アルタイルの血
アリアとパニーナの救出から二日後、王立アカデミア本館の大会議室。
天井の高い荘厳な部屋の中央に、大きな会議机がある。そこに、関係者たちが顔をそろえていた。
上座には、ラランドランドララが座っている。その後ろにソフィアが控えていた。
右手側には、宮廷魔導師団長バルドリックの恰幅の良い姿があり、その隣には調査団のメンバーたちが並んでいる。下座寄りには、冒険者ギルドのギルドマスター、レオンが腕を組んでいた。
左手側には、学都の治安維持と防衛を司る警備局のトップ、警備局長マルクス・グラディウスの姿があった。
理一郎とアリアは、ラランドランドララと向かい合う下座に並んで座っている。アリアの顔色はだいぶ良くなっていたが、まだ疲れが残っているようだった。
「では、始めようか」
ラランドランドララが会議の開始を告げた。
「まず、マルクス警備局長から、捜査の進捗について報告してもらおうかな」
マルクスが立ち上がり、一礼した。五十代半ば、灰色の短髪と厳しい目つきが印象的な男だ。警備局上級官の制服の上に、総監を示す金色の飾緒を肩にかけている。
「はい。骨董店のアジトで得た情報を基に、学都内の他の拠点についても捜索したところ――」
彼は手元の報告書に目を落としながら続ける。
「結果として、東市場の倉庫、二番街の宿屋、南門近くの廃屋、計三カ所を新たに摘発しました。いずれも擬人族の工作員が潜伏していた形跡がありましたが、我々が踏み込んだ時にはすでに逃亡した後でした」
「逃げられたか」とバルドリック。
「残念ながら……。しかし、残された文書や魔道具から、彼らの活動についていくつかの情報を得ることができました」
マルクスは一呼吸置いて、重々しく言った。
「彼らはイミタニアの諜報機関に属する工作員であり、学都への浸透工作を組織的に行っていたようです」
イミタニアとは、王国の東方に位置する擬人族の国家だ。先の大戦以来、王国とは緊張関係が続いている。
「目的は、学都の防衛体制の把握、要人の監視、そして――」
彼の視線がアリアに向けられた。
「アルタイル家の血筋の確保でした」
アリアの肩がわずかに震えた。理一郎は無言で彼女の手に自分の手を重ねた。
「また、学都から運び出していたものがあります」
「具体的に、何を運び出していたのですか」とバルドリックが訊いた。
「主には情報、それから魔道具の部品類です。ただ、解せない品もありまして」
マルクスが部下から渡された目録に目を落とす。
「黒蝶蘭です。乾燥処理されたものを、樽単位で買い集めていた形跡がありました」
「黒蝶蘭?」と、アリアが小さく声を上げた。
「ご存じですか」マルクスが問う。
「魔法護符の素材に使われる花ですよね。錬金術の触媒にもなりますが……それが樽単位というのは……」とアリア。
「私も同じ意見です」マルクスがうなずく。
「冒険者ギルドへの採取依頼数はずっと右肩上がりで、気がつけば一年前の三倍だ。学都全体の年間需要をはるかに超える量だ」レオンが腕を組んだまま、低い声で続けた。
「もうひとつ気になることが」とマルクスが続ける。
「東方街道の関所の通行記録を調べたところ、過去六ヶ月の間、黒蝶蘭を積んだ荷馬車が定期的に東に運ばれていたようなのです。送り先は記録上、王国東部の薬草問屋ですが、それほどの量を必要とする問屋など実在しません」
「東に運ばれていた、か」
ラランドランドララが指先で机を軽くたたいた。
「擬人族の領域に流れていた、と考えるのが筋ぢゃろうな」リリスが理一郎の肩に現れた。
会議室がしんと静まった。
「何に使うのか、見当はつくのかい?」とラランドランドララが問う。
「現時点では、わかりません」マルクスが首を振った。「ただ、あの量とあの組織的な調達からは、軍事的な目的を疑わざるを得ません」
