手話に興味を持つアツジと菜々子
「また、パンを敬子さんから分けて貰うんですよね」
「いいや今日は違うわ。たまには二人に私の手料理を振る舞いたくて作って来ちゃった」
光さんの手元には大きなバスケットを持っている。
「エッ!?光さんの手料理を食べられるんですか?」
「味は自信ないけれど、二人には精を付けて貰いたくて作って来ちゃった」
「どこで食べましょうか!?」
その時図書館内の公園が思い浮かび、小柳に光さんと菜々子さんを犯そうとした上に僕に冤罪をかけた事を思い出してしまった。
そこで菜々子さんが「どうしたのそんなに深刻な顔をして、どうせ、小柳って言うあんたに冤罪を与えようとした奴の事を思い出していたんでしょ」
「菜々子さんにはかなわないな、そうだよその通りだよ」
と僕は認めた。
本当に小柳の事を思い出すと、腹の底から怒りがわき起こってきた。
「本当に許せない奴だったよね」
「本当だよ、許せない奴だったよあいつは」
そこで光さんが「そんな事を言っちゃだめだよ、彼にだって何か事情があって私達に危害を加えてきたのかもしれないよ」
「光さん正気ですか?どうして私達に危害を加えた奴の肩を持つのですか?」
菜々子さんが憤りながら言う。
「別に肩を持っているわけじゃないわ、私だって小柳君のした事を許せないと思っているからね。けれど、あの子も人の子よ」
本当に光さんは女神様だ。
僕と菜々子さんは小柳の事を許せないと思っている。それなのに彼の事をそこまで考えてあげられるなんて。
小柳も人の子か?
学校では雑巾の水を飲まそうとしたり、暴力は日常茶飯事、その上光さんや菜々子さんにも危害を加えようとしてそれを僕に冤罪をかけた。
そんな奴が市議会委員の息子だからと言って、その権力をかざして先生も僕がいじめられているところを見て見ぬ振りをしてやり過ごしたんだよな。
でも僕は今は違う、僕には僕らしい仲の良い友達や恋人までいる。
もしかしたら、小柳の奴、執念深いから、僕達に逆恨みをするかもしれない。
そう思うと怖くなってくるが、僕は一人じゃない、仲間がいる。
こうして仲間がいる。
あの時の事を思い出したくないので僕達は、屋上で光さん特製お弁当を食べることになった。
「この唐揚げおいしいね」
菜々子さんが言う。
「何かピクニックに来たみたいで何か楽しいな」
と僕は言う。
「午後からも勉強でしょあなた達」
光さんが言って菜々子さんは「いいや今日は久しぶりに英明塾に行きたいと思っています」
「なるほど、英明塾に行くのか?私はいつも帰りに豊川先生の所に行っているから、それであえたら一緒に午後のお食事会でもしない?」
「「良いですね」」
僕と菜々子さんの言葉がまたハモってしまった。
すると光さんが「あなた達本当に意気がぴったりね」と笑う。
また菜々子さんが威圧的な目を僕に送るのかと思ったら、菜々子さんは微笑んだ。
そんな菜々子さんを見るとなぜか幸せな感じがして、青春はこんな感じじゃなきゃダメなんだなと思った。
そうだよこれが本当の青春だよ。
楽しいランチも済んで、僕と菜々子さんは英明塾に向かった。
自転車で向かいながら、心地の良い秋の風に包まれて、気持ちよかった。
そこで僕は重要な事を思い出す。
「そうだ。今日も新聞配達の仕事をしなきゃいけないんだ」
「何?忘れていたの?でも時間は三時だから少しだけ、みんなと話して、新聞配達の仕事に向かいましょう」
そういって、英明塾に到着して、みんなと会いに行った。
今日は麻美ちゃんや笹森君に長塚君、仲の良いメンバーがそろっていた。
それでみんなで相変わらず、今英明で流行っているのは手話だった。
あのSMAPの世界に一つだけの花をみんなで合唱しながら手話をしている。
「何々、みんな手話出来るの!?」
菜々子さんがそういって麻美ちゃんが「うん。手でおしゃべりするなんて何か素敵な感じがする」
「へえー」
