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最強のホラゲー配信者がゲーム世界に転生したら、全く怖くない。  作者: てんてんこ
第3章 夕陽新町

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第61話 彼女は知っていました

 自警団ゾンビが暴れる中、茜達はメンテナンス通路の移動を再開していた。


「これで、橋の上のゾンビは封じられました。あとはゆっくり歩いて行けば……と言いたいところなんですが」


「……まだ、何かあるのか?」


 最後尾を歩く茜の言葉に、ぎょっとした表情で克也が振り向く。


「さっきの通り。しばらくしたら、自警団のお兄さんが落ち着いちゃうんですよね。そうすると、周りのゾンビも通常状態に戻っていくので……」


 後方から、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた。


「……まあ、まだしばらくは大丈夫です」


「なるほど……」


 茜の説明に、克也は頷いた。


 先ほど、茜は花火を使って自警団ゾンビをおびき寄せた。


 だがそれは、狂乱状態では使えない。

 なぜなら、狂乱状態では自警団ゾンビの感知範囲が極端に狭くなるからだ。


 通常状態に戻らない限り、音で呼び寄せることができない。


 つまり、あの花火を使った瞬間は、自警団ゾンビは通常状態に戻っていた、ということである。


 そして、この橋の上では。


「もう自警団のお兄さんを呼び寄せるための花火が、手元にありません。まあ、やりようはあるんですが、なんだかんだでお兄さんを対岸まで引っ張ってくるのも危ないんですよね」


「……落ち着いたら、戻っていくんじゃ無いのか?」


「そうなんですが、ちょっと時間が掛かりますし、そろそろ夕方なので。自警団のお兄さんをトレインしちゃうと、動き難くなっちゃいます」


 克也の疑問に、茜はそう答えながら周りを見回した。


 太陽は既に傾いており、周囲はだんだんとオレンジ色に変わってきている。

 つまり、夜の時間――野生動物の時間が、近付いている、ということだ。


「家の中に避難しないと、危ないんですよね」


「そういえば、夜は犬とか猫とかが襲ってくるんだよね……早く行かないと!」


 先頭の佳子は、サイバイバル中の出来事でも思い出したのか。

 ぶるりと身体を震わせ、そう言った。


 夜になると、烏や犬、猫、狸といった野生動物は、積極的に人間に襲いかかってくる。

 なぜ彼らが人間を襲うのか、ということは茜も知らないのだが、とにかく凶暴になるのだ。


 暗くなったら、施錠できる部屋で過ごす。


 それが鉄則だ。


 一応、夜通し起きて撃退し続ければ、大きな怪我を負うことなく朝を迎えることは可能だ。


 だが、それでは疲労度や眠気度といったパラメーターが回復しない。

 また、休息を挟まずに行動し続けると、体力が一気に減って非常に危険な状態に陥るのだ。


「橋を渡ってすぐのところに、今日の宿があります。そこまでたどり着ければ大丈夫ですので、もうちょっと頑張りましょう」


 背後から響くクラクション、爆音、破砕音、そしてゾンビの雄叫び。


 それらを尻目に、3人は通路を進むのだった。


◇◇◇◇


 大流川おおるがわ新橋しんばしは、片側3車線の巨大な橋だ。


 そして、ゾンビパンデミックが始まった時、多くの車がこの橋の上に取り残された。


 ゾンビ化は、一瞬で行われた。

 男女年齢関係なく、おおよそ6割から7割の人間が、突如としてゾンビになったのだ。


 ゾンビにならなかった人間も、もちろんいる。


 だが、周囲のゾンビ化した人間達は、彼らを見逃したりしない。


 3人居れば、2人がゾンビになったということだ。

 ゾンビ化しなかった人間は、ゾンビとなった人間に襲われ、殺され、ゾンビの仲間入りを果たした。


 そして、その襲撃を生き延びた、ごく少数の人間達。


 それが、『ZOMBIE - ゾンビ』 の世界では『サバイバー』と呼ばれている。


「…………」


 茜は、梯子につかまり姿を隠したまま、橋の上をそっと窺っていた。


「…………」


 音は、聞こえない。


 ついさきほどまで、威勢の良い雄叫びが聞こえていたのだが。


 どうやら自警団ゾンビは、通常状態に戻ってしまったようである。


 ここで、茜がクラクションの1回くらい鳴らせば、自警団ゾンビはすぐにこの場所に、文字通り跳んでやってくるだろう。


 しかし、それでは面白みがない。


 彼女は間違いなく、純粋にそう思っていた。


 そして、ゲームをただひたすらにやりこんだが故に、茜は一つの事実を知っていた。


「……さて、ちょうどこの先で止まっている、車の中」


 ゾンビの視線が切れていることを確認し、茜はそっと、道路に降り立つ。


 そこからは、いつものスニーキングミッションだ。

 視線を掻い潜り、音を立てないように歩き、ゾンビの後ろに張り付いて移動する。


「……いました」


 自動車の中には、ゾンビが取り残されていることがある。


 単純に、運転席に座り続けているだけのゾンビ。

 あるいは、ドアを開けるという知恵が働かず、ずっと窓に張り付いて外を見ているだけのゾンビ。

 まあ、そういうゾンビも、人間を視認すると普通にドアを開けて出てきたりするのだが。


 もはやホラーである。


「ホラーゲームですけどね」


 モノローグにセルフ突っ込みしつつ、茜はある車の傍に辿り着いた。


「……居ます、ね……」


 そして。


 その、運転席。


 ハンドルにもたれかかり、ぐったりとして動かない男が1人。


「この男性ですが、一見、引きこもっているだけのゾンビに見えます。でも、音を立てても、何なら窓から覗き込んでも、全く反応しません。見た目は、全くゾンビっぽくないんですが……」


 茜は、思い出す。


 この目の前の男とそっくりのサバイバーが、後々、ストーリーに関わってくるシーンを。


「どうなってるんでしょうねぇ……」

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