11話 養女になっていました
3人が水晶型の魔道具に魔力を込めて移動すると、クリスティアのエンブレムが描かれた貴族が利用する立派な作りの箱馬車が停まっている場所に出た。
リリゼットは初めて移動用の魔道具を使用したので実感はないが、今3人がいるのはクリスティア国内であり馬車で少し走らせたところに王都がある距離の場所らしい。
「レオナルド様、ギルヴェルト殿おかえりなさい。そして貴女がリリィ・ダンカム嬢ですね。お待ちしておりました」
箱馬車につながれた馬を操作する御者が3人を出迎えた。
やはりリリゼットの詳細を明かす人間は少人数にしておくつもりらしく、レオナルドは御者にリリゼットのことはダンカム商会オーナーの娘だと伝えてあったようだ。
3人は用意されていた箱馬車に乗り込んだ。
「移動用魔道具で魔力を大量に消費して辛いだろ?魔力回復薬を用意してあるから飲むと良い」
先日まで魔力が不足していたリリゼットは、ギルヴェルトに魔力を分けてもらったり宿屋でぐっすり休んだお陰で魔道具を使用しても少し疲れ気味くらいの程度だが、魔力の量が最大でも中流貴族より少しある程度のギルヴェルトは。不調を顔に出さないように振舞ってはいたが先程と比べると少しばかり顔色が白くなっていた。
ギルヴェルトのその姿を見たリリゼットはズキリと胸が痛んだ。
レオナルドが用意してくれていた魔力回復薬を渡され、リリゼットとギルヴェルトと一緒にチビチビと飲みはじめる。
魔力回復薬は前世の綾奈時代に日本で飲んでいた栄養ドリンクと大差ない味がした。
魔力回復薬を飲みながら3人は走らせた馬車が王都に着くのを待つ。
「リリィ、ギルからの報告であったが君はガルヴァンでとても、とても辛い目にあってきたようだね…。君の身柄は"転生者"としてだけではなく我が国クリスティアの一国民として保護しよう。勿論君の弟も含めてだ」
馬車の中でギルヴェルトから、リリゼットが無実の罪で処刑宣告を受け自害せざる得ないほど追い詰められたという報告をレオナルドは受けており、リリゼットの身柄は後に来る手筈となっている異母弟も含めクリスティアで保護、一国民として丁重に扱うと彼は言った。
「良かった…。グレンのことは牢獄にいた時から気掛かりだったんです…。弟のことも気に掛けてくださり本当にありがとうございます」
リリゼットは座りながら深々とお辞儀をして目の前の席に座るレオナルドに礼を行った。
グレンは今世の実父アルガリータ公と平民の女性との浮気の末に生まれた子供でも、リリゼットにとっては今世の実両親よりも大事な家族であり、リリゼットはグレンの実母以上の愛情を注ぎ可愛がっていた。
アルガリータ夫人は腹を痛めて生んだリリゼットにさえ無関心だったので、他の女性が生んだグレンのことはいない者として扱い、アルガリータ公もグレンのことはアルガリータ家を継がせるための駒としか見ておらず、情を注いでいる様子を見たことがない。
両親が健在でもこのような者達の元にまだ幼いグレンを置いておくのはリリゼットは心配でたまらなかったのだ。
「礼ならこれから君達の養父母となるダンカム夫妻に言ってやってくれないか。ダンカム夫妻は商人として成功はしたが子宝に恵まれなくてね…」
ダンカム商会が取り扱う商品の種類はとても多く、貴族だけでなく王家ともつながりがあるほど商人として大成功したものの、ダンカム夫妻は長年子宝に恵まれず、とうとう子作りが難しい年齢にまでなってしまっていた。
ダンカム夫妻が養子をとろうと検討していたところでリリゼット救出計画の協力者がリリゼット達を養子にどうかと話を持ちかけたところダンカム夫妻は喜んで快諾してくれたのだという。
ーダンカム商会オーナーの娘って只の設定じゃなかったの!?
リリゼットはサハーレンからダンカム商会オーナーの娘で通してきたが、まさか養女だとはいえ本当にダンカム商会オーナーの娘になっているとは思いもよらず動揺した。
「ダンカム夫妻は顧客の層が幅広いだけあって口がかたく人柄も良い。お前の実家よりも精神衛生面の良い暮らしができるだろう」
いきなりダンカム夫妻の養女になったことを知り動揺しているリリゼットに不安を取り除くかのようにギルヴェルトは言った。
「さて、王都に着いたらリリィの戸籍をつくらなきゃな。ダンカム夫妻が作成した養子縁組の書類もあるから役所に行けば簡単に戸籍をつくることができる」
この世界では貴族などの富裕層しか戸籍を持っていない。
しかしクリスティアでは王都に限らず他の領地でも住民の身分関係なく戸籍を持つことができるので、誰がいなくなったのか特定が極めて分かりやすい仕組みとなっている。
こうして話しているうちに3人が乗っている馬車が王都の入り口の前に着いた。
サハーレンで幌馬車に乗っていた時は街の門番が乗っている者の顔や身分証の確認を一人一人厳しくしていくが、貴族の場合は箱馬車に描かれている国のエンブレムや貴族が持つ家紋が身分証代わりとなり、紋章がその国に所属しているものであれば簡単な確認のみでそのまま街に入ることができるのだ。
門番が指示を出し大きな門が開かれると3人が乗ってある馬車は王都の中へ入って行った…。




