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21.昭和二十年二月一九日 第二の炎

厚木航空隊の掩体壕に見慣れぬ一式陸攻が配備されたのは2月上旬の事だった。


その後、燃料不足と米艦載機の襲撃の隙を縫っての猛訓練で練度を上げていった。


わずか半月の訓練だったが、部隊長の野中五郎少佐は十分な手ごたえを感じていた。




元々練度の高い搭乗員なのだが、任務の説明を受けた時から目の色が変わり


要求された内容をすぐにこなしてしまった。


以後は慣熟訓練を繰り返し、絶対の自信を持つまでに至っている。




雰囲気もがらりと変わった。


桜花という人間爆弾を過重で抱え、敵艦隊が目視できる所まで近づくという


プロの飛行機乗りなら出来るはずがないと思う任務から解放されたのだから


当然だろう。




これからやる事は一つ。


敵が硫黄島にやってきたら陸軍が開発したという無人ロケットを


抱えて離陸、伊豆諸島から小笠原諸島上まで約1000km飛んで行って


投下するだけ。


事前チェックや起動手順は幾つかあるが、いずれも単純な事で


慣熟訓練を繰り返した搭乗員は目隠しでもこなせると言っている程だ。




危険度は高い。米軍に発見されると思った方が良い。


出せる範囲の戦闘機は全て出して援護してくれる事になっているが練度の下がった


友軍戦闘機がどこまでやってくれるか疑問がある。


なにせ航法の問題で伊豆諸島を目標に行け、困ったら不時着しろなどと


開戦時の海軍航空隊ならあり得ない命令が出ている程だ。




それでも。


十中十死の桜花とその搭乗員を乗せて九分九厘近づく前に撃墜される任務に比べれば


なんと納得できる任務だろう。


祖国は彼らに敵を撃滅できる武器を与え、


それを使った後は生きて帰ってこいと命じているのだ。


士気は凄まじい勢いで上がっていた。




二月一九日朝、出撃命令が出た時


元気が余って侠客物の芝居の真似をする者が居たのは高すぎる


士気のせいかもしれない。


厳格なはずの出陣式でのそれは、特に問題とはされず、この任務の為


製造されたただ一発のロケット弾、パルスジェットもロケットと呼んでいた、


にお神酒をかけ清める事で終わった。


取り決めがあった訳でもないのに、日本の陸海軍が神格化した扱いをしたのは


偶然だろう。




後にドイツのV1号と比較され、模倣説の出るこの武器に正式名称は無かった。


完全秘匿され名無しの兵器だったのに誰もが八咫烏と呼んでいた。


理由は単純で弾頭部に3本足の鳥の封印がしてあったからだ。


尚、ドイツのV1号とは完全に別設計で、陸軍が開発していた


イ号1型甲との類似点の方が多い。


特に弾頭重量やその装着方法はほぼ同じである。




硫黄島に米軍上陸の一報を受けた陸攻隊は伊豆諸島上を南下していった。


ロケット弾は桜花に比べれば軽量とはいえ、過荷重は過荷重。


燃料を減らして調整したので航続距離はギリギリ。


燃費の悪い超低空飛行はできず、危険な中高度を飛んでいる。


間違いなく米軍に発見されるだろう。


「大丈夫だ200海里も射程があるのは知られていない


 敵が警戒し始めた頃には発射反転している」


機長が言い聞かせているのは部下か自分か。




心配していた迎撃はなかった。


米軍はそれどころではない状況だった。


人類初の核爆発は厳密には硫黄島上空ではなく、その近海上空でおきた。


火球は渚を焼き尽くしたので爆発位置の厳密性に意味はないが。




米軍の損害は空前の規模だった。


1時間近く日本軍の抵抗が皆無だったので橋頭保を確保して


重資材の揚陸を開始しており、全く無防備で大勢が立ち働いていた。


上陸部隊だけではない、沖合で支援活動を行っていた艦隊にも、


上空を飛んでいた艦載機にも甚大な被害が出ていた。


状況的に島の方を凝視している所に閃光がきたため


爆風や火球の熱の威力範囲よりはるか先でも視力を奪われる者が続出、


