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ダメな父親

 調理室から何か香ばしい匂いが漂ってくる。

 メニューを見てみると、麻婆豆腐だった。


 僕と菜々子さんは手伝いに入ろうとしたが、光さんが、「あなた達は新聞配達の仕事をしてお疲れだから、勉強室でマンガでも読みながら待っていなさい」と言われて、僕と菜々子さんは勉強室で待つことにする。


 僕と菜々子さんを勉強室に入れると、僕と菜々子さんの互いのやる気オーラが満ちて、今英明で流行っている手話の勉強に取りかかってしまう。


 菜々子さんと手話の参考書を見ながら菜々子さんと会話する。


『な、な、こ、さん。仕事、お疲れ様でした』


 と僕が菜々子さんに手話で伝えて、菜々子さんも手話で対抗しようとしていたが、「アツジが言っている事ぜんぜん分からないよ」と言われたので「じゃあ、言葉も混ぜて手話をするよ」と言うと「そうして」


「な、な、こ、さん。仕事、お疲れ様でした」


 言われた通り、手話と言葉を使って話した。


「あ、つ、じ、も。仕事お疲れさまでした」


 菜々子さんも言葉を交えて手話をした。


「お料理おいしそうだったね」


「そうね」


 互いにぎこちない手話を繰り広げて僕達は手話の練習をした。

 新しいことにチャレンジしていくって本当に楽しい。

 これは学校では教えてくれないことだ。


「明日は、金曜日、福祉センターで手話の会って、あ、さ、み、ちゃんが言っていたよね」


 ぎこちない感じで手話を繰り広げて行く。


「じゃあ・・・・行って・・・みる?」


「決まりね・・・と」


 手話と言葉で約束をすると、光さんが勉強室をのぞいている姿を発見した。


「二人とも手話に興味を持ち始めたの?」


「「はい」」


 と言葉と手話で僕と菜々子さんはシンクロした。


 すると光さんは「じゃあ、二人で頑張って行ってきなさい」と流ちょうな手話と会話で僕達に言いかける。


「光さんも手話が出来るのですか?」


 今度は手話を交えないで率直に聞いてみた。


「うん。一年ぐらい前に覚えたんだけどね」


 今度は手話を交えずに、切なそうな顔をして、僕と菜々子さんに言いかけた。

 手話に関することで昔何かあったんじゃないかって、僕は思った。


 気を取り戻して光さんは「さあ、ご飯できあがったよ」と言って、僕は手話で忘れていたが、四人が晩ご飯を作ってそれを僕と菜々子さんは待っていたのだった。


「本当にあなた達は切磋琢磨ね」


 またもや会話を交えて流ちょうに手話をする光さん。

 光さんにはかなわないな。

 でも菜々子さんにだけには負けたくない。

 そう言えば僕はギターで禁じられた遊びをマスターしたのだが、光さんは絶賛してくれたが、菜々子さんはまだ違和感を感じると何かと僕にけちを付けてくる。


 そう言えば光さんと菜々子さんは言っていた。

 もし機会があったら、駅付近の路上でギターを持って歌いましょうって。


 まあ、それは良いとして、今僕達の目の前に、麻婆丼とトマトサラダが並べられている。


 本当においしそうだ。


「おっとその前に二人とも、二百円を出して」


「「わかりました」」


 こんなご馳走が二百円で食べられるなんてラッキーだと思うが、ちなみに僕の一日の食費は一日五百円だ。

 まあ、ちょうど良いのかもしれないな。

 それにただでご馳走になるのは良くないけれどな。


「それではみなさん。いただきます」と光さんに続いて僕達は「いただきます」と手を合わせて言った。


 早速ドレッシングのかかったトマトサラダから箸で摘んで食べる。

 するとおいしい。

 このドレッシングおいしいよ。


「それは麻美が作ったドレッシングだよ」


「エッ?ドレッシングって家庭でも作れるの?」


「ネットに載っていたから作ってみたんだ」


「凄いね」


 後でネットで調べていつか作ることをチャレンジしてみたい。


