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16.昭和19年仕事納め②

昭和19年12月28日、金田、石田、中田の3人は三鷹駅付近の宿に集まっていた。

中島飛行機武蔵野工場で集中して技術指導をやった後分散してこき使われていたが、

正月休み返上と聞いて『せめて忘年会位させろ』とねじ込んだ結果だった。


「理研の様子はどうだ?高圧コード以来お見限りだが」

「理研でやっているのはプラスチック類の開発だけじゃないんですよ。

 最近は医薬関係の合成と実験をやっていましたが、二人とも体がいくつあっても

 足りない状態です」

「それで中島航空機に来ないのか」

「寂しいですか。社長」

「社長と言われるのも久しぶりだ。忙しすぎて寂しいと感じる暇もないが、

 君たちと会ってそう呼ばれると少しホッとするよ」

「俺達も国内某研究機関の軍属技術者をやっていると疲れます。

 なんか堅苦しいんですよね」

「町工場の社長の私から見ると大企業の社員らしく堅苦しい二人でもダメか」

「程度が全然違いますよ。常に監視付のせいもありますが」

「そんな大声で大丈夫なのか?」

襖を見ながら石田が小声で尋ねる。

「我々だけが集まる時は監視者が少し変わるそうだ。

 余程の事でない限り内容は不問らしい」


「そういう事なら。先日の空襲、狙いは社長の所だったんでしょ。

 たいした事ないとは聞きましたが本当に大丈夫だったんですか」

「被害皆無という訳ではないが工場設備に支障はないというのは本当だ。

 工場の外に落ちた爆弾の方が多いと聞いて君たちの心配をしていたよ」

「それはどうも。反応工程の途中だといって空襲警報が出ても避難させてくれなくて

 閉口した位でピンピンしております」

「そんな事が。少々の資材より君たちを失う方が余程痛手だというのに」

「そこまで言ってくれるのは社長くらいですよ。月の半ばくらいから

 資材の入手が困難で皆気が立っているんですよ」

「例の地震の影響だろうな。中部地方の工場は壊滅的で空襲より余程被害が大きいらしい」

「鉄道も被害が出たようで今賀が北陸回りで関西に行ったりしてましたね」

「南海トラフ地震でしたったっけ。伊豆の遠山さん達大丈夫なんでしょうか」

「来年早々には実験を切り上げるという葉書が来たよ。地震はあったが無事のようだ。

 伊豆からここまで10日もかかって送られてきた」

「通信とか交通とか、いやインフラ全て耐えられない位劣悪ですよね。

 持って来たスマホを眺めて毎日溜息ですよ」

石田がソシャゲの出来ないゲーム機兼電卓に使っていたスマホをヒラヒラさせた。

「思い出した。スマホの充電器、まだ作れないんですか?直流の5Vにすれば良いだけでしょ」

「回路設計の三田君曰く、ACアダプターは電圧変動でスマホに異常が出ても

 責任は持たないそうだ。バカでかい電池式なら安定して充電できてるだろ?」

「持ち歩けなきゃ意味ないですよ。出先では今賀のPCのUSBポートだけが頼りとは」

「この時代の人には理解してもらえない不平だな。インターネットとか使いたいな」

「なるほど。この時代の人が聞いても何を言っているか分からないから

 監視されてても大丈夫なんだ」

「今頃気がついたのか?『日本語を話せ』と言われた事あるだろう」

「そう言えば。逆に聞いてて意味わからないから『日本語でOK』も

 よくありますね」

「ネット言葉は極端として80年で言葉というのは変わるもんだな」


隣室では男が肩をすくめていた。

外国勢力と繋がらない限り泳がせておけ、

誇大妄想の狂人のような事を言うかもしれないが、

気にするなという命令を受けていた彼はすっかりやる気を失っていた。


新型の麻酔薬や電気の絶縁体を作り戦争に協力している人が間諜などという事は

ありえないだろう。適当にやっておこう。


この忘年会の詳細が記録に残る事はなかった。


 

 

 





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