魔王様と破眼の魔王②
そのフレアの言葉に、アレストが私の方に顔を向ける。
「私の能力の事は説明していないのかい?」
「あんまり人の能力を勝手に話すものじゃなくない?」
「私の能力は割と魔族の中では知れ渡っているし、構わないけどね……まあそうだな、せっかくだしお嬢さんに実演してみせてあげようか」
そう言ってアレストは立ち上がると、ガゼボの外まで足を延ばしてそこに転がっていた枝を一つ拾い上げる。そしてこちらの方へ戻ってくると、こちらには視線を向けず手に持った枝の方に顔を向けたまま、空いている方の手で器用に顔に巻き付けていた布を取り外す。
布の下から現れたのは、中性的な美しい顔。その瞳は閉じられていたが、やがてほんの少しだけ瞼があがり──次の瞬間、アレストの持っていたただの枯れた枝が、青い薔薇へと変わった。
「……へ?」
その光景に、驚きの声を上げたのはフレアだった。ううん、フレア以外にユキ、アヤネ、シェリー──ようするに人間勢は全員多かれ少なかれ驚きの反応を見せている。それに対して、彼の能力を知っている魔族側は特に何の反応も見せていない。……いえ、魔族の固有能力を見るのが好きなヘイゼルは瞳を輝かせているわね。
アレストはそんな私達の反応を気にする事もなく、再び顔に布を巻きつけると椅子に腰を降ろし、
「どうぞ、お嬢さん」
フレアの方に青い薔薇を差し出してきた。
受け取って大丈夫なのか判断に困ったのかフレアがこっちを見て来たので頷き返してあげると、フレアは恐る恐るといった感じで受け取り、それからまじまじと興味深そうにその薔薇を眺め始めた。ちなみに横からヘイゼルやアヤネも覗き込んでいる。
「今のは……枝を作り替えたの?」
一方薔薇の方にちらりと視線を向けたのはシェリーだった。そんな彼女の言葉に、アレストはこくりと頷く。
「そうだね。これは私の能力で作り替えた物だ」
「アレストの能力は、"見たものをイメージしたものに作りかえる”なのよ」
「そんな無茶苦茶な……あ、ごめんなさい」
「いや、私もそう思っているからね? 構わないよ」
アレストの言葉に続けて私が話した内容にシェリーが思わず声を漏らすが、それを聞いたアレストは全く気にしていない様子でからからと笑う。
実際の所、アレストの能力は無茶苦茶だ。言葉の通り、見たものをイメージしたものに変えてしまう。それは今のように枝を花に変えるようなものではなく、例えばの話誰かがアレストの前に立っていても、アレストがそこに誰もいないと思いこめば、そこに立っている存在は消失するのだ。
そして更にそれを厄介にしているのが彼の魔力の量と質だ。彼はその双方がトップクラスに高い。そのため彼の能力はほぼレジストが不可能なのである。
まぁ一番の問題点はこれだけ出鱈目な能力を持っているのに、彼が魔族の中では最強ではないという点だと思うけど。
「そっか、だから視線を隠しているのね」
「だね。別に見ただけでどうにかなるわけじゃないけど、ちょっと余計な事を考えてしまうと大変な事になるからね。人と会う時は基本的にこうするようにしているよ」
「──それって、その、あまり人に知られてもいいのかしら。ほら一応私は聖騎士だし」
「かまわないよ。むしろ私の能力を知る事で余計な事をしてくる連中は減るし、それでも向かってくるなら容赦はしないだけだ」
理由は口には出していないが、シェリーが何を思ってそう言葉にしたのかはわかる。
アレストの能力は視線を媒体とする。ようするに、死角からとか彼の視線が通らないような遠距離からであれば、彼の能力の影響は受けないということだ。それを知られる事は大きなデメリットでは、ということを彼女は言いたいのでしょう。
でも、先ほど述べた通りアレストは魔力の質も量も多い。そして普段から五感の一つをたっているせいか、魔力による感知能力が非常に高いのだ。だから後方から近寄ったって感づかれるし、気づかれても問題ない位の速度で攻撃をしかけられても彼の魔力を突破して一撃で倒せなければ見られてジエンドなのである。ようするに個での戦闘能力も高いのだ。というか能力を使わない戦闘でいえば、彼が一番強いのではないかというところまである。
まかり間違っても敵対したい相手じゃないわよねぇ。
──本当に何でコイツが最強じゃないんだろ。




