第39話 彼女は調理しました
「……佳子ちゃん。……あった?」
茜がダイニングに戻ってくると、佳子がいろいろなものをテーブルの上に積み上げていた。
「茜さん! うん、それなりに……?」
テーブルの上には、かなり多くの食糧が広げられているようだ。
それこそ、2人では運びきれないほどに。
「でも、うーん……食べられるのかなぁ」
「んー……?」
茜は、テーブルの上のパッケージを1つ、手に取った。
『ニューレーズンバターロール 4個入り』
「ぜったいダメ」
賞味期限は、10日前。食べられるわけが無い。
茜はそれを、ポイ、とキッチンに向けて投げ捨てる。
「あっ……で、でも、カビも生えてないし……」
「見えなくても、ぜったいダメ」
カビが表面に見えなくても、内部では既に菌糸が伸びている可能性があるのだ。
茜は、よく知っているのだ。賞味期限を過ぎたパンは、危ないのだ。
「あ、あと、冷蔵庫の中は大変なことになってたから、見てないけど……」
「それでいい」
電気が止まって何日経過したかは覚えていないが、1週間以上経っているはずである。
そんな状況で、冷蔵庫の中身など考えたくない。
もちろん未開封のペットボトル飲料などが見つかる可能性もあるのだが、別にそこまでしなくても、他の場所で拾えるのだ。
基本、冷蔵庫は開けてはならない。あれは、パンドラの箱だ。
どうせ希望は箱の底で、外に出てくることはないのだから。
「タマネギは……大丈夫そうだけど……」
オレンジ色のネットに入ったままの、タマネギが3玉。
空調も止まった室内で、暖かい日が続いていたため、頭から緑のネギが伸びている。
「重い……」
「たしかに、これをずっと運ぶのは、大変かも……」
佳子は、自分の背負っていたリュックサックをちらりと見た。
その中には、茜に押しつけられたジャガイモが入っているのだ。
数は少ないが、重りになっているのは間違いない。
「……たぶん、他の場所にもあるから、置いていく」
茜はそう判断し、タマネギをテーブルの端に寄せた。
「早ゆでマカロニ。これは持っていく。トマト缶。シーチキン。焼き鳥缶。これは……ウズラ卵の水煮? 小麦粉は……開封済みはダメかも」
「粉も危ないの?」
「暖かいから、危なそう……」
そんなことを言いながら、2人は食糧を仕分けていく。
口下手の茜だが、こういう作業中であれば、なんとか佳子と会話が成立していた。
佳子が一生懸命話し掛けているから、というのもある。
そうして、最終的に仕分けた食糧の数々。
正直、ゲーム内で獲得可能な種類を遥かに超え、山盛りになっていた。
「ん……」
茜はそれを見て、眉をひそめた。
ゲーム中で持っていくことができたのは、レトルト食品や缶詰、ペットボトルなど。
その他の、未開封の小麦粉や砂糖などの調味料や、水煮などの食品は、選択できなかったはずである。
まあ。
確かに、もし茜が1人でこれを仕分けるなら、日持ちしつつそのまま食べることができるレトルトパウチや缶詰を優先するだろう、と予想することはできる。
持ち運べる量には、限りがあるのだ。
「……持てるだけ持って、あとは置いていく」
故に、茜はそう結論付けた。
「もったいないけど、仕方ないかぁ……」
佳子も、へんにょりと眉を下げながら、その言葉に頷く。
欲張ったとしても、結局持ち運ぶのは自分なのだ。
リュックサックが重いと、行動に支障が出るのは明らかだ。
「……食べれるものは、食べていく」
残念そうな佳子を見て、少し悩んでから、茜はそう言った。
ゲーム的には、取るものを取ってさっさと先を目指すというのが正しいのだが。
さすがの茜も、放置して出るのは心苦しい、そう思わせる程度に佳子ががっかりしていたのである。
そして、茜のその言葉に、佳子はぱあ、と顔を輝かせた。
「わ、いいの? 実はちょっと、おなかが減ってたんだよ!」
この家は、拠点にできる程度には安全だ。それは、茜の知識からも間違いない。
であれば、少しくらい滞在を延ばしても大丈夫だろう。
茜は、残すと決めた食糧を改めて確認した。
「んっと……」
佳子には、確認しない。
ここ数日で、佳子の家事能力が壊滅的であるということは嫌というほど認識している。
まあ、茜も実際には、似たようなものなのだが。
ゲームアイテムに限れば、茜はプロ顔負けの料理の才能を発揮できるのだ。
「…………」
ゲームアイテムに、限れば。
◇◇◇◇
「ヨシッ」
茜は、作り上げた料理を前に、全力で自画自賛していた。
材料は、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、乾燥油揚げ。そして、別炊きの白米だ。
調味料は、キッチンに置いてあった使いかけのものたち。
ゲーム内で調理可能な料理なら、茜は完璧に作り上げることができる。
なぜそんなメニューがゲーム内に準備されていたのかは知らないが、できるものはできるのだ。
材料が揃っていて、助かった。
材料がなければ、『調理』コマンドは使用できない。
「おお~……」
重くて嵩張るから不要とスルーしていた、カセットコンロ。それが土間収納に転がっていたことを思い出し、茜は調理を決断したのである。
ささっとお皿に盛り付け、茶碗に白米をよそう。
「……ん」
「……いただきます!」
頷く茜に、佳子は元気よくそう返し。
早速、山盛りになった肉じゃが(肉抜き)にかぶりついた。




