第6話「放置モード 3」
「ん~…ダメだな」
(実物保管はリスクが高過ぎる。何か良い方法があればいいんだが……)
「むぅ…なんかこう「収納機能」とかないのか?この手のゲームにはそういう機能は必須だと思うんだが……」
大助がスマホの画面にポーションを近づける。しかし何の反応もない。
「…ダメか。それなら倉庫画面でどうだ……おお!?」
倉庫画面を開いた状態でポーションを近づける大助。するとポーションが画面に吸い込まれるようにして消えたのだ。
「おお…これはつまり、成功ってことか?」
倉庫の在庫には低級ポーション(1)という表示が増えていた。この結果に思わずガッツポーズを披露する大助。
(なるほど。「現実」側の物は倉庫には収納できないが、「ショップ」を経由したアイテムは出し入れする事が可能と)
「イメージとしては制限付きのアイテムボックスって感じか。いいね。色々と使い道がありそうだ…」
大助が不穏な事を考え始める。
「レベルを上げていけばもっと面白い商品が買えるようになる。となると本格的に「放置モード」にも力を入れていくべきか」
大助が久々に放置モードを起動しその様子を確認し始める。
「あのウサギちゃんがしっかりと働いてるといいんだがな…」
「……む?」
目に入った光景に大助の口から驚きの声が上がる。畑に転がる数多くの死体。そこには驚愕の光景が広がっていた。
「…あ~……なるほど、やっぱそういう感じか……」
大助も薄々こういう可能性自体は考えていたのだ。このゲームに「対人要素」はないのかと。その思考に至る為のヒントは隠されていたのだ。
「ショップで販売されていた武器の数々。そしてポーションの存在。これらは全て「対人」を想定した品物だったということか」
「そして、あれらのアイテムが本当に必要だったのは「俺」ではなく、あの「ウサギちゃん」だったというわけだ」
魔物たちの死体が転がるなか、まだ息をするものが居た。そう、モブ・ラビットだ。少女は驚くべきことに初期装備で全ての敵を葬っていた。だがその代償は大きい。血塗れで横たわり浅い呼吸を繰り返す。今の彼女にできる事は死を待つだけだ。
「ふむ。まだ生きてるな…」
「……」
大助が少しだけ悩む。このまま少女を「助けなければ」どうなるのかというのを知る事も選択肢の1つだ。
(いや、その選択を選ぶのはあまりにももったいない。現状はこの少女を助けて恩を売った方が後々の利益は大きい)
「人は「恐怖」よりも「恩」に縛られる生き物だからな」
大助が素早く画面にタッチ。モブ・ラビットにポーションを使用する。
「まだまだお前には働いてもらわないと困る。死ぬなら元を取ってからにしてくれ」
ポーションをかけられたモブ・ラビットの傷がみるみると回復していく。
「ん…?」
立ち上がれるようになったモブ・ラビットは大急ぎでスマホらしき端末を操作していた。そしてピコッ!という音と共に大助のスマホにメッセージが届く。
「おお?」
<マスター。助けて頂き感謝します>
「…いいね。俺だけじゃなくて向こうからも送れるのか」
(こういう場合はあまり恩着せがましくないような文面を送るべきだな。あくまで自発的に感謝の念を持つように誘導するべきだ)
<気にするな。必要経費だ>
<ありがとうございます>
モブ・ラビットがブンブンと頭が外れそうな勢いで頭を下げ続ける。
(律儀なやつだな。ここは何かプレゼントでもしてモチベを上げとくか)
<何か欲しいものはあるか?何でもは無理だができるだけ要望には応えるぞ>
可愛らしい耳がピコピコと折れては立ち上がる。これは小女が悩んでいるときの癖のようなものだ。そして突然顔を真っ赤にさせたかと思うと、手早く文字を入力していく。
<名前が欲しいです>
「……」
「…え?死にかけてたってのに……そんなものが欲しいのか?」
大助の表情は困惑に満ちていた。
(理解に苦しむな。「名前」なんてものはただ個人を識別する為の番号みたいなものだぞ?そんなものは自分で適当に名乗ればいいと思うが…)
「んん…まあ別に名付けて何かが減るわけでもないしどうでもいいか。しっかし名前ねぇ…?」
適当に思いついた名前をメッセージに入力する大助。
<お前の名前は「ラビ」だ。よろしくな>




