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12話 クリスティアの王都 前編



「クリスティアにようこそ。ここが"転生者"の知恵が詰まった王都だよ」


クリスティアの王都は門から入って大まかに下町、市場街、職人街、貴族街、王城の順に区域が分かれており王都内には港もあるらしい。


戸籍は場所はそれぞれの区域にある簡易的な市役所のような施設でつくり、保管閲覧ができるようになっている。


リリゼットの戸籍は貴族街の市役所で作成しその後は王城へ行き一泊した後日に国王とこの国の"転生者"に謁見して欲しいのだという。


とりあえず目的地に着くまで馬車を走らせながら、ガルヴァンと違うクリスティアの王都内にある区域の解説にリリゼットは耳を傾けていた。


「同じ下町でもガルヴァンの王都より凄く綺麗です…。もしかして地下に下水道があるのですか?」


門を通り抜けてはじめに目にした下町はリリゼットが知る下町のイメージを覆すほど活気があり、何より異臭もせず住居の壁や馬車を走らせている道も綺麗で驚いていた。


これは生活排水などを流せる場所が各家庭に設置され、流された汚水を処理する下水道を地下につくったのだろうかと思いリリゼットはレオナルドに問う。


「流石"転生者"というだけあって下水道を知っていたか」


ガルヴァンは王都でさえ下町は住民が生活汚水だけでなくトイレがない家庭が多く、バケツに入った糞尿を外にぶちまけているので異臭が漂い壁や石床がとても汚い。


クリスティアの王都は今までガルヴァンのような他国に"転生者"が発明、発案した技術が漏れぬようにするために発明品を使用、公開する種類や使用場所、出入りできる者に制限をかけていたが医療や衛生に関係するものだけは下町から最優先で使用しており下水道の整備もその一つだという。


各家に下水道につながった簡易のトイレや生活排水を流せる場所をつくり外に生活排水や糞尿をばら撒かないようにしているだけでも下町は貴族街に引けを取らないほど綺麗になっているのにこの下町に初めて足を運んだ者が見ると驚かれるのだとレオナルドが言っていた。


元々王都の地下にはスラム街や戦時中に住民が避難するために掘られた防空壕が各所にありその一部に下水道工事を施し汚水は砂利、貝殻などで濾過し海に流しているらしい。


「"転生者"が下水道設置と手洗いうがいを市民の間に広めたおかげで我が国で感染症などの病気による死者が大幅に減ったんだ。手を洗うだけでも予防になるとは思いもよらなかったよ」


とレオナルドが言った。


ガルヴァンでも季節の変わり目や梅雨の時期になると食中毒や感染症患者が急増し、毎年数多くの平民が命を落としている。


それは感染症患者の排泄物が付着した壁や地面に触れた手についた病原菌が、素手で食事などをして口から体内に入り感染し周囲に広がってしまう悪循環が出来上がってしまっているのと、手洗いうがいの習慣が平民の間に無かったのが大きい。


それを"転生者"は貧しい貴族の令嬢に転生したものの、まだ幼いうちから親や知り合いなどの人脈を駆使して、下水道設置やこの世界では薬の原料として使われているサイカチの実ーー日本では昔石鹸の代用として使われていたーーを使った手洗いの習慣を平民に広めたのだという。


下町を通り抜けると王都の住民達が買い物をする市場街に出た。


市場街には沢山の種類の野菜や穀物、生きた食用の家畜、朝水揚げされた新鮮な魚や干し魚、肉や乳の加工品が売られ買い物客で溢れていた。


そのなかでリリゼットが驚いたのは、市場街に豆腐屋があり白砂糖が少し割高であるが平民でも買えなくもない価格で売られていることだった。


リリゼットはガルヴァンの王都に住んでいた頃に何回か使用人達と市場街へ足を運んだことはあったが、日本の伝統食である豆腐は存在しておらず、そして白砂糖もごく稀に市場で見かけても貴族でなければ手が出せぬほど高価だった記憶があったからだ。


豆腐(トーフ)はどうしても前世で暮らしていた国で食していた物を食べたがった"転生者"が料理人を集めてこの世界で再現した食材の一つで、白砂糖は各領地内で簡単に育つ食物を原料にしているためこの価格での流通が可能になっているんだ」


レオナルドによると、10年以上前までの戦争の所為でクリスティア国内の痩せた土地では芋と豆くらいしか育たなかった時期があり、料理のレパートリーも茹でるか焼くかしかなかった。


それをこの国の"転生者"は前世の知識を元に料理人や職人に頼み、豆を使い豆腐をはじめとした味噌や醤油だけでなく他にも様々な食材をこの世界で再現した。


白砂糖はこの世界の一般的な砂糖の原料はサトウキビなのだが、サトウキビはこのクリスティアなどがある大陸では育たないため、他の大陸にある国で精製された物を輸入するしかなくどうしても高価になってしまうのだ。


それを"転生者"はこの大陸でも育ち通常は家畜の餌に使用されている砂糖大根に近い植物を見つけると各領地で栽培を推奨し、王都が栽培した砂糖大根を回収し王都内にある工場で白砂糖に精製しているので平民でも買えなくもない価格での流通が可能になったのだという。


ー豆腐を再現したってことは"転生者"の前世は日本人なのかな…。


レオナルドの話ぶりからしてクリスティアの"転生者"の前世は日本人なのだろうかとリリゼットは思った。


「…食材などは再現できても"彼女"自身が料理を作るとアレだがな」


「まぁ…食材を再現できただけでも食文化は他の国と比べたら恐ろしいくらい発展はしたよ、うん…」


この国の"転生者"は料理が得意ではないらしくギルヴェルトとレオナルドが複雑な表情をしながら言った。


直に"転生者"は作れないので、食材の作り方や原理を説明して料理人や職人に作ってもらい異世界の食材を再現するしかなくとも、この世界の人間には劇的な変化なのだという。


こうして話をしながらリリゼット達が乗った馬車は市場街を抜け職人街へ入って行った…。


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