↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

1945年2月19日 驚愕は世界に広がる

米重巡洋艦クインシー号 地中海上。


ヤルタ会談での米大統領は全く冴えなかった。


前年、史上初の4選をはたした同一人物とは思えない状態で


チャーチル首相には心配されスターリン書記長には良いように丸め込まれた。


軍事的にも経済的にも懸絶して強く、同盟国全ての経済、軍事を支えている状態で


何故これ程の譲歩をしたのか?と訝しがられる事になる密約の数々だが


原因の一つは大統領自身の健康問題だろう。


昨夜から行われていた硫黄島の状況がこの日の朝まで伝えられなかった理由も


それであった。


日本時間では既に19日午後、硫黄島付近で2発目の核爆発が起きたころだった。




起床した時の大統領は機嫌が良さそうだった。


ヤルタでしてやられたと気がついていない彼は妄想にふけっていた。




数年前の激戦地、西地中海を悠々とクルージングする姿を中東の関係者に見せつけ、


制海権、制空権は完全に確保済、ヨーロッパ大陸の枢軸軍はもう終わりだと強烈に


アピールしている。


このままジブラルタルを抜け月末にはワシントンに帰り成果を誇示できる。


支持率がまた上がってしまうな。5選を望まれたらどうしようか、


健康状態を理由に断るか?史上最も偉大な大統領として長く残る歴史の


最後の1ページとして丁度良いエピソードだろう。


何か、感動的なコメントでも考えよう。


そう思いながら身支度を整え終わった時、緊張気味の情報将校が彼にメモを渡した。




「これは、事実なのかね」


「はい、大統領。何度も問い合わせ、間違いではないと回答を得ております」


就寝前には全て順調、数時間中に飛行場を確保できると知らせてきていた


硫黄島の様子が一変していた。




「まさか、とは思っていたが。」


霞がかかっていた脳に光が走る。数カ月前から警報は出ていた。


日本の著名な科学者から米国内の科学者にソ連経由で送られた私信の中に


核爆弾や原子炉を匂わせる記述があった。


内容を見たロス・アラモスの研究者達は驚いていたが、日本が先行するなど


あり得ないと保証していたので監視を強める程度に留めていたのだが、


「硫黄島には救援部隊が近づいております。日本軍の抵抗は無いとの事です」


「島は確保できそうなのか?それなら良い。犠牲者の数は憎しみ、


 戦意の強化に使える。報道関係者に・・・」


そこまで言った時だった。


「大統領、これを。」


 通信室から慌てて走って来たのだろう。


 息を切らせた若い補佐官がメモを差し出す


一読した大統領は目をつぶり、深呼吸をしてから絞り出すように言った。


「報道規制しろ。硫黄島の戦況は機密だ。誰にも知らせてはならない」


二度目の核爆発が救援にあたっていた艦隊の真下の海中で起き、


 多数の損傷艦が出ているという知らせだった。




同じ頃、モスクワ。


執務室のスターリンは報告を受け激怒していた。


スパイ網のおかげで日本の内部事情は日本政府の人間より


良く知っているつもりだったのに、抜けがあったとは。


「間違いないのだな?」


「はい同志、日本軍及び米軍の情報が合致します。


 核兵器で間違いないかと」


「まさか日本が先に開発するとは。情報を探りなおせ。


 ドイツも完成させていたら厄介だ」


その言葉に禿げた情報将校が飛ぶように離れて行く。


機嫌が悪い時に傍にいたくないのかもしれない。




前兆はあった。日本からアメリカへの郵便物はソ連船を使い


ナホトカ経由で送られていた。


ソ連が中身を読まないはずがない。


フェルマーの最終定理を証明したという私信も気になったが


それ以上に原子炉や核爆弾が有るとしか思えない記述が気になった。




それに対し情報局の見解は可能性なし、単なるはったりだった。


米国が巨大予算と人員、高純度ウラン鉱石を用意しても、未だ実験さえできない物を


日本が作れるはずがない。ベラベラと口の軽い日本の指導層にもそんな情報はない。


あり得ませんと今離れて行った禿が言ったのはいつだったか。


「今回は外した訳か」


そこまで恐れなくて良いのに。あの禿は米国のマンハッタン計画奥深く人を送り込み


制作図面を入手する位には優秀だ。粛清する理由はない。




問題は米国と密約したアジア方面での取り分だな。


無計画に攻撃をかけると手痛い反撃を受ける可能性がある。


「ドイツを長引かせて、もう少し日米で潰し合いをしてもらうか」


イメージと違って小柄で臆病な彼は戦略の見直しを検討し始めていた。





同じ時刻マニラ。




マッカーサーは報告内容に首をひねっていた。


「海兵隊と海軍が大損害を受けた?何故だ」


どこの国も陸軍と海軍は仲が悪い。


海軍の局地的な失敗は彼の興味を強く引く事はなかった。


どうせ戦局は変わらない。勝つに決まった戦争の最終段階、


陸戦で手柄を分けてやらねばならぬ海兵隊が損害を受け、


少々数が減る位はどうでも良い事だ。


航空支援してくれる艦載機が無事なら何の問題もない。


「第一報から数時間たっていますが、詳細な情報は入ってきません。


 島から救い出す救援部隊が組まれるほど苦戦しているようです」




「苦戦はフィリピンだけではないという事か。


 世論の批判を少し引き受けてもらおう」




フィリピンに於ける米軍の進撃は停滞していた。


電撃作戦でのマニラ奪還までは賞賛の言葉を並べていたマスコミは


進行の遅さ、犠牲の多さを見て手のひらを返し、批判的な論調が多くなっていた。


少しは現実を見て欲しい物だ。


日本軍は市街戦を選択せず、山岳地帯に籠る事を選んだ。


物量戦を行おうにも悪路ばかりで物が運べない。


運べたとして、砲兵が威力を発揮する前に日本軍は逃げ散ってしまう。


彼らは少人数のゲリラ戦で時間稼ぎをする戦術を徹底している。


「戦車の犠牲が多すぎる」


ヨーロッパと違い見通しのきかない森や藪がそこら中にある。


日本軍はドイツのパンツァーファウストの改良版、再装填可能な


兵器を抱えてそこに潜んでいる。


遠距離から見つけるのは不可能に近いから射程距離や装甲の強みを捨て


接近せざるを得ない。


結果最後は歩兵どうしの殴り合いとなり、双方に大損害が出る。


この数カ月、同じ事の繰り返しだった。


犠牲の多さに本国からの苦情が殺到していた。




「日本海軍は壊滅して補給も補充も無し、いくら頑張っても


 最後は弾も食料も人員も無くなって終わりではないか。何故降伏しない?」


米軍将兵の当然すぎる疑問だった。


「降伏するだけの知能が無いからさ」人種差別的な意見も多かったが


日本軍捕虜を尋問している人間の間では結論が出ていた。




「なるべく長く粘れという命令を受けています」


「何故?どの位の持久を計画しているんだ?」


「そこまでは知りません。数カ月粘れば戦争は引き分けで終わる。


 本土の家族を守るため短慮を起こさず最後の最後まで粘れという


 言葉でした。」




およそ軍隊らしくないその言葉に米情報部は首をかしげていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
二発目は海中に突っ込んで爆発したか。まぁ、水中爆破時の水中衝撃波で傍の居た艦船にそれなりの被害がでるから問題ないか。ちょうど救助活動で集まってるど真ん中に炸裂したみたいだし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。