包囲網②
「待てー!!逃がすなー!!」
「待てと言われて待つやつがいるかよ!」
「変革者!前見ろ!路地裏に入るぞ!」
警官達に追いかけられながらも、軽口は減らさないスタイルの変革者に対して、奏多は至って真面目な分、二人の間に緊張感のズレを感じてしまう。
「これが路地裏…?俺達が、会ったところに似てるな!」
「道が細いから気を付けろ!万が一行き止まりだったら…。」
「い…行き止まりだったら……?」
「まあ……その時は俺に任せろ。あんたの尊厳が無くなるかもしれないが。」
「尊厳ってどういうこと!?なんでそこで詳しく言わないんだよ〜!」
二人の走る速度は警官よりは速いが、まだ二人はこの地を訪れたばかりで、土地勘には疎い。警官に先回りされたりしながらも、入り組んだ場所を走り続け、目的の場所へ向かっていた二人が目にしたのは。___壁であった。
「行き止まり…ってやつ!?」
すぐに引き返そうにも、警官がすぐ後ろまで来てしまい、八方塞がりになる。
「はぁ…誘導されてしまったか。恐らく、追いかけては来てないが、あの執行官の指示だな。路地裏に入ったときの相手の追い詰め方をきちんと学ばせてやがる。」
「さあ!手を挙げて投降しろ!」
「奏多!さっき行き止まりの時は俺に任せろって言ってたよな?頼む、それをやってくれ!」
シルヴァの必死な姿に、どこか可笑しさを感じた奏多は「ふはっ!」と笑う。
「オーケーだ。代わりに、あんたには少しだけ…男としての尊厳を無くさせてもらうがな!」
「………ん?どういうこっ…!?」
言葉を言い切る前に、奏多はシルヴァを持ち上げる。シルヴァは突然感じた浮遊感に戸惑うが、奏多はそんなことお構いなし。奏多は、シルヴァの背中に腕を回し、両膝を下からぐっと持ち上げる形を取る。つまり、その抱え方は世間一般で言うところの『お姫様抱っこ』というものだ。
「待って、流石に俺でもこの抱え方は知ってるぞ!!男の俺がこの抱えられ方は…!!」
「言っただろう、尊厳がなくなるかもしれないと。」
「だからってこれは…!」
「さぁ、しっかり掴まれよ。」
「待て貴様ら、動けば撃つぞ!!」
警官は銃を構え、奏多達に狙いを定める。
「ほう?なら、撃ってみろ!!」
奏多は、シルヴァを抱えながら、迷いなく垂直の壁に向かって足を踏み出した。重力なんて何も感じてないかのように、壁面を強烈な脚力で、二度、三度蹴りつけて、いとも容易く駆け登っていく。
「何だと!?」
「んなぁ!?」
シルヴァを含め、誰もが驚きの声を上げる中、奏多の思考はずっと冷静だ。二人は無事に建物よりもずっと高く飛んだ。
「た、高い!!」
「ふはっ!気分がいいだろう!上から眺める景色はとても美しい。けど、戦艦から眺める星々はもっと壮大で魅力に溢れてる!こんな包囲網はとっとと抜けて、任務をサクッと終わらせて、俺達の戦艦に一緒に行こうぜ!」
「おう!……だから、早く降ろして!!」
「へ?あっ、悪い悪い!」
奏多は、登った所から少し離れた安定した足場のある建物の屋上でシルヴァを降ろした。地に足をつける感覚に安堵の溜息を吐きながら、シルヴァは周りの景色を見る。ぼやけて見えたビルが、今やはっきりとした輪郭を作っていた。
「…よし!大分近づいたな!あと少しだぞ、奏多!」
「ああ、このまま屋根伝いを走ってさらに近づくぞ!」
「おおー!!」
「仲良しだな、君たち。」
「へ?」
「…っ。」
突然聞こえた声に間抜けな声を出すシルヴァに対して、奏多は再び大鎌を取り出し、声が聞こえた方角へ武器を振るう。
「落ち着いてくれ、私は君たちと敵対するつもりはない。」
その人物は黒いフードを被っており、顔や服装は分からないが、身長がかなり低く、声は幼い少女のように感じた。
「ていうか、何回俺達って背後を取られたら気が済むの!?」
「……で?一体何の用だ?俺達これから行くところがあるんだ。重要な要件以外聞く耳はない。……そこを退け。」
フードを着た少女(?)は、肩をすくめて、落ち着けと言わんばかりの声色で、奏多の圧に物怖じせずに話を続ける。
「良かったな。これはお前たちにとって、とても大事な話だ。」
「……?」
「お前たちは今、あのタワーに向かっている。そうだろう?」
「なっ!なんで分かったんだ!?」
行き先を当てられたことによる戸惑いから、シルヴァは思わず二人の会話に挟まる。
「そりゃあ、大人数に追われているにも関わらず、この街から離れるどころか、中心に向かっている時点で、何か目的があると分かるだろう。では、どこを目指している?きっとこの街で一番高いビル。『トップ・アストレイア』に違いない…とね。」
「もし、そこじゃなかったら…とか考えなかったのか?」
「まあ、その時はその時さ。その場合は、君たちの目的地を『トップ・アストレイア』に変更してもらう予定だった。」
「ど、どうして?」
「…君は素直だな、シルヴァくん。……君たちを助けたいからだ。」
「助けたい…!?」
(この女の子は何で俺達を助けたいの?そもそも、一体何者なの…!?)
「頼む。今は私を信じてほしい。トップ・アストレイアに着いたら、そこに赤色の鳥居がある。そこへ着いたら、合図をしてほしい。そこから一分ほど時間を稼いでくれ。そうしたら、君たちをあの包囲網から救えるんだ!」
「ほ、ホント!?助かるの!?」
「………。」
助かるという言葉に思わず喜びの声色になるシルヴァに対し、奏多は疑心が上回る。
(本当にこいつの言うことを信じていいのか?罠の可能性がある。俺だけならともかく、変革者を
守って戦うには無理がある。……どうする、俺。)
思考を止めることはなく、考え続ける奏多。だったが。
「じゃあ、早くそこに行こう!そして、合図をするから、その時は頼んだよ!」
一瞬で思考は止められてしまった。
「……は?」
「じゃあ、頼んだよ!謎の女の子!さあ、行こう奏多!」
「えっ、ちょっ、まっ!」
困惑を言葉にする前に腕を引かれて、二人は駆け出す。シルヴァの表情はキラキラしており、そこには嬉々とした表情が分かりやすく顔に出ていた。
「ふぅ……、取り敢えず二人を鳥居まで誘導できた。……あとは頼んだよ。」
残された少女は、通信機を耳元に当てながら誰かに通話をする。その声に返事はない。ただ、鈴の音が通信機越しに鳴り響いた気がした。
ご読了ありがとうございました。
二人は包囲網を抜けられるのか…!?次回へ続く。