 そして麻婆丼をレンゲですくってご飯と共に食べてみると凄くおいしかった。


「凄いよこの麻婆丼、凄くおいしいよ」


 そこで菜々子さんが「あんた少しは大人しく食べられないの?」と怒られてしまった。


 でも僕は「だって本当においしいんだもん」と言った。


 光さんが「みんなの愛情がこもっているからかな?」と女神様スマイルで言う。


 本当においしい。


 僕が食べていると菜々子さんは「もう少しゆっくり食べなさいよ」


「はい」


 そこで麻美ちゃんが「あっ君は菜々子さんに尻に敷かれているね」


 みんなが爆笑して、何か幸せを感じてしまう。わずか二百円でこんなご馳走が食べられるなんて思わなかった。


 みんな完食して、後かたづけに入った。

 僕と菜々子さんが手伝おうとすると、光さんが「後はやっておくから、二人はそろそろお帰りなさい」と言われて僕と菜々子さんは自転車で一緒に帰った。


「ねえ、一人暮らしって大変で寂しくないの?」


「まあ、大変だけど、たまに妹が食事を作ってくれるときがあるので、そう言うみんなに助けられているから」


「じゃあ、明日あたしがアツジの家に料理を作りに行ってあげるよ」


「本当に?」


「まあ、福祉センターの手話の会が終わった後になるけれどもね」


「お母さんは大丈夫なの?」


「お母さんには明日の朝ちゃんと言っておく」


「じゃあ、明日、楽しみにしているから」


「うんじゃあ、あたしはこっちだから、今日はこの辺で、さよなら」


 と言って菜々子さんは帰っていった。


 さて帰ったら手話の勉強をしよう。


 早速帰って手話の勉強を頑張ろうとしたところ、家の中に入ると、父親がいた。


「おーアツジ帰ったか」


「何しに来たんだよ!」


 父親を見た瞬間に怒りがこみ上げて、威圧的な態度でにらみつけた。


「親に向かって何だよ!」


 しかも父親は酔っぱらっていて、酒臭い。


「出ていけよ」


 父親のネクタイを掴みあげて、外に追い出そうとすると、父親は怒り任せに僕の顔面を殴りつけた。


「何をするんだよ!」


 僕も負けておられずに、父親の顔面を殴りつけ、父親と殴り合いになってしまった。

 だが、酔っぱらっているとはいえ、父親の方が腕力が上で、僕は殴り倒されてしまった。


「お前、俺達に産んで貰ったことの感謝を知らねえのかよ!」


「知らねえよ。それに何の用だよ!」


「お前が心配で見に来てあげたのに、何だよその態度は!?」


「心配なんていらねえよ」


「お前はまだガキだろう。母さんが世間でアツジはどうしたって、聞いてくるんだよ。そのたびに俺達は世間で子供捨ての親子と間違えられているんだよ。だからアツジ家に戻ってこい!」


「嫌だね」


「てめえ、父親の言う事が聞けねえのかよ!!」


 酔っぱらった勢いのパンチは体に凄く響く。

 何なんだよ。せっかく自分自身で幸せを手にしたってのに、こんな形で壊されてしまうなんて。


 父親の暴力は止まって「俺は絶対に一人暮らしなんて認めないからな」と言って親父は外に出ていった。


 親父の酔っぱらった勢いで胸や腹、顔面にも痛みが生じて、僕はしばらく動けなかった。

 

 少しして痛みがはれて、僕は麻美ちゃんから貸して貰った手話の本を手に取り、手話の勉強をした。


 普段の勉強も勧めて、僕は机から立ち上がり、鏡を見ると、顔面が痣だらけだった。


 明日新聞配達の時に同僚や、それに菜々子さんに心配をかけてしまう、どうしよう?


 それじゃあ、階段から落ちた事にすれば問題はないか。

 でも父親はまた現れてくるかもしれない。

 その時の対策はもう警察に言ってしまうことだ。

 父親は僕の事を実の子供とは思っていない。

 母親もそうだ。

 でも妹だけが僕の味方である。


 何なんだよ、あのくそ両親めが。

 僕は一人でやっていけるのに、やっかい払いをした両親にこんな目に遭わせられるなんて。


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