第59話 彼女は照らされました
『キィらラららチャンきいいィィぃちゃランラぁアアあァァァー!!』
「ここです」
ハンズアップで走ってきた中年男性ゾンビが、顔を出す茜に飛びかかる。
その瞬間、茜はすっと引っ込んだ。
『きらララぁらラキゴッ?!』
跳躍したゾンビだが、もちろん空中で方向転換することはできない。
茜の頭のあった位置を通り過ぎ、そのままコンクリート製の欄干の上に腹から落下し。
「はい、オタコールお兄さんご案内~」
茜は、目の前のゾンビの足を『持ち上げた』。
太ももが欄干に引っ掛かって止まっただけのゾンビは、そのまま抵抗する術もなく橋の下に消えていった。
『ぁアアあぁキララららチャあぁアアァアァァー……』
「おお……!!」
その鮮やかな身のこなしに、佳子は目をキラキラさせる。
克也は、ぽかんとした表情で、ゾンビが落ちていった欄干を見つめていた。
少し、刺激が強かったようだ。
「はいもう一投〜」
そして、茜は止まらない。
今度はそのまま立ち上がり、無防備に全身を晒したのである。
『ぴぴピピっちゃアアアアぁぁかえぇろピッ!!』
『タイたいタむぃたいムすススすケジューるウウゥうぅー!!』
それに、2体のゾンビが引っ掛かった。2体は、そのまま横並びに走り出す。
「むっ……」
茜は2体のゾンビと相対し――
『カかカえぇッ! ぴっチャああァァアアァアアァァァー……』
『たたタタいいぃイイィッ! スケッじゅううぅうぅるウウゥぅぅー……』
飛びかかられる直前で、茜は横にダイブ。
茜は自動車の影に飛び込むが、ゾンビ達はその動きに追従できない。
その勢いのまま跳び上がったゾンビ達は、今度は欄干に引っ掛かることもなく落下していった。
「さて……」
滑り込んだところから身体を起こすと、茜は再び『しゃがむ』『張り付く』を使用して、車の影に身を潜める。
「こんな感じで、ゾンビ達を川底にご案内するわけです。とはいえ、ちょっとでもミスすると一緒に高飛び込みか、あるいはゾンビに普通に捕まるか。ここは万全を期して、慎重にいきましょう」
「あぁ……って言ってるそばから出て行くんじゃねえ……ッ!!」
説明もそこそこに、茜は再び立ち上がって影から出る。
そのあんまりな行動に、克也は思わず突っ込んでいた。
『ハォはょッごザイマすッ! オォはよぅござマイスゥッ!!』
「元気が一番、よっ、ハイッ!」
走ってきたゾンビは、今度は跳躍すること無く真っ直ぐ茜目掛けて走り込んできた。
それを茜は、非常にタイミングがシビアな『躱す』でするりと身を躱し、『押す』を使って突き落とす。
『ぉドッ! ッハヨオオォオォォー……』
4体目。
またしても、華麗なキャラクターコントロールを披露した茜が、危なげなくゾンビを退場させた。
「オッケーです。これで、すぐ排除できるゾンビはいなくなりました。万難を排するなら、アイテムなどを駆使して追い払うことも可能ですが。無視して走っても、ギリギリ間に合いますので」
ハラハラした表情で待機する佳子と克也の元に戻ってきた茜は、流れるように茜と克也を立たせると、自身は2人の後ろに移動。
「では、『行きましょう』。目指すは非常用のあの通路です! 『走って!』」
「心の準備くらいさせろォ!」
「あわわわ」
佳子と克也は、茜の『指示』に弾けるように走り始めた。
もちろん、茜もそれに続く。
――『走る』は、便利だが危険なアクションスキルだ。何せ、足音で一定範囲内のゾンビを誘引してしまう。
つまり、3人が走り出したということは。
視界外で隠れて立ち尽くしていたゾンビ達も反応する、ということになるのだ。
『ざザざんザンざんぎょうギョウざんギョウギョウううぅううぅ!』
『ととレあうトレあぁアウトれっとっとあうレトああぁ!』
『ハッはーっハァーッははハッはっハハッはッ!!』
3人の足音に、即座に周囲のゾンビは反応する。
『走る』の音が発生した地点、その最も新しい場所に向け、ゾンビ達が移動を開始した。
だが、この橋の上は、放置車両によって通過可能な場所が少ない。
すぐに移動できる場所にいたゾンビは、さきほど茜が排除してしまっていた。
よって、ゾンビ達はぶつかり、詰まり、うまく移動することができない。
その混乱で生まれた僅かな時間を使い、3人は全力で走り抜ける。
「先に『降りてください』!」
「うんっ……!」
最初に辿りついたのは、佳子。
茜の『指示』に躊躇無く欄干に飛び乗り、落下防止の輪っかに囲まれた梯子を下り始める。
そこに、ややもたつきながら克也が続く。
克也の運動性能は、お世辞にもあまりよくない。
震える手で梯子を掴み、半ば足を滑らせるように降りていく。
「では、私が最後に」
そんな克也を見届け、茜も欄干に飛び乗った。
くるり、と身体を反転させつつ、足を梯子に下ろし。
『あうトレットレッとおぉぉー!!』
遂に辿り着いたゾンビが1体、茜目掛けて跳躍した。
「おっと、これは間に合わないか!?」
茜が、そんな解説を口走った。
例えここで今すぐ茜が手を離したとしても、重力に捕まるより先に、飛び掛かってきた女性ゾンビに掴まるだろう。
その瞬間。
茜の顔を、オレンジ色の光が照らしだした。




