妙に違う…?」
「どういうことだ?」
「いや、合ってはいるんだよ。でっかいビル、じゃなくてタワー?も、赤い鳥居も。けどなんかすっごいキラキラしているっつーか、ピカピカしているっつーか…。」
「……新しい?」
「それ!!」
びしっと、人差し指で奏多に指し、共感のポーズを取る。
「何でこっちは古い建物の景色だったんだろう?どうせならキラキラした新しい方が良かったなぁ。最初は未来が見えたのに…。」
シルヴァの呟きを聞きながら、奏多は考えながら、戸惑う。
(つまり…変革者は、『未来』だけでなく『過去』も見通せる?だとしたら、中々のチート能力じゃないか。けど、本人の意図した時に使えないのが難点だな。変革者が凄まじい力を発揮するのはいつだって、あいつがピンチなときだ。……いや、まだ決めつけるには判断材料が少なすぎる。今は仮で置いておこう。)
「……た!……奏多!!」
「っは!悪い、いつも考え込むのは悪い癖だな。」
「とりあえずどうやって、鳥居まで行く?まさか飛び降りるわけじゃ…。」
「流石に何度も飛び降りるのはなぁ。」
「だ、だよね!」
すると、バサッ、バサッ!と。背後から羽ばたく音が聞こえてくる。振り返ると、銀髪の天使の羽が映えた女性、執行官の涼西澪羽が二人の下へ降り立っていた。
「部下から追跡が困難になったと言われたので、私が来ました。ここから飛び降りても、大怪我をするだけです。さあ、今すぐ投降しなさい。」
「うわっ!追いつかれた!長話しすぎちゃった?」
「うげっ、天使。」
「私は末裔です!本物の天使ではありません…。」
「俺にとっては受け継いでいる時点で同じようなもんだ。ほら、行くぞ変革者。」
「行くって…まさか…!」
「待ちなさい!何処に行こうと言うのですか!?例えここから飛び降りても、すぐに警官が貴方達を取り押さえます!」
彼女の言葉通り、少しずつ。だが、確実に。広場へ向かって警官が集まり始めている。
「あのフード少女が言ってたよな、着いたら合図を鳴らせ、って。丁度良いじゃないか。行くぞ、変革者。覚悟は良いか?」
「あぁ、もう!どうにでもなれー!!」
奏多は駆け出し、思いっきり屋上から飛び降りる。それに続いて、シルヴァも飛び降りる。
「なっ!本当に飛び降りるなんて…!」
『追いかけろ、澪羽。』
「通信……刹那さん?了解です!」
羽を大きく広げ、再び澪羽は空を飛ぶ。夜空に浮かぶ白き翼は、ネオンライトに照らされて色鮮やかに輝く。追跡者は、飛び降りた二人を捕らえるべく空を翔ける。
一方その頃。飛び降りた二人。地上では、警官が銃を構えて今にも射撃せんと構えている。
「変革者!俺のマントを掴んでな!リベルティラバーの時のように着地するぞ!」
「お、おう!」
奏多は大鎌を召喚し構えると、地面に向かって技を放つ。
「今回は追加で技をプレゼントだ!俺達の邪魔をするなら容赦はしない!全員吹き飛ぶがいい!月ノ仮消‐三日月!!」
三日月型の斬撃は警官達を含めて辺り一体を吹き飛ばし、警官達には容赦なくダメージを与える。その時に発生した風を利用して、二人は見事着地する。
「危なかったぁ。なぁ、奏…。」
「墜ちろ、『紅雷』。全てを穿て。」
着地と同時に奏多が大鎌を地面につくと、大鎌から伝導し、アスファルトから花が咲くように紅に染まった雷が地面の下から天へ登るように発生する。
「んなぁ!?何だそれ!?」
その場で驚くシルヴァに雷が襲いかかる様子はなく、攻撃は全て広場に集まるアストレアの警官に襲いかかる。
「ッ撤退!撤退!!」
「うがぁぁぁあああ!!」
「痛いッ!焼けるような痛みがぁあ!!」
雷を出した張本人は、悪びれる様子はなく、冷酷な顔つきのまま。
「これで、合図にはなっただろう。今から一分。時間を稼ぐぞ。」
「そ、奏多…。皆、痛がっているぞ…。」
「……本来は、現地民に攻撃をしない。それが規則でもある。けど例外もある。仲間を傷つけられたら、攻撃しても良し、とな。俺は、シルヴァを傷つけたこいつらを許すつもりはない。」
「奏多……。…っ!危ない奏多!!」
シルヴァはとっさに奏多を突き飛ばす。そして、蹴り技による何者かからの奇襲を避けた。
「け、怪我は…?」
「…平気だ。ありがとな。」
