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物理学魔法で解く異世界方程式 ~物理最強だと勘違い召喚された天才物理学者の異世界冒険譚~  作者: 航太郎
第7章 三叉の丘の奇蹟

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大迷宮への条件

 総長別邸のこぢんまりとした居間で、理一郎は正座させられていた。

 ラランドランドララは理一郎の正面のソファで足を組み、冷ややかに見つめている。相変わらずシルクの薄い寝間着姿だ。



 この日、理一郎はアリアに諭されて、遅ればせながら憲兵団との一件を報告しにきたのだ。

 理一郎はラランドランドララの前に立ち、メリッサのことは隠しながら、軍務卿や憲兵団との一件、そしてメリッサが調べてきた星教派の動きなどをかいつまんで話した。

 ラランドランドララは一通り聞き終えると、その十三、四歳の少女のような顔に、千年の歳月を生きてきた厳めしさを浮かべた。理一郎が初めて見る険しい表情だった。

「そこに座りなさい」

 ラランドランドララが床を指さす。

 まさかこの実年齢(とし)になってお説教されるとは思ってもいなかったが、彼女の圧には逆らえなかった。あぐらをかくわけにもいかず、理一郎は思わず正座してしまった。

「君は大きな過ちを犯したね」ラランドランドララの声は乾いていた。「報告ではなく、相談に来るべきだったんだよ」

 ラランドランドララは立ち上がり、腕組みをして理一郎を見下ろした。

「アリア君に叱られて当然だ。私もとても怒っているよ」

 少女の体から放たれる威圧感が部屋に満ちる。

「この間の出来事で、君が唯一正しかったのは、知の双神に許しを願ったことだけだよ。理一郎君、君はまだこの世界のことをよく理解していない。軍務卿は王国でも指折りの権力者だ。そんな相手となんの後ろ盾もなしに対峙するなんて無謀すぎる。結果的にはうまくいった。でも、だからといって『良かったね』で済ませられる話じゃない」

「だが……」

「聞きなさい」ラランドランドララは人差し指を立てた。「次からはすぐに報告すること。私はもう君をアカデミアの一員だと思っている。学究の徒を守るのも総長の役目だ。自慢に聞こえるからあまり言いたくないけど、私は、君が想像する以上の権力や人脈を持っている。だが策を講じるには情報共有が欠かせない。わかるよね」

 理一郎は黙ってうなずいた。そんな理一郎をしばらく見つめてから、ラランドランドララは理一郎をソファに座るよう促し、自分は小さな書き物机に向かう。

「対策を講じなくてはね。とはいえ、君が異世界から来たことは、今はまだ公にすべきではない。それを前提として、慎重に動くとなると……」

 彼女は首をかしげ、頭の中で策を巡らす。

「王室魔法顧問の一人に連絡を取ろう。彼女には君の存在を『稀有な魔法理論の研究者』として伝える。新たな魔法理論の研究者を軍務卿が個人的に追っていることは、学問の自由に関わる問題だと訴えかければ、王室からの非公式な監視が入るだろう」

 ラランドランドララは机の上の羊皮紙にさらさらと羽根ペンを走らせる。

 理一郎は黙って聞いていた。

「次に、宮廷監察庁の長官かな。詳細は伏せたまま、軍務卿が憲兵団を私的な目的で動員した疑いがあると伝えよう。彼は軍務卿の反王国的な動きを前から疑っていた」

 ラランドランドララはペンを置き、思案顔で窓の外を見た。

「そして星教(アストレリア)派については……」彼女は少し考え込んだ。「教団の監察局に、『政治的活動を行っている疑いがある』として匿名の報告を入れられるかな。具体的な証拠や君の素性について触れずとも、教団内部での調査が始まれば、しばらくは彼らも身動きが取りにくくなるはずだ」

 理一郎は、ただただ感心するばかりだった。

 自ら言うだけあって、彼女のコネは確かに幅広いし、それぞれを動かすのに十分な影響力もあるのだろう。こうした搦(から)め手がなければ、軍務卿の次の手は防げないかもしれない。

「そうだ、王立学術評議会にも働きかけておこう。君の研究を『王国の重要学術資産』として登録申請すれば、それを狙う者は王国の財産を危険にさらしたとして罪に問われることになる。これも君の素性は明かさずに進められる」