「軍事的、ですか」とアリアが眉をひそめる。「黒蝶蘭にそんな用途が……?」
「不明です」とマルクスが首を振る。
黒蝶蘭は、周囲の魔力を吸収する。
その性質を、大規模な魔力阻害に利用するつもりなのか――。
理一郎はその可能性を考えたが、裏づけはまだなかった。
マルクスが目録を閉じながら、ラランドランドララを見た。
「以上が、現時点で判明している事実です。摘発したアジトがすべてとは言いがたく、掘られている地下道も規模も含め、浸透工作の全容解明はまだ途上です。まだ学都内に工作員が潜伏している可能性も否定できません。引き続き捜査と警備を強化してまいります」
マルクスはそう言うと、一拍おいて付け加えた。
「つきましては、来月に予定されております大魔法祭ですが……」
「ああ、仕方ないね」ラランドランドララが軽く手を上げて制した。「延期しよう。工作員の潜伏が疑われるこの状況で、各地から人が集まる催しなど、開けるはずもないもんね。学生たちには気の毒だけど、こればかりはね」
大魔法祭の延期が決定され、アリアが肩を落とす。
「はっ! ご英断ありがとうございます」マルクスが安堵したように頭を下げた。「警備の観点からも、工作員が紛れ込む隙をみすみす与えることはできませんので」
「うん。開催日は、学都の安全が確かめられてから、改めて決めよう」
それを聞いて、アリアの表情が少し明るくなった。
「ご苦労さま。学都の安全確保、よろしくね」
ラランドランドララがマルクスにうなずく。
「は! 全力を尽くします」
マルクスが着席すると、バルドリックが手を挙げた。
「ララ先生、今回の件、宮廷への報告はどのようにいたしましょうか」
「任せるよ。ただ、こちらから頼まない限り、助力は不要とだけは絶対に伝えておいてね」
それからラランドランドララは一同を見回した。
「さて、本題に入ろうかな」
彼女は机の上に広げられた古い羊皮紙を指さした。それは、工作員の拠点から回収した文書の一部だった。
「アルタイル家についての調査結果がまとまったんだ」
ラランドランドララが羊皮紙の上に指を滑らせる。すると、参加者それぞれの眼前の宙に内容が浮かび上がった。
それは家系図で、千年以上前にさかのぼる血統が古代文字で記されていた。
「まず、アルタイル家の起源についてだね。始祖は、古代の大魔導士オスタネスの娘、リラ・オスタネスだったんだ」
アリアが小さく息を呑んだ。自分の先祖が、あの伝説的な迷宮製作者の直系だったとは。
ラランドランドララが続けた。
「アリア君の祖父は、先代の大賢者だったよね。そもそも大賢者という称号は、千年前に賢者院を率いたオスタネスの偉業を讃えて創設されたんだ。つまりアルタイル家は、その称号の起源となった人物の直系ということになるんだね」
ラランドランドララは、グラスの水に口を付け、続けた。
「オスタネスはね、単なる迷宮製作者ではなかった」ラランドランドララが続ける。「彼は『理の書』の最初の守護者でもあったんだよ」
バルドリックが身を乗り出した。
「守護者、ですか」
「そう。『理の書』には、この世界の根源に関わる知識が記されている。それを悪用されることを恐れたオスタネスは、自らの迷宮の最深部に書を封印した。そして、その封印を解く鍵を――」
ラランドランドララは一度言葉を切り、アリアを見た。
「自分の子孫の血に刻んだんだよ」
「血に……刻んだ?」理一郎が眉をひそめる。生体認証のようなものかと考えたが、口には出さなかった。
「魔力の継承のようなものですかな?」とバルドリック。
「それよりももっと根源的なものみたいだよ」
ラランドランドララは別の羊皮紙を取り出した。
「これを見て」
そこには、複雑な魔法陣と古代文字で記された文章があった。
「オスタネス大迷宮の入り口には、魔術鍵が設置されている。調査団はずっとこれを開けようとしてきたんだけど、どれだけ魔力を注いでも開かなかった」
