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最強のホラゲー配信者がゲーム世界に転生したら、全く怖くない。  作者: てんてんこ
第3章 夕陽新町

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第57話 彼女は点火しました

「……橋の上のゾンビは、だいたいその場に立ち止まっているか、同じ場所をぐるぐる回っているだけです。家庭思いだったら家に歩いて帰っていますし、ワーカーホリックだったら仕事場に向かっていますからねぇ」


 茜はボソボソと解説しつつ、車と車の隙間を『中腰』で歩いていた。


 その手に抱えているのは、ガソリンが入ったポリ缶だ。


「ここで立ち回りを覚えておけば、今後のステージでも大変役に立ちます。横着せずに練習することをオススメします。例えば、あのゾンビ。立ちっぱなしに見えますけども……」


 茜の視線の先で、立ち尽くして虚空を見つめる一体の男ゾンビ。


 5秒ほど経つと、突然くるりと身を翻し、のろのろと歩き始めた。


「あのように、立ちっぱなしと見せかけた徘徊型も混ざっています。見分け方は簡単です。靴がすり切れてたり、ズボンが汚れてたりと、特徴がちゃんとあります。そうですね、歩きっぱなしでどんどんボロボロになってる感じですかねぇ」


 立ちっぱなしのゾンビは足元が比較的整っており、徘徊型は靴底が無くなっていたり、ズボンの裾が破れていたりと、一応見分けが付くようになっている。


 もちろん、例外もあるのだが。


「まあ、この見分け方だけだと難しい場面もありますので。最終的には、全てのゾンビを記憶するしかありません。私も、全部のゾンビを覚えている訳ではないのですが……」


 茜は辺りを見回し、ゾンビの位置を確認した。そして、おもむろに『中腰』で歩き出す。


「橋の上のゾンビ達は、ランダム要素はほぼありません。あっても、そのゾンビの移動範囲を避けて進めばいいだけなので。こんな感じで、ここは頭を下げて……」


 茜はそう言いながら、さっと頭を下げた。


 その瞬間、周りを見渡すゾンビの視界が、その場所を通過する。


「そのまま端まできたら、1、2、はい。こっちに隠れましょう」


 更に、タイミングを計って茜は動く。ゾンビの視界が切れる一瞬で、隣の車に移動したのだ。


「さて、ではでは……こいつの出番です」


 そして、その車の影で茜はようやく、手に持っていたポリ缶を道路に置いた。


「そろそろ腕がしびれてきたので、ここに置いていきましょうねぇ……」


 そう言いながら、茜はポリ缶の蓋を開けた。


 しゅう、と音がして、気化したガソリンが周囲に広がる。


「うう、きつい匂いですね……。さて、では戻りましょう」


 蓋を開けたポリ缶をその場に残したまま、茜は身を翻した。


◇◇◇◇


「ええと……ここに置いて。『火を点けます』。退避退避」


 地面に置いた打ち上げ花火、落下傘タイプ。


 導火線に火を点けると、茜はさっと車の影に退避した。


「では、ゾンビに見られないように移動しましょう。こちらの影からこっちに来まして、1、2、3、4、はい。こっちに移動して……」


 パン!


「お、上がりましたね。このまま、1、2、はい。こっちに回りまして……」


 打ち上げ花火が、1発目の花火を打ち上げた。


 火薬の破裂音が周囲に響いた瞬間、動き回っていたゾンビ達が一斉に動きを止め、同時にほぼ全てのゾンビが、音のした方向を振り返る。


 そして、その隙間を縫って、茜は元の階段入り口に向かって移動する。


 パン!


 2回目の打ち上げ音。


 あの打ち上げ花火は、3発を上空に飛ばすことができるタイプだった。

 そして、茜は確認していないが、1発目の落下傘が開き、上空から落ちてきているはずだ。


 夕方に近付いているとはいえ、まだまだ明るい時間である。


 上空の落下傘は、遠くからでもよく見えるだろう。


『――おぉぉあああぁぁあああぁいいいぃぃいぃぃー!!』


 よって。


 その落下物を視認した監視塔ゾンビは、叫び声を上げ始める。


 橋の上のゾンビ達は、先の花火の音で既に警戒状態に入っているため、特に動きは無い。


 だが、その火薬の音が届いていなかった範囲。


 そのゾンビが、監視塔ゾンビの叫び声によって警戒状態に移行する。


『……しゅぅ、しゅッ……どッコしゅうシュッシンオォおまエエェェだァー!!』


 再生を終えた、自警団ゾンビ。


 その人間離れした巨躯が、視認した落下傘に向けて咆哮を上げた。


 空から落ちてくる、落下傘。


 当然、そんな異常な物を、自警団ゾンビが見逃すはずが無い。


 自警団ゾンビは、傍らのまだ炎を上げて燃えている自動車の残骸に両手を突っ込んだ。

 そしてそこから、新たな武器となる金属フレームをバキバキと剥ぎ取る。


『んンなンッッだッッコリャアアァァああぁぁああぁぁー!!』


 炎を纏ったままのフレームを振り上げ、自警団ゾンビが走り出した。


 焼け爛れた皮膚がボロボロと零れ落ち、その下から結晶質の輝きを持つ岩のようなゴツゴツとした皮膚が現れる。


 自警団ゾンビは、大ダメージからの回復とともに自らの身体構造を変化させていた。


 より強く、より強靱に。


 自警団ゾンビは歩道に登る階段下に辿り着くと、大きく跳び上がった。


 途中の踊り場の外壁を掴み、その腕力だけでさらに跳躍する。


 橋の欄干を飛び越え、その巨体が自動車のボンネットの上に着地。

 けたたましいクラクションの音が、大流川おおるがわ新橋しんばしの上に響き渡った。

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