 ラランドランドララは再びペンを取り、手紙の文面を書きはじめた。

「万全とは言えないけど、これで軍務卿も星教(アストレリア)派も直接的な行動には出にくくなるはずだ」

 彼女は書き終えると、封筒を小さな魔法印で封じた。

「ソフィア君が来たら渡しておくよ。できるだけ早く効果が出ればいいけど、ある程度は時間がかかるだろうから、なにかあればすぐに報告すること。いいね」

「理解した。感謝する」理一郎は素直に頭を下げた。

 ラランドランドララは机から離れると、軽く伸びをしながらキッチンに向かった。

「実のところはね、理一郎君が打った手も、なかなか面白いとは思うんだ。君が組んだ情報商人にも会ってみたくなったよ。ただね――」

 しばらくキッチンでかちゃかちゃと音がし、やがてお茶のセットを運んできた。

「モンフォール侯爵家はね、まがりなりにも名門なんだよ。さかのぼれば臣籍降下で王族の血も入っている。ヴィクターは無能だが、それでも軍務卿の座に就けるだけの血筋なんだ」

 ラランドランドララはセットをテーブルの上に広げ、ポットの水を魔法でお湯に変えて紅茶を二人分淹れながら言う。

「個人で対処するなら、暗殺ぐらいしか手はないかな」

 理一郎は、ティーカップを持った手を止め、思わずラランドランドララを見てしまった。すました顔で物騒なことを言う。

「無能だけど馬鹿ではない。だから面倒なんだ」

 ラランドランドララはカップに口を付ける。

「宗教の連中は、それに輪をかけてさらに厄介なんだよね……」

 ラランドランドララはふっとため息をつき、カップをそっとソーサーに戻す。それから気を取り直すように、彼女にしては大きな声で告げた。

「ともあれ、これで理一郎君には大きな〝貸し〟を作れたということになるね。ちゃんと覚えておいてよ」

 さっきまでとはうって変わって、表情が明るい。

「ところでさ、『理(ことわり)の書』のことで進展があったんだよ」

 彼女の言葉に、理一郎の目も輝いた。

「なにかわかったのか?」

「所在が特定されたんだ。『理(ことわり)の書』はオスタネス大迷宮にある」

「オスタネス大迷宮?」

「ああ。オスタネスという古代の大魔導士が創った迷宮だよ。『理の書』の知識が悪用されることを恐れ、巨大な迷宮の奥に隠したんだ。そこに迷宮があるのは前からわかっていたんだけどね。まさかそこに隠されているとはね」

「論理的に考えると、そのオスタネスが『理(ことわり)の書』の著者になりそうだが?」

「ううん。別人だよ。大迷宮は隠し場所に利用されただけ」

 ラランドランドララは書棚から古ぼけた地図を取り出し、ソファテーブルに持ってきた。だが、散らかった本が邪魔で広げられない。少し辺りを見回してスペースのある床を見つけ、そこにしゃがみ込んで地図を広げ、理一郎を手招きした。

 理一郎が横に座ると、「ここだよ」と地図を指さす。

 そこは、三叉の丘で分岐する廃道のずっと先、廃都よりもさらに奥の山脈だった。

「この山の中なんだ。すでに先遣隊が調査を始めている」

「そうか!」理一郎は興奮を抑えきれない様子で言った。「それで? 『理(ことわり)の書』は見つかったのか?」

「そこが問題なんだ」ラランドランドララは肩をすくめた。「迷宮の入り口の封印が解けないんだ。今は、解除方法を調べているところだよ」

 彼女は別の巻物を広げ、門の絵を見せた。それは石造りの巨大な門で、扉には複雑な魔法陣や古代の象形文字が刻まれている。

「並行して宮廷魔導師団と王立アカデミアが共同で、迷宮調査団を編成中なんだ」

「俺も参加したい」理一郎は地図の上に身を乗り出して言った。

 ラランドランドララはわずかに微笑んだ。

「そう言うと思ったよ。だが、そう簡単にはいかないんだよね。調査団に選抜されるためには、王立アカデミアの研究生としての実力または実績を示し、宮廷魔導師団に認められる必要があるんだ」

