芸術の街
「……魔王領でも場所によって雰囲気が全然違うのね」
ナオとの会談を終え、アージェの領土から離れて数日。私達はとある街へとたどり着いていた。
この街の名前はクエーサー。道中の道ではなく、目的地となる街だ。まぁ正確に言えば目的地はこの街から少し離れた所にあるんだけど。
この街は、"破眼"アレストの領土内の首都と呼ぶべき街。
そんな街の中を歩きつつ、感慨深そうにそう口にしたのはシェリーだった。
まぁ確かにそれぞれの魔王領で結構違うかも?
シェリー達が足を踏み入れたのは今の所アレスト領、アージェ領、それに私の領だけど例えば人側との交流が活発なアージェの所は人間の文化が色濃く出ているところがあるし、何より交易も活発にしているせいか発展している。多分発展度でいえば魔王領では内政能力が高いナオの所と同等でトップクラスだと思う。
それに比べると私の領はハッキリ言って寂れている。アージェの所が都会だとして、ウチはド田舎である。でもこれ私のせいじゃないからね? 私の前の代以前の魔王の怠慢である。特に私の前の代とか搾取しているだけだったぽいしね。私の代に変わってからは良くなってきてはいるけど、私が魔王となってからまだ数年しかたっていないのでまだまだこれからなので頑張ります。……実際頑張ってくれているのはオルバン達だけどね。
でまぁ今回のアレストの領土だけど、彼の領土はそれほどの広さはなく隣接する"獣化"ヴォルフェンやアージェの領土からみると半分程度しかない。また位置的にも魔族側の勢力圏の中では奥まった所にあり、かつ人間側の領土との接地部分が少ないのと魔王方針から、パノス聖王国の関係者は勿論の事、そもそも人間が入る込んだこともほとんどない場所である。だから人側には情報が殆どないだろう。
そのアレスト領だが、アレスト自体は非戦闘主義で外部への動きはほぼない分内政には力を入れており、アージェやナオの所とは雰囲気は違うし規模も小さいが充分発展している。それだけでも雰囲気の違いは感じられるが、
「お姉様、この街は音楽家の方が非常に多いですのね?」
いつものように興味深そうにあたりをきょろきょろと見回しているフレアの言葉通り、この街ではそこかしこで楽器を弾くものや歌を歌う者などが多く見受けられる。酒場などもそういった者達が立つステージが併設されている場所が多いはずだ。少なくとも以前こちらに来た時立ち寄った場所には全部あった。
魔族サイドでは人間側程ではないものの、芸術を愛する者達はきちんと存在している。クエーサーはそういったものが集まる場所として知られている。無論それ以外の土地でも芸術家はいるけれど、個人的なものではなく体制として支援するような事をしているのはアレストの所くらいだしね。いや、"食"に関する事に関してはアージェの所も似たような事してるけど。
それ以外にも理由があって……まぁここは特に魔王領の中では平和だという事もある。先にいった通り人間側との接地領域も少ないし、魔王自体が非戦主義、更に魔王の実力が圧倒的であるため代替わりや他の魔王からの侵攻を受ける可能性も低い。魔王の実力次第で代替わりが発生する可能性がある魔王領の中ではそういった”安定"は居住先の選択の理由としては結構大きいと思う。
そしてその中でも音楽関係の人間が多いのは……まぁこれも魔王であるアレストが理由ね。というか元々音楽関係の人間がアレストの元に集まって、それから他の芸術家たちも集まって芸術の都になったというのが正しい流れだし。
「とても楽しい街ですわね、お姉様!」
「そうねー。いろいろ見てみたい?」
「是非!」
聞いてみたら、もの凄く元気よく返事された。まぁここまでは基本的に地方のあまり規模の大きくない街を旅していたし、ハイランドジアの場合は街の観光とかはしていたけどこういった芸術鑑賞みたいなものをしていなかったしね。この街で少しそういったのを楽しむのも悪くないでしょう。勿論次の予定があるから長期滞在はできないけど、この街なら2~3日でも充分楽しめるしね。
「……リン様?」
「いや、解ってるわよ?」
私とフレアのやり取りを見たシエラが心配げに声を掛けて来たけど、いやさすがに先にやる事を忘れていないわよ?
「フレア、まずは先に予定を済ませるけど我慢できるわね?」
「はい、勿論ですわ!」
ん、いい返事。
それじゃ、とっとと用事を済ませにいきましょうかね?