バルドリックが苦々しげにうなずく。
「我々もさまざまな手段を試みましたが、すべて徒労に終わりました」
「その理由が、ようやく判明したんだ」ラランドランドララが羊皮紙を指さす。「あの魔術鍵はオスタネスの血を引く者が力を注がなければ開かないんだよ」
「オスタネスの血……」理一郎がつぶやく。
「そう。アリア君――」ラランドランドララがアリアを見つめた。「君は、アルタイル家の現存する血筋の中で、最も強い魔力を持っている。君の血にこそ、オスタネスが遺した鍵が、最も強く宿っているんだ」
会議室が静まり返った。
アリアは自分の手を見つめた。自分に、そんな力が眠っていたなんて。
「では具体的に、アリア殿は迷宮でどのような役割を果たすのでしょうか」
バルドリックが実務的な質問を投げかけた。
「まず、入り口の魔術鍵を開けてもらう必要があるよね。アリア君が扉に手を触れ、魔力を通すことで封印が解かれ、扉が開く仕組みになっていると思われるんだ」
「わたしが……触れるだけで?」
「触れるだけ、とは言い切れないかな」ラランドランドララが慎重に言葉を選ぶ。「君の魔力と意志が必要になるだろうね。そして――」ラランドランドララは言葉を区切った。「問題はその先なんだ」
「その先?」
「古文書によれば、同様の機構が迷宮内部の要所要所に設置されているらしい。つまり、入り口を開けるだけでは済まないということなんだよ」
アリアが顔を上げた。
「わたしが最深部まで一緒に行かないと、『理の書』にはたどり着けない、ということですか」
「その可能性が高いね」ラランドランドララがうなずいた。「だからこそ、王立アカデミア総長として、正式に要請したいことがある――」
彼女は椅子から立ち上がり、一同を見回した。
「まずアリア君にお願いしたい。ぜひ調査団に参加してほしい。そしてバルドリック君には、オスタネス大迷宮調査団に、アリア・アルタイルを特別随員として加えることを要請する」
ラランドランドララの声が、会議室に響いた。
アリアはラランドランドララの顔をまっすぐ見て、一瞬の迷いもなく答えた。
「ぜひ参加させてください。それはきっとわたしに与えられた使命なのでしょう」
「ありがとう、アリア君。でも、義務だとか役割だとか、あまり堅苦しく考えなくていいからね」
「大丈夫です。わたしも『理の書』には興味があるんです」
そう言うとアリアは理一郎を見て微笑んだ。理一郎は彼女の手に重ねていた自分の手に思わず力を入れた。
ラランドランドララは今度は宮廷魔導師団長に話し掛けた。
「アリア君が参加してくれるのであれば、同時にアリア君の護衛と支援のため、さらに三名の支援要員の同行を認めてほしい」
バルドリックが真剣な表情で訊いた。
「どなたですかな?」
「先日の救出作戦で活躍した三人だよ。巡回修道女のマリエル・ファレラ、虎人族の戦士カイラ・ティグリス、そして情報商人のメリッサ・ナイトブルーム」
調査団のメンバーたちがざわめいた。正規の宮廷魔導士でも学術研究者でもない者を加えることへの戸惑いだろう。
バルドリックが顎をなでながら考え込む。
「理由をお聞かせ願えますか」
「もちろん」ラランドランドララが指を折りながら説明する。「まず、マリエル君。彼女は特級回復魔法の使い手だ。おそらく君たちにも引けを取らないと思うよ。迷宮探索では負傷者が出る可能性が高い。彼女の治癒能力は、調査団の生存率を大きく向上させるはずだよ」
「なるほど」
「次に、カイラ君。彼女は虎人族の戦士で、一級冒険者だ。迷宮内での戦闘において、彼女の戦闘力はきわめて有用だね。先日の救出作戦でも、擬人族の工作員九名を単独で無力化している」
「九名を……」バルドリックの目が見開かれた。「それは確かに」