「俺たちの研究は実績にはならないか?」

「まだ研究は途上だからね、論文を書けるようになるのはまだまだ先だよ。でも、調査団は一カ月以内には出発しちゃうんだ」

「なにか手はないのか?」

「それがさ、実はあるんだよ」

 ラランドランドララが思わせぶりな口調で言う。

 壁掛け時計に目をやり、「そろそろかな」と言いながら立ち上がる。

 それから「ちょっと待っててね」と隣室に消えた。


       *   *   *


 再び現れたラランドランドララは、正装に身を固めていた。

 紅色と臙脂(えんじ)色の長いローブが、王立アカデミア総長としての威厳を示している。

 横にはいつものようにソフィアが立っていた。理一郎が叱られている間も、ずっと隣室で待機していたようだ。

「じゃあ、行こうか」

 理一郎の返事を待たずに、二人が歩き出す。

 着いた先は総長公邸の貴賓室だった。総長公邸の中でも、ひときわ格式の高い部屋だ。

 天井は高く、壁には歴代の総長や著名な魔法学者の肖像画が並んでいる。大きな窓からは学都の街並みが一望でき、午後の陽光が室内を柔らかく照らしていた。重厚な木製のテーブルを囲むように、上質な革張りの椅子が配置されている。

 その椅子には、長い白髭を蓄えた老人が座っていた。深紫色の威厳のあるローブに、恰幅のいい体を包んでいる。宮廷魔導師団長のバルドリックだ。

 その後には数名の団員が直立して控えている。皆、宮廷魔導師団の制服を着ているが、ローブの色は濃紺だった。

 その中に一人、明らかに歳の若い魔導士がいた。

 ふわふわした金髪を無造作に跳ねさせ、エメラルドグリーンの瞳を輝かせた少年は、鋭い視線で理一郎をじっと見つめていた。理一郎がそれに気づいて少年を見返すと、ふいっと顔をそらす。

 ラランドランドララが近づくと、バルドリックが立ち上がって深々と頭を下げた。

「おお、ララ先生! お久しぶりでございます!」

 その穏やかで人の良さそうな表情からは、とても王国の魔導士の頂点に立つ人物には見えない。だが、ラランドランドララから二文字の愛称で呼ぶことを許されている数少ない人物のようだ。

「バルドリック君、今日はわざわざ来てくれてありがとうね。待たせちゃったかな」

 ラランドランドララも微笑みながら応じる。

「いいえ。それほどでも」

「相変わらず元気そうで何よりだね」

「ははは、おかげさまで。ララ先生こそ、お変わりなく……いや、むしろ前にお会いした時よりお若く見えますな」

「実際そうかもしれないよ。エルダーエルフは千歳を超えると若返りはじめるからね」

 ラランドランドララがいたずらっ子のような表情で片目をつぶった。

「それより――」ラランドランドララは理一郎のほうを振り返る。「紹介するね。彼が物部理一郎君だよ」

「初めまして。物部理一郎と言う」

 理一郎は一歩前に出て、軽く頭を下げた。

「君が噂の物部君か。私はバルドリック・ヴォルフラム・グランベール。王国宮廷魔導師団の長(おさ)を務めさせてもらっている」

 バルドリックが手を差し出してきた。彼の握手は温かく、力強かった。

「君の事情は、先生からいろいろとお聞きしておるよ。さぞかし大変だったろうね。だが――」バルドリックが目を細める。「私としては、君がいてくれてありがたいと言いたい。君の未分類の魔法にとても興味がある」

