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3.シミュレーションゲーム

大慶油田を日本が開発している世界線、よくある設定だ。

産出量、埋蔵量を1930年代の日本の状況を比べ

一見すれば問題は全て解決するように思える。


「バッカじゃねぇの」

石油会社に勤める石田裕はあるシミュレーションゲームのデモ画面を見ていた。

「原油、どころか油は皆同じと思ってるんだろうな。」

”早急なカナダ産原油への切り替え”という無茶な課題に対処する部署に配属された彼は

連日の会議に疲れ切り、仮想空間で遊ぼうとしていた。

ミリタリーマニアでもある彼はこの手のゲームの愛好家だったが、同時技術者でもあるので

あまりに現実離れた設定に呆れた。軽自動車に軽油を入れるより酷い。


「パイプラインで運ぶ設定になってるのか。数キロごとにボイラー付けて

原油を温める必要があるけど人員、警備どうしてるんだ?精留しただけで飛行機に?

大慶原油って特異なほどのパラフィン系だぞ、直留じゃオクタン価一桁、

ガソリンエンジンに使えるようにするだけで相当工程の改質(クラッキング)がいるだろ。

机上の空論過ぎる。」

まだ石炭液化の方がマシだと、そのゲームの画面を閉じ次を探す。


35歳、大学で化学工学、プラントの建設のための学科、で土木から機械まで

広く浅く学んだ彼は入社した石油会社で便利使いされた。

国内外の製油所で設計、建設、保守と現場を目まぐるしく回らされたのだ。

期待されているといえば期待されているのかもしれない。

主要な設計箇所は院卒のエリートで出世するのも彼らであるという点に目をつぶれば。


「エリートか、中田の奴大丈夫かな」

学科違い、合成化学専攻の同期を思い出す。

院から研究者で学校に残っていたが、同じ会社の研究部門に入社してきた。

入社年次は違えども同い年なのだが基本給が全然違って驚いたもんだ。


「まあ、何が幸せかなんて、誰にもわからんけどな。」

3年前、中田が結婚したと社内報で知った。

東京近郊の綺麗な研究所の研究員仲間だそうだ。

羨ましい、海外工場の現場でそう思ったもんだ。


今は地方の製油所勤務で、勤務先の女性は派遣で来ている人妻ばかり。

高齢者の多い製油所関係者に嫁は貰わないのかとからかわれるが

出会いと言われても油まみれ、残業まみれで水商売の相手くらいしかいない。

地元の女性はマイルドヤンキーとかの身内で交流していて

交代勤務のダサいおっさんには興味がないようだ。


恋愛も結婚も諦めて、すっかり楽になった頃、

中田が営業職に回された事を知った。

嫁が管理職になったのは知ってたから

同じ部署は問題あったのか?と思ったら離婚していたらしい。

流石に離婚は社内報で流れて来ない。

事情を聞く気にもなれなかった。

あいつがどうなろうと俺の身に変化がある訳じゃない、

1Kの借り上げ社宅に住むオッサンはこのまま朽ちるだけだ。


そんなある日、中田から社内メールが来た。

学生時代を思い出してシミュレーションゲームをしないか、との誘いだった。

業務規程違反の私用メールだが、管理部署もこれ位は目くじら立てないだろう。

業務終了後俺は、奴の個人アドレスに了解の返事を入れた。


それから毎日のようにモニター越しに顔を合わせている。

話題はゲーム内容、その設定内容だけ、お互い私生活には触れない。

直接会ったのは卒業式が最後だからもう14年前だ。

今更深くかかわりたくもないが、同じミリオタ、趣味が合う所は合う。


おっ、中田がつないできたぞ。

今日は遅かったな。

「おい、面白そうなの見つけたぞ。」

こいつの話はいつも突然だな。

「良さそうなのあったか?

 こっちは現実感皆無のシミュレーションばっかりだった。」

「そんなにひどいのか?」

「ありふれた設定だけどね。カナダ原油の粘度とナフテン酸に頭を焼かれてるのに

大慶原油からハイオクがガバガバでるお花畑を見ると腹が立つという俺の八つ当たりだ。」

「大変そうだな。時間が無いなら別のが良かったかな」

「どんなのを見つけたんだ?」

「究極のリアリティを体験できます。但し今までの人生を捨てる事が必要です。

〇月〇日説明会開催、交通費支給します。」

「何だそれ?怪しさ1000%じゃないか。主催者 今賀好機。

 自分の考えた設定を実証するため協力してくれる方を募集しています?」

「でも設定がリアルなんだよね、大川と近衛を操って終戦工作、

軍国主義勢力を排除しつつソフトランディングさせる、面白そうだろ?」

「大川って東京裁判で東條の頭はたいたあの大川か?無理だろ」

「まあ諸勢力まとめるのは無理だと俺も思うけど、逆に面白そうだろ?」

「まあな。集合場所は〇×神社?

絶対ガセだ、隠れて撮影している奴がいるだけだ」

「それでも行ってみないか?何年ぶりかで母校に寄ろうぜ」

「お前さんと違って俺は遠いんだよ。まあたまには無駄使いしても良いか」

実際金を使う所がない。

妙にリアルな画像に興味を引かれたせいもある。

そういえば出張以外で旅行するのは何年ぶりだろう?

俺と中田は説明会とやらに参加する事にした。
















説明おかしい所もあります。

ガソリンの質ですが、大慶油田はオクタン価を上げる要因のナフテン環や芳香族(トルエン、ベンゼン等)

が極端に少なく直接蒸留するとオクタン価50~60位、流石に一桁ではありませんが、ハイオクどころかレギュラーガソリンのオクタン価90にも届かず当時のガソリンエンジンでもまともに使えません。

現代なら触媒を使ってリフォーミングという方法でハイオクに変えられますが、必要な触媒は未開発、あるいはアメリカだけが持っていました。

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