ミスマリアム礼拝所
朝日が柔らかく街を照らしはじめた頃、理一郎はパニーナのパン屋に向かっていた。
パンを切らしたのをうっかり忘れていたアリアに頼まれたのだ。
「リリスちゃんに約束した〝とっておきのパン〟を注文しておいたから、それも買ってきて」とも言われた。
確かにリリスには珠石の暴走を止めてもらった時の対価として、新しい味覚を約束していた。リリスも理一郎も半ば忘れていたが、アリアはしっかり覚えていて、頼んでおいてくれたのだ。
パニーナのパン屋はこの界隈では人気の店で、朝の時間帯なら八歳のかわいい看板娘パニーナが手伝いをしている。理一郎も何度か足を運んでおり、その人なつっこい笑顔と、てきぱきとした働きぶりには好感を持っていた。いつも「アルタイルさんの所の理一郎さん」と親しげに声をかけてくれる少女だった。
パン屋の前まで来ると、いつものように甘い香りが漂っている。焼きたてのパンの匂いが食欲をそそった。
「いらっしゃいませ」
店のドアを開けると、パニーナの声が出迎えた。いつもより少し低い声だったが、朝早いからかもしれない。
理一郎が店内に入ると、パニーナが振り返った。銀灰色の三つ編みが揺れる。水色の質素な服に白いエプロンをつけた姿は、いつものパン屋の看板娘そのものだった。
「今日はなにになさいますか?」
パニーナが微笑む。笑顔はいつも通りのようだが、どことなく固い気もする。
「クロワッサンを二つと、あのライ麦パンを一つ。それから例のとっておきのパンも」
理一郎は棚に並んだパンを指さした。パニーナはパンを取ろうと手を伸ばすが、動きがどことなくぎこちない。
いつものパニーナなら、「クロワッサンは今朝焼きたてですよ!」とか「ライ麦パンにはバターがよく合うんです」といった具合に、商品についてうれしそうに話すのだが、今日は黙々と作業をしている。
体調でも悪いのだろうかと、少し心配になった。
「アリアお姉ちゃんは、今日はいらっしゃらないんですか?」
パニーナが突然そう訊いてきた。理一郎は少し首をかしげた。いつもは「アリアちゃん」と呼んでいたような気もするが、まあ呼び方など些細なことだろう。
「家で朝食の支度だ」
理一郎は答えた。
「そうなんですね。最近は朝早くから出かけることが多いと聞いていたので……。今日はお昼ごろには出かけるのでしょうか?」
その時、理一郎の肩にリリスが現れた。
「主よ、約束のとっておきのパンとは、どれかぢゃ?」
リリスは口の端によだれを垂らしながら、パン屋の中を見回した。
「おや、小娘がおるのう」
パニーナがリリスを見上げる。一瞬、少し驚いたような表情が浮かんだ。
「あ……リリスちゃん」
パニーナの声が微妙に上ずった。
その瞬間、リリスの表情が変わった。小さな眉が険しくひそめられる。
「なんぢゃ、この感じは……」
リリスが理一郎の耳元で小さくささやいた。
「あの小娘め、いつもと様子が違うぞ」
「そうだな、具合が悪いのかもしれない」
「そんなことではないわ。内側に濁りがある。魔力の波動が妙に歪んでおる」
「そうそう、とっておきのパンですね」パニーナが思い出したように言った。「月光花蜜パンがあります。お父さんが大切に取っておいた最後の月光花蜜で作ったパンです」
「ほほう」リリスが首をかしげる。「月光花蜜とはなんぢゃ?」
「えーと……」ど忘れしたのか、パニーナが口ごもった。
代わりに理一郎が説明する。
「月光花という花がある。秋の満月の夜、一日だけ咲く花だ。その蜜を月蜂と呼ばれる夜行性の魔法蜂が集めたものを、月光花蜜と呼ぶ。とても希少な食材だ」
パニーナは奥の棚から、銀白色に輝く小さなパンを取り出した。月光のような美しい光沢を放ち、白銀色の蜂蜜がたっぷりかかっている。