「やっぱりそうだよね?」ラランドランドララが得意げに言う。「理一郎君の物理学魔法は本当に興味深いんだよ」

「物理学魔法……ぜひ一度、拝見させていただきたいものです」

「さあ、まずはお座りください」

 ソフィアの案内で、ラランドランドララとバルドリックが向かい合わせに席に着いた。理一郎とソフィアは、ラランドランドララの後に控える。

「物部君、実は私もララ先生の教え子なんだよ」

「え?」理一郎は見た目のギャップに一瞬戸惑ったが、考えてみれば不思議な話ではなかった。

「もう四十年以上も前の話だがね。あの頃は本当に……」バルドリックは遠い目をする。「毎日が勉強漬けで、ララ先生にはずいぶんと厳しく指導されたものだ」

「厳しく?」と理一郎。

「バルドリック君ったら、最初はとても生意気な男の子でね」ラランドランドララが苦笑いする。「『先生の授業は簡単すぎます』なんて言ったんだよ」

「うぐっ……」バルドリックが顔を赤くする。「あ、あの時は若気の至で……」

「それで実技テストで相手をしてあげたら、魔法が全然効かなくて泣きそうになってたよね」

「ララ先生、それは……!」

 他の宮廷魔導士たちが顔を伏せて笑いをこらえている。どうやら有名な話のようだ。

「でも、そこからのバルドリック君の頑張りは本当にすごかったんだよ。才能がないなら工夫すればいいって、いろんなことを試行錯誤してね」

「ララ先生のおかげです」バルドリックは神妙な顔になる。「あの時の挫折がなければ、今の私はありませんでした」

 理一郎はその光景を興味深く観察していた。千年以上生きているラランドランドララと、彼女の教え子である宮廷魔導師団長。師弟の絆は、時を経ても変わらないようだ。

 ――ならば、この老人は信用して良いのだろう。

「さて――」ラランドランドララが本題に入る。「調査団の件なんだけど」

「はい。物部君が参加を希望しているという話ですね」バルドリックはうなずく。「『理の書』を読むために、迷宮の最深部を目指したいと」

「そうなんだよ。理一郎君の物理学魔法は、きっと調査に役立つと思うんだ」

「確かに……お聞きした限りでは、物部君の魔法体系は、迷宮攻略において有利に働くかもしれませんな」

 バルドリックは顎をなでながら考え込む。

「ですが、これまでオスタネス大迷宮は王国でも第一級の禁足地に指定されていました。それだけに調査団の構成員には相応の実力が求められます」

「ということで」とラランドランドララは振り向いて理一郎を見る。「君の実力を確かめてもらおうよ。バルドリック君が納得できる形でね」

 バルドリックの表情が少し引き締まる。

「はい。それでは模擬戦闘を行ってもらいましょうか。相手は、そうですな――」彼も後を振り向き、一人の人物に視線を向けた。「セリウスではいかがでしょうか」

 名前が呼ばれた瞬間、金髪の少年がにやりと嗤(わら)った。彼は話の間中、ずっと理一郎を睨み続けていた。まだ幼さの残るかわいい顔つきなので迫力はないが、ずいぶん理一郎を意識していることが伺える。

「セリウス・エルディナ・フォルトゥーナ」バルドリックは穏やかに続ける。「十五歳の若輩者なので失礼になるかもしれませんが、物部君と同年代だからちょうどいいのではないですかな」

 セリウスは堂々とした足取りで理一郎の前に歩み寄った。エメラルドグリーンの瞳が、自信に満ちて輝いている。

「セリウスだよ」少年は胸を反らして言う。身長は理一郎のほうが少し高いので見上げる格好だが、明らかに上から目線の態度だった。

「まあ、オレ様の名前くらい聞いたことあるでしょ?」

「いや、初耳だ」理一郎は無表情に答える。

「マジで?」セリウスの口元の笑みが消え、目を丸くして口をぽかんと開けた。それから気を取り直したように言う。「……まあ、遠国から来た田舎者なら仕方ないね」

 どうやら一般の団員には、理一郎の素性は異国人と伝えられているようだ。

「なんぢゃ、この金モジャは。いくら小僧っ子とは言え、生意気にもほどがあるわ」

 リリスが肩に現れて毒づいた。

 そんなリリスに驚きながらも、セリウスが続ける。

「オレ様は史上最年少で宮廷魔導師団に入団した天才魔導士なんだよね。全属性の魔法が使えるし、魔力も多い。宮廷でも一目置かれてる存在さ」

「知らぬな。情報の大悪魔である妾(わらわ)の耳に入らぬとは、なんたる小物ぢゃ」

「お前の耳は小さいから聞こえないんだろ」

「なにを――」

 さらにくってかかろうとするリリスを理一郎が止めた。

「リリス、ちょっと黙っててくれ。話が進まない」

「主(ぬし)はいつも言われっぱなしぢゃから、イライラするのぢゃ」

「いいんだ。気にするようなことではない」リリスにそう言い聞かせると、セリウスを促す。「それで?」

「あんたが『物理学魔法』とやらを使う人なんでしょ?」セリウスの口調に、挑発的な響きが混じる。「聞いた感じだと、どん臭い魔法だよね。物理学がどうとか、方程式がこうとか……」