航空機のパイロットがそうなった場合致命的という他ない。




これ程の損害にもかかわらず米艦隊は退避ではなく救援の為島に接近して来た。


今賀が予想した通りである。


核兵器に対する認識が未だなかったせいかもしれない。




「小笠原方面に接近していた日本軍機は反転北上していきます」


米軍CICに周辺海域のピケット艦からの連絡が入る。


「戦闘機を発艦させて追撃しろ。損害の穴埋めをさせてやる」


日本機来襲に備えていた米空母は混乱の極みだった。


敵が反転した理由、200マイルも先で反転した敵に追いつけるか、他


考える事は沢山あるはずだが、小笠原方面に向け戦闘機隊を発艦させた。




上陸部隊や司令部が混乱していても米海軍航空隊の練度は高かった。


彼らは日本軍機が反転したとされる場所に一直線に向かい


しばらく行くと水平線上に白煙を引いて飛ぶ飛翔体を見つけた。




これを日本軍の新兵器と認定した戦闘機隊はこれを撃墜しようと反転


急降下したがF6Fで高度150mを380kt毎時で飛ぶ飛翔体を撃墜する事は


困難を通り越して不可能な行為だった。


急降下で速度を稼がないと追いつけないが角度が深すぎると海面が怖いし


浅すぎると速度が足らない。


空気抵抗の大きい低高度でこの速度を維持する事も難しい。




その上飛翔体は小さく相手の機体の翼幅から距離を推定する


当時のレンジファインダーではまともに照準ができなかった。


結果ガンカメラに点のように映る画像だけを残して飛翔体は飛び去って行った。




硫黄島で生き残った艦艇は沢山あったので、


彼らがいなくても米軍は事態を理解したと思われるが、


迎撃困難を証明した事でその価値は高まった。


日本にとって飛翔体と米軍機の邂逅は幸運な事だった。





「島には命中しない仕様だが、あれで良かったのかな」


厚木の宿屋の炬燵の中で遠山、三田が話し込んでいた。


二人は昨日の夜まで厚木基地で最終調整をしていたのだ。




「島に着弾させると味方に損害が出る可能性が大きい、


 島周辺の船付近の海中で爆発する仕組みだ」


「そう上手くいくのか?レーダーも何もないんだろ」


「何度も言ったが、米軍が上陸しているであろう海岸の沖に向かうだけだ。


 スマホを何台かばらした程度の部品じゃそれ位しかきない」


「GPSも何もなく、それができるとはな。スマホ恐るべしだ」


「レーザージャイロと画像による位置修正が出来なきゃ無理だがな


 発射位置がずれてたらまともに当たらん」


「小笠原諸島上空3000mの指定してたものな」


「まあいろいろ細工したが、2発目は当たらなくても構わんそうだ。


 何かが向かって来て核爆発した。


 複数の核を持っている、遠くに飛ばす事も出来ると示せれば良いらしい」


「それに命を賭けている若い人を見てると辛い物がある」


「今賀の奴に言わなきゃならんな。いつ終わるんだ。もう限界だってな」


「その通りだ。資材も残り少ない。俺のやれる事はもう終わりだ」


そう言いながら三田が書類を崩すと中に数枚のステッカーがあった。


「それは何だ?あちこちにペタペタ貼っていたが」


「確認済箇所を封印するためだ。表示シールが無いので


 カバンの中から出てきたサッカーチームのステッカーを使っている」


「それをそんな風に使うと未来のサッカーチームが困るんじゃないか」


「別のデザイン考えるでしょう。今はそれどころじゃありませんよ」




人類第二の核爆発が硫黄島沖3km地点で起きた時、2人はこんな会話をしていた。

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― 新着の感想 ―
未来から物資を持ち込む歴史改変物はいくつか見てきましたが、核兵器を持ち込むのを読んだのはこれが初めてです。 残り三発の核がどこで炸裂するか、楽しみにしています。
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