「そして、メリッサ君は幻惑と変身に長けているだけでなく、周囲の精神を感知できる。視界の利かない迷宮での偵察や、伏兵、精神干渉への警戒に役立つはずだよ」
ラランドランドララはバルドリックをまっすぐに見つめた。
「何より、この三人は先日、危険を顧みずアリア君の救出に尽力してくれた。信頼できる仲間だよ。アリア君を守るという点において、これ以上の人選はないと私は考えている」
バルドリックは腕を組み、しばらく沈黙した。調査団のほかのメンバーたちも、互いに視線を交わしている。
やがて、バルドリックが口を開いた。
「ララ先生のお考えは理解いたしました」
彼は一度深く息を吐き、それから穏やかに微笑んだ。
「私バルドリック・ヴォルフラム・グランベールは、オスタネス大迷宮調査団長として、それらの要請を承諾いたします」
会議室に安堵の空気が広がった。
「アリア・アルタイル殿を特別随員として迎える。さらに、マリエル・ファレラ殿、カイラ・ティグリス殿、メリッサ・ナイトブルーム殿の三名を随員として認める。また、先日の決定どおり、物部理一郎殿を正式団員とする」
バルドリックは立ち上がり、理一郎とアリアに向かって深々と頭を下げた。
「どうか、我々の探索にお力添えいただきたい。『理の書』は、この世界の未来を左右しかねない重要な文献だ。あなた方の協力なくして、この任務は成し遂げられない」
アリアは一瞬戸惑ったが、すぐに立ち上がって頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。わたしにできることがあれば、なんでもお申し付けください」
理一郎も立ち上がった。
「『理の書』には、俺の求めているものがあるかもしれない。全力を尽くす」
ラランドランドララが満足げに微笑んだ。
「では、これで決まりだね。……本当は私が行きたかったんだけどな」
「先生」ソフィアが静かにたしなめた。
「はい、はい。調査団の出発は二週間後。それまでに必要な準備を整えよう」
会議室から退出しようとする理一郎とアリアは、ラランドランドララに呼び止められた。
「アリア君、一つ聞いておきたいことがあるんだ」
ラランドランドララの表情が、先ほどまでの総長としての威厳から、師としての優しさに変わっていた。
「救出された時、投げナイフを結界で防いだそうだね。それは意識して発動させたのかな?」
アリアは少し考えてから、首を振った。
「いえ……あの時は、『当たっちゃう』って思ったら、自然に唱えてて……」
「そうか。守ろうとする意志が、君の魔力を瞬間的に引き出したんだろうね」
アリアの頬がほんのり赤くなった。
「迷宮の魔術鍵は、アルタイル家の血に受け継がれた魔力へ反応するよう作られている。だけど鍵を開くには、強い魔力を安定して、しかも正確に注ぐ必要があるはずなんだ」
「はい」
「出発までの二週間、大きな魔力を意識して放出し、その出力を安定させる訓練をしよう。細かな制御も必要になる。私が直接指導するよ」
アリアの目が輝いた。
「はい! よろしくお願いします、先生!」
次にラランドランドララは理一郎のほうを向いた。
「理一郎君も、この二週間でできる限りの準備をしておくように。迷宮の中では、君の物理学魔法が大きな力になるはずだからね」
「理解している。準備の一環として、この二週間の間に俺の理論を体系化し、アカデミアで発表するつもりだ。国家的な調査団に加わる以上、物理学魔法の能力と限界を、検証可能な形で示しておく必要がある」
ラランドランドララは面白そうに目を細めた。
「ふふん。それは大層な騒ぎになりそうだね。伝統を重んじるギデオン院長あたりが公開討論を仕掛けてくるかもしれないよ。公衆の面前で君に論破されたりしたら、烈火のごとく怒るだろうけどね」
「俺は事実を述べるだけだ」
ラランドランドララは二人の顔を交互に見て、小さく笑った。