 セリウスは肩をすくめる。

「魔法なんて、魔力を込めて呪文を唱えれば発動するじゃん? そんな小難しいこと考えないと使えないなんてね」

「興味深い考え方だな」理一郎は冷静に応じる。「だが、現象の原理を理解せずに技術を使うのは危険ではないか?」

「はあ?」セリウスが眉をひそめる。「危険ってなにが? オレ様の魔法は完璧だよ?」

「完璧、か」理一郎は少し考えてから言う。「では、君の魔法の出力限界はどの程度だ? 魔力消費の効率は? 環境要因による性能変化の条件は把握しているのか?」

「え?……えーっと……え?」セリウスが言いよどむ。

「つまり、君は感覚で魔法を使っているということだ。経験則に頼った運用では、予想外の状況で対応できない可能性がある」

「それが、どうした?」セリウスが鼻で嗤(わら)う。「理屈よりも、結果だろ!」

 ――こいつが、噂の物部理一郎。

 ――『物理学魔法』とかいう、よくわからない魔法を使うって聞いたけど……。

 ――ぜんぜんたいしたことなさそうじゃん。

 ――なのに、なんでみんなそんなに注目するんだよ。

 ――オレ様のほうがすごいのに。オレ様のほうが天才なのに。

 ――絶対に負けるわけがない。オレ様のほうが上だってことを、みんなに見せつけてやる。

 セリウス・エルディナ・フォルトゥーナは常に自信満々で、余裕綽々でなければならない。それは、彼が自らに課した義務だった。

 セリウスは理一郎を指さす。

「ま、どうせ勝負にならないさ。オレ様の相手になる奴なんて、そうそういないから。ましてや同年代の奴なんかね」

 理一郎は、セリウスの言葉をただ静かに聞いていた。そして――。

「理解した」理一郎は立ち上がる。「では検証しよう」

「え?」

「話していても時間の無駄だ。君と模擬戦闘を行えば実証できることだ。始めよう」

 理一郎の冷静な反応に、セリウスは一瞬面食らった。普通なら、自分の挑発に怒ったり、あわてたりするはずなのに。

「ふん、良い覚悟じゃん。結果は目に見えているのに」

 理一郎はセリウスを無視して、ラランドランドララに尋ねた。

「それで? 安全はどう担保されている?」

「特殊な結界を展開して、限定的に魔法の効果を弱めるから、どれほど強力な魔法でも致命傷を負うことはないよ。ただし、『本来なら戦闘不能』になる程の攻撃を受けた時点で、結界が赤く光って警告音が鳴るようになってる」

「安全は保証されているのだな?」

「これまで一度も事故はないよ」とラランドランドララ。

 セリウスがまた鼻で嗤う。

「始める前からけがの心配か? 怖いならやめればいいじゃん」

 理一郎はそれも無視して、今度はバルドリックに尋ねた。

「どんな結果なら調査団に参加できる?」

「うむ。十分間一本勝負ではどうかな、セリウスに負けなければ君を調査団に迎えよう」

「理解した」と理一郎。

「妾も参加してよいのか?」とリリス。

「リリスちゃんは従魔だから本来は許されるんだけど、今回は理一郎君だけの力を見せたほうがいいだろうね」

 ラランドランドララの言葉に、リリスは不満そうに理一郎を見るが、「今回は観戦だ」と言われ、しぶしぶ引き下がった。

「では、ご案内します」

 ソフィアが先導して、若い二人を訓練場に連れていく。

 少し離れて、ラランドランドララとバルドリックが続いた。

「ほっほっほ」バルドリックが満足そうに笑う。「楽しみですな」

「バルドリック君は相変わらず策士だね」とラランドランドララ。

「はて、なんのことやら」

「セリウス君は魔法技術だけなら、宮廷魔導師団でも一、二を争う実力者でしょ。その彼に相手をさせるなんてね」

「物部君の力がララ先生から伺っている通りであれば、決して無理な課題ではないと思いますが」

「ああ、そういうことじゃなくてさ」ラランドランドララが目を細める。「君が本当に試したいのは……」

「ほっほっほ、本当に楽しみです」

「うん。面白くなりそうだね」

 そんな二人の目論見をよそに、理一郎とセリウスはそれぞれの思惑で足を進めていく。

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