「食べると口の中でひんやりとした甘露のような清涼感があるそうだ」と理一郎。
「そういえば、お父さんが『上品な甘さと、夜露のような爽やかな後味』が特徴だとも言っていました」
「ほほう!」リリスの目が輝いた。「それなら対価として認めてやろう。早く味わってみたいのう」
「おじいさんの代から、特別なお客様にだけお出ししているパンだそうです」
理一郎は月光花蜜パンを手に取ってみた。ほんのり温かく、夜露のような爽やかな香りがする。
「良い匂いぢゃ」
結局リリスは、月光花蜜パンに目がくらみ、パニーナへの違和感を追求しそびれた。
「ありがとうございました」
代金を支払って店を出る時のパニーナの別れの言葉も、そういえばいつもより少しよそよそしい気もしたが、理一郎は特に気に留めなかった。
* * *
店の外に出ると、黒い修道服の人影が現れた。フードを深くかぶっているが、その姿は見覚えがある。マリエルだ。
「理一郎さん、おはようございます」
マリエルはほっとしたような表情で挨拶する。
「おはよう」
「胸肉女か。こんな朝早くにどうした?」とリリス。
「リリスさん、おはようございます」
マリエルはリリスにも軽く頭を下げた。
「お会いできて良かったです。実は、お話したいことがあって、アルタイル邸をお訪ねしようかと思っていたのです……」
「ああ」
リリスが理一郎の肩で小さく身を乗り出した。
「この娘もなにやら様子がおかしいのう」
理一郎が小声で返す。
「今朝は皆、様子がおかしいのだな」
マリエルは胸元のペンダントに無意識に手を当てた。それから息を整えて口を開く。
「実は、昨夜、不思議な夢を見ました。星々が特別な配置を描き、そこにあなたの姿が浮かびあがりました。そして、声が聞こえたのです。彼を『星界の秘儀』に導け、と」
理一郎の右の眉が上がった。
夢で神託を受けたなどという話は、元の世界でなら黙殺していただろう。だが、この世界ではあり得ることなのかもしれない。ましてや、話しているのはマリエルだ。彼女が作り話をするとは、理一郎には思えなかったのだ。
「星界の秘儀?」
「はい。古代から伝わる神聖な儀式です」
〝儀式〟という言葉を聞いて、ふいに理一郎の頭の奥底から正体不明の渇望が湧き上がってきた。どんな儀式かを聞くまでもなく、それに参加しなければならないという強い欲求だった。
「選ばれた者だけが参加を許され、宇宙の真理を学ぶことができると言われています」
マリエルの声には真剣さが込められていた。フードの陰からのぞく瞳には、強い使命感とともに緊張が宿っている。
「私は詳しくはないのですが、星界の秘儀は宇宙や星々に関する古代の叡智の扉を開ける儀式だと聞いております。参加者は宇宙の理と調和し、隠された真の力を覚醒させることができると言われています」
理一郎の頭に、無意識のうちに一つのストーリーが浮かんできた。
宇宙の運行には、重力、電磁気力、強い核力、弱い核力という四つの基本的な力が働いている。だが、それらを統一的に記述する理論は、元の世界でも完成していなかった。もし宇宙に関するこの世界の知識体系が、それについての新たな視点を与えてくれるなら……。自分の研究のブレイクスルーにつながるかもしれないと考えた。
「興味深い話だ」
リリスが理一郎の耳元で小さく言った。
「主よ、妾は気が進まぬぞ。あの娘、なにか隠しておる。完全に嘘をついているわけではないが、すべてを話していないのは確かぢゃ」
しかし理一郎は、その忠告が聞こえなかったかのようにマリエルを促した。
「それで?」