「しかし、まさかアリア君がオスタネスの末裔だったとはね。私も千年以上生きてきて、いろいろなことを見聞きしてきたつもりだったけど、まだまだ世界には驚きがあるもんなんだね」
それから、彼女は少し真剣な表情になった。
「一つだけ、心に留めておいてほしいことがあるんだ」
「なんでしょうか」とアリア。
「封印されたものには、封印された理由がある。『理の書』に記された知識は、破滅の種にもなり得る。だからこそ、オスタネスは自らの血で封印したんだ」
ラランドランドララの目が、静かな光を帯びた。
「君たちがその書を手にしたとき、その知識をどう使うかは、君たち自身が決めることになる。私は君たちを信じているけど、その重さだけは、忘れないでほしいんだ」
アリアと理一郎は、同時にうなずいた。
「理解した」と理一郎。
「はい、忘れません」とアリア。
ラランドランドララは満足げに微笑んだ。
「すっかり遅くなっちゃったね。今日はゆっくり休むといいよ。明日から忙しくなるからね」
窓の外では、夕陽が学都の街並みを朱く染めはじめていた。
* * *
オスタネス大迷宮へ出発する日の朝。
アルタイル邸のリビングで、理一郎は荷物の最終確認をしていた。
必要な道具はすべて革鞄に詰めた。だが、服装だけはどうにもしっくりこなかった。
アリアとパニーナを救出した際、元の世界から着ていた白衣を炎で失ってしまったからだ。学都には白衣を売っている店がなく、代わりの外套を調達したが、今一つ気合いが入らない。
「理一郎くん、準備できた?」
アリアが、背中に両手を隠すようにしてリビングに入ってきた。
この二週間、ラランドランドララの過酷な特訓を受けていたはずだが、今日の彼女はどこか晴れやかな表情をしていた。
「ああ。いつでも出発できる」
「あのね、これ……わたしからのプレゼント」
アリアが背中から、丁寧に包装された包みを差し出した。
理一郎が開けると、中から真っ白な布地が現れる。
「これは……」
理一郎は息を呑んだ。それは、彼が愛用していたものとそっくりの白衣だった。
「白衣、わたしとパニーナちゃんを助けた時にボロボロになっちゃったでしょ。ずっと気になってて……お母さんにお願いして、王都の職人さんに特注で作ってもらったの」
アリアの母親は、王都で魔道具商会を経営している。彼女の伝手を使えば、こうした特注品も手配可能なのだろう。
「触ってみて。ただの布じゃないんだよ」
理一郎が白衣に触れると、絹のようになめらかでありながらも、金属的な芯の強さを感じた。
「鉄蜘蛛の糸を編み込んだ特殊な魔物素材なの。それに、お母さんの商会で防刃と防汚の強力な付与術も施してもらったから、革鎧並みに丈夫だよ」
理一郎は白衣に袖を通した。驚くほど軽く、そしてサイズもぴったりだった。懐には、用途に合わせた内ポケットがいくつも作られている。
「……どうかな?」アリアが上目遣いで、少し不安そうに訊く。
「完璧だ。あつらえたように馴染む。……いや、実際にあつらえてくれたのだったな」
理一郎の口元が自然と緩んだ。物理学者としての『戦闘服』を取り戻し、失われていたアイデンティティがカチリとはまったような感覚があった。
「ありがとう、アリア。この白衣は、実に素晴らしい」
理一郎がまっすぐに感謝を伝えると、アリアの顔がぱあっと桜色に染まった。
「う、うん! よかったぁ……。大迷宮は危険がいっぱいだけど、きっと理一郎くんを守ってくれると思う」
アリアはそう言うと、いつものように理一郎の前に立ち、真新しい白衣の左の袖口を両手で軽く握る。そして、親指の腹で袖口の裏側を、小さく円を描くようになぞった。
「よしっ。それじゃあ、行こう! オスタネス大迷宮へ!」
アリアの明るい声に、理一郎は新調された白衣の袖口の温もりを感じながら、力強くうなずいた。