と菜々子さんも僕も手話に興味を示し始めた。
何だろう?菜々子さんが興味が持つものを僕も持ち始めたいと思ってしまう。
「良いねえ、麻美ちゃん、僕にも手話を教えてよ」
そこで菜々子さんが「何であんたが興味を持ち始めるのよ」
「だって楽しそうなんだもん」
そして麻美ちゃんはSMAPの世界に一つだけの花のCDを流す。
麻美ちゃんと笹森君と長塚君はそれをマスターしていて、僕と菜々子さんはそれを見よう見まねで、ぎこちないがまねをした。
曲が終わり、麻美ちゃんが「どう二人とも」
「難しいね」
「ちょっとぎこちなかったかも」
僕と菜々子さんは率直な意見を言う。
そこで僕が「どうして手話なんて」と麻美ちゃんに聞いてみる。
「麻美、ボランティアで福祉センターでしゃべれない子達と交流を持つために手話の勉強をしているの」
「へえー」
と感心してしまう僕であった。
そこで菜々子さんが「麻美ちゃん、その福祉センターってどこにあるの?」
「船堀だけど」
「じゃあ、今度私も参加できないかしら?」
そこで菜々子さんは僕の腕を掴む。
もしかしてその福祉センターに僕も参加しないといけないの?
「二人とも手話に興味を持ち始めた?」
「うん」僕も正直な話「うん」と菜々子さんに遅れて返事をした。
「じゃあ、毎週月曜と金曜日に午後七時に船堀の福祉センターで耳が聞こえない人と話せない人の交流の場があるの、何だったら二人も通う?入会金はただだから」
そこで僕が「へえー楽しそうだね。それに入会金がただなら僕達も参加して良いの?」
「二人なら大歓迎だよ。それとこれ」
麻美ちゃんは僕と菜々子さんに手話のやり方が載っている参考書を貸してくれた。
パラパラとめくってみると、覚えることがたくさんあって大変そうだ。
すると何かやる気のオーラが満ちてくる。
その正体は菜々子さんの闘志であった。
僕には負けていられないと僕は鼓舞される。
菜々子さんは僕の目を見て、にやりと笑った。
その仕草は僕への挑戦状であると解釈していいだろう。
僕も負けていられないぞ。
「じゃあ、もう一度」
と麻美ちゃんが言って世界に一つだけの花のCDをかけた。
一度やったから、二度目は少しだけうまくなった感じだった。
僕と菜々子さんは手話を勉強する。
「ねえ、アツジ、これからは私と手話で会話しない?」
「そんな無茶な事を言わないでよ」
「そう、じゃあ、私は麻美ちゃんと手話で会話するから」
そんな事になったら僕は手話で菜々子さんに先を越されてしまう。
「分かったよ。これからは僕達だけで手話で会話をしましょう」
「そう来なくっちゃ」
何気なく時計を見ると、僕達は新聞配達の時間になってしまった。
「やばいよ菜々子さん、そろそろ新聞配達の時間になっちゃうよ」
「あら本当だ」
「じゃあ、僕達は新聞配達の仕事に行くけれど、また終わったら英明に顔を出すから」
そういって、僕達は英明を後にして僕達の仕事場の新聞屋に向かった。
十分遅刻して僕と菜々子さんは怒られてしまった。
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新聞配達の仕事も終わり、ちなみに今日は僕が菜々子さんに負けてしまった。
菜々子さんは好きなジュースをおごってあげた。
何かいつも僕が勝つと、菜々子さんにお汁粉やブラックコーヒーなどを買って嫌がらせをしてきたのに何かしゃくだった。
それよりも早く英明塾に行かないと、新聞屋から英明塾まで二つの橋を自転車で越えていかなければならない。
今日は英明に行けば、光さん特製の料理をもてなしてくれる約束だ。
英明塾に到着して、時計は午後七時を示していた。
中に入ると、光さんは調理室で麻美ちゃんと笹森君と長塚君が料理を作っていた。
光さんが僕達に気がつくと「二人ともお疲れさま」と労ってくれて、僕も菜々子さんも幸せを感じてしまう。




