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最強のホラゲー配信者がゲーム世界に転生したら、全く怖くない。  作者: てんてんこ
第3章 夕陽新町

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第53話 彼女はひとりで進みました

「そおい」


 茜は、点火した花火を女性ゾンビの左手に向かって投げると同時に、右の放置自動車に向かって移動する。


『わわワんちゃンわちゃチャワん!?』


 突然自身の左側から飛んできた花火に、女性ゾンビは機敏に反応し、左向きに後ろを振り向いた。


 だが、茜は既にそこから離れている。


 女性ゾンビは、そのまま左回りで一周回った。その時には、茜は放置自動車の陰に入り視界から逃れていた。


『わンかわワンいいチャンかワンわんカワちゃん!』


 女性ゾンビは周囲に人間が居ないことを理解すると、そのまま火を吹き始めた花火に釘付けになった。


 ゾンビは、人間では無い何かを見つけた場合、警戒状態となってその場に立ち止まる傾向がある。


 花火は、ゲーム内ではゾンビを手軽に釘付けにできるアイテムとして非常に人気であった。


 もちろん、それは『彼』がことあるごとに使用していたから、というのもある。


 とはいえ、このアイテムは、例の如く大変扱いの難しいものであった。


 どんな状況でもゾンビの行動を封じることができる訳ではない。花火を目にしたゾンビは、即座に警戒状態になる。


 つまり、通常状態では反応しない背後にいても、僅かに音を立てるだけで発見されてしまうのだ。


 また、たとえ『張り付く』を使って無音で隠れていたとしても、少しでも視認されれば終わりだ。


 通常であれば見逃すようなチラ見えでも、警戒状態では目聡く見つけてくるのである。


 シュウシュウバチバチと音を立て、炎を吹き出す花火。


 女性ゾンビは、ゆっくりと身体を屈めた。


「…………」


 それを確認し、茜は『中腰』で歩き始める。目指すのは、背後の住宅だ。


 茜は真っ直ぐ玄関に向かうと、ガチャリとドアを開けた。


 鍵は、掛かっていない。


 そうしてドアを開け放ち、茜は踵を返した。


『――はぁぁーいいぃ!?』


 その瞬間、家の中から大声が聞こえてきた。


 在宅ゾンビだ。


 だが、いつも通り。


 茜は慌てず、すぐ横の住宅と塀の間に身を潜めた。


『はぁイィー? も、どもウモモう? はードウもう?』


 バタバタバタ、と足音が聞こえ、在宅のおばさんゾンビが姿を現わした。


 玄関ドアから、一歩足を踏み出して。


『はあアァァぁーぃいぃ? ハイいぃぃー?』


 在宅ゾンビは、外から響く、花火の音に気が付いた。


『はいー? どももドモうどうもモぅハイはァイぃー!?』


 そして、在宅ゾンビは外に向かって走り出した。


 範囲内に異常があった場合に、積極的に近付いていくタイプのゾンビ、ということだ。


 ちなみに、異常発見時には立ち止まり、動かなくなるタイプも存在する。


「さて……これで、準備はできました」


 茜はぼそりとそう呟くと、家主の居なくなった玄関に足を踏み入れた。


◇◇◇◇


『――モじゃどッコんじゃもんジャあぁァァー!』


 ゾンビの叫び声が、周囲に響き渡る。


 自警団ゾンビ。


 夕陽新町を練り歩く、いわゆるステージギミックと呼ばれる種類のゾンビだ。


 そのゾンビが、佳子、克也の隠れる道路を爆走していた。


 どうやら、茜の投げた花火の存在に気が付いたらしい。


 その声と足音に、佳子と克也は身体を硬くした。だが、恐怖に負けてその場から逃げ出すようなことはしない。


 茜が、ここで隠れているように言ったのだ。茜が言うなら、この場所は安全なのだ。


 2人共に、根拠無くそう考えていた。


『ドッじゃあアァァアアァァー!!』


 花火自体は、既に火は消え、僅かに煙を出すだけの状態だ。


 だが、道の真ん中に()()が落ちている、という状態が重要である。


 自警団ゾンビは、そんな違和感を決して見逃さない。


 更に。


『ドコんモンジャんあああぁぁアアァァァァー!』


 自警団ゾンビは、自身の進路を邪魔する他のゾンビを、許さない。


 花火に興味を失い、在宅に戻ろうと歩き始めたおばさんゾンビを、自警団ゾンビは手にした金属フレームでぶん殴った。


 もちろん、一般ゾンビがその暴力に抗う術は無い。


 そもそも、一般ゾンビは自警団ゾンビに襲いかからないし、なんならその行動は全て無視するのだ。


 しかし、自警団ゾンビは積極的に排除に掛かるのである。


 殴られた在宅おばさんゾンビは、ヘアピンのように身体が折り畳まれた状態で、宙を飛んだ。

 背骨やそれを支える筋肉などを軒並み破壊され、まるで中身が抜けたぬいぐるみのような有様で地面に転がる。


 そして、自警団ゾンビが握る金属フレーム。


 それも度重なる酷使に限界を迎え、手元から大きく折れ曲がってしまう。


『なんジャンなんッッじゃらァアアァァァああぁぁー!!』


 長さを失った、歪な金属フレーム。


 自警団ゾンビは、その鉄塊を、散歩に戻ろうとしている女性ゾンビに叩き付けた。


『ドウシぃっ――!』


 女性ゾンビは無抵抗に殴り飛ばされ、そのまま傍に放置されていた自動車に突っ込んだ。


 その瞬間。


 ――パアァァアァー!!


 自動車のバッテリーが、まだ生きていた。

 大きな衝撃を感知した盗難防止機能が、クラクションを大音量で鳴らしはじめたのだ。


『どもこンジャラアァアわられあれレレアァああぁー!!』


 そのクラクションに、自警団ゾンビが更に激昂する――!

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