「その秘儀を今夜執り行うと、儀典司祭様から連絡があったのです。私が見た夢の話をしたところ、理一郎さんをお誘いしても良いとお許しをいただきました」
「ずいぶん急な話なのぢゃな」リリスが疑い深い目でマリエルを見る。
「申し訳ありません」
だが、占星術師の暗示の影響下にある理一郎は、普段の観察的で理性的な態度が薄れ、何の疑問も持たずに話を受け入れていた。
「ありがたい話だ」
リリスの紅い瞳が鋭く細まった。
――もしも主の身になにかあれば、妾の存在も危うくなるではないか。
「どうも妙な話に聞こえるのぢゃが」リリスが警告する。
だが、理一郎はほぼ二つ返事で答えた。
「実に興味深い。ぜひ参加させてもらおう」
マリエルの顔に、安堵と呵責の入り交じった複雑な表情が浮かぶ。
――本当はこんなことはしたくない。
理一郎を騙して儀式に参加させることに、神に仕える身としての良心が痛んだ。
マリエルは宣教庁に「理一郎に魔人化の兆しなし」と報告していた。だが、その報告は受け入れてもらえず、理一郎は要監視対象であり続けた。監視任務から解いてもらおうともしたが、教団の指示に従えないのは信仰が足りないからではないかと疑われてしまった。上層部は「この儀式に参加すれば理一郎はきっと教団の一員となる。それは世界のためになることだ」と説き、今回が理一郎に関する最後の任務だと約束した。その言葉を信じて、マリエルは命令に従ったのだった。
「ありがとうございます。ただし……」
マリエルがリリスを見て言いよどんだ。
「神聖な儀式のため、従魔は入れないとのことです。理一郎さんお一人で参加していただくことになりますが……よろしいでしょうか」
「そういうことなら仕方ない」理一郎はリリスのほうを向く。「わかったな」
「主よ、少し冷静にならんか。星が関わるのであれば間違いな星教派がらみであろう」
いつもの理一郎なら、当然その考えに至ったはずだ。だが、今は秘儀に加わること以外の選択肢は彼の頭にはなかった。リリスの忠告を無視して、マリエルに答える。
「理解した」
マリエルは軽く微笑むが、その笑みはどこか作りものめいていた。
「星界の秘儀は、柄杓星の柄が常星の真上に来た時が開始時刻です。場所は学都北西の山頂にある〝ミスマリアム礼拝所〟で行われます。移動に五時間ほどかかりますので、十八時半頃、馬車でお迎えに参ります。それでよろしいですか?」
「理解した。よろしく頼む」
「もちろんです。では、失礼いたします」
マリエルは軽く頭を下げると、中央広場の方角へと歩いていった。
「妾はろくなことにならんと思うぞ」
そんなリリスの言葉も、理一郎には聞こえない。
理一郎はマリエルの後ろ姿を見送りながら、これから参加する儀式への期待を膨らませていた。宇宙の真理に一歩近づけるかもしれない。そんな希望をいだきながら。
そしてその理一郎の背中を、パニーナが店の扉の影から見ていた。その瞳には、いつもとは異なる冷たい光が宿っていた。
* * *
「ほんとに大丈夫かな? なんだかイヤな予感がするの」
玄関先で理一郎を見送るアリアがつぶやいた。
「心配するな。宇宙の法則について学んでくるだけだ。きっと俺が求める〝万物の理論〟の手がかりが得られるはずだ」
理一郎の目には期待の光が宿っている。占星術師の暗示により、参加への渇望が彼を支配していた。
「でも、リリスちゃんも心配してたし……」
「リリスは心配性すぎる。大丈夫だ」
そのリリスはついてくるなと命じられ、顔も見せなかった。
理一郎は、アリアに軽く手を振ると、時間通りに迎えにきていた馬車に向かう。
馬車は小型だが山道を行くためか二頭立てだった。格式の高い造りで、統一教団の印が描かれている。
「こんばんは」マリエルが深くお辞儀をする。
