第58話 彼女は呼び寄せました
「……!?!?」
「――――!!」
茜に導かれて移動した車の影で、佳子と克也は驚愕に目を見開いていた。
「…………」
そして、当の茜は至って普通の顔で、空から降ってきた自警団ゾンビの背中を眺めている。
『ぉオマあァあぁー!! だれァァおぉオアぁれあえレレェー!!』
自動車の上で咆哮する、自警団ゾンビ。
そして、その瞬間。
3発目の打ち上げ花火が、破裂音と共に上空に打ち上がる。
その射出された花火に、自警団ゾンビは即座に反応した。
花火の軌道から射出地点を逆算、その場所に向かって跳躍。
そのまま、手にした金属フレームを振り下ろした。
ひしゃげる車体。
けたたましく鳴り響く、クラクション。
『こッコんモンじゃあアァァああぁぁー!! ドコッじゃあアァァああぁアアァァー!!』
狂乱状態となった自警団ゾンビは、強化された膂力を存分に発揮し、目の前のワゴン車を破壊する。
そこで飛び散った破片が、近くのゾンビにぶつかった。
人外の膂力によって弾き飛ばされた金属片が、ゾンビの肩口に直撃。
ゾンビは、吹き飛ぶように倒れ込む。
――そしてその先に、蓋の開いたポリ缶が置かれていた。
倒れたポリ缶から、ゴポゴポとガソリンが流れ出す。
『ジャンじゃああぁぁー!! なんああぁァアアァー!!』
更に、自警団ゾンビ。
執拗に叩き付けられる金属フレームの威力に、自動車が屈した。
タイヤはパンクし、サスペンションが破壊され。
地面に接触した底面部品が燃料タンクを押しつぶし、繰り返される衝撃が亀裂を押し広げ、ガソリンがこぼれ始める。
そして。
自警団ゾンビが振り下ろす、煙が燻る金属フレーム。
それが火種となり、周囲に広がるガソリンに、引火した。
◇◇◇◇
爆発音と共に、一気に炎が立ち上がる。
流れ出したガソリンに火が回り、路面が炎に覆われた。
「さあさあ、今のうちです。まずはあっちを目指しましょうか!」
ごうごうと燃え始めた炎を背後に、茜は立ち上がってそう『指示』を飛ばす。
「な、なんか大変なことが……!」
「まさかさっきのガソリンか……!」
「頭は出さないように、『中腰』で。こっちにはしばらく火は回らないので、気にしないで大丈夫です」
真ん中で大暴れする自警団ゾンビに、空から降ってくる落下傘。
あまりにも目立つそれらに、周囲のゾンビの視線が釘付けになっている。
その隙を突き、茜達は車と車の隙間を縫って移動していた。
「ええと……お2人はちょっとそこの影まで行ってもらって。はい、そこで『しゃがんで』ください」
茜の指示に導かれ、佳子と克也が死角にしゃがみ込む。
それを横目で確認しつつ、茜はポケットから数個の花火を取り出した。
「ここで、ダメ押しの追加花火です。やっぱり派手に行きたいですからね」
取り出したのは、ネズミ花火の束だ。5個がまとまったそれを、躊躇無く火元に向かって投げつけた。
「はい、左ヨシ、右ヨシ、私も合流しましょう」
そのまま流れるように周囲のゾンビの位置を確認、視線を掻い潜って2人に合流。
一方、火の海の中に落ちたネズミ花火は、ほとんど間を置かずに点火した。
パパパン! パン!
けたたましい破裂音は、警戒状態に移行している周囲のゾンビを、殊更に引き寄せる。
立ち止まって周囲を窺っていたゾンビ達が、ゆっくりと音の発生源に向かって移動を始めた。
「さて、この状態であればほぼ見つかること無くメンテナンス通路まで移動できます。姿を隠しながらゆっくり移動すれば、大丈夫です!」
茜はそう解説し、2人を促して再び移動を始めた。
別の車に突っ込んでひしゃげたセダン型の自動車の横を、這うように進み。
ワンボックスカーの影は、普通に歩いて移動する。
移動するゾンビ達から視線が通りそうな場所は、茜が逐一指示しながら、1人ずつ渡りきる。
そうやって、6車線の道路を渡りきり、3人は歩道の反対側に辿り着いた。
「さて、ここまでくればあと少しです! 最後の難関は、あの車が途切れて丸見えになっちゃうルートなんですが……」
「だ、大丈夫なの……?」
「ゾンビが見えるな……」
多くのゾンビは、大炎上会場に集まっている。
だが、ゾンビが多いということは、その中には必ず外れ値が混じっているということだ。
それらのゾンビは、あまり外部の環境に反応せず、自分のルーチンを守る傾向がある。
「向こうに回ってぐるっと回避するってルートもあるんですが……」
「ですが……?」
茜の発言に、不穏な空気を感じ取った克也。
「ここは一本釣りといきましょう!」
だが、茜はそんな克也の発言は完全に無視し、元気にそう宣言した。
「手前のゾンビが、あっちを向くので……はい、2、3、4、5、今です!」
茜はタイミングをしっかりと計り、無防備に車の影から上半身を覗かせる。
「えっ……」
そのいきなりの挙動に、佳子が慌てて茜に手を伸ばすが。
「大丈夫ですよ!」
茜が顔を出した先。
『キッ……キラッきらキララッきららっチャあアぁァーーーーアアぁぁンッ!!』
1体のゾンビが、茜を視認して、走り始める。
『ハイッハッハイッはいっきらッチャアアァーんッ! キラララッチャアアァー!!』
「オタコールお兄さんですね。いいリズム感です」




