第6話
「よし完成。これを倉庫に移してと。次はニクク王国の雑草だ」
ニクク王国の雑草を植えて、ひたすらタップをする。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
ただただ無心にタップを繰り返す大助。結果が約束されている苦行ほど幸福な物は無い。それが大助の基本思考だ。
「よし完成!」
完成したニクク王国の雑草を倉庫に移す。
(もう1つ植えて置くか?)
もう一度ラルメン王国の雑草を植えようかと悩んだところで、大助の動きがピタリと止まる。
(流石にもう寝ないとマズイよな…)
もうすぐ日付けが変わるという時間だ。睡眠不足は肉体と思考に余計なノイズを抱える要因になる。実食および検証は明日にして大助はスマホの画面を切った。電灯の明かりを消して布団を被る。
「おやすみ~」
大助は心地のいい夢の中へと旅立っていった。
「ふいいい。今日の現場はヤバかった……」
時刻は昼12時。「仕事」を終えた大助が自宅へと帰ってきた。
(そろそろ潮時かもな。面倒な事になる前に安定した収入源が見つかればいいんだが)
汚れた作業着を黒い袋へと脱ぎ捨て普段着へと着替える大助。
「さてと、腹減ったぜ」
冷蔵庫を開け、大量に購入してきたドレッシングをぶち込んでいく。
(今後草を食べる機会が増えそうだからな。いつまでも湯煎じゃあまりにも味気ない)
大助が購入したドレッシングは「和風醤油味」と「ゴマ味」無難な選択だ。
「よし。これで準備OKだ」
全ての準備を終えた大助がスマートフォンを手に取りソファーへと寝転ぶ。そしていつものようにアプリを起動した。
「今日中にラルメン王国の雑草を量産しておこう。本格的に晩飯として使いたい」
大助は雑草を料理に使用するプランを考えていた。本格的に副菜として料理に使用するならば数が欲しい。そこには晩飯の費用を少しでも減らしたいという切実な気持ちもあった。
「ほおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ラルメン王国の雑草をひたすら植えタップし収穫する。大助はこれを1時間繰り返し大量の雑草を獲得した。
「いいね~いいね~!!」
満足気に倉庫を見ているところで画面に突然メッセージが表示された。
「おめでとうございます。栽培レベルが3に上がりました」
「おお…?」
(なんかまたレベルが上がったな。というかレベルって何?)
大助の戸惑いを他所に画面には次々とメッセージが表示されていく。
「同時に作れる植物の数が2つに増えました。放置モードが追加されました。チュートリアルを確認しますか?」
「…放置モード?」
知らない単語が多過ぎて大いに困惑する大助。
「……」
(今はとにかく、情報が欲しい)
大助は迷わずチュートリアルを再生した。そして再び誰か分からない人物の声が聞こえ始めた。
「放置ゲームってあるじゃない?あれって全然放置ゲームじゃないわよね」
「実際には1時間くらいの感覚で様子を見ていた方が効率が良く設定されてるとか、結局は課金が物を言う修羅のゲームというか」
「まあ開発側も収益を確保しないとサービスを継続できないわけだし、仕方がないとは思うんだけど……」
「…何が言いたいかと言うと、そう!ゲームバランスの調整っていうのは想像以上に難しいのよ!!既存プレイヤーへの公平感を持たせつつ新規プレイヤーを獲得する!そんなの出来るわけないじゃないですか!?」
(おいおいおい…)
チュートリアルを担当する女性の本音が爆発。すると別の人物達の足音と声が聞こえ始める。
「※※。気持ちは分かるが今はそんな事を言っている場合ではないだろう?」
「…何か甘いものでも食べた方が良い」
(……)
そこで一時的に音声が途切れる。そして10秒程で音声の再生が再び始まった。
「…ごめんなさい。最近はその、ストレスが溜まっているというか何というか。とにかく忘れてください」
「…んごほん!!放置モードの説明だったわね。放置モードはプレイヤーに代わって「お助けモンスター」が働いてくれるモードよ。経営シミュレーションゲームとかあるでしょ?まさにあんな感じだと思っていいわ」
「初回大サービスであなたにはお助けモンスターを1体選ぶ権利が与えられているわ。…ちなみに私のオススメは栗色の可愛い……」
「だああああ!!※※!そういうのはダメだって言ったろう!?」
「…抜け駆け禁止」
慌てるようなドタバタという音と共に音声は途切れ、画面が元に戻った。
「ふむ…」
大助が少しだけ思考を始める。
(つまりは新しい拡張機能とでも考えればいいのか)
「まあ、なんだ。…やらない理由はないな」
大助は栽培を一時中断して放置モードを開いた。