「よろしく頼む」
マリエルの黒い修道服と、理一郎の白衣。その白と黒のコントラストが、アリアをいっそう不安にさせた。
二人が乗り込むと、深いフードを被った御者が無言のまま馬車を出した。
理一郎が振り向くと、アリアの心配そうな表情が馬車の窓越しに小さくなっていった。
* * *
すでに太陽は西の山の向こうに沈み、空は深い藍色に染まっている。街には魔導ランタンがともりはじめ、暖かな光が石畳を照らしていた。
馬車は学都の西門を抜け、三叉の丘へと続く街道を進んだ。
夜の帳が完全に下り、馬車の魔導ランタンだけが頼りの光となる。
丘陵地帯の向こうに見える星空は美しく、無数の星々が瞬いていた。
マリエルは馬車の中で黙って祈りを捧げていた。これから行うことへの罪悪感が、胸を重く締めつけている。これは理一郎の信頼を裏切る行為だ。だが、教団の命令には逆らえなかった。
馬車は丘の麓の三叉路で北へ向かう。荒れた道で、車輪が石に当たるたびにガタガタと不快な振動が響いた。さらに一時間ほど行くと、今度は細い山道へと分け入った。道は次第に勾配を増し、馬車の進みも遅くなる。標高四百メートル付近で道が途切れると、そこからは徒歩での登山となった。
松明を持った御者が先導し、理一郎とマリエルがその後に続いて細い登山道を登っていく。一時間ほど歩き、理一郎の息がすっかり上がった頃、急に木々が開けて山頂が現れた。そこに古い石造りの建物があった。
ミスマリアム礼拝所だ。
* * *
建物は古代の様式で造られており、半球形の屋根は開放すれば夜空が見渡せる構造になっている。そこだけ見れば、まるで天文台のようだったが、随所に宗教的な装飾が施されていた。
理一郎は、これほど古く美しい建造物は見たことがなかった。きっと何百年も前から、星を観測し、宇宙の真理を探究する場所として使われてきたのだろう。その荘厳さに息を呑んだ。
礼拝所に入ると最上階の礼拝室に通された。
部屋の周囲には精巧な星座の彫刻が施された石柱が十二本並び、中央には巨大な星図が刻まれた祭壇がある。星図は複雑な幾何学模様で描かれており、月光を受けて神秘的に輝いていた。
礼拝室にはすでに十数人の聖職者らしき人々が集まっていた。全員が黒いローブを着ており、フードを深くかぶっているため顔は見えない。彼らは無言で円を描くように並び、まるで影のように存在感を消していた。その様子は、理一郎にエクリプス神殿での召喚魔導士たちを思い出させた。胸の奥にかすかな警戒がよぎったが、秘儀への期待がすぐにそれを押し流した。
男が一人、進み出てきた。ひときわ威厳に満ちた法衣を着ている。
「ようこそ、物部理一郎殿。お待ちしておりました」
男はフードを上げて顔を見せた。五十代後半と思われる風格のある顔立ちで、鋭い眼光が印象的だった。
「私が本日の秘儀を執り行う儀典司祭です。まもなく柄杓星が常星の真上に参ります。それまでしばらくお待ちください」
儀典司祭の声は低く響き、まるで古代の賢者が語りかけているかのようだった。
「物部理一郎殿、マリエル修道女から聞いておられるかもしれませんが、改めて星界の秘儀について説明いたしましょう」
儀典司祭は頭上の星々を示した。
「この秘儀は、数千年前から受け継がれてきた神聖な儀式です。星々の運行と地上の出来事には密接な関係があります。今宵の星々の配置は、宇宙の根本法則に近づくことのできる特別な形をなします。もちろんどこまで近づけるかは、その方の資質に左右されます」
理一郎の目が輝いた。
「具体的には、どのような法則が……?」
「宇宙のすべての現象は四つの力によって支配され、その支配は星界の法則に基づいているのです」