二人が奇襲を仕掛けた人物を見ると、彼女は前に垂れてきた艷やかな長い黒髪を、後ろに払うと、こちらを見据えて立ち上がる。
「ほう、よく避けたな。」
「ヤバい方の執行官か。」
「だが、避けられたのも偶然に過ぎない。…次は確実に当てる。」
「刹那さん!」
紅雷が収まると、空から澪羽も地上へ降り立つ。
「攻撃なら私が防ぎます。刹那さんは攻撃をお願いします。」
「分かっている。」
「どうする奏多…。絶体絶命ってやつ?」
「天使の執行官は俺と相性が悪い。そいつはあんたに任せる。代わりにあの黒髪の執行官は、俺に任せろ。」
お互いがコンビと会話を済ませると、戦闘態勢に入る。シルヴァは心を集中させ、刻印から斧を召喚させる。全員が武器を構え終わると、息を吐く間も無く真っ先に刹那が飛び出す。彼女の大剣が狙う先は、シルヴァだった。
「なっ!」
「まずは貴殿からだ!」
シルヴァが斧で防御態勢を取ろうとする。その前に赤色のマントがシルヴァの視界に入る。
「それは、こっちの台詞だ!」
そう言いながら、シルヴァの代わりに奏多が刹那の大剣での攻撃を受け流す。
「刹那さん!」
「お前の相手は俺だ!」
奏多が受け流した瞬間に、シルヴァは走り出し、澪羽に向かって斧を振り下ろす。その攻撃が通ることはなく、彼女がとっさに展開した二重結界に防がれてしまった。
「くっ!」
「まだまだ!刻印よ、もう一度力を貸して!」
「な、なんですかこの魔力の大きさは!?」
明らかに高まる力の気配に戸惑う澪羽に対して、シルヴァは溜めた力を解き放つ。
「運命の一手!」
その一撃はいとも簡単に澪羽の二重結界を壊し、澪羽に刃が向かう。
「嘘っ!くっ!」
咄嗟の判断で澪羽は飛び立ち、一部後ろの羽を切り裂いたが、大怪我はなく済んだ。羽は散り、安定した浮遊は困難ではないにしても、痛みが伴う。
(空中から、シルヴァさんの隙をつく!)
「まだ一分経たないのか?早く、早く…!」
◇◇◇◇
シルヴァと澪羽が戦っている中、こちらも激しい戦闘を繰り広げていた。
「どうした!もう終わりか!銀河戦士団も大したことないな!!」
「ふん、力勝負だけで判断してどうする。戦いは頭脳戦なんだよ!俺は参謀!ただの脳筋ではないんだよ!!」
互いの武器と武器がぶつかり合い火花が散る。奏多の技から逃れ、無事だった警官達は二人の戦闘を呆然と眺めている。眺めることしか出来ない。あまりにも早すぎて、目だけでは追いつかないのだ。
「月ノ仮消‐三日月!!」
「二重結界!」
奏多の技を受け止めきれるわけがなく、すぐさま結界は砕け散るが、そこに視線を集めて奏多に不意打ちを狙う。
「甘い!」
「ふん!」
奏多はすぐに反応し、受け流そうとするが、かかる圧力が大きく、吹き飛ばされる。吹き飛ばした奏多を追う刹那だが、追いついた瞬間に奏多も反撃を繰り出す。一進一退の攻防を永遠にも思える時間を繰り返し続ける。
(クソ…このままじゃ埒が明かない。流石に街を壊したら怒られるし…。一分まであとどのぐらい?…もう少しだけこのままをキープ…!)
二人が時間を稼ぎ…丁度、一分が経過した。
広場の中央に鎮座する鳥居から、朱色の光を放ち始める。その光は徐々に大きくなり、やがて、大きな柱となる。目に見えて分かる異変に全員が動きを止める。特に執行官は困惑していた。
「何故、儀式が発動している!?」
「わ、分かりません!一体誰が…!?」
儀式、という単語を聞いた奏多は、澪羽と相対しているシルヴァの腕を掴むと、そのまま鳥居へと走り出す。
「そ、奏多!!」
「行くぞ、変革者!嘘か真か勝負は、あんたの勝ちのようだ!」
儀式の発動という異常事態に、意識を持っていかれ、鳥居へと走り出す二人に気が付いた執行官達は、一歩遅れて二人の後を追う。
「あれは何だ!?」
鳥居の近くに着いた二人はあることに気が付く。鳥居のくぐりに先が見えず、まるでブラックホールのような謎めいた空間が広がっていた。
「よく分かんないけど、飛び込むしかない!行こう、奏多!」
「もちろん!」
走る二人に、執行官達は追いつけない。
「犯罪者を撃てー!!」
警官が援護射撃を行う。しかし、二人は速度を緩めない。目の前の空間に物怖じすることなく、二人は勢いのまま、鳥居の中へと飛び込んだ。
ご読了ありがとうございました。
謎の空間に飛び込んだ二人の運命は如何に…!