儀典司祭は祭壇の星図を指さした。
「この星図に刻まれた幾何学模様は、宇宙の根本構造を表しています。四つの基本的な力がどのように相互作用し、物質を形成し、生命を育むのか。その全てがここに示されているのです」
理一郎は息を呑んだ。これはまさに万物の理論への手がかりではないか。
「そして今夜、柄杓星が常星の真上に来る時、星々は星界の扉を開く配置をなします。その瞬間、あなたに資質があれば、あなたの意識は宇宙の真理と接続し、すべての法則を理解できるようになるでしょう」
助司祭が理一郎を祭壇の前の椅子に案内する。
他の聖職者たちも一斉に動き、理一郎を囲むように配置についた。
儀典司祭は祭壇に立ち、両手を広げて天を仰いだ。
「そろそろ頃合いです。儀式を始めましょう」
儀典司祭が古い言語で詠唱を始めた。
「アストラウル・ヴェリエタス・ルミニアス……」
理一郎を囲む聖職者たちも唱和する。
美しく響く詠唱に、理一郎は魅了された。これこそ自分が求めていた、宇宙の真理への扉なのだ。
詠唱が響く中、祭壇に刻まれた星図が次第に明るく光りはじめた。最初は淡い光だったが、徐々に強くなり、やがて星座の形が浮かび上がってくる。美しい光景に、理一郎は見とれていた。
その理一郎を、マリエルは少し離れた場所に立って見ていた。その表情は暗く、まるで処刑台に上らされた罪人のようでもあった。
夜空には無数の星々が輝いている。
詠唱が続く中、柄杓星――すなわち北斗七星が、ゆっくりと常星――すなわち北極星の真上に移動しつつある。
「星々の叡智を受け入れなさい……宇宙の真理を魂に宿しなさい……」
儀典司祭の声が次第に催眠的になってくる。
低く響く声が、理一郎の意識の奥深くに染み込んでいく。
同時に、頭に靄がかかり、思考の解像度がどんどん粗くなっていく。
「光ある道へと歩みを進めよ……魂を星々に委ねよ……真の導きを受け入れよ……」
身を委ねるように目を閉じているうちに、いつしか詠唱の内容が変わっていった。
理一郎の頭に警報が鳴った。
これは……言われていたような儀式なのだろうか。
意識をはっきりさせようとするが、占星術師の暗示がそれを押しとどめる。
抵抗しようとしたが、すでに体が思うように動かない。
足が鉛のように重く、腕も上がらない。
意識が薄れ、儀典司祭の声だけが頭の中に響いている。
理一郎は一度苦しげに顔をゆがめた。だが、その表情すら次第に消え、やがて操り人形のように虚ろになっていった。まるで魂そのものを削り取られているようだった。
マリエルは理一郎のその変化を見て、胸が張り裂けそうになった。
まもなく深夜零時。柄杓星が常星の真上へ至る刻が迫っていた。
儀式のクライマックスが近づいている。
「アストレリア神こそ永遠なる叡智……アストレリア神こそすべての主……アストレリア神の僕イグナティウスこそ真の導き手……」
儀典司祭の詠唱が明らかに変わったことに、マリエルが気づく。
――これは……違う。洗脳の詠唱……!?
洗脳魔法は、教団はもちろん王国でも最大の禁忌の一つだ。
理一郎を改心させる儀式とは聞いていたが、禁忌を犯すとまでは聞いていなかった。
――柄杓星が真上に来た時、理一郎さんは人格を変えられ、元の理一郎さんではなくなってしまう……。
マリエルにとって、それは看過しがたい事態だ。
だが、教団の方針に異を唱えれば、信仰を疑われる。
神に仕え、人々の助けになる道を閉ざされてしまうかもしれない。
最悪の場合は、異端審問に……。
マリエルの心は教団と自分の良心との間で大きく揺れていた。
しかし、その心が定まる前に、マリエルの足は一歩を踏み